世にも不思議な転生者   作:末吉

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これはある意味での遭遇。


101:始まりの欠片

「……なぁ大智」

「…どうしたシグナム」

「……すまない」

「……別に」

 

 後ろから聞こえるシグナムの弱弱しい声にそっけなく返しながらも振り返らない俺は、窓の外の惨状を見ながらどうしてこんなところに来たのかを思い返した。

 

 

 

 

 

 

 六年生の春の事。

 俺は雪女が住む世界で普通に散歩していた。

 

 理由は単純で、原初神であるアイテールの管理する世界に呼ばれたからだ。『なんか変な存在が現れたみたいだからちょっと見て害悪だったら駆除してね。彼女達も迷惑してるみたいだから』と言って。

 俺以外にいないのかとある種反抗的な思考を抱いたがいないだろうなと割り切って、卒業式だというのにこうしてきた。

 

 で、ナイトメアを装着して魔力を解放せずにそのままぶらぶらと歩いていたところ、世界の住人である雪女と遭遇し話を聞く。

 

 なんでも、そいつ(・・・)が現れるのは夜らしい。一人で出歩くとそいつが襲い掛かって来て、雪の耐性があるせいか攻撃してるのに返り討ちにあってるとの事。

 

 姿に関しては夜と吹雪のせいで視界が悪く誰も見てないとのこと。

 

 幸い死亡した奴はいないそうなので話を聞けると言われたが、よそ者、それも男が里に行くのはなんとなく遠慮する気持ちが強いので彼女を里の前まで送り届けてから調査するために一人歩いていた。

 

「吹雪いてるな……」

『よく寒くありませんね……』

「鍛えてるからな」

『そう言う問題なんですかね……?』

 

 そんな会話をしながら適当に歩いていると、前方から人の気配がしたので立ち止まって警戒しておく。

 

 ……こちらへ向かってくる。足音が段々大きくなっているからそう考えられる。しかし遅い。

 寒さにやられているのかそれとも怪我を負っているのか知らないが、後者だったら相当マズイ。

 そう思った俺は柄にもなく近づくことで正体を知ることにした。ところ。

 

「……大智、か」

「……シグナム? 大丈夫か、お前」

 

 肩を抑え足を引きずりながら呼吸が荒いシグナムだった。どうやら怪我でもしているようだ。

 今にも倒れそうな彼女を見た俺は少し考え、それから大分加減して鳩尾を殴る。

 

「がっ」

 

 血を吐き出させず余計なダメージを与えないように殴って予定通り倒れ込んだ彼女を担ぎ、俺は来た道を戻ることにした。

 

 

 

 で、雪女の集落に戻って小屋を借り、こうしてシグナムを看病している。小屋を借りたいと素直に言ったらすぐさま都合してくれたのが引っ掛かり、その上ちらちらと小屋の中でもわかる視線の数に首を傾げ――ずに納得した。

 

「そう言えばこの世界、男ってそんなにいないんだったな」

 

 アイテールから受けた説明が正しければ、この世界は氷に覆われ、雪女の独壇場となったことから男の数が減っているとか。そのせいであまり見かけない男に興味津々なんだとか。

 だとしたら俺の頼みを聞いてくれたのもうなずける。めったに見ない性別を近くに置きたいのなら、小屋を貸しておけばしばらくここに居られるのだから。

 

 しかしこの世界暖炉はないんだな。まぁ木々も凍ってるし当たり前か。

 何かあった時用のバックの中から取り出した小型温風装置を、シグナムが寝ているベッドの近くに置いて起動させる。

 一応家の地下室にある材料で作り改良してきたものだから、それなりに自信はある。馬鹿みたいに温度は高くならないし、二時間で切れるようなバッテリーでもない。温度調節は0.5℃単位、バッテリーは四十八時間もつ。

 

 ま、親父だと四年とかのバッテリー作れるんだろうけどな。

 そんなことは置いといて。

 

 体を冷やさないためにシグナムを温めておく。怪我をした上にこの寒空の中歩き続けていたのだから、体力の消耗は激しいだろうし、風邪を引いてるのかもしれない。

 回復魔法は一応かけておき傷はないが、先程以降寝てしまったのか眼を閉じたまま。

 

 なら別に起こさなくていいか。

 そう思った俺は、携帯電話で地球の時間を確認してお昼を食べることにした。

 

 

 

 

 

 

「……う、うぅ…」

「ああシグナム。起きたか」

「…大智? なぜここに?」

「お前を運ぶ前に遭遇したんだが?」

「……確かに覚えがある。が、なぜここにいるのかは知らない」

「そっちこそ。今日は卒業式だろ。なんでここにいるんだ」

 

 昼を食べて外の景色を眺めながらバックの整理をしていると目を覚ましたようなので、軽い世間話をしながらここにいる理由を訊ねる。

 

