世にも不思議な転生者 作:末吉
目が覚めていつも通りのトレーニングをこなして朝食を作り、それを食べてる途中でふとカレンダーを見て急に感慨深くなる。
「……今日で中学校も卒業か」
『授業に無断欠席した回数一桁って、小学校よりまともじゃありません?』
「だろうな」
そんなことをナイトメアと言い合いながら、朝食を食べ終えた俺は片付けて制服に着替え、ナイトメアを置いて家を出た。
中学校最後の日――卒業式へ参加するために。
卒業式というのは、実は生まれてこの方一回も参加したことがない。
なのである種の期待があるのだが、それぞれがそれぞれの道へ行くのだから期待もないかと屋根を跳びながら考えなおす。
すると、携帯電話が鳴った。
「もしもし」
『おー大智。元気だよな?』
「そんなの知ってるだろ親父」
『まぁそうなんだが…俺達卒業式参加するから』
「あぁそう」
『反応薄いな……ま、そんなわけで終わったら宴会するから』
「は?」
『決定事項だ! じゃな!!』
携帯電話を無言でポケットに入れ、屋根を跳びながら食材ないぞと諦めにも似た思考と共にため息をついた。
学校に到着した。両親の気配はない。
まぁ式まで時間があるから問題はないかと思いながら教室へ向かっていると、数人の女子がこちらに向かってきた。
どういった用件なのか分からないのでスルーして(すぐさま彼女達の背後に移動して)歩いていると、今度は見知った男達が。
なぜ教室前でたむろっているのだろうと思いながら、「どうしたんだお前ら。こんなところで固まって」と質問する。
すると裕也が「教室鍵がかかってるみたいで開かないんだよ」というので、壊そうかどうか悩んだが、とりあえず扉を引っ張る。
……。
「な?」
「確かにそうだな」
確認した俺はカバンの中から針金を取り出して鍵穴に突っ込みガチャガチャとやって開ける。
しまいながら「開いたぞ」というと、力也が「……その手があったか」と力なく呟き、元一が「なんでそんなことできるんだよっ!」と驚いていた。
そんなこと言われても前世でやったし、たまに今でもやるしなんて思ったが口に出さないで開けると、悲鳴が上がったので反射的に扉を閉める。
見てなかったので何があったか分からないが、恐らく見られては困るものだったのだろう。
一体何があったのか気になったがこれじゃ入りにくいなと思っていると、はやてと雄樹、それにフェイトやなのはがこちらに向かってくるのが分かったので足止めすることにしようと思ったが、俺が抜いた女子達が見事に足止めしてくれたようなので、裕也たちに話しかける。
「なんで俺達は入れないんだ?」
「携帯電話持ってないから分かんね」
「さぁね。僕にも連絡がなかった」
「俺にもだ。皆目見当がつかねぇ」
「そういや今年全国大会優勝したんだよな、裕也」
「今更じゃないか、大智?」
「知ったのはつい最近だ」
マジかよと苦笑する裕也を放置し、次に力也に話題を振る。
「俺と同じ高校に行くのか、力也?」
「当たり前さ。同じ場所で勝負をしないなんて、イーブンじゃない」
「元々のスペックがイーブンじゃないが」
「些末な事さ。それより、高町さん達は例の管理局に就職するって話を聞いたが、どうなんだい?」
「別に」
即答する。
それに対し、元一は素早くツッコミを入れた。
「お前相変わらずだな! もっとこう、悲しんだりとかしないのかよ!」
「会おうとすれば会えるのに、悲しむ理由があるか?」
「真顔で言ってやがるぜおい…」
どちらにしても道を違えるのは見据えた未来が違うのだから当たり前だと思っているのでそれほど悲しいと思ってはいないのだが、そんなことを言ったところで元一には理解できないようだから言わない。
その代り、俺は
「
それに対し、元一が真っ先に「俺は問題ない!」と自信満々に答えた。
次に裕也が「まぁ高校野球次第だな」と保留。
最後に力也が「僕は在学中ならバイトとして働いても構わない」と以前と変わらぬ答えを言ってきた。
なら別にいいかと思っていたらその会話を聞かれていたのか「なんやなんや。何が問題ないんや?」とはやてが質問してきた。
正直に答えると何言われるか分かったものじゃないので、「はやてと雄樹がいつ破局するかという結論を出して問題ないと至っただけだ」と誤魔化す。
それだけではやてが顔を赤くさせて慌てるので俺達は笑い、追いついてきたなのはたちは首を傾げたところで、教室の扉が開いた。
開けたのはなんとアリサ。
「あんた達。もう入っていいわよ」
そう言われたので、俺達は促されるように入ったところ、一斉にクラッカーを鳴らされた。
驚く俺達に、追撃を入れるようにクラスメイトが叫ぶ。
『卒業おめでとう!!』
言われてどうして力也や裕也、元一が入っているのか疑問に思っていたところ、同じくその違和感に気付いたすずかが三人に対し「どうしてそっちにいるの?」と質問してきた。
代表して元一が「いや、こんな話連絡になかったけど」と答えると、クラスメイト全員が呆けた顔をした後一斉に肩を落とした。
