世にも不思議な転生者   作:末吉

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お久し振りです。一ヶ月ごとの更新になってるのは……気のせいです。


119:バーリ・トゥード

* ティアナ・ランスター視点

 

「大丈夫スバル!?」

「防御魔法でなんとか防いだけど、カートリッジ二つほどやってギリギリだったよ」

 

 必死にフィールドを走り回って何とか見つけ、スバルが中から、私が外に出てきた時に攻撃する役割だった。

 なのに目の前で浮いて佇んでいる男の人――和服にレギンスとガントレット、それに太刀を握っている――はそれに気付いていたのか、スバルが中に侵入してすぐに外に飛び降りてきた。

 

 私は路地裏で隠れて遠目で見ていたところ、試験中だというのに何か話をしていた。

 あまりにも無防備なその姿なのに――なぜか私には『攻撃する』という選択肢が浮かばなかった。

 

 で、建物の壁を走ってこちらに近づいてきたので私は慌ててワイヤーで動きを止めようとしたところ、撃った瞬間には壁が壊れていた。

 

「……え?」

 

 まるで分っていたかのように加速したと気付いたのは、それから少し経って。

 その男の人が走っていた壁を蹴って宙へ飛び、蹴られた壁が勢いよく力を入れられた方向へ飛んで行ったのを見てから。

 

 なんなのあの人。真っ先に浮かんだのはそんな感想。

 次に浮かんだのは、あの人は一体誰なのだろうという疑問。

 もっとよく見る為に路地から出ると、スバルがあの人が蹴った壁の方から飛び降りてきた。

 

 そして、今。

 

「ああ、裕也か。終わった? そうか。なら仕事がなければ休んでいいぞ。今俺は急にやる事になった仕事をしているからな」

「ハァァ!!」

 

 長嶋大智と名乗ったその男の人は、「何でも屋バーリ・トゥード」の社長で、はやて指揮官やフェイト執務官、なのは教導官と雄樹教導官達の知り合いだといい、電話貰ってきたらこうなったと事情を説明してから、「俺に『合格』と言わせるまで頑張れ」とあまり抑揚の感じられない声で言ってきた。

 

 何を、と訊いたら「自分で考えろ」と即答されたため、スバルが接近、私が援護という形でさっきから攻撃を仕掛けている、のに……!

 

「ティア!」

「分かってる!!」

 

 スバルの声に反応して私は兄の形見のデバイスを向け、引き金をひ――こうとしたところ、その場から消えていた。

 

「え!?」

 

 どこ!? 一体どこに消えたのよ!!

 

 そんな疑問はすぐさま理解させられた。

 

「どうした元一。今仕事中なんだが。……何、適当に書類送ったらオーディション一次合格して二次試験? それは木在がアイドルになったから追っかけようとしてか?」

 

 私の後ろで、世間話をしているのだから。

 

 声に反応して私は振り向く。けれど、その時にはすでにいない。

 フェイト執務官は管理局最速と呼ばれているけれど、この人はそれ以上。おまけにこの状況で電話なんて緊張感のないことをしていながらも、私達の攻撃の一切を避ける。

 

 ただのバカなのかそれとも余裕なのか。……おそらく後者だろう。

 

 そう考えたところ、私のやる気は急になくなった。

 それを見ていたらしい男の人は何かを思案しながらスバルの攻撃を避け続け、大振りの攻撃を大きく避けて再び宙に浮く。

 

 一つの小康状態に陥った中、スバルは私のところに戻って来て呑気に言った。

 

「あの人、本当に強いね」

 

 息を切らしながら嬉しそうに言うけど、私はそんな気持ちになれない。

 なれないから、私はつい言ってしまった。

 

「今回は諦めるわ、私」

「何言ってるのティア!?」

 

 スバルが怒って私に詰め寄る。私は、その視線から逃れるように目を合わせず叫んだ。

 

「いい!? 今回の試験はイレギュラーなのよ! あんな理不尽な存在から『認められろ』ですって? そんなの無理に決まっているじゃない!! あいつまだ本気でもないのよ!!」

「でもこれを逃したら次は半年後だよ!? いいの!?」

「いいわよ! 半年待てばいいだけなんだから!! こんな試験さっさとリタイアするわ!!」

「――――そうやって理不尽から逃げてなんになる? お前らそれでも管理局で働く奴らの一員か?」

「「!!」」

 

 燃え盛る炎の中、その人の冷たい声に、私達はそちらへ向く。

 その人は、どこか怒っている気がした。

 何も言えない私達に対し、その男の人は近づいてきて地面に降り立ち、こう言いだした。

 

「これは試験でもなんでもない。『戦場』だ。この空間は今この時に限って『戦う場』だ。俺とお前達のな」

 

 戦場――その言葉に兄を思い出した私は、とっさに構える。

 それを見た男の人――長嶋さんは、「受け入れてばかりでは早死にする。逃げるのは選択の一つだが、時と場合を考えてこそだ。それを俺は身をもって体験した。だからお前達も知れ」と言って一瞬で後方に下がったと思えば、「理不尽の恐怖に対峙するしかないこの状況を!」と叫んで魔方陣を足元に展開させる。

