世にも不思議な転生者   作:末吉

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定型文的であれですが、お久し振りです


105:バレンタインデー

 二月十四日。恋人の日と言うお題目で男女が浮かれる日らしい。前世は浮足立つより甘味争奪戦で喧嘩をやってたところに攻められて大変だった記憶しかない。彼女が乗っ取られた日はそれから二日後だったか。

 今でも鮮明に思い出せるそれらの記憶を今はそっとしておくことにし、とりあえず振られた話に答えよう。

 

「前世にチョコはなかったぞ?」

「えぇ!?」

 

 ――そんな、二月十二日放課後の一幕。

 

 

 

 

 

 どうやらこの世界のこの国ではバレンタインデー=チョコを贈るという風習があるそうだ。今さっき雄樹に話を振られ、知ったことである。

 そもそもの発端もまた、雄樹の「そういえばもうすぐバレンタインデーだね」から始まるのだが。

 

「もうすぐバレンタインデーだね」

「恋人の日か」

「うん。ところで大智さ、前世でチョコレート貰ったことある?」

 

 ……この質問で冒頭に戻る。

 

 俺の答えに驚いた雄樹だったが、すぐさま質問してきた。

 

「なんで!?」

「チョコの原材料が地上で栽培できず、また地下でも育成ができなかったから」

「えー?」

「甘味なんて砂糖をまぶしたパンに砂糖に、あんみつにかき氷だけだったぞ」

「少ない! ていうか君の前世本当にどんな世界だったの!? 凄惨だったのは予想できるけど!!」

 

 なら詳しく聞かない方がいいと思うと思ったが口に出さず、そもそもなんでそんな話題が上がったのか気になるので質問した。

 

「どうしたいきなり」

 

 一旦うちに帰って買い物しに出かけたら雄樹と遭遇したために歩いてスーパーまで向かっている途中なのだが、どうにも気持ちが逸っているらしくてあの話題を振ってきたようだ。

 が、どうしてそんな気持ちを抱くのかわからないので参考のために聞いてみると。

 

 あぁやっぱりと呟いて一気にテンションを落とした雄樹の姿がそこにあった。

 

 別に一喜一憂することでもないと思うんだがと首を傾げながら歩いていると、元一が木在と一緒に楽しそうに歩いている場面と遭遇した。

 咄嗟に足を止める俺と雄樹。どうやらあいつらは気付いてないらしい。

 

「……なぁ」

「うん。多分考えてることは一緒だと思う」

「別な道を行こう」「このまま尾行しよう」

「……」

「……」

 

 互いに顔を見合わせて首を傾げる。どういうことかと。

 

「なんで尾行するんだよ雄樹。そっとしておこうぜ」

「なんでそっとしておくのさ。ここは尾行するところだよ」

 

 ……なんか、はやてに似てきた気がするな。

 一瞬不安に思ったがよく考えたらスーパーへ向かう途中だったので雄樹を置いて行っても良く、もしくはあの二人と出会っても構わないという結論が出た。

 だから俺は雄樹から逃げるように屋根に飛び乗りスーパーへ向かった。

 

 

 

「ここでもか……」

 

 スーパーについて(のぼり)に書かれている内容を見た俺は、どうしてこんな空気になっているのか理解できずに呟く。

 それでも入らないと買えないので、おとなしく入ることにした。

 

「……しかしチョコレートばかりだな」

 

 なんか特設コーナーらしき場所に足を止めて棚に並んでいる商品を見ながら感想を述べてみる。

 買うものを一通り――明日の献立を適当に決めながら冷凍食品を補充――かごに入れてから何か飲み物を買おうかと考えて目についたこの場を眺めていた。

 

「……特に買う必要もないか。食べなくても生きていけるし」

「え?」

 

 不意に漏らした言葉に反応した方向へ向くと、なんか物色してたらしいすずかが驚いていた。

 

 ……こんな店にいたのか。

 

 思わずそう言いたくなるのを堪え、俺は見ないふりをして会計を済ませようとその場を離れたかったが、当然の様に離れられなかった。

 

