世にも不思議な転生者   作:末吉

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二次創作からのオリジナルって、結構大変ですね……


122:本気

 機動六課が本格的に始動した次の日。

 急すぎて部屋がないので自分の家まで帰ってきた俺は、普通に五時に目が覚めたので顔を洗って制服に着替えナイトメアと時計型転移装置を身に着ける。

 

「出かけるのですか?」

 

 同様に起きて身支度を整えたイクスヴェリアが俺の姿を見て訊ねる。

 それを肯定した俺は、「頼んだぞ」と言って機動六課のある座標に転移した。

 

「……ラグは数秒か。そこら辺は予想の範囲内か」

 

 着いた時間と転移する前の時間の誤差を見てそう呟いた俺は、完全に寝静まっている時間帯であることを確認。

 まぁ起きていようが関係ないけど。そう思った俺は、魔力を少し放出して今回から始めるトレーニングを行うことにした。

 

「まずは空中マラソンだな」

 

 浮遊魔法で上空へ移動した俺はやる事を確認して地図を一回広げてコースを覚え、それをポケットに突っ込んでからクラウチングスタートの構えをする。

 

「よぉい、スタート!」

 

 自分で掛け声を叫んだと同時、俺は空を蹴って陸上と変わらない速度をたたき出しながらも駆け出した。

 最初から全力。しかも覚えたコースの通りに走りながら、スタート位置を覚えていなければどこでゴールなのか分からなくなるという状態で。

 心臓が辛くなるのが始まってすぐ――コースの半分辺り――で分かる。それでもまだマラソンの距離の六分の一も至ってない。

 韋駄天の急加速・急停止で心臓がやばくなった点を反省し、使うことを考慮して始めたこれだが、思いの外きつい。

 

 視界がすぐさま変化していくのは慣れているが、その変化が長く続くというのはあまりやらない。

 だから今やっているが……久し振りだからか曲がるタイミングや減速するタイミングなどが少しずれているのが分かる。

 

 くっ、そ。タイムは厳しい……か。

 

 一周回って心臓の鼓動がとても速くなってるのを知りながらも続ける中、俺は苦悶の表情を浮かべながらそんなことを考えた。

 

 

 フルマラソンの距離を全力で走ったタイムは六分四十秒弱。

 あまりの心臓の痛みに思わず叫びそうになるのを堪え、俺はのそのそと歩き回る。

 や、ばい……このまま倒れ、そうだ…。

 息も絶え絶えの状態でゆっくりのっそりと歩き続け、心臓の痛みがある程度引くまで待つ。

 魔力自体は余力があるが、これは最低限の魔力で行わないといけない。

 

 常に最悪のケースを実践する。それでこそ戦場で慌てずに落ち着いて対処できる。

 

 ある程度休んだので、まだ痛い心臓をもう無視する形で次のトレーニングをすることにした。

 

『いきなりきつすぎですよ。その上地上でフリーランニングをシャトルラン形式で行うなんて』

「う……っさい。たかが、十五メートルの間の建物の屋上を跳び回っているだけ、だろうが」

『あと二秒で四十四回です』

「っだ!」

 

 何とか間に合わせてすぐさま振り返り、同じ道を跳んでいく。

 

『五十回まであと六回です』

 

 ちょうど十五メートルの距離を見つけたので(高さ関係なし)、ナイトメアにカウント係をやってもらっている。

 

 四十五回目に間に合った俺は再び振り返って駆け出していく。

 

 

 

「…………」

 

 五十回が終わった俺は、ついに地面に寝転がった。

 呼吸が完全に上がり、もう何もする気が起きなくなる。心臓は破裂寸前まで追い込んでいた。

 こりゃ立ち上がれんぞ…と空を眺めながら思った俺はナイトメアに指示を出そうとして……口が開かない。

 体の中の水分をかなり消費したせいか、口の中もパサパサ。頭痛はしないが視界は霞む。

 

 これはさすがに追い込みすぎたな……やはり段々とやっていくべきだったか。

 これは人の事言えないなと考えていると、ナイトメアが魔力を全部解放してくれた。

 

