世にも不思議な転生者 作:末吉
『もしもし?』
「……なのはか。どうした夜に」
夜七時。夕飯を食べ終えた俺は食器を片づけてからパソコンである論理を書いていると、不意に携帯電話が鳴ったので休憩がてら取った。
声だけで相手が分かったので用件を尋ねると、『明日さ、私休みなの』と切り出された。
「学校来い」
『勿論行くよ! で、なんだけど、日頃のお礼にお弁当作らせてくれない?』
「……俺のか?」
『うん!』
なぜ弁当を作ろうといきなり言い出したのだろうか。まさか俺を殺す気か?
最悪な考えが頭をよぎったのですぐさま首を振って忘れ、「どういう風の吹き回しだ?」と警戒心を隠しながら質問する。
するとあちらは慌てだした。
『え、えっと、と、ひ、ま、毎日、じゃなくて、いつもお世話になってるからそのお礼に!』
「……そうか」
何を隠してるのか知らないが、本人は感謝をしたいらしい。
ならば別に構わないだろうかと思ったが、一つ懸念される材料があったので聞いてみることにした。
「お前、明日急に呼び出されたりしないのか?」
『……うっ。そ、そこは大丈夫だと思う!!』
「心配だな」
『…………そ、それで、作ってもいい?』
先程より間があった。一体どうしたのかと思いながら少し考えて「別に構わないが」と言っておく。
『本当!?』
「ああ」
『分かった! 絶対に弁当作ってあげるから!!』
そう言って電話を切られた。
『弁当作ってもらえるなんていいご身分ですね』
「日頃の礼だと」
『……本当にそれだけだと思いますか?』
「じゃないのか?」
『……マスターはもう少し好意に関する機微を感じ取った方がいいですよ』
そんなまっとうなつぶやきを無視し、俺は書きかけの理論を進めていった。
次の日。
普通に起きた俺は普通に朝のトレーニングをこなし普通に朝食を作ろうとリビングへ入ったところ。
何故かテーブル一杯に料理が並べられていた。
いや誰かいるのは分かったんだが、まさか朝食を作るために不法侵入――
「ってお前か、ミカエル」
「おはようございます、大智様」
ちらっと視線をキッチンへ向けるとミカエルが調理道具を洗っていたところだった。
ここにいる意味が分からないので俺は正直に聞いた。
「どうしてここにいる? そして何で朝食作ったんだ?」
「ふと作りたくなりました」
「……お前らってよくそれで逃げようとするな」
深く考えるのが面倒になったわけではないが、もう少し真面目な理由があってもいいんじゃないかと思いつつ「この前もそうだったよな」と呟く。
「この前、ですか?」
「俺が聞き込みしてたのにお前すぐにホシ捕まえただろ。お前が頼んできたあれ」
「あれは……あなたが女性ばかりに声をかけるから……」
「あれやるんだったら俺不要だったよな?」
「いえ! 大智様がいなかったら迅速に解決できませんでした!」
「そうか……あの時のお前何かすっきりしていたしホシがボロボロだったからストレス発散に使ったのがばれずに済んだのか正直心配だったが……」
「つ、使ってません!」
洗い物を終えたのか蛇口を閉めてから反論してくるミカエル。
きっと怒られたんだろうなぁと思いながらしょうがなく席に座ろうとしたが、これほどの料理の数を作るのに消費した材料はどこから来たのかと言う疑問にあたり、椅子に手を掛けた状態で俺は彼女に訊いた。
「おいミカエル。この料理の材料どこから持ってきた」
「どこって、
「……」
「それが、キャッ」
至急確認したいことができたのでミカエルをどかして冷蔵庫の中身を確認した結果。
「おい。なんで一食で冷蔵庫の中身が全部消えるんだ」
「大智様なら食べるのでは?」
「食うかよ! 俺一人であんな量はさすがに食ったことはない!!」
「食べれますって!!」
「その根拠のない自信はなんだ! 大体、何で勝手に上り込んでやがる!!」
「お父様たちから許可はいただきました!」
「今すぐ出て行けぇぇぇ!!」
