世にも不思議な転生者 作:末吉
始まりは俺が高2の冬に不意に漏らしたあの言葉だった。
『海行きたいな』
よくよく切り取って考えてみれば俺は誰と、と言う主語をぬかしていたために一人で遊んでも問題ないんじゃないかと思えてきたのは、当日になって気が重くなったからだろうか。
『いい加減にしましょうよ。マスターが提案するなんて世の中が平和になるぐらい貴重なことなんですから』
「……世の中が平和って、大分あり得るだろ」
『マスターの周りって平和なんですか?』
「少なくとも今はそうだな」
でしたら、あれです。タコとイカが餌を巡って争うほど珍しい事です。それはそもそもあり得るのか? と益体のない話をしながら、俺は再度ため息をついて自宅で待つ。
一応計画書はメールが送られたその日に各自に投函(自分で)したので翌日色々言われながらも日付の方を忘れてる奴はいないのだろうが、それでも集合時間一時間前なのに連絡一つ寄越さないというのはどうなんだろうか。
「うぃーっす」
「なんだ親父」
今一度書類を見直しながら現れた親父に顔を向けずに用を訊ねると、「今日みんなで海へ行くんだって?」とうきうきした様子で訊いてくる。
俺はパラパラとめくりながら「保護者としてならいいが、はしゃぎ過ぎないでくれ」と忠告しておく。
それを正確に聞き取ったかどうか不安だが、「分かった!」と言って消えたので大丈夫だと信じたい。
それと同時に人の気配が俺の玄関前に集まったので、持っていた書類をテーブルに置いて玄関へ向かった。
「お……早かったな」
一瞬遅かったなと言おうと思ったが、一時間前と言うのは限りなく早い方に分類されることに気付いたので言い直す。
その言い直しに気付かないまま一番乗りしたらしいアリサは、「あんたの計画を読んでたら気が逸ってね」とキャリーバックを引きずり、俺がいつぞやにあげたテンガロンハットを深くかぶりながら答えた。
「大智君から誘ってくれるなんて夢みたいだよ」と、その隣にいたすずかは言う。とてもうれしそうな表情をして。
そう言ってくれるのはありがたいと思いながら同じく来ていた力也に「よく来てくれたな」と礼を言っておく。
「ふん。君が計画書をポストに入れたのに気付いたら、その招待に応じないわけにはいかないだろ」
「そうか」
「そうだよ」
「やっほー」
力也と話していたらフェイトとアリシアが来た。二人とも色は違うが同じ服装だ。
若干日射しが強いからか同じ帽子をかぶっている。体格で区別するのは悪いが、そうでもしないと見分けはあまりつかないだろう。
「そういえばお前ら。宿題終わったのか?」
まだ全員集まっていないので雑談の話題を提供する。
すると、アリシアだけ黙って視線を逸らした。
きっとほかにもいるだろうなと思いながら俺は、「リビングへ入ってていいぞ。残りの奴らを待ってるから」と来たやつらを家へ促す。
「そう? 悪いわね」
「お邪魔します」
「邪魔する」
「わーい」
「お、お邪魔します……」
そう言えばフェイトは家に入ったことないんだったなと思いながら玄関先で待っていると、「お、ここか。雄樹に聞いておいてよかった」と裕也が野球部時代に使っていたバックを肩に掛けながら走ってきたのが見えた。
俺は片手を上げて「応こっちだ」と近づく。
「他には?」
「なのはと雄樹と元一と木在とはやてとヴォルケンリッター以外は来てる」
「それだったら来たやつらを挙げた方が早くないか?」
「そんなことより中入れよ」
「分かった」
そのまま俺を通り過ぎて家の中へ入った裕也。その気配が感じられると同時に、二人の気配が走ってくるのを感じ取った。
「やばいやばいやばい!」
「起こしたでしょ、元一君」
「悪かったな! って、もうすぐ着くぞ!」