可哀想に。
「気を取り直して……」
席に着いた俺達は教壇に立っているアリサの言葉を聞く。まだ式が始まっていないので俺達のフライング同然であるが、それを注意する先生はいない。
仕切るのがうまくなったな……流石は社長令嬢。順調に担い手になっているようで。
そんな感想を柄にもなく抱いていると、「これから私達の卒業式を行うわよ」と言い出した。
そういえばそんな話でてたなと頭の片隅で思い出していると、管理局在籍組は驚いていた。アリシアとフェイト以外は。
誰も教えてないのかよと思いながら頬杖をついていると、アリサが「それじゃ、廊下側から順にみんなに一言言って」と進行していくので、考えることにした。
…………。
意外と早く回ってきたな。
「じゃ、最後大智ね。時間もないし、さっさと言いなさい」
「分かった」
今まで通り立ち上がってクラス全員を見渡し、俺は言葉を紡いだ。
「卒業おめでとう。これを機に各々決めた道へ進むことになる。俺もその一人だが、お前らにたくさんのことを教わった。同時に俺も教えれたかと思うが、そこは実感がないから分からない。ただこれだけは言える。過ごした時間は未来を切り開く材料となる。自分が目指すもの、努力しようと決めたもの、その一つとして。迷ってもいい。悩んでもいい。そんな時はこのクラスメイトでも、これからできる友人にでも相談してくれ。それができる奴らがいると胸に刻むだけでも、未来は明るいさ」
言い終えた俺は静かに席に座る。が、何故か場は静寂のまま。
難しいことを言ってしまったかとぼんやり考えていると、パラパラと拍手の音が響き、それが教室中に伝播していった。
何かやらかしたのかと内心戸惑っていると、拍手以外にも嗚咽を漏らすのが聞こえた。アリサを見ると、何かを我慢してる表情で割れんばかりの拍手をしていた。
なぜここまでみんな感極まっている表情をしているのか不思議に思っていると、先生が入ってきて「うおっ。一体何があった」と驚いていた。
結局、それは体育館に向かうまで収まらなかった。
『ではこれより、卒業式を始めます』
そんなアナウンスで始まった卒業式。
すでに体育館に入った俺は、両親の気配を感じ取って本当にいたよと思いながら軽く欠伸をする。
卒業式自体は卒業証書を一人一人渡して送辞と答辞を述べ、校歌を歌って見送るという単純なものだが、例に漏れず理事長が要らないサプライズを用意してくれた。
それは送辞と答辞を述べ終えた時だった(新旧生徒会長が述べた)。
壇上から旧生徒会長が降りた後、司会が『ここで我が校に貢献してくれた卒業生たちを表彰したいと思います』と言い出した。
『事前に校内アンケートを卒業生以外に採ったので、それを元に上位五名を表彰していきます』
なんだ、全員じゃないのか……なら良かった。俺が入ることはないだろう。
そんなことを思っていると、『第五位、如月裕也』と呼ばれた。
呼ばれた裕也は一瞬きょとんとしてから立ち上がり、理事長がいる壇上へ向かう。
『第四位、アリサ=バニングス』
「はい!」
アリサは驚きもなく向かう。
『第三位、小野誠司』
「はい!」
呼ばれた生徒会長も呼ばれたことに戸惑いなく。
『第二位、天上力也』
「はい!」
力也はなぜか悔しそうに。
こうして残るはひとりとなったが、『第一位の発表は表彰してからとなります』という公開処刑宣言を司会がしたため後回しになった。
裕也は野球で、アリサはその容姿と上に立つ者のカリスマ性を発揮して、生徒会長は気配りができ、人気者だから、力也は容姿・注目度・成績・性格がとんでもないことからという説明をしながら評していき、壇上から四人が消える。
残り一人って、力也以上の奴いたかと内心首を傾げながら発表を待っていると、『第一位』と言ったので耳を澄ませる。
『第一位。満場一致で、長嶋大智』
「……は?」
周囲から歓声などが聞こえるが、言われた俺は困惑した。
ちょっと待て。俺はこの学校に貢献したことなんてほとんどないぞ。というか、たまに無断欠席する人間だぞ。それなのになぜ一位になっているんだ?
訳が分からぬまま立ちあがって促されるように壇上へ向かう。
送られる拍手や歓声に混じって親の声が聞こえるのはこの際気にしないでいると、司会がどういった理由で選ばれたのか教えてくれた。
『彼はそのあまりある行動力と才能で学校の行事を円滑に進めてくれました。また、成績は入学してからもトップを維持し、生徒達からの相談に的確に答えたりする一面も見られました』
……そういやそんなことあったなと今更思い出す。
『教師からも、授業を聞いてる様子はないがそれ以上に頼りになるというコメントもいただきました。偶に相談する教師も多いようです』
あったか……ああ、あったな。
壇上に立ちながら理事長にアイコンタクトで「票でも操作したか?」「いや。純然たる信頼の証だ」と言い返されたので、それを受け入れることにする。
『なお、一位の方は賞状の他に副賞として』
ん?