朝から疲れるほどの怒声。正直言ってこんなやり取り今まで数回あるかないかなのだが、はっきり言ってこちらに一切の情報がないと苛立ってしまうのはどうなのだろうかと今更思った。
人生にて最も多いことは何か。それは、前触れ無き事柄。
それは当たり前なのだから苛立つのは意味がないと思うのだが、どうも俺はそこがダメらしい。
……一番の可能性として食材を全部使われたことに対してだと思うのだが、それを言うと小市民を際立たせてしまう気がしたのでそっと思考の隅に置いておく。
そしてミカエルは俺の怒声に心底驚いたらしく、らしくもないフラフラな足取りで、らしくもない泣き崩れそうな顔で、「……え?」と聞いてきた。
冷静になってはいるが許せるかどうかと訊かれると許せないので、黙って外を指さす。
「う、うわぁぁぁん!!」
そのまま泣き出して外に出て行ったらしいミカエル。すぐさま気配が消えたので、おそらく回廊を出したのだろう。
ちらっとつくられた料理を見る。
どれもこれも豪勢に見え、さながら一流シェフが作ったのかと錯覚するぐらいの盛り付けがされている。
とりあえず一皿食べてみるか。そう思って近くにあったみそ汁を飲んでみた。
結果。
「まさかあそこまで不味いとは思わなかった……」
流石に薬品耐性があるおかげで吐きはしなかったが、後味どころか味として成立してないだろという料理の数々だったので、全部捨てて燃やした。
なのでほぼ空腹の状態で学校へ向かっている。コンビニへ寄ろうにも先程のせいで時間を食ってしまい、寄り道が難しい時間帯になってしまった。
くっそ。次来たらどう怒ってやろうか。そんなことを思いながら、俺は学校についた。
「珍しいな、大智がギリギリなんて」
「腹減った……」
「は?」
元一が珍しそうに言うので机に突っ伏しながらそう答えると、なんか間の抜けた返事をされた。
実際珍しいんだろうな。俺がこうしていることが。
周囲のざわめきを聞きながらそんなことを思っていると、「一体何があったんだよ」と聞いてきたので、簡潔に説明した。
「料理下手な奴に襲撃を受けて材料無駄にされた」
「……ひょっとして、昔の木在みたいなやつ?」
「ああ」
「うわぁそりゃ」
「おかげで冷蔵庫の中身が空だ」
「だから空腹なのか」
「昼になのはが弁当を作ってくれるとか言っていたが……果たして本当に来れるかどうか」
そう言った瞬間。周囲の空気がざわめいた。
だが俺は気にせず、そのまま少し顔を上げる。
……特に人はいないな。
もうこのまま今日は寝よう。そう思った俺は瞼を閉じようと思ったが、ポケットの中に入れていた携帯電話が振動したので取り出して確認する。
「……ああ、なのはか」
「って、なんで携帯電話持ってきてるんだよ堂々と!」
「もしもし」
「無視すんな!!」
無駄な体力を使いたくないがために元一を無視して電話を受けると、第一声が『ごめん!』だった。
それだけですべてが把握できた俺は、「だろうと思った」と短く答えた。
それで俺の状態に気付いたのか、あいつは『大丈夫?』と心配そうに聞いてきた。
「心配するなら自分の心配しろ。別に問題はない」
『え、う、うん。そうだね……あ、あのさ、あの約束の代わりに……夕飯うちで食べない?』
「お前が間にあったら電話してくれ」
『分かった!』
その返事で電話を切った俺は再び突っ伏したが、周囲の人間は許してくれなかった。
「おいどういう事か説明してくれ」
「今なのはから? そしてさっきの発言について詳しく知りたいんだけど」
「そうだね。何がどうしてそうなったのかな?」
「大丈夫か、おい」
裕也はともかくアリサ、元一、すずかの三人が特になんて思ったがアリシアがこちらを睨んでいるのが見えたためにああこいつもかと思い直した。
だが答える体力を使う気が起きなかったので、俺は寝た。
決して逃げたわけじゃない。
昼。
どうするか考えてなかったので、寝ようとした。が、
「ほれ。おかずなら少し食べて良いぞ。小学生の時にもらったから」