「待って大智君。今、なんて言ったの? 食べなくてもいいとか聞こえたような……」

 

 どうやら聞こえていたようだ。

 が、聞こえてたのなら別に足を止める理由はないかと思い俺は会計をしにレジへ向かった。

 

 

 

 

 そのままダッシュで店を出て屋根を跳び移って帰宅。冷蔵庫に買ったものを全部入れてから二階へ行って私服に着替える。

 

「まさかいるとは思わなかった」

『誰がですか?』

 

 着替え終ってからベッドで寝転がり、天井を見ながら呟くと、それを聞いていたナイトメアがしゃべり始めたので、別に困る内容じゃないと判断して説明した。

 

「スーパーにすずかがいた」

『……普通じゃないんですか?』

「そうか?」

『あー……確かに驚きますね』

 

 何故か間を置いて納得する。間を置かなくても不思議なことであるには間違いないはずだろうに、何をためたったのだろうかと思うが、面倒なので詮索せずに「そういえばこの世界ではバレンタインデーと言う日にチョコレートを渡す行事があるそうなんだが」と言うと、『それ、日本だけですよ』と返事が。

 俺は体を起こして「そうなのか?」と訊ねた。

 

『そうですよ。知らなかったんですか?』

「ああ。前世になかったからな」

『ですか……道理で一人だけ浮いてたんですね』

「男子どもが妙にテンションを上げていた日でもあったな。だからこそ聞こうと思わなかったんだが」

 

 女の子たちの方もそわそわしていたんじゃないですか? 知らん。そんなやり取りでナイトメアを黙殺させた俺は立ち上がって首筋を掻きながら、パソコンを起動させて思案中の未来についての計画案を書きあげることにした。

 

 

 

 粗方計画書が描き終ったところ携帯電話が鳴ったので、出る。

 

「もしもし」

『も、もしもし!? ……大智君』

「……どうしたすずか」

『えっと……さっきの言葉の意味を聞きたいかなって』

 

 さっき……あぁ。食べなくても生きていけるって話か。

 さすがに前世云々の話はしてないから掘り下げるのも面倒だなと思いながら、俺はでっち上げることにした。

 

「そんなに食べてないからな菓子類というのは」

『そうなんだ?』

「ああ。普通に食べてると別に間食しなくてもいいと思えてくる」

『羨ましいなぁ……』

「欲がないからだろうが」

『あー確かに。大智君、欲しいものってあってないような感じだし』

「感情とか理解できる心とか欲しい」

『それはちょっと……』

 

 明らかに苦笑されたと分かる態度。そんな態度を受けつつ俺は特に気にせず話を進める。

 

「で、それだけか?」

『それだけじゃないよ。あのさ、そのお菓子類――例えば、チョコレートとかさ、もらっても嬉しくないのかな?』

 

 ……。もらったことがないので何とも言えないが、毒の警戒をするならいらないというべきところではあると考えてしまうあたり未だに馴染んでいない証拠なのだろうか思った瞬間、俺は瞬時に「貰えるのならうれしいと思うが?」と答える。

 

『本当に!?』

「ああ」

 

 驚かれたので頷くと、彼女は電話越しでため息をついて『よかった』と小さい声でつぶやく。

 何が良かったのか聞こうと思ったがどうでもよかったので、「もういいか?」と電話を切る断りを入れる。

 

『うん。ありがと』

「じゃぁな」

 

 すぐさま電話を切る。

 一体何をあんなに嬉しかったのだろうかと携帯電話の画面を見て思ったが頭を振って追い出し、計画書の細部を詰めていくことにした。

 

 

 ……そういや夕飯食べてなかったな。

 そう思った俺は急遽保存してパソコンを終了させ、ナイトメアを持って一階へ降りた。

 

 

 

 

 

 

 翌々日二月十四日。

 普通に起きて普通に筋トレ及びランニングを終わらせた俺が朝食を食べていると、ナイトメアが『今日がバレンタインデーですね』と呑気な声で言ってきたので箸を止め、そういえばそうだったなと思い返す。

