世にも不思議な転生者 作:末吉
「……」
波の音が聞こえてきたので無事に成功したと直感し、俺はゆっくり瞼を開ける。
見えたのは一面に広がる海。砂浜などはなく、ただ崖が少し崩落したのが見える。
その視覚情報だけで俺はああ、もう少し改良しないとダメだなぁと思い直して背を向けた。
森を抜けた先にある、旅館みたいな家を目指すために。
俺の時だけなのか俺以外の奴らにもあったのか。それは合流してみないと分からないことだが、島全体を転移地点としているのが仇になったか。そんなことを考えながらも全力で森を飛び越えて島全体にある気配を探る。
……。どうやら俺以外は集結しているらしい。移動したのかはたまたその場だったのかわからないが、ともかく無事らしいので安堵する。
とか思っていたら砂浜が見えたので俺は数回回転して勢いを殺し、それでも無くならないので砂浜に片足をつけすぐさま上空へ跳ぶ。
ざっと十メートルほど跳んだ俺はそのまま着地しても砂塵が舞い上がるのが分かりきっているので、ナイトメアに浮遊魔法の発動を促す。
発動を確認した俺は半分まで落ちてきたところで浮き、そのままゆっくりと下に落ちる様に操作する。
とん、と砂埃が舞わない範囲で着地した俺は、改めて全員の視線がこちらに向いているのが分かったため説明する。
「ここは地球とは別次元にある世界だ。世界の九割が海で覆われ、ここは数少ない陸地の一つ。遠泳には向かない場所だが、魔法の修業やサバイバル、バカンスを楽しむには申し分ない」
「……」
「後言っておくが、この島には動物がいないのでゆっくり散策も可能だ。植物も食べられるものが在る」
「……」
「何か質問は?」
『大有りだ』
全員が同じ言葉を俺に向けて言う。
だが当たり前かと思っていた俺は引きもせずに「答えられる範囲でなら答えてやる」と腕を組んで仁王立ちする。
すると、まず雄樹が手を挙げた。
「あのさ、大智」
「言っておくが管理局が管理していないこの世界で管理局を持ち出すのは却下だからな」
「あ、うん」
あっさりと引き下がる。
次に手を挙げたのは、アリサだった。
「ていうかあんた、いつからこんな場所持ってたのよ」
「小学三年の秋ごろだろうか。親父たちの知り合いの中にちょっとした出来事を押し付けた詫びにもらった」
「で、みんな場所がまちまちだったみたいだけど?」
「そうなのか。それはあの装置の設定をこの島全土にしたからだ。わるかったな」
「そう……」
その次に挙げたのはフェイト。
「ここって、あの時の場所だよね。私達が神様の一端を知った」
「ああそうだ」
「? あの時って、なんや」
「詳しくはなのはかフェイトかアリシアに訊くように。次」
「なんでさらっと行くんや!」
はやてがうるさいので無視すると、裕也が「こんな世界があるんだな…」と感慨深そうにつぶやいた。
それに同調するように、すずかも呟く。
「なのはちゃん達って、こういう世界とかを駆け回っているんだね」
「スケールデケー」
「大変そうだね…」
もはや規模が大きいせいか片言になった元一に、そんな苦労の一端を労うように褒める木在。
力也は、現実的な質問をしてきた。
「勿論帰れるんだろうね」
「当たり前だ。あの旅館にも装置はある」
「だとしたらどうして相互移動にしなかったんだい?」
「あと半年ぐらいで完成予定だ。今はまだ片道でしか行けない。帰りはピンポイントで帰れるが」
これで全部答えただろうかと思い見渡すと、全員が全員興味が別なことへ移ったようなので、とりあえず手を鳴らして「その前にあそこの建物に荷物を置きに行くぞ」と四階建ての旅館みたいな家へ先導する形で歩き始めた。
「うわぁ」
「すげ……」
「……これ、全部あんたが作ったの?」
「作ったといってもこの島の手入れをしたのは中学卒業前あたりからだな」