「……ん。悪いというか手づかみなんだよなそうすると」
「あーでも、俺もそうだったからよくね?」
「そうか」
元一が弁当を差し出してそう言うので顔を上げて適当に卵焼きをつかみ、口の中に頬る。
「……うまくなったな」
「まぁな」
「もういい」
「おいいいのか?」
「これ以上弁当を食べると全部食べそうだからな」
「今のお前ならやりかねないな……じゃ、いただきます、と」
そのまま俺の前の席で食べ始める。その姿を見ないように立ち上がり手を洗いに行こうとしたところ、「どこか行くの?」と席を立ったすずかが聞いてくる。
正直に「手を洗いに」と答えると、「じゃ、私も途中までいいかな。アリシアちゃん達に先に行ってもらってるから」と聞いてきたので「勝手にしろ」と言って教室を出た。
すぐ近くにあった水飲み場で手を洗い、ついでに水を飲んでいるのだが、アリシア達を先に行かせてるらしいのに行こうとしないすずかが気になる。
水を飲むのをやめ、俺は振り返って質問した。
「行かなくていいのか?」
「うん」
あっさりとした肯定。薄情なのか知らないが、何とも思い切りが良い。
こいつアリサが怒る事知ってるはずなのに堂々としてるな……という感想を抱いていると、「だって、今日は大智君と一緒に……って、お、思ってるから」と若干恥ずかしそうにしながら言っていた。
「弁当ないぞ?」
「私の分けてあげる」
「それはありがたいが……いいのか?」
「うん。私そんなに食べないし」
「……恩に着る」
一瞬俺を毒殺するんじゃないかという予想が頭をよぎったが、さすがにそんなことすることはないだろうと思い直しそう答えると、すずかが笑顔で「じゃ、行こうか?」と言ったのでついて行くことにした。
「す~ず~か~?」
「すずかちゃ~ん?」
放課後。当たり前のようにすずかはアリサとアリシアに捕まり怒られていた。
俺はというと。
「結構お楽しみだったようじゃねぇか色男」
「……」
マモンのいう事を無視し、
「テメェ大智この野郎! なんでお前ばっかり……!」
クラスメイトのいう事を無視し、
「部活頑張れよ、裕也」
「あ、ああ」
クラスメイトの視線を無視して裕也にエールを送って普通に帰ろうとした。
が、そうは問屋がおろさなかったらしい。
「一緒に帰ろうよ大智君」
説教を終えたのかアリシアがこちらに近づいて提案したきた。
アリサとすずかが何やらしまったという顔をしているが、俺は「屋根跳んで帰れるか?」と真顔で聞くと三人ともあ、という顔になったので、今のうちにさっさと帰ることにした。
無論、屋根を跳んで。
夕方。
明日の材料を買って家に帰った俺は普通に作ろうかと考えたが、なのはの電話を思い出してとりあえず学校から出された問題をすぐに終わらせ、将来の構想をノートに書きながらナイトメアと会話していると、家の電話が鳴った。
『誰からですかね』
「さぁ」
ノートを閉じて席を立ち、俺は固定電話の方へ向かった。
「もしもし」
『あ、もしもし! そ、そちら長嶋君のお宅でしょうか!?』
「落ちつけよなのは。俺以外住んでる奴いないぞ」
『そ、そうだったね! ちょ、ちょっと緊張しちゃって……』
「どうした?」
『な、何でもない! ……でさ、夕食なんだけど』
「無理になったのか?」
『ううん! 違うよ!! ただ、食べたかなって』
「お前から誘っといてヒドイな」
『え、じゃあ……来てくれるの?』
「まぁ」
『分かった! 待ってるから!!』
そう言って相手――なのはは電話を切ったので、俺はナイトメアに「行ってくる」とだけ言って家を出た。
『って、私留守番ですか!? ちょっとまっ……』
そこから少しの間フェイト・すずか・アリサ・なのは・アリシアの五人が弁当を作ってくれたり夕飯に招待してくれたりしたのだが……その度に神様達(雷神・天照・ミカエル・スサノオ・母さん)が朝食に襲撃してくるし、他の奴らの視線が厳しいので辟易した。
はやてと雄樹は、もう公認のカップルになっていた。
ご愛読ありがとうございます。