世にも不思議な転生者   作:末吉

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とりあえず日常らしい話を。


99:緩やかな日

 秋の休日。

 学校もなく、その前日に両親に呼び出され黄泉の扉からはみ出てきた何かを消滅させる手伝いをさせられ眠って過ごそうと思っていた矢先。

 

「……ふあ」

 

 スーツを着て公園前で欠伸をしながら待っていた。

 

 今更だが、ここ最近のスーツ着用率高いな。一年経ってないのに十回は越えてるぞ。なんで普通に着てるのだろうか俺は。言われたからと言う理由なんだが。

 

 時刻は午前九時半。集合時刻は十時で俺が早すぎたのだが、まぁそれぐらい普通だろうと思いながら再び欠伸をしたが、さすがに眠かったので少しの間仮眠をすることにした。

 

 

 

「……君」

「……ん。あぁ、フェイトか」

「もしかして、眠っていたの?」

「少しな……」

 

 肩を揺さぶられて目を覚ました俺は腕を伸ばしながら呼び出した本人――フェイト・テスタロッサを見る。

 いつもの格好とは違い(大体制服)、そこはかとなく大人っぽさと言うか母性を感じさせるというか。同じ黒を基調とした恰好なのに、性別の違いか雰囲気も違う。……そこは経験した過去の違いか。

 まぁともかく。結構新鮮である彼女の姿を見た俺は、正直に感想を述べた。

 

「いつもとは違って大人っぽいな。正直驚いた」

「ありがとう……だけど、それってどうなの?」

「受け取り方は自由だが、昨日の夜に電話で起こして用件だけいって切れた説明をしてくれないか?」

「え、えっと! あ、あの……」

 

 用件を聞いただけなのにいきなり顔を赤くさせまごまごし始めるフェイト。

 これは教えてもらえなさそうだなと思った俺は、周囲に知ってる気配がしたのでとりあえず面倒ながらもメールをしてからフェイトに「とりあえずどこへ行くか知らんが、歩くか」と促し、手をつかんでこの場から離れるように歩くことにした。

 

 

 

 

 

 

*フェイト・テスタロッサ視点

 

 久々にとれた休み。たまにしか(ごくたまに仕事してる時に見かけるけど)会えない長嶋君を周りの人(なのはやはやてや姉さん)に後押しされて一緒に出掛けようと誘ってみた。……誘うというか、恥ずかしくて一方的に用件を言っただけなんだけど。

 

 母さんに服を選んでもらって色々と考えてたら約束の時間になりそうだったから急いで行ったら、件の長嶋君が立ったまま眠っていた。

 その立ち姿一つでも絵になっていることに心臓が高鳴りを覚えながら、私は彼を起こして――――

 

「ね、ねぇ長嶋君! ど、どこへ行くか決まってるの?」

 

 今彼に手を握りしめられながら引っ張られる形で歩いています。正直心臓の高鳴りがさらに早くなってる気がします。

 だけど彼は顔色変えないまま「決まってるわけないだろ」と言ってそのまま歩き続けるので、私は止めました。

 

「と、止まって長嶋君!」

「分かった」

「キャッ」

 

 いきなり止まったので脚をもつれさせ転びそうになる私。だけど、それを彼は抱きとめてくれた。

 優しく、それでいて不思議と心が安らぐ。彼と一緒に居ると自然とやる気が出てくる。

 そう思いながら思わずスーツを握っていたのか、長嶋君が「これ高いからシワがつくと戻すの面倒なんだが」と困惑しながら言っていたので、我に返った私はパッと離して俯く。

 

「ご、ごめん」

「いや別に……それより」

 

 長嶋君が何か言いかけた時、彼の携帯電話が鳴ったので言いかけた言葉をやめ画面を見たと思ったらすぐさま閉じて何事もなかったように質問してきた。

 

「どこへ行くか決まっているのか?」

「え、ええっと……」

 

 慌てて行こうと思っていた場所を思い出そうとするけど、どこへ行きたかったのかが思い出せなくて更に慌てる。

 色々考えてたはずなのにどうして思い出せないんだろう。そればかりかさっきまでの行動ばかり思い出してしまう。

 段々と言う事もなくなった私は気が付けば「ごめん。忘れちゃった……」と漏らしていた。

 

 きっと不機嫌になったんだろうなと思いながら俯いていると、「なら今日は適当に日が暮れるまで歩きまわるか。その方が休息にもなるだろう」という言葉が聞こえたので顔を上げると、長嶋君は行こうとしていたところだった。

 

「待って」

「どうした? 行く場所でも思い出したのか?」

「えっと……それはまだだけど」

「なら行くか。こうしてウジウジ考えるよりはるかに休みっぽい(・・・・・)

「あ……」

 

 そう言われて長嶋君の提案の理由が分かった。

 休みなのだから特に縛られずに過ごす――悩むことに時間を費やして落ち込むなんて意味がないと言いたかったのだ彼は、きっと。

 

 本当にやさしい。それでいてさりげない。

 