それと同時に急に立ち止まる元一と木在。膝に手を当てながら肩で息をする二人に、「家の中に入ってゆっくりしろ。どうせ宿題持ってきたんだろ?」と玄関を指さして促す。
「お、おう……悪いな」
「……あり、がと」
息を整えながら家の中に入る二人。何ともせわしないと思いながら不意に視線を戻すと、そこには雄樹たちが来ていた。
気配があったのは知っていたので大して驚かない俺は、「残りあと十分とは。何とも珍しい事だ」と時計も見ずに言っておく。
それに対しはやてが「いやな、リィンが準備してへんかったんや」と肩に止めている小さい人型――リィンフォースⅡを指さしながら言ってきた。
「アインスさんは?」
「フェイトのお母さんといっしょに研究中。ベルカ式のデバイスが普及しているから」
「そうか……まぁ何とかなるだろ。なのは以外はみんなリビングにいるぞ」
「さよか」
「はやてや雄樹さんの言っていた人たちと会えるんですねー。楽しみですー」
そう言ってはやて達は入っていく。もちろんヴォルケンリッターや雄樹は「お邪魔します」と言うのを忘れない。
残りは後なのはだけだな…と隣の家を見て視線を戻すと、『わぁぁぁ!!』と叫び声が上がったのが聞こえた。
結構焦ってるなと状況を察しながら、やっぱりこうなったかとため息をついた。
そこから集合時間残り一分になったところなのはが到着。細かいところが気にできないほど焦っていたのか、俺が指摘して初めて気づいた。
という訳で全員集合。イクスヴェリアは博士のところに預けたので今頃十…三人かそのぐらいだったな。さぞかし姦しいのだろう。メガーヌさんの監視の目は厳しいらしいし(自業自得で切り捨てた)。
リビングになのはと一緒に入った俺は、今更ながらの人の多さに気付き、「さっさと行くか」と再び外へ出るように促す。
元一とアリシアが宿題をやっていたのが視界に入ったが、俺は知らないふりをした。
「で、ここからどうやって島に行くのよ?」
外に出たアリサが今まで聞きたかったのか質問してきた。それに同調する全員。
俺は面倒なので庭に向かい、物置の扉を開けて「こっちへ来い」と言って中へ入った。
防犯システムは自動切断中。顔が登録されている人間たちに危害を加えないように配慮し、ナンバーズが偶に俺の家から買い物へ出かけることに弊害をなくす形で。
……そう言えばこんな大人数でちゃんと起動するのだろうかと今更不安になりながら、大分離れているらしい後続を待つためその場で止まる。
最初に来たのはすずかだった。
「そういえば久し振りだね、こうして地下室へ来るの」
「そうだな。あれから色々と部屋を改造したら若干工作し辛くなったんだ」
「って、ここ何なのよ!?」
和やかに話していると、アリサが声を上げる。それに対し、俺とすずかは声をそろえた。
「地下室だ」「地下室だよ」
「……なんかずるいわね」
急に不機嫌になるアリサ。おそらく、自分だけが知らなかったという気持ちからだろう。実際にはすずか以外あの場で知る人間はいないのだが(俺以外と言う意)。
その後もおっかなびっくりでおりてきたので、俺は人数を確認せず再び階段を降りた。
「うわぁ……」
地下室(と言っても別世界に存在している地下室)の中に入った全員の感想は大体それ。
現在はどちらかというと基地に近い。それも、出撃ベースみたいな。
ま、飛空艇とかじゃなく、次元転移装置(スカリエッティ博士がいつぞやの夏に思い付いたもの)が奥の方から両脇に一定の間隔で置いてあるんだが。
「どこの基地やここ」
「俺の遊び場」
「……ミッドチルダにもこんなのないよ」
雄樹が呆れながら感想を漏らす。フェイトはこれを見ながら「エリオもつれてくれば良かった…」と呟いていた。
「で、これで行くのかい?」
力也が近くにあった装置の一つを叩きながら訊ねてきたので、俺は頷いてから近くにあり、今回の目的地の座標がセットされた装置の前に立つ。
