世にも不思議な転生者 作:末吉
「暇だな」
『いきなりどうしたんですか?』
今の季節は冬。外を見ると雪がちらつき、年末だからかテレビでは特番ばかりやっている。
読んでいた本を閉じた俺はテーブルに置き、椅子に寄りかかりながらもう一度「暇だ」と呟く。
『高校卒業後の計画とか大丈夫なんですか?』
「草案はできてるし、下準備の残りは三年にならないとできないから実質現段階では終わっている。宿題なんて一日で終わるからないも同然で、クリスマスパーティに行く以外は特に今月予定がない。博士やナンバーズは水入らずで温泉のある無人世界へ行ってるし」
『……思いの外やる事ないですね』
「師走だというが、それほど忙しいと感じない。管理局や他の奴らはどうか知らないが」
そういえばマスターが考えていた理論は? あれは一応の実証実験で立証されたから放置している。なんて益のない会話をしながら時間を潰していたが、それでも暇なことには変わりなかった。
「暇だな」
『…そうですねー』
「こういう時って普通どうするんだ?」
『友達とか呼んで遊んだりするのでは?』
「あいつらにも予定があったな今日」
『じゃぁどこかへ行くとか』
「神様連中と大体行った」
『…どうするんですか? 余生の過ごし方を考えられない老兵みたいになってますよ?』
「老兵とは言いえて妙だな」
『納得しないでください』
そう言われてもまさしくそうなのだから納得する以外何もないぞと心の中で反論したところ、「マジで? 大智も暇なの?」と後ろから声が聞こえた。
「……何か用か、
「暇つぶしに来たんだが…大掃除も終わってる様だな」
「まぁな」
レアスキル使って掃除道具を出しまくったから数十分で終わった。物はそれほど多くないので、分別も楽だった。
いつの間にか親父が正面の椅子に座っているが気にせず、俺は「母さんは?」と質問する。
「温泉旅行。女子会の」
「…神様にも女子会ってあるんだな」
「男子会もあるぞ? 独身限定で」
「そういうのを非リア充とかいうんだったか」
「確かな……でさ、何するよ?」
「やる事決めていたらこうしてのんびりしていないだろ」
「それもそうだな」
そのまま二人でのんびりする。うちに炬燵はないので作ろうかと計画した覚えがあるが、荷物になりそうだと思ったら作る気が一気に失せたのでテーブルとイスしかない。偶に両親が帰ってきた時に炬燵とか出すのだが、帰ると同時に持ち去られるので作る必要はなかった。
少しして、親父が不意に呟いた。
「…管理局の無限書庫行こうぜ」
「また唐突だな。いきなりどうした」
「暇潰しには丁度いいだろ、あそこ?」
「そんな理由かよ」
俺は呆れる。
だが親父は真剣な顔をして、「行こうぜ」と誘ってくる。
「直接行くのかよ」
「当たり前だろ?」
「不法侵入になるだろうに」
「大丈夫大丈夫! そしたらすぐ消えるからよ」
「消えてもどうせその場からってだけだろ?」
「消えれば一緒だろ? 今更だけどお前との関係どうなってるか知りたいし」
「変わらんよ。あんまり『女』としての認識を持てない」
そういうと親父はなんといえばいいのだろうか……こう、顔の表情が一瞬で崩れてどう動かせばいいのか分かってない状態になっていた。自分でも何が言いたいのかわからんが。
「……マジで?」
「ああ。どうも俺の恋は前世で止まっている様だ」
「いや、進めよ!」
「とはいえ、正直に言うと長い間近くにいたからそういう感情が湧きづらいというのもある」
「……なんでそこまで分かるのに何もしないんだよ」
「しないんじゃない。出来ないんだ」
「それこそタチが悪い!」
そんなものは自覚済みだ。そんなことを心の中で反論しながら読書を再開すると、「尚更行こうぜこの野郎!!」と目が据わった親父が叫んだ。
すぐさま閉じて欠伸をしてから、安易な質問をする。
「なんで?」