 急速に引いていく痛み。霞んでいた視界もクリアになり、体が軽くなっていく。

 勢いをつけて体を起こした俺は、伸びをしてからナイトメアに礼を言った。

 

「ありがとな」

『いいえ。マスターの無茶は今に始まったことじゃありませんから』

「というか、人の気配を感じたからだろ?」

『そうともいえます』

 

 建物の中からこちらを見ている視線を倒れている間感じていたので、おそらくその人が近づいてくるのを察して解放したのだろう。

 完全に治ったので魔力を先程同様に抑えてもらった俺は、なんとなく会うのに気が引けたので(誰だかわからないが)その場を後にしようとして、声をかけられた。

 

「大智? 大丈夫?」

「ああ。そう言うお前はこんな朝早く起きて大丈夫なのか、フェイト」

「うん。書類に追われてると大体この時間帯だから」

 

 それより十分弱前にここでトレーニングを開始していたのに気付いていたのかどうか知らないが、たぶん俺が倒れていたのを見てだろうと考えながら、「これからお前達の後輩にあたる。よろしくフェイト執務官」と笑って今更の挨拶をする。

 

「君が言ってたことは本当だったんだね」

「あまり嘘はつかんさ」

「それもそうだね」

 

 もはやトレーニングできる雰囲気じゃないため、軽くジャンプしてから深呼吸して「建物の中に行くか」と提案する。

 

「……何やったら、倒れ込んだの?」

 

 その提案を一蹴する様に悲しそうな声で訊いてきた。

 心配しているのを理解した俺は、「本気のトレーニングで追い込んで倒れた」と正直に説明した。

 

「本気?」

「ああ。今までみたいに体を鍛えるトレーニングではなく、実践における速度運用や実践的なものを主としたトレーニングだ。久し振りにやってぶっ倒れた」

「どんなことやってたの?」

「最高速度維持でのフルマラソンと、フリーランニングでの十五メートルシャトルラン。いずれも使用魔力最低限で」

「!?」

 

 言ってることを理解したのか驚くフェイト。

 何か言われる前に、俺は言った。

 

「今のままじゃ相手に後れを取る可能性だってある。俺の力を封じられる可能性だってある。そのための対策としてやってるだけだ」

 

 そう言うと何か言いたげだったフェイトはそれを飲み込んだらしく、「スゴイよ大智は」と羨望を含めた口調で言った。

 

「何を言っている。似たようなことをお前にもやってもらうさ」

「え?」

「驚くなよ。言ったろ? 俺はお前達を強くするためにここに入ったって。今のトレーニングはお前専用の予定だ」

「……そうなの?」

「前世で俺がやってたものをグレードダウンさせたものだがな。これを普通にこなせないと、恐らく地力がつかない」

「…そんなに強いの?」

「言ったろ? 下手したら全滅するって」

 

 知らず知らずの内に俺達は歩きだす。

 朝だからか空気が澄んでいて気持ちがいい。とても静かなのも。

 

 建物へ向かっている間俺達は黙っていた。

 何故かと問われると恥ずかしかったのだろうと推測する。フェイトは俯いて何の反応も示さないし。

 建物の中に入ったら俺はどこで何してようかと思っていると、「あ、そういえば」と思い出したようにフェイトが声を上げた。

 

「どうした?」

「昨日大智帰ったでしょ? 途中で」

「そうだな。やる事も部屋もなかったし」

「急だったから準備できなかったけど、とりあえず同じ隊舎を使ってねってはやてが言ってたよ。悔しそうに」

「言い返されたからだろ、それは……了解。荷物持ってくるか」

「あ、分かってるとは思うけど、ちゃんとみんなに自己紹介してね。昨日は大変だったんだから。『あの長嶋大智』が管理局員に入ったことについて色々と」

「俺はそんなに有名人なのか」

「そりゃそうだよ。なんたって私達の命の恩人で、その上か、カッコいいし……」

「…カッコいいのか?」

 

 容姿はそれほどではないと思うのだが。

 そんなことを思っていると、「そんなことないよ!」と否定の声が。

 声がした方――フェイトの方へ顔を向けると、顔を赤くさせながらも根拠を言い出した。

 