 

「氷炎両槍」

 

 燃え盛る音の中、長嶋さんが呟いたその言葉が耳に響く。

 その直後、その人の前に冷気を纏った槍状の氷と、近くにいなくても熱さを感じる槍状の炎が出現した。

 

「ねぇティア! あの魔法何!?」

「私が知るわけないじゃない!!」

 

 そう言いながらも私達は構える。

 

 道幅を二つで陣取っているこの状況。空を飛べない私達では回避することはほぼ不可能。

 だから、迎え撃つしかない。それか、引きつけて全力で避けるか。

 たぶん後者は無理。本気じゃなくてもここまで出鱈目なことをする人だ。きっと避けようとする暇も与えてくれないだろう。

 だとするとやっぱり迎え撃つしかないってわけね……。そう考えた私は、愛機であるデバイスを炎の槍に向ける。

 横を見ると、スバルも同じことをしている。やっぱりコンビを組んでいたからか、そこら辺の考えは似通ってきたようだ。

 

 それを見た長嶋さんはその槍たちを投げるのかと思ったら、いきなり消した(・・・・・・・)。ついでに、建物を燃やしていた炎も。

 

「「…………え?」」

 

 呆気にとられる私達に、その人は欠伸をしながら「合格だ二人とも」と言ってその場から消えた。

 

 ………え?

 

 

 

 

 とりあえず合格を言い渡すためにすべて消したところ、案の定困惑する二人。説明するのが面倒だったのですぐさま転移して全員が集まっている場所へ。

 

 どうやらみんなモニターで見ていたようだ。

 

「あ、お帰り。合格にしてくれたんだね」

「あいつらの覚悟を決めた時の目を見て大丈夫だと思っただけだ。『合格してあげた』という意識はあいつらを馬鹿にしてる証拠だぞ、雄樹」

「ご、ごめん……」

「でもほんまよく言い渡したやん、合格」

 

 雄樹を注意したらはやてが口を挟んできたので、俺は「お前らは俺をなんだと思っているんだ?」と質問したら、苦笑で返された。

 それだけでどういう事か理解した俺はため息をついて、「これで終わりだな。依頼料は後日請求するから振り込んでくれ」と言ったところ、「「ちょっと待って」」と制止の声が。

 

「まだ何かあるのか?」

 

 そう質問したところ、制止させた本人――なのはとフェイトは言葉を濁す。

 何かあるのか…と思いながら頭を掻いて待っていると、はやてが「これからあの二人に言いたいことあるんや。だからなのはちゃんにフェイトちゃん。悪いけど一緒についてきてくれへん?」と止めを刺す。

 

「あ、うん。分かった」

「うん。分かったよ」

「せやから終わるまで待ってくれへん?」

 

 携帯電話を開いて時間を確認すると、午前十一時過ぎ。アリサから夕飯に誘われたので、それまでの間はフリー(依頼が来なければ)。

 二十四時間営業ではないので夜は何とかなるが、それでも神様連中が来るので実質ゼロに等しい時もある。

 ……俺だけだが。

 

 まぁ久し振りに会えたし仕事が来ない限り居られるので問題はない。

 

 そこまで思考して頷くと、「さよか。ほなら雄樹置いとくから少しの間待ってな」と言って三人で消えた。

 

「……それじゃ、やろうか(・・・・)

「いいのか?」

 

 辺りに監視の目や人の気配がないことを確認して、それでも俺は雄樹の発言を確認する。

 それに対し、雄樹は力強く頷いた。

 

「……分かった。どれだけ強くなったか試してやる」

「ありがとう。僕はもうあの時のように力不足を痛感したくないから」

「いい心がけだ。だから俺も相応の力で戦ってやる」

「分かった」

 

 覚悟を見せてくれたようなので、俺は右腕を伸ばして「転移」と呟き雄樹と一緒に飛んだ。

 

 

 

 

 

「ところで大智」

「どうした」

 

 レアスキルによる氷属性付与の攻撃を受け止めた俺は、そのままの状態で空いてる左で腹を殴る。

 だが雄樹はそこに楯を挟んだようで、吹き飛ばされながらもダメージを受けた様子はない。

 成長したなと思いながら立て直す前に一歩で接近し、そのままサマーソルト。

 顎に蹴りがモロに入った雄樹はそのまま浮き上がり、それでも魔法を発動させようとしたので、ちょうど両手を地面につけられそうだからそのまま逆立ちし足を広げながら回転する。

 それが鎧のない脇腹に直撃したらしい雄樹は「ガッ!!」とうめいて回転方向へ吹き飛んでいく。

 

 回転と逆立ちをやめて普通に立っている体勢に戻った俺は、そのまま吹き飛んだ方向に魔法をぶち込む。

 

「天下雷炎」

 

 直後、俺の眼前がまばゆい光と轟音、そして熱波だけの世界になった。

 

 

 

「死ぬかと思ったよ」

「そりゃお前が弱いからだ」

「……これでも管理局内じゃ強いほうなんだけどね」

 

 そりゃあそこは純粋に強さ必要としないだろうからな。そんなことを思ったが言わず、俺たちは管理局内にあるトレーニングルームから出る。

 