「お前の意識を変えるため!」
即答だった。そして、即実行された。
気が付けば俺達は床のない空間にいた。
右を向いても左を向いても本棚しかない……というか、本棚が浮いてる。俺達も浮いている。
「着いたな!」
「初めて来たけどな……ところで、近くに小さい奴がいるんだが……ユーノであってるか?」
「え、あ、うん。……って、君達はどうやって来たの?」
呆然とした様子で立っていたのが分かったので確認すると、小さい男――ユーノは我に返った様子で俺達に質問してきた。
聞くだけ無駄な質問のような気がするんだがなと思いつつなんて答えようか悩んでいると、親父が「よし! 早速整理整頓するぞ!!」と勝手にやろうとするので、自分の質問そっちのけで彼は親父に叫んだ。
「か、勝手にやらないでください! せっかくまとめられ」
「よしできた!!」
「え、一瞬で!? ていうか本当にさっきまでと場所が違う!!」
ユーノは驚いた。
そりゃそうだろうと親父がやったことを見ながら、間近にあった本を一冊取り出しパラパラとめくる。
ふーむ。なんとなく読めなくはないが、これは素直に聞いた方が早いな。
なんとなくそう思ったので俺はユーノの言葉を流してる親父を呼んだ。
「親父」
「おうなんだ~?」
「って、君のお父さん!?」
「ああ。これは一体何語か教えてもらいたいんだが」
「あ? これはベルカ文字だよ。ベルカ式の魔法に使われた文字」
「そうか……ならなんとかなりそうだな」
「え!?」
驚くユーノを無視し、持っている本の内容を翻訳する。
……『ベルカ時代における国の変化』か。少し頭が疲れるが、まぁ読めないものではないな。
そう結論付けた俺は、親父の「なぁ、これなんてどうよ?」と本を一冊薦めてきたが、それを無視して自分で選んだ本を読むことにした。
「って、何居座っているんですか!?」
「暇潰しに来た。そう答えたらどうする?」
「そうそう。暇だから来たんだよ。別にいいだろ?」
「……もういいです」
力なくユーノは呟く。それを聞いても俺達は先程から採っていた行動を変えることはない。
俺は本を読み、親父は適当な本棚へ移動しては本を探して読んでいく。
一方でユーノは近くの本棚へ移動して一冊一冊を確認して「うわ……」と呟いていた。おそらく自分がやりたかった区分で割り振られていたことに驚いているのだろう。
そんなことを思いながらも、読書中の内容を覚えるのを忘れない。
「おい大智! ここに面白い本あるぞ!!」
「今別な本読んでる」
「つれねぇな」
「っていうか、勝手に本読んでるよね……」
俺達の事なら気にするな。そう言おうと思ったが、なかなかに刺激的な内容だったため言えず、そのまま無言で読み進める。
そんな俺達の態度を見たユーノは諦めたのか「もういいよ……」とどこかへ消えてしまった。おそらく出て行ったのだろう。
そのすぐ後に俺は読み終わり、本を元に戻してから別な本棚を探す。
聖王とか覇王とかいたのか昔に。古代ベルカ時代に。
戦乱とかってのはどこの世界でもあるもんだなと思いながら無重力空間を走って移動していると、親父が手を振っているのが視界に入ったのでそっちへ一気に跳ぶ。
「どうした」
「相変わらずでたらめだな…ここまで距離あっただろ」
「溜めて跳べば着く」
「人間やめてるな…」
「元より人間の枠にいる記憶はないぞ」
話題を逸らされている感じがするのでそろそろ手を振った理由を聞くか。
「なんで手を振ったんだ?」
「いやさ、ここの本棚にジェイル・スカリエッティの書類あるんだぜ?」
「ふーん」
「盗んだりしないのかよ?」
「なんでばれることしなくちゃいけないんだよ。俺にメリットはないし、そもそも今までの自業自得だ。捕まっても俺は知ったことじゃない」
「お前も捕まるぞ?」
「そん時はそん時だ。おとなしくするさ……もういいか?」
「なんだ読みたい本でもあったのか?」