 だから私も彼に惹かれてるのかな。そんなことを思いながら、少し前で立ち止まってこちらを見ている彼に追いつき、「行こうか?」とさりげなく腕をつかんで訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 さて。とりあえず腕を組まれながらこうしてぶらぶらと歩いているわけだが、視線を感じるのはなぜだろうか。一応なのはは美由希さんにはやてと雄樹はアインスさんに連絡し、アリシアはプレシアさんに連絡して連れ戻してもらったのだが……あぁいたな。

 

「ねぇ長嶋君」

「ん?」

「あのお店入ってみない?」

 

 指さした方向を見ると、『七福神の何でも屋』と書かれた看板があったので、すぐさま携帯電話を開けたところ――――

 

「ちょ、おい俺らちゃんと、普通に、誠実に、商売やってるだけだぞ!? お前普通に誰か呼ぼうとしてなかったか!?」

「え?」

 

 ガラッと勢いよく扉を開けそう捲し立てる男を見てフェイトは目を丸くするが、俺はため息をついて言った。

 

「いくら商売繁盛の神だからって自分で商売するなよ」

「しちゃ悪いかっ!」

「しかも流行ってるのか?」

「流行ってるね! 主に幽霊たちで!!」

「そりゃ商売にならないだろ……」

「えっと……長嶋君、ひょっとしてこの人」

 

 フェイトが恐る恐ると言った風に質問してくると、目の前の男が遮って答えた。

 

「そうだ俺達が神様だ!」

「今一人しかいないだろうが」

「ツッコむなよ大智!」

 

 やたらテンションの高い男――布袋。その出てるお腹を叩きながら、「で、彼女連れて何しに来たの?」と聞いてくる。

 布袋の言葉に顔を赤くしたフェイトを対処せず、「なんで幽霊ばっかりになるんだよ」と話を進めておく。

 

「いやそれが、俺達神様って力抑えても基本的に人にスルーされて……お前の親父たちに聞きたかったのに仕事で出ないとか言うから仕方なくここにいる幽霊の世話することにした。主に除霊で」

「じゃぁ入るの止めるわ。じゃぁな」

「え、ちょっとマジ? 人間としての客第一号なんだよお願いだから入ってくれ!」

 

 肩をつかみ放してくれない布袋。とっとと立ち去りたいのだが、必死なのか力が緩みそうにない。

 くそ横暴すぎるとか思っていると、復活したフェイトが「入ってみようよ」と言ってきたので。

 

 仕方なく中に入ることになった。

 

「いらっしゃ……って大智の隣に女だと!?」

「マジか!」

「マジか!」

「マジか!」

「マジか!」

「マジなようね!」

「……テンション高いなお前ら」

「ははははっ……」

 

 初めて人間のお客が来たからか、それとも既知の人物が予想外の状況になっているからか。

 おそらくその両方だろうがそれにしてもテンションが高いと思いながら、俺は「なんでもやってどこまでできるんだ?」と質問してみる。

 すると入って最初に驚いていた男――大黒が、「基本的に願掛け程度だな!」と空しい答えを言ってきたので俺は素直に言った。

 

「店の名前変えろ」

「ひどくねっ!?」

 

 まさかいきなりそんな感想を言われると思わなかったのだろう。大黒は落ち込んでしまった。

 相変わらずメンタル弱いなとか思いながら、「どうする?」とフェイトに話を振る。

 

「どうするって?」

「願掛けしてみるか?」

 

 「うーん……」と何やら考えていたようだが、頷いたので「おい大黒。フェイトが願掛けしたいってよ」と言って財布から六万ほど抜き取ってカウンターに叩きつける。

 俺の行動に驚くフェイトと金を見て血相を変えた大黒の両方に何か言うべきかと思いながら大黒の方を見ると、「良いぜっ!」と最高にいい笑顔で了承した。

 

 ……本当、俗物だよな。

 そんなことを思いながら、大黒たちに願掛けの方法を戸惑いながら教えてもらっているフェイトを静かに見ていた。

 

 

 

 

 

「またなー」

「♪」

 

 機嫌がよくなったテスタロッサと一緒に店を出た俺。

 そのままぶらぶらと歩いていると、見回り中なのか自転車に乗っている宮野巡査と遭遇した。

 

「お、坊主。ガキの癖にスーツ着てるのかよ」

「巡回中なのに大丈夫なのか?」

「地域の子供と喋るのも立派な職務だ……お前には必要なさそうだが」

「職務怠慢だと思われるんじゃねぇぞ」

「はっはっはっ。何言ってやがる」

 

 そう言っただけで俺達はすれ違った。

 

「ねぇ今の……誰?」

「巡査。俺の親父の知り合い。一時期俺の看病してくれた」

「そうなんだ。……長嶋君ってさ、大人の人と知り合い多いよね」

 

 すれ違った後にフェイトが質問してきたの答えると、すかさずそう言ってきたので「大人に交じって仕事してるお前らより少ない」と言っておく。

 

「そうかな……案外知ってる人たちとの交流しかないから少ないよ」

「なら俺は親の知り合いが多いだけだ」

「でもすごいよ。大人と混じって普通にできるなんて」

「お前らもやってただろ」

「どうしても遠慮とか、しちゃうから……」

 