「今俺が立っている装置で今回の場所へ行く。順番だが、雄樹、はやて、ヴォルケンリッターの順に行き、そこからは適当に乗ってくれ」
「乗るだけでいいのかよ?」
「地球の科学力じゃ発明できない類だからな」
「私もこんなの創れるかな」
「努力次第だろ」
そう言ってから俺は横に移動し雄樹を手招きする。
それを見た雄樹は軽やかな足取りで装置の上に乗る。
「いいよ」
「着いたら俺の両親がいるはずだ。今回の保護者役として」
「分かった」
頷いたようなので俺は『転送』のボタンを押す。
カプセル状の装置が密封され、中から粒子に分解する光――ではなく魔力が充満する。
その光が見えている俺以外は何があるのかわからないだろう。そんなことを思っていると、雄樹の足元に魔方陣が展開してそのまま消えた。
「……は?」
「さ、次行くか」
「おいおい」
「せやな」
元一と裕也の呆れた声を聞き流しながら、何が起こったか理解したはやてはさっさと入る。
はやてもあっさり消え、そこから流れるようにヴォルケンリッターが続き、力也までもが平然と消えた中、元一と裕也と木在とすずかとアリサだけは理解が追い付いてなかった。
「じゃ、次私行ってくるよ」
「アリシアだな。分かった」
そうこうしている内にアリシア、フェイトの順に転移していく。残ったのはなのは、地球組、俺。
とりあえずさっさと行ってほしいと思った俺は、黙って裕也をカプセルに入れる。
「ちょ、おい」
「安心しろ。魔力が無くてもちゃんと行ける」
「そういう――」
最後まで言わせないうちに転移させた俺は次は誰だろうかと待つと、意を決したのかアリサが黙ってはいる。
何やらこわばっているがそこまで心配する必要ないだろうにと思いながら転移させると、今度はすずかが入った。
そこから木在、元一、なのはと入ったのを確認した俺は、誰もいないことを確認して息を吐く。
「さすがに一般人を転移させるというのはきついな」
『お疲れ様です。データならきちんと記録されていますよ』
「なら博士のパソコンに送信し……なくていい。破棄する」
『いいんですか?』
「まるでモルモット扱いだろそしたら」
『…それもそうですね』
そんな感じで、俺は少し休憩してタイマーをかけて転移した。
全日程一泊二日(延びる可能性あり)。果たして楽しんでくれるかどうか、だな。
転移魔法が起動するの感じながら、俺はそんなことを考えていた。
一方スカリエッティ博士宅。
「はか、せ」
「どうしたんだい、イクスヴェリアちゃん」
「けんか、とめますか?」
「あーその前にその書類渡してくれる? それが終わったら止めてもいいよ」
「わかり、ました」
「博士」
「どうしたんだい、ウーノ」
「子供ってどうやったら出来ますか?」
「ブフォッ! い、いきなり何言いだすんだ!!」
と、一種の嫉妬心を覚えたウーノが答えづらい質問をしたり、
「さすがゼスト隊だった人だな。我々だって強くなってるはずなのに」
「暢気に言ってる場合じゃっ!!」
「もうおしまい? 大智君が提供してくれた装備とデバイスの機能の四割も使ってないのに」
「まだまだ……行くぞセッテ! 我らだけでも!!」
「まだやるのトーレ!?」
メガーヌがナンバーズの戦闘班の半分を山の中で相手取り、
「この場合の対処として正しいのはなんだか言ってみなさい、チンク」
「はっ。この場合は相手を音もなく消します」
「それじゃ死体を見られて終わりじゃない。…それじゃ、セイン」
「聞いてませんでした」
「正直でよろしい。後で私の部屋ね」
「それはいやぁぁぁ!」
潜入班はドゥーエの指導を受け、
「それは僕のだ、クアットロ姉さん!」
「先に手に取ったのは私ですよぉ、オットー?」
「けんか、よくありません」
クアットロとオットーの喧嘩をイクスヴェリアが止めていた。
そんな、平和な感じだった。