「いやないが」
即答すると、親父は腕時計を見てからため息をついて「暇潰しになりもしなかったな……」と呟く。
「飽きたのか」
「まぁ」
「じゃぁどうする」
「だよなぁ……」
俺自身は連れてこられただけなので帰りも親父に任せなければどうすることも出来ない。いや、帰ろうと思えば帰れるだろうが、親父を残したら何をされるのか想像できないし、何かをやられたらこちらが困ってしまう。
こうなったら親父に付き合うしかないんだよなぁとため息をついていると、「やっぱりなのはちゃん達に会いに行こうぜ?」といい笑顔で提案してきた。
「やっぱりそうなるのか」
「それしかないってため息つくの止めてくれないか?」
「実際それ以外にあったのか?」
「ないなぁ……」
「大智君! に、竜一さん!! どうしたのこんなところに来て!」
「…着ちまったな、親父。向こうから」
「だな」
管理局の制服で慌てて(というよりユーノの報告を受けてすっ飛んできたと言った方が正しいのだろう)来たなのはを見ながら俺達は、早くも目的の人物が来てしまったことに対し頭を悩ますことになった。
それを見たなのはは瞬きを数回してから状況を把握できてないのか首を傾げて「どうしたの?」と訊ねてきたが、俺達はそれに答えずアイコンタクトで会話することにした。
『暇潰しに来たと正直に言うか?』
『とはいってもそれ以外上手い言い訳ないしな』
『そもそもの話、ここに侵入者が来たと騒がれているんじゃないのか?』
『ああそうだな。そんなことは知ってるさ』
『だったら』
「大智君? 竜一さんとだまってどうしたの? ユーノ君が来てって言うから来たけど……不法侵入だよね?」
「良く分かったな。単純に思いつきで来たようなものだ」
「おい!」
「……やっぱり」
俺の発言に怒るかと思ったが、ため息をついて呆れていた。成長しているからかそのしぐさからも大人の雰囲気を漂わせる。単に苦労しているからなのだろうが。
が、すぐさま気を取り直したらしく「でも丁度良かったよ。こうして直接話せて」と嬉しそうにしていた。
それに対し俺はこれまでの会話のケースを思い出し……最近携帯電話の方が多いことを確認した。
「確かに。昼夜問わず忙しそうだしな、お前達」
「そういう大智君は……暇そうだね」
「実際卒業後の準備を完全に終わらせたからな。後はのんびりするだけだ。暇過ぎて今ならお前達に負けるかもしれないな」
「いやお前が負ける可能性ってそれこそ文明ひとつ滅ぼすほどの力がないと無理だろ」
「それか、神様達か」
「……分かってたよ、大智君との壁は」
いじけて、というよりは落ち込んだ様子でつぶやくなのは。そこまで希望を見いだせていたのかと内心呆れながら、俺は彼女が言っていた意味を聞くことにした。
「それよりも、丁度良かったというのはどういう意味だ?」
その言葉になのはは何かを思い出したようで、「そうだった! ちょっと一緒に来てくれない?」と急かすように言ってきたので、暇だった俺は頷いて肯定する。というか、暇じゃなかったら俺はわざわざこんなところに来ない。親父に連れられて。
俺の返事に頷いたなのはは「じゃ、こっちだよ」と自然と俺の手を握って案内を始めた。
されるがままの状態でいると何故か親父がニヤニヤとしているので、どこか不自然な光景でもあるのだろうかと思いながらも何も言わずに手を握り返していた。
なのはの手から伝わる体温が少しばかり高い気がしたが、別にいつもの事なので気にすることはなかった。
「お、ちゃんと連れてきたみたい…やな?」
「どうしたはやて。鳩が豆鉄砲くらったような顔をして」
「なんで大智のお父さんもいるんや?」
「一緒にここに来たからだが」
「……さよか。今まで驚いてきたからそれほど驚かないと思ってたけど、そうでもないようや」
「そうか。で? 一体何の話を聞かされるんだ?」