外観に見合った完全木造建築ではないが(キッチンなどはステンレスや大理石などを使用)、それでも床や柱、壁などは木だけで作られた和の空間。
入ってすぐの一階は玄関兼リビングアンドダイニングキッチン。現にうちの両親が壁に飾りつけをやっている。
靴を脱いで下駄箱に入れてから床に足をつけた俺は、「ここが食事場だな」と軽く説明をする。
トイレもあるが、玄関正面の階段脇にあるのでここからでは見えない。
風呂場もあるが、ちょっと死角になっているのでここからでは見えない。
そんな説明をしたところ、全員がきょろきょろとその場で視線をあちこちに移動させているだけで話を聞いてる風には見えなかった。
「大丈夫か?」
とりあえず確認を取る。だが誰も反応しない。
……まぁ何かあれば勝手にあちらから聞いてくるか。
そんな結論に達した俺は、「二階へ行くぞ」と言って階段を上ることにした。
あわててる音が聞こえたが、俺としては待つ理由がないので放置した。
『マスターって本当、人の気持ちを慮りませんね』
「そうか?」
二階に来た俺はナイトメアが呟いた言葉に首を傾げる。
そして記憶をフラッシュバックさせてすべての言動を鑑みて……「確かに」と呟く。
『自覚あったんですね』
「今さっき自覚した」
『え』
今更ですかと言いたそうな反応に、実際その通りなので何も言わないでおくと、「うわすげ」と元一の声が聞こえたので振り向く。
まだ全員そろってないらしい。
もう少し待つかと思ったが、それも面倒だと思った俺は「二階はフリースペースだな。本を読んだりのんびりしたり、ネット使えたり、卓球したり」とここの階の説明をする。
すると、話を聞いていた雄樹が、「え、ここでインターネット使えるの?」と真顔で質問してきたため、論より証拠と言うことで設置していたパソコンのネットワークのアイコンをクリックして、日本のホームページを出す。
「「「おぉ」」」
「詳しいことは省くが、俺達がここに来た時の装置の応用版だと思ってくれ。ちなみに、ミッドチルダに存在するネットワークにもつなげることができる」
「それってつまり、情報と言う網を、文字通り世界を越えてつくった……そういう事かい?」
「そういう事になるな、力也」
そう言うと、理解ができてない数名を除いて絶句していた。
分かってなさそうなやつらに対し、俺は自分の中ではかなりわかりやすい例えを持ち出して説明した。
「テレビ電話ってあるだろ。画面越しに話をする。あれが地球とミッドチルダの間でできるから、なのはや雄樹と元一やアリサ達は装置さえあればテレビ電話でその日の事を話せるってわけだ。あとは、メールで互いの近況を教え合ったりとかできるし、約束とかも一々こっちに戻ってくる必要がない」
「なにそれすげぇ」
「そうなんだ……ってそんなの何時の間に!?」
なのはが納得して気付いたらしい。
それに対し俺は、「中学校卒業時には着工して、ミッドチルダ側の適当に偉い奴――誰だか忘れたが――に話をつけて高一の秋にはつながってたな。諸々の調整で今まで使えなかったけど」とスラスラ答える。
これに関しては神様に『雑用やるから手伝え』と言って手伝ってもらった。面白いことが好きな奴らなので、俺に無理難題に近いものを押し付けながらも手伝ってくれた。
その内容を思い出していると、「やはり地球じゃ満足しないのか…」と力也が呟いたので、俺はスルーしておく。
「ま、二階はこんな感じだ。あと三階と四階は客室だな。三十部屋ぐらい両方合わせてあるから、まぁ適当にばらけてくれ」
「完全に旅館じゃねぇか」
「すげぇな。ここが拠点になるのか」
「拠点? どういう事よ裕也?」
つい漏らした言葉にアリサが反応し、裕也が言葉に詰まり、俺に視線で助けを求める。