 

『今年ももらえるんですよねきっと』

「なぜ確定されているのか知らないが……どうなるかは知らんぞ」

 

 もらえるというのは受動的であるため、率先してもらおうと考える人間はいないだろう。

 それゆえ、俺に渡そうという意識がないのなら俺は必然的にもらえないということになる。

 

 それをスラスラと述べると、デバイスなのにため息をついた。

 

 ……おかしなことを言ったかと思いながら、そういや神様達ってバレンタインデーやるのかと不意に疑問に思った。

 

 去年一昨年と特に何も起こらなかったので気を緩めているのだと思われるこの状態故にそんな疑問も浮かんだと思うのだが、疑問に思った瞬間俺の警戒レベルは一気に跳ね上がり朝食を食べる手を止めてナイトメアを装着し、座っている椅子を持ち上げながら立ち上がり、そのまま目の前に投げつける。

 

 投げた椅子は窓ガラスに当たると思いきやその前でピタリと止まり、ゆっくりと――まるで誰かがキャッチして下ろすように――床に置かれる。

 

 その神様に心当たりがある俺は、「何か用かペルセウス」と直球で質問することに。

 

 言い当てられたらしいペルセウスは透明化を解いて「お前の直感怖すぎ。ゴルゴーンをだませたのに」とぼやく。

 

「こちとら約一年戦場を駆けまわっていたんだぞ。その上十年近く色々なところに引っ張り出されたんだ。嫌でも雰囲気の違いを感じ取れる」

「…お前なんで武神とかで信仰されてないわけ?」

「存在しないからだろ」

「それしかないけどよ……」

 

 何やら不満な顔をするペルセウス。そこまで見破られたのが不服なのだろうか。俺は前世でステルス兵器の存在自体を見破ったり密偵を潰したりしてたのに。

 

 やはり伝承になった技術にはプライドがあるのかと考えながら、「一体何の用だ不法侵入して」と本題を聞いてみる。

 

 するとため息をついてから嫌そうに言った。

 

「お前今日時間あるか?」

「学校と買い物だけ。後特にない」

「なら悪いけど今から来てくれないか? 本当にくだらない用事なんだが」

「……誘う人間が何を言ってるんだ」

 

 いやこれが本当にくだらないんだよ。そう言って再び溜息をついたペルセウスが口を開こうとした時、急に彼の身体がぐらりとよろめき、そのまま倒れた。

 

「おいどうしたペルセウス」

 

 近づかないで声だけかけてみるが、ペルセウスからの返事は一切ない。

 

 ひょっとして敵が現れたのだろうかと警戒心をさらに引き上げて周囲の気配を捜索していると、急に俺の周りの空間が歪んだ。

 

「しまっ!」

 

 俺は何とか脱出しようとしたが出来ず、その空間に飲み込まれた。

 

 

 

 

 結果だけ言うと、ペルセウスが言ってた『くだらない用事』というのは神様達が一年間世話になった礼として菓子などをくれるというものだった。

 ミカエルの手作りと言われた瞬間俺は投げ捨て、彼女が涙目になったのを諌めようと捨てた料理を拾い食べたスサノオが瞬時に倒れるという現場を目撃したため空気が途中微妙なものになったがとくに争い事は……あったな。

 

 ペルセウス・スサノオ・ランスロット・親父・オーディン・ミカエルの連戦が。

 

 勝つことには勝ったが、はっきりいって自重しない神様相手とか辛すぎる。というかやりたくない。

 

 で、戻ってきた時に午後四時。

 買い物しないと明日の朝食や昼食がないと思いながら家を出たらなのは達が玄関先にいて。

 

 買い物を優先しようとしたら背後からシグナムが脅してきたのでため息をついて用件を済ませてもらうことにしたのだが、ため息がまずかったのか全員帰った。

 

 ……チョコレートでも貰えたのか、ひょっとして? なんて思ったが、興味がなかったので買い物へ出かけた。

 

 

 ……ナイトメアからはものすごく呆れられた。

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