「その前に大智。いい加減なのはの手を離したら?」
食堂みたいな場所に集まっていたはやて達を目撃した俺はそのまま連れられてはやてと会話をしていると、フェイトが不機嫌そうにそんなことを言ってきた。
そこまで怒る事なのだろうかと思いつつ自然に手を離した俺は、ニヤニヤしている親父に裏拳を入れたが止められたので、そのまま体を捻って逆側のひじで脇腹を狙ったが、それすらも止められ、上へ投げられた。
くるくると回転して通路に着地した俺は、先程まで居た場所に戻ることにした。
「で? 一体何の用だ?」
「今、何があったんや?」
唖然とした表情で訊ねてくるはやて。フェイトと雄樹は見えていたのか驚きはしなかったが、それでも完全に驚かなかったという訳じゃないらしい。
「どうした斉原。ぼんやりとして」
「なんでもないよ、ザフィーラ」
「どうしたの、フェイトちゃん?」
「え、ううん。なんでもないよ」
少しばかり気が抜けていたようだ。
そんなこと関係ない俺は、はやての質問を無視して「何かやる事があるのか?」と質問する。
「その前にさっきの質問に答えんかい」
「攻撃して投げられた。これで終わりだ」
「お、おぉう。そか……」
「それで?」
話を進めるように促したところ、咳払いしてからはやてが話を切り出した。
「うちな、管理局に新しい対策課を作ろう思うとるんや」
「そもそも管理局ってどんな部署があるんだ?」
「大雑把にいうなら陸・空・海の対策課やな。それぞれがバラバラやから対応が遅れてしまうんや」
「それでまとめた部署を作ろうという訳か」
「せや。とはいっても話が通るのは早くて再来年やろ。今はそれまでの地盤固めや」
「なるほど。それに俺が関わる理由は?」
「影響力が強いから……って、ちょい待ち。うちそんなこと言ってないやろ?」
「考えればわかる事だろ。何を遠まわしに言ってるんだ?」
「……せやった。大智に相談事するとうちが頼めたこと一回もなかったやん」
そんなことでいじけられても困るので、俺は「それほど管理局に影響を与えたという自覚はないぞ? 色々と遭遇して邪魔したり手柄を取ったりした記憶はあるが」と話を進める。
「せやな。けれどよく調べたらそれらの事件って、うちらの方に落ち度があるんやよ。にも拘らずに強行したわけや」
大智と遭遇したのは天罰やなきっと。うすら笑いながら小声でつぶやかれたそんな言葉を聞きながら、俺は俺でやる事があったしその邪魔になるから排除しただけなんだがなと当時を思い返しながら思う。
しかしそれだけで影響力が強いのかという疑問も同時に。
それが分かったのかそれとも話の流れでその話題になったのか知らないが、はやては「勿論、それだけでなるわけやない」と言ってから付け足した。
「うちらが関わった事件を最終的に解決させたのは大智や。その上管理局の反応次第では解決させた力を以てこちらを潰す。そういった印象も一役買ってるんやで」
実際そんなことを堂々と言うとったし実行できる力を見せつけられとるからな。上層部や最高評議会ですら恐れを抱いとる。笑顔でいう事じゃないだろうに嬉しそうに事情の説明を終えたらしいはやて。それを聞いた俺は、「俺を傘に脅したいわけか」と簡潔に述べる。
「身もふたもない言い方をすればそうやな」
「そんなの、最終手段にしておけ。自力で何とかこぎつけろ」
「……えぇの?」
「目途が立っているなら使うな。正直、脅しの代名詞に使われるのは、俺の心情的に嫌だからな」
「さよか……ま、一応の許可をもろうたからええか」
思いのほかあっさりと話が終わったので、暇だった俺は「とりあえず、来年海に行ってみたいな」とうっかり漏らしたのを目ざとく聞いたはやてと親父が盛り上がったことにより、収拾をつけることに時間を費やすことになった。
ついうっかりだからな。他意はないぞ。
ご愛読ありがとうございました。