「私は仕事だ。その事ははやてにも言ってある」

「そうか。ちなみに俺は呼び出された。変な生物がいるって話を聞いて」

「私もだ。この世界に強大な力を持った何かがいるから調査しに来て……襲われた」

「やっぱりな。で、相手はどんな奴だった?」

 

 そう訊ねるとシグナムは「……少女だった」と間を開けて答えた。

 

「少女? 間違いじゃないのか?」

「ああ。おそらく神様の類だろう。プレッシャーがペルセウス並に強く、見つけた瞬間にこの様だ」

「……そうか。回復したらここの里の奴らに礼を言って帰れよ」

「大智はどうする気だ?」

「確かめてくるさ」

「…すまない」

「謝るなよ」

 

 そう言って俺はバックを背負って小屋を出た。

 

 

 

 

「しかし吹雪いてるな……」

『ですね。もう夜なんじゃありません?』

「だろうな。そしてシグナムと出会った延長上を歩いてるが……遭遇しないな」

『暇ですね』

 

 そんな会話をしながらシグナムが歩いてきたと思われる道を突き進んでいると、悲鳴が聞こえた。

 

「なんだ?」

『動物ですかね?』

 

 気になった俺は悲鳴が聞こえた方向へ歩き始めた。

 

 木々を避けながら歩くこと数分。

 悲鳴が聞こえたあたりに着いたと思える光景を目の当たりにした。

 

「これは……」

『グロいですね……』

 

 見つけたのはここの原生物であろうクマの死体。顔はぐちゃぐちゃに潰されており、腕や胴体は食い千切られた跡が。血は出たらしいがすぐさま凍ったのか、そのままだった。

 おそらく生きたまま食い散らかしたのだろう。そう考えられることに特に何も感じず周囲を見渡そうと思ったところ、視線を感じたのでバックを下ろしてナイトメアに魔力解放を指示する。

 

「Bランクまで解放」

『はいっ』

 

 そうして魔力が漏れ出した瞬間。

 

 俺は全力でその場から離れ(・・・・・・・・・・)いた場所が爆発した(・・・・・・・・・)

 

「チィッ! ナイトメア、全開放!!」

『了解しました!』

 

 相手を見誤ったことに対し舌打ちして俺はさらなる指示を出し、飛んでくる赤い槍(・・・)を避け続ける。

 

 くそっ。一体なんだこいつは!

 

 予想外に焦りながら魔力が全開放されたのが分かった俺は攻勢に出る。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 飛んでくる槍を最小限の動きで躱しながら三歩で距離を縮めた俺は、次を投げようとするラグの間に全力で――それこそ勢い任せの一撃を――右ストレートをお見舞いした。

 当たった場所はおそらく腹。避けてはいないだろうから大ダメージになっていたに違いない。

 吹っ飛んだ先が雪の煙のせいで見えない。よく正体を見なかったが、おそらく女だったはずだ。

 その場で構えながら煙が晴れるのを待っていると、先程までと違う『何か』が視線の先から発せられたので思わず距離を取る。

 

『どうしたんですか?』

「いる……」

『居るって?』

 

 質問してくるナイトメアを無視し睨み続けていると、声が聞こえた。

 

「見つけた……【狭間人】。忌々しき、因果を持つもの」

 

 見えた姿は少女。おそらくシグナムが襲われたのはこいつ。

 だが声が異様に低く、憎らしい感情をぶつけてきていた。

 そいつの不気味さにいつ攻撃されてもいいように間合いを取っていると、不意にそいつは首を傾げた。

 

「違う……」

「?」

 

 思わず構えを解いたが、そんな隙などお構いなしにそいつは「違う」を連呼した。

 

「違う。お前じゃない。私をこんな風にしたのはお前じゃない。だがお前も【狭間人】。だが違う。一体お前は誰だ。あいつの仲間か。あの忌々しい因果を持つものか」

「……何の話だ」

 

 そいつから膨れ上がる感じたことのある力を受け、慎重に言葉を選び訊ねると、「ならいい」と少女は背を向ける。

 

「私と【狭間人】の間にある忌々しい因果はそのうちお前をも絡め捕る。その時まで精々平穏に暮らすことだ」

 

 そう言ったと同時。その少女の姿は吹雪に消え、残ったのは戦闘痕だけだった。

 

『なんだったんでしょう』

「さぁな。だが、あれは間違いなく偽神の発する力と同じだった」

 

 そう言うとナイトメアは驚く。

 

『本当ですかっ!?』

「ああ。それだとあいつがどうしてあんな風に行動できるのが不思議だったりするんだが」

『……何かあったんですかね?』

「あるいは、あいつが成功作(・・・)だったか」

『え?』

 

 俺がそれとなく呟いた言葉にまさかと言ってくるナイトメア。

 

 そうだったらいいなと思い、俺は携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

 

 ……ああ、卒業式には結局出れなくて当たり前のように怒られたな。




次から中学生になります。

ご愛読ありがとうございます。
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