「あれでも結構セーブしてたんだぞ」

「いやまぁ。最後ぐらいしか魔法使わなかったことからするとそうなんだろうなと思ったけど」

 

 近くの自動販売機で飲み物を二つ買って一つを渡し、もう一つを開けて飲む。

 受け取った雄樹も同じく立ったまま飲みながら、盛大にため息をついた。

 

「ランスロットさんとの稽古も変わらずだし。君との稽古でも全戦全敗。強くなっているという実感は指名手配犯を魔法を使わずに取り押さえられたことぐらいかな」

「ふーん。俺は強さを維持するぐらいしかできないから強くなったという実感はないな」

「……なんだろうね。君に近づいたと思ったら実は幻影で、道のりはまだまだ遠すぎるっていうこの感覚」

「あるな、それは。俺も神様連中の完成された強さに結局近づけていない気がする」

「いや神様なんて反則じゃん。それに、君も神様の完成された強さに近いと思うけど?」

「そうか?」

 

 時折飲みながら自販機の前で立ったままの俺達。管理局の制服を着ている雄樹と、地球で売っている安い服を適当に組み合わせた俺。

 場違いではあるし、俺のことを見てくる奴もいるのだが、誰もそのことについて注意しない。

 

 飲み終わった俺は自販機近くのゴミ箱に缶を入れてから近くのベンチに座る。

 

 ベンチに座ってから、俺は気づいた。

 

「アリサに電話しなければ」

「え、どうしてさ?」

「夕飯に誘われた」

「……なんというか、大智って今更ながらの青春をしてるよね」

「青春はいくつになっても同じじゃないのか?」

「僕達ぐらいだとギリギリだと思うけどね」

 

 そんな言葉を交わしながら電話をかけ、ニコール目でアリサが電話に出た。

 

『だ、大智!? お、終わったのかしら……』

「ああ。まぁ少しなのはたちと話をしてからそちらへ向かう」

『そ、そう! な、なら期待せずに待っているわ!!』

 

 そういうと同時に切られた。

 何時に行くべきかわからんのだが…と思いながらポケットに携帯電話を入れると、「そういえばバーリ・トゥードの盛況ぶりってすごいね」と聞いてきた。

 

「まぁ一か月経たないうちに世界から百件近く来たな。地球のほうでは元一たちが頑張っているし……」

「ごめん。企業宣伝してないはずなのに百件近く来たっておかしくない?」

「別に。とりあえずすべて終わらせたからこうしてここにいる」

「あーうん。そういえば神様に駆り出されてたんだったね。今思い出したよ」

 

 一人で納得した雄樹。その姿を横目で見ながら「いつになったら結婚するんだ晩年アベック」と質問してみる。

 

「その表現は古すぎるって! ……まだ結婚できないよ。今は機動六課のことがあるから」

「ふ~ん。結婚式盛大にしたいのなら呼べよ。神様が永遠の愛を誓わせるから」

「あはははは……それは、頼もしいね」

「そうだろ」

 

 何やら乾いた笑みを浮かべる雄樹。

 きっと想像したんだろうなと思いながら、「そういえば機動六課専門の基地ってあるのか?」と聞いたところ、「うんまぁ」との返事が。

 

「そこにシャマルたちやアインスさん、プレシアさん達もいるよ」

「あー大智だー!」

 

 名前を大声で呼ばれたのでそちらへ向くと、フェイトと同じ顔をしてフェイトより成長してないアリシアが笑顔で向かってきていた。

 

 そのまま突っ込んできたのでバレーのレシーブのように高い高いしてキャッチする。

 そのままおろして「元気そうだなアリシア」というと、なぜかふくれっ面になった。

 

「? どうした?」

「抱き着かせてくれなかった」

「子供か」

「だって久しぶりなんだよ!? 抱き着いたっていいじゃん!!」

「短絡的思考でよくプレシアさんと一緒にデバイス研究できるなお前」

「いやー大智の前じゃないとこうならないんだけど」

 

 たまらずといった感じで雄樹がフォローに入ってきた。

 そうなのかと思いながらえへんと胸を張っているアリシアを見た俺は、とりあえずほめることにした。

 

「さすがだな」

「えへへー! もっと褒めてほめて!!」

「アリシアー。母さんが『さっさと来なさい』って怒ってたよ」

「あ、忘れてた! じゃ、じゃぁね大智!!」

「ああ」

 

 いそいそと駆け出ていく。その後ろ姿を見ながら、なぜか戻らないアルフに声をかけた。

 

「どうしたアルフ」

「……覚えてたんだね、あんた」

 

 俺の顔を見つめながらも、驚いた様子を見せる。それに対し、「何度も会えば覚える」と答える。

 

「あっそ。まぁあんたにはこれだけ言っとくよ」

「なんだ」

「フェイトやアリシア泣かせたらタダじゃおかないからね」

 

 そういうと踵を返し、そのまま人ごみに紛れていった。

 二人が消えていった道を見ながらも俺はポツリとつぶやいた。

 

「努力するさ」




次の更新は……また一か月後になる可能性があります。

ご愛読ありがとうございます。
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