「だっていつもクールだし」

「表情筋が死んでるからだな。最近は何とか息を吹き返しているが」

「何事もそつなくこなすし」

「そりゃできるから」

「戦ってる姿は素敵だし」

「そこを褒めるって大概だと思うが」

「もう! …とにかく大智はカッコいいんだよ。そこは信じて良い」

 

 信じるも何も怖がられているをフォローした結果なんじゃないかという結論に至った俺は何も言えない。

 結果会話は止まり、フェイトが出てきた建物の前に着いた。

 

「俺は荷物を取りに一旦戻る」

「部屋は私が案内するよ」

「分かった」

 

 こうして俺達は分かれた。

 

 

 

「――というわけで、知らん人のほうが少ないかもしれんけど、一昨日入局して昨日入隊した長嶋大智や。挨拶しや」

 

 分かれてすぐ荷物を持ってきた俺は再び転移してフェイトに部屋を案内してもらいそのまま過ごしていると、雄樹が俺を呼びに来た。

 部屋に入った雄樹の反応は、「本当に君はぶれないね」。

 俺が持ってきたのは下着と服とパソコンと充電器。ほかにはノートと鉛筆に本ぐらいだろうか。自宅のものを全部持ってきて入るべきところに入れただけ。

 かなり質素のはずなんだがなと思いながらパソコンの電源を切ってナイトメアをつけて部屋を出て、今ここの隊舎にいる全員の目の前にいる。なのはたちは横あるいは後ろだが。

 

 全員が興味津々といった感じで(中には睨みつけている視線や驚いてる視線を感じたが)見てくるので、俺は小さく息を吐いて自己紹介した。

 

「俺の名前は長嶋大智。年は後ろに並んでいる隊長達と同じです。かなり急に入りましたのでなじめるかどうか不安ですが、皆さんどうかよろしくお願いします」

「って、それだけ?」

 

 なのはが思わずといった感じでつぶやいたのを聞いたので、「何か聞きたいことがありましたら答えられる範囲で答えます」と続けると、バッとほぼ全員が一斉に手を挙げた。

 ……っていうかはやて達もかよ。

 面倒だなと思った俺は、「管理局に入りましたが、この課が解散すると同時に俺はやめますのでどうか心に留めておいてください」と付け加えたが、それでもおさまらず。

 とりあえずいの一番に聞きたいのはこれだろうと思った俺は、どうやって入ったのか言った。

 

「推薦書や勧誘の手紙を何度かいただいたのでそれをまとめて持参したうえで必要な書類を記入して持っていったその日に試験を受けさせていただきました。その後合格を言い渡され、少し話をして希望する課に入ってと言われ、ここに来ました。……ほかに何か聞きたい方は?」

 

 これを言えば大体のやつが手を下すだろう。そう高をくくっていたのだが、半分もおろしてない。

 なんだってこんなに質問があるんだよ…と思った俺は、とりあえず目についたプレシアさんを指名した。

 

「プレシアさん。何かございますか?」

「憶えていてくれたのね。ところで、配属先は?」

「まだ決まっていませんが、デバイス製作以外なら俺は問題ありません」

「あら、どうして?」

「デバイスは作ったことがないからです。武器や発明はしてますが、デバイス自体はもともとあったものを改良もなしにずっと使ってるので」

「そ、それ見せてくださいませんか!?」

 

 驚きの声を上げて割り込んできたのは黒メガネで茶髪の、一見すると地味な女子。昨日見た確か……

 

「シャーリーさんでしたか?」

「皆さんからそう呼ばれているのでそう呼んでかまいませんけど、昨日お会いしました?」

「忙しそうにしていたから覚えていないでしょうけど」

「そういえばいらっしゃったような気がします。それで、そのデバイスは!?」

「別に大丈夫ですが、インテリジェントデバイスですので扱いには気を付けてください……他には?」

 

 そう尋ねると、やたら元気な赤髪の少年がいたのでそいつにする。

 

「あの時の恨み、今ここで晴らしてやる長嶋!!」

 

 一瞬誰だか分らなかったが、雰囲気を思い出した俺は名前を告げてあざ笑う。

 