『高校入学式における生徒代表の宣誓をする権利が与えられます』
……いらねぇよそんな権利。
謹んで辞退した副賞が有耶無耶になって卒業式が終わり。
俺達は制服に花をつけた状態で、卒業証書が入った筒と荷物を持ちながら校門前で人だかりの中心にいた。
「あー高校生かぁ、俺達も」
「そう、だね。元一は、嫌?」
「嫌じゃないけどよ」
「時の流れとは意思すらも無視する。大智ならこう言うだろうね」
「ん? そういや大智は?」
「大智ならうちらの後ろにいるで? 天上と一緒に在校生に囲まれて」
……なんか言われてる気がするが、現状を打破しない限り合流できないし聞けない。
完全に分断されたなと思いながら悲しそうな顔をする在校生たちの握手を応じたり言葉を投げかけていたりすると、力也が「これは参った」と小さい声で漏らしたのを聞いた。
確かにそうだな。その意見に賛同しつつ応対していると、いきなりその人ごみが割れてうちの両親が現れた。
「スゴイ人気だな、お前」
「見直したわよ」
「俺自身も驚いてる」
軽い世間話をして、「何か用か?」と訊ねると、「俺達先戻ってるから。頑張って抜け出せ」と言われた。
そしてすぐさま人ごみかき分けて戻ったので、それだけ言いに来たのかよとげんなりしながら「だったらメールでもいいだろうに」と呟いて校門でるまで頑張ることにした。
「疲れた」
「まったくだね。まさか僕達が最後とは」
校門を出た俺達は、アリサが企画した卒業パーティに参加するべく(おそらくうちの両親及び数人の神様が参加してるおそれあり)力也の家の執事が運転する車に乗せてもらって移動している。
「アレは数の暴力だろ……というか、去年やったか?」
「やってるよ。あそこの伝統みたいなものさ」
「ふーん」
気疲れか知らないが欠伸を漏らしながら相槌を打つと、力也が「そういえば大智よぉ」と気配自体変えて聞いてきたので、特に驚かずに「なんだ」と返事する。
「その様子だと俺が誰か分かってるみたいだな」
「当たり前だろ。ていうか、姿見せればいいだろうに」
「人の悪意を食いながらこいつの邪魔するには心の中にいた方が便利なんだよ……じゃなかった」
「?」
言いよどむという不思議な状況を作り出したマモンに首を傾げていると、「お前って罪な男だよな」と前置き無くそんなことを言われた。
「確かに償いきれない罪を抱えているが?」
「いやそうじゃなくて。なんでお前そう疎いんだ?」
「疎い? 罪の意識は充分あるぞ」
「じゃなくてだな……ってまどろっこしい! 直球で聞くから答えろ! お前、恋人作る気ないのか!?」
「なんで悪魔にそんな心配されなければいけないんだよ」
「くそっ! 自分で悪意が湧くってのも新鮮でそれを食ったら思いの外長持ちすることを発見したがここまでの奴だったとは!」
……何がしたいんだろうかこいつは。
いきなり恋人どうこう言われたところでピンとこない上に悪魔が何でそんな心配してるのか不思議がっていると、「でも精神が疲れるからもういい」と言ってすぐさま消えた。
本当に、何がしたかったのだろうか。
またマモン勝手に出てきたのかと呟く力也を尻目に、恋人がいるなんて想像できないと思いながらぼんやりしていた。
パーティは想像以上に惨状だった。
両親と士郎さんとスサノオ、ペルセウスが暴れ(外で)、それを桃子さん達母親勢があらあらと観戦し、主役であるはずの俺達はいつも通りお喋りしていた。
と、ここではやてがヴォルケンリッターと雄樹を連れて俺達から離れ、元一と木在が裕也を連れて親父たちのところへ行き、何かを察したのか力也も元一たちの後を追った。
残ったのは俺、なのは、フェイト、すずか、アリサ、アリシア。
「……」
何か起こる前触れなのだろうかと思いながら黙っていると、なのはが口を開いた。
「あのね、大智君」
「……なんだ?」
少し警戒する。
次に口を開いたのは、フェイト。
「私…ううん。
「……」
ここまで来て俺は殺されるのだろうかと警戒心を最大限に引き上げる。
今度はすずか。
「大智君の事が……
消え入りそうな声で、そう告げられる。
言われた俺は警戒心を解きながらどういう事か考える。
けれども、それより先にアリサがさらに続けた。
「あ、あんたが恋愛ごとに関心がないのは知ってるわよ。けど、知ってほしかったの。私達の気持ちを」
「だから、今すぐとは言わないよ。大智が決めた返事を、私達に言ってほしい。それまでに私達の気持ちが変わってなければ」
追い打ちをかける様にアリシアまで告げてきた。
と、ここまで言われて俺はようやくこの不自然で自然な状況を理解した。理解したが……
ぐらりと視界が回り、俺は何も言えずに倒れた。
……どうやら、処理能力を超えた情報を整理しようとして酸欠になったらしい。恥ずかしい限りだが、どうにも嫌悪を抱くことはなかった。
ご愛読ありがとうございます。