それを受けた俺はため息をついて「合宿の拠点じゃないのか?」と誤魔化しておく。
「そ、そう! ここはいいトレーニング環境だなと思って」
「……そう」
まだ何か疑いを持っているらしいが一先ず納得した様子を見せるアリサ。
これならまだ大丈夫だろうと思った俺は手を打って視線を集め、「俺の部屋は三階の一番奥で鍵が閉まっているところだ。それ以外の好きなところに好きな様にばらけてくれ。終わったら一階に集合」と指示を出してパソコンの電源を操作する。
その間全員が移動を始めたようなので、出来ればうまい具合に男女別れないかなと願望を抱きながら一階へ向かった。
「案内してきた」
「お疲れ」
「こっちは無視されたのに驚いたけどな」
一階に戻ったところ、飾り付けが終わっていた。星やらが壁に貼ってある。
なんかのパーティをする気はないがと思いつつ、「ありがとう」と礼を言っておく。
「気にすんなって。お前が率先して計画するとかもう記念だから」
「……自分の発言に責任を持ったわけだが」
「それでもよ。……それにしても、この広さで十三人は窮屈じゃない? 私達を入れれば十六人だけど」
「まぁこのテーブル六人掛けだからな。外で食べるさ」
「あーなるほど。だから森の中に少し入ったところに小屋があったのか」
なるほどと納得する親父。いや、そこはおそらく……
「脱衣所だろ。露天風呂の」
「え、露天風呂作ったのかよ」
「じゃぁどこで食べるの?」
「それは……」
俺が砂浜で食べると言おうとしたところ、「決まったよ!」とアリシアが元気よく階段を降りて言ったので、少し間を置いてから「分かった」と言って親父たちに「好きに遊んでいい」と言っておく。
「お、マジか」
「それじゃ、水着買いに戻りましょあなた」
「え、ちょい待ち。俺温泉に浸かりたい…」
親父の抵抗空しく母に連れて行かれた。
まぁあっちは問題ない範囲で遊ぶだろうと思い振り返ると、なんだかそわそわしているアリシアが。
「どうした」
「え、あ、遊んでいいんだよね!?」
チラリと時計を見る。現在時刻は地球世界日本時間における午前十時。となれば別に遊ぶのもやぶさかではないが……。
そう思いながらぞろぞろと落ちてきたので奥の方へ移動しつつこれからの予定を確認及び再構築していく。
「…」
「いいんだよね、ね!」
テンションが上がりっぱなしのアリシア。余程海を目の前にして興奮が抑えられないのだろう。
別に遊んでもいいんだがと思いながら、俺は静かに切り出した。
「この中でここまで宿題を持ってきた奴手を挙げろ」
シン…一瞬で空気が静まった。
おそらく俺の言葉でどうなるのか想像がついたため、抵抗しようとしているのだろう。
だが俺は見逃してはいなかった。
「元一とアリシア。お前らは持ってきてたはずだ。ちゃんと手を挙げろ」
「お、おい……」
「い、いいでしょ?」
そう言いながら渋々と手を挙げる二人。
他にはいないのかと思っていると、ゆっくりとなのはが手を挙げた。
まぁ予想の範囲内か。そう思って「他にいないのか?」と訊くと、「はやても持ってきてましたよね?」とシグナムの声が。
「な、なんで言うんやここで!」
「いえ。ここは素直に手を挙げるべきかと思いまして」
「い、いいんや! うちは夜にやるんやから!!」
「徹夜は肌荒れの原因らしいぞ」
「うっ」
そう言って渋々手を挙げるはやて。
もうこれでいなさそうだなと思った俺は、「じゃ、手を挙げた奴らは宿題を昼までやるぞ。それ以外の奴らはその間先に遊ぼうが何してようが自由だ」と言った。
ブーイングはあったが、それでも従ってくれた。
「……という訳だ。したがって、ここの解答はこうなる」
「本当にわかりやすいよ!」
「うぅ…いいなあアリシアちゃん」
「ほらさっさと手を動かしなさいよなのは。ここの問題は……」