「勝負してもいいですが、勝てないと思いますよ? 今は基礎的なことを中心にしたほうがいいのではエリオ?」

「身長制限ぶっちぎって乗せたジェットコースターで寝てたお前を忘れてなんかいないぞ!」

「こ、こらエリオ!」

 

 咎めるようにフェイトは注意する。が、俺はそれを片手で制し「ま、いつでもいい。お前にその気があるのなら、訓練が終わった後でも前でもやってやる」と敬語を忘れ、不遜な態度でそういう。

 

「絶対だからな!」

 

 そういうとエリオはおとなしくなったので、俺は「ほかには?」と再度尋ねると、青髪の少女が「ハイっ!」ときれいに手を挙げたので指名する。

 指名されたその少女――そういや試験の仕事の時いたな――は、「大智さんはどうやって強くなったんですか?」と質問してきた。

 初めからチート性能だった俺にそれは何とも答えづらい質問だが、一時期身体能力を失った俺を思い出し、「努力と適度の休憩と自分が許容できる範囲での無謀を日々繰り返した結果だな」と答えてから、「あとは、今の自分の力をどう応用できるかを考え、練習するぐらいだな」と付け足す。

 

 それを聞いた少女はパァッと顔を明るくしてから「ありがとうございます!!」と礼を言ってくれた。

 

 どうやらほかにないようなので、「では以上で終わります。聞きたいことがありましたらどこかにいると思うので声をかけてください」と頭を下げて自己紹介を締めた。

 

 拍手が巻き起こったのを頭を上げて聞きながら、俺は静かに壇上から降りた。

 

 

 

 

 すこしして。

 

「勝負だ長嶋!」

「別に構わないが、高町教導官の許可は降りたのか?」

「ああ。だから」

「分かった。やろう」

 

 のんびりとしていたらエリオが勝負をしろと言ってきたので後ろの方にいるなのはに視線を送る。

 相手してと言われているような視線だったが、俺自身受ける気だったのでやる気はある。

 

 昨日使われていた練習場へ二人並んではいると、なのはが飛んできて俺達にルールを言った。

 

「二人とも互いに参ったというか私が危険だと判断したら終わるからね」

「はい!」

「ああ」

「それじゃ、二人とも用意はいい?」

 

 そう聞いてくるとエリオは槍を取り出して構えた。俺はというと、ナイトメアを装着したままバリアジャケットを展開せずに自然体のまま。

 

 それを見たエリオは眉をひそめた。

 

「いいのそのままで?」

「先に言っておく。あの時は悪かった。これが終わったら何か送ろう」

「じゃぁ本気でやってよ」

 

 ……本気か。

 言葉の意味を反芻した俺は、本気の殺意をエリオにぶつける。

 

「!!」

 

 殺気を受けたエリオはすぐさま距離を取る。槍を持つ手が震えているのが見える。

 そりゃそうだろうと思いながら、冷静に「これが本気(・・)だ、エリオ。このまま続けるか?」と勧告する。

 

 しかし、逆に闘志を滾らせて槍を構える姿を見ると、そんなのは必要ない事だと分かった。

 

 ふぅと息を吐いた俺は、「来い」と短く言った瞬間。

 

 エリオの足元に三角形の魔方陣が現れ、槍の先端近くから黄色の魔力を噴き出させてこちらに突っ込んできた。

 

「ハァァ!!」

 

 そのまま突っ込んでくるエリオ。俺まで半分近くになったので、逆に一歩で近づいて浮いた状態の彼のがら空きの腹部を殴る。

 突進の速度が腹部を殴った際の速度に負け、そのまま上乗せされて吹き飛び、壁へと激突する。

 それを見たなのはは「勝者! 長嶋大智!!」と宣言した。

 

 

 とりあえずそれ以降懐かれたと言ってもいいのだろうか。エリオは俺の真似をして強くなろうとしてるらしい。

 

 ……とりあえず俺の初期メニューをやらせておくか。

 

 大丈夫だろうかと若干不安がりながら、色々話した結果羨望の眼差しを向けてくるエリオにメニューを書いた紙を渡した。

 

 そんな夜の一幕。




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