 再び落ち込む。やってしまったと思った俺は、昼過ぎだという事実を思い出してフェイトに「昼食べに行くか」と言って手をつかんで再び歩き出した。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、どこに行くの?」

「いいからついて来い」

 

 質問を封殺しながら歩くこと少し。

 俺は目的地へ着いたので足を止めてフェイトに紹介した。

 

「ここは親父の知り合いの一人が経営している店だ」

「……すごい豪華そうだけど、大丈夫なの?」

「問題ない」

 

 そう言って俺は手を握ったまま店の中に入る。

 

「いらっしゃい大智。今日は珍しいじゃないか」

「心が穏やかになる料理二つ」

「分かった。席はカウンターでいいね?」

「ああ」

「え、え?」

 

 入って早々に注文し、困惑してるフェイトに説明せず近いカウンター席に座る。その時に手を放すと、彼女も倣って席に着いた。

 ぐるりと見渡してから俺は奥で料理しているだろう店主に聞いた。

 

「相変わらず昼にやってることは知られてないのか」

 

 すると、奥から「まぁね!」と返ってきた。

 

「えっと、ここは?」

「俺の親父の知り合いの一人で、休日は昼間からやっているレストラン。夜は大人の待ち合わせ場所の定番」

「そ、そうなんだ……」

 

 何かおかしなことを言ったせいか知らないが急に声が小さくなるフェイト。チラリとみると、なぜか俯いていた。

 

 ふむ。変なことを言ったわけではないのだが……そう思っていると、「はいお待ちどう。心が穏やかになるスープ二つ」と言って店主が笑顔で出してきた。

 

 そのスープの香りをかぐだけで心が穏やかになるのが分かった俺は、「本当にすごいな」と称賛し、スープをスプーンですくい、口に入れる。

 

「どう?」

「……ああ。とてつもなく穏やかになる」

「良かった。ところでお嬢ちゃんはどうかな?」

「え、あ、はい」

 

 我に返ったフェイトは慌ててスープを一口含み、しばらくしてから「ほぅ……」とこれが本当に気の抜けた顔だと言わんばかりに気の抜けた、それでいて可愛らしい顔をした。

 

 その事をあえて指摘しない俺は、普通に「ご飯くれ」と追加した。

 

 

「またねー」

「ああ」

「ごちそうさまでした」

 

 店主に見送られながら店を出た俺ら二人は、歩きながら料理の感想を言い合った。

 

「スゴイおいしかったよあのお店」

「だろ。去年両親に連れてかれて食べて以来ちょくちょく行ってる」

「そうなんだ」

「ちなみに俺は一人でしかここに来たことはない」

「え……」

「だからフェイトが初めてだな」

「うそ……私が、初めて……」

 

 そう呟いて立ち止まってしまったのでどうするべきか考える気がなかった俺は、フェイトを抱きかかえ――いわゆるお姫様抱っこ――てその場で跳躍し、屋根から屋根へ跳び移ってずっと気になっていた気配を撒くことにした。

 

「ちょ、ちょっと長嶋君!」

「舌噛むぞ少し待て」

「キャッ!!」

 

 そんな叫び声が聞こえたが無視し、俺は更に跳び上がって海の方へ向かった。

 

 

 

 

「っと」

 

 海が見渡せる遊歩道みたいな場所に降り立った俺はそのままフェイトを下ろす。

 

「ど、どうかしたの?」

「いやなに。急に海が見たくなっただけだ」

「海……そういえば、夏休みに海行こうって話し合ったけど結局行けなかったよね」

「ああ二年連続でな」

 

 そう言うと「今年は長嶋君のせいじゃないの?」と恨めしそうに言ってくるので、視線を逸らす。

 実際その通りで俺が神様連中に拉致られたからなのだが。

 

 俺が視線を逸らしたのがおかしいのかクスリと笑う声がした後、「ここって私となのはが決闘した場所なんだよ」と唐突に昔語りを始めた。

 

「そうなのか」

「うん。久し振りに来たけど変わってないよここは」

「だろうな」

 

 互いに顔は見ず、ただ視線は海に注がれる。

 晴れているおかげで海はキラキラと輝いてるように見え、季節外れの入水をさせる気になる。

 と、隣にいたフェイトが「ありがとう」と不意に呟いた。

 

「どういたしまして」

「……普通、『何が?』って聞いてくるんじゃないの?」

「別にいいだろ。フェイトが礼を言いたい何かを今日俺がしたという事実があれば」

「……やっぱり大智(・・)は…………」

「ん?」

「なんでもないよ♪」

 

 そう言って見せた笑顔は年相応だが――とてもかわいかった。

 

 

 

 

 

 ちなみに。帰りに最初の方にはやてとなのはとアリシアと雄樹がいたこと、途中からアリサとすずかが後をつけていたのでそれを報告し、翌日その全員が帰るときげっそりとしていたのは、自業自得だとしか言えなかった。




次で百話になりますが、小学六年生になります。

ご愛読ありがとうございます。
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