「なぁ雄樹ー、代わりに宿題やってくれへん?」
「自分でやりなよはやて。君がやらないと宿題の意味ないでしょ」
「せやかてな~」
「宿題はちゃんとやらないとアインスお母さんが怒りますよー」
「うっ…そ、それは嫌やな」
「ぐわぁぁ! わかんなくなってきたぁぁ」
「答え合わせでどこが間違ったのか理解するために今は間違え」
「くっそ裕也の裏切者!」
「暇だったからな」
宿題組はこんな感じ。終わってない奴らに対し終わってる奴らから選ばれた四人で勉強を教えている。
他の奴らはと言うと、木在は元一の隣に座って本を読んでおり、すずかはフェイトと一緒に二階へ行ったらしい。
シグナムは森の奥へ行った。ヴィータとシャマルも二階へ行ったのだろう。ザフィーラは一階の床で狼の姿に成って寝ている。
そう言えばアルフはどうなったのかと言うと、プレシアさんを契約者として変更して連れて行ったそうだ。戦闘に参加しないらしい。
力也は……最近気配を消すことを覚え、俺でさえ本気で探らないと分からない域にまで達していた。から、どこにいるか分からない。
アイツそのうち拳で岩を粉微塵にするんじゃないかと思いながら教えていると、アリシアが「あとどのくらい?」と訊いてきたので時計を見る。
「まだ一時間は勉強できるな」
「まだ一時間しか経ってないの? 早く遊びたいよー」
「宿題やらないお前が悪い」
抗議を切り捨てた俺は集中力がなくなりかけているアリシアを見て、「……なら今やってる教科を終わらせろ。終わったらお昼を食べて遊ぶぞ」とため息交じりに提案する。
それを聞いたアリシアは顔を勢いよくあげて「本当に!?」と言ってきたので頷く。
途端にやる気を見せたので、現金なものだと思いながら俺は時折質問されることに答えた。
十二時になった。
「昼だな」
「やったぁ昼だぁ!!」
テンションが上がったアリシア。両手を上げて勢いよく立ち上がる。
それにつられてなのか、元一やはやて、なのはも腕を伸ばす。
「ようやくかー」
「何とか一教科終わったわ」
「うーん」
どうやらキリよく終れたらしい。最後の方集中してなかった奴もいたが、そこを注意するのは野暮と言うものだろう。
「ところで、材料とかはあるのかい?」
「外に出て森の方のこの建物横側にある小屋。そこが一応冷蔵庫だな」
「……もう驚かないよ」
力也の質問に対して答えると、雄樹がため息交じりでそう言ったが、俺は気にせず「さて、何を作るか」と口に出す。
「お、料理か? だったら俺もやる。勉強で頭疲れたからよ」
「なら頼むぞ、元一」
「あ、私も」
率先して手を挙げたのは元一に木在。他は思いっきりのんびりして――
「あ、私も手伝うよ大智」
「「「「!?」」」」
フェイトが手を挙げてそんなことを言った瞬間、他四人が分かりやすい具合に反応した。
「そうか。だが悪いな。この台所は二人までしか入れないんだ」
「え、ちょい待て。そしたらお前どうするんだよ?」
「雑用と外にテーブルを作るぐらいだな。木材には困らないからお前達が作ってる間に作るつもりだ」
「ふーん。ところで、何作ればいいんだ?」
「総勢十六人で食べられるもの」
「人多くね…? まぁいいけど」
「頑張ろう、元一」
「おうそうだな」
そうして二人の世界に入ったみたいだが、肝心の食材を見てないのに何を作る気なんだと思ったため「結局何作るんだ」と訊くと、「冷蔵庫見せてくんね?」と言ったので、俺は案内することにした。
……元一と木在が作った料理を食べたことがなかった一部女子たちは、食べてからショックを受けてようだ。受けてなかったのは力也と裕也、俺と雄樹、それにヴォルケンリッターの奴らぐらいか。
両親も案の定食べていた。
日常の方が長いのはまぁ書いてたらそうなりました。