世にも不思議な転生者 作:末吉
フォワード勢の特訓が始まった。
とはいっても実践に等しい訓練が主らしい。
らしい、というのは、俺は聞いただけで見ていないからで、見ていない理由は、様々なところに顔を出して便利屋みたいなことをやっているから。
デバイスのデータ解析から治療薬の開発、料理やら掃除やら操縦やらが大半で、残りを雄樹たち隊長の特訓の時間に割いている。
そう考えると俺って割と働いてるよなと思うだろうが、やる事がないと本当に暇で、呼び出されるまでは基本的に部屋でスカリエッティ博士とデータ交換をしたり、裕也達から報告を聞いたりするぐらい。
ちなみにだが、今回交渉して限定解除を任意で行えるようにしてもらった。俺にははなからついていないが、なのはたちにはついてるとのことだったので。
それを聞いた雄樹たちは驚いたが、以前の話を思い出したからか逆に気を引き締めていた。
そんな感じで過ごしていたある日。俺はデバイスルームへ来ていた。
「失礼する」
もはや敬語は宇宙のちりと化した。一応いえることには言えるが、全員が止めるのだからやめた。
俺の入室に気付いたアリシアが、笑顔で抱き着こうとしてきたので避けて中へ。
「……最近大智が冷たい」
「入る度に抱きつこうとしてくるからだろ」
「ところで、ここに何か用?」
「アインスさん。シャーリーにデバイスを見せに来たんです」
丁度休憩していたのか俺達の事を見ていたアインスさんが助け舟を出してくれたので、ありがたく乗っかって本題を述べる。
すると、「彼女ならなのはちゃんと一緒に居ると思うけど」とここにはいないと言われたので、俺はおとなしく部屋を出ることにした。
「分かりました。それでは探してみます」
「待ってよ大智! 私も一緒に……」
最後まで聞かずさっさと部屋を出た俺は、目を瞑って基地内の人の気配を感じ取り、なのはとシャーリーさんの気配を探す。
……食堂か。
見つけた俺は、そう言えば今日訓練ないのだろうかと思いつつ食堂へ向かった。
「――だったら――――」
「ああそれなら――――」
近づいてみたら何やら会議をしていた。データを見ながらという感じなので、おそらく何か作るのだろう。
これは会話に混ざれそうにないか…と思っていると、不意に顔を上げたなのはと目が合った。
「あれ、どうしたの大智君?」
若干恥ずかしさを覚えながら、「そう言うお前こそ訓練はいいのか?」と訊ね返す。
「うん。午前中で今日は切り上げたの。ちょっとシャーリーと話があって。そう言う大智君は?」
「俺もシャーリーさん関連だな。前に言っていたデバイスを見せようと思って」
「本当ですか!?」
ガタンといすを倒すほどの勢いで立ち上がるシャーリーさん。その食いつきようといったら、まさに自分の好きなジャンルを語る奴と同じ。
余程好きなんだなと思いながら「ああ」と言ってからナイトメアに確認する。
「大丈夫だよな」
『だ、大丈夫です! こ、怖くなんてありません!!』
「だそうだ」
「そ、それじゃ、なのはさん! スミマセンが今日はこれくらいでいいですか?」
「え、あ、うん」
「では長嶋さんデバイスルームでお待ちしております!!」
そう言うとダッシュで食堂を出るシャーリーさん。
彼女があそこまで変わる理由はどこにあるのだろうかと思いながら素直に向かおうとした俺は、やはりなのはに止められた。
「一緒に行っていい?」
「暇なら割り当てたトレーニングこなせ。多少きついだろうがオーバーワークにならない程度のきつさだ。誰かさんが二度と頑張り過ぎないように考えた」
「……やっぱりそうだったんだ。あのメニューを見て、実際にやってみて、これ以上本当に無理だと体が勝手に反応したから」
「なら成功とみて良いか」
「うん。でもさ、どうせなら大智君と一緒にやりたいかなって。だからさ、デバイスルームへ一緒に行っていい?」
頑なについてくるというので俺はため息をつき、「俺と同じ速度で移動できたらな」と同時に一歩踏み出してなのはの視界から消える。
『それはズルイかも!!』
食堂の方からそんな声が聞こえるようだが、その時にはデバイスルームの近くへ来ていた。
「覚悟を決めろよ」
『……分かってます』
とりあえず魔力を解放した状態(Bランク)で入る。
「邪魔します」
「また来てくれたんだね? やっぱり…」
とりあえずアリシアの言葉を無視して奥へ進むと、シャーリーさんが「こっちですこっち」と手招きしてきたのでそちらへ行く。
「こちらのテーブルの上にデバイスを置いてください」
先程とは打って変わって冷静。さすがに研究者の血が騒ぐのだろう。
言われた通りにナイトメアを置く。
すると彼女は顔をそのデバイに近づけて「腕輪型のインテリジェントデバイスですか……かなり珍しい部類ですね」と真剣な表情でつぶやく。
そもそもインテリジェントデバイス自体が少ないんじゃないかと思ったが言わず、俺は黙ったまま。
ジロジロとナイトメアの周りを動きながら見ていた彼女は、「今日預からせていただいて大丈夫ですか?」と訊いてきたので、頷く。
するとナイトメアが『置いてかないでください!』と懇願してきた。
……お前少しは覚悟を決めろよ。
どんだけ嫌なんだよと思った俺は、「どうせ敷地内から出ないから」とナイトメアに言って背を向ける。
『ひどいです! 外道です!! デバイスが大事じゃないんですか!?』
「メンテナンスしてもらえ」
『あ、意外と大事に思ってくれてるんですね』
なんか安心したので俺はそのまま離れ、部屋を出ようとした時、アリシアが「休憩貰ったから一緒に出られるよ!」と抱き着いてきたのでそのまま部屋を出ることに。
すると、息を切らせたのか呼吸を整えているなのはが目の前にいた。
「……」「あ、なのはちゃん。どうしたのそんなに急いで?」
俺は黙り、アリシアが訊ねる。それに答えようとなのはは顔を上げ……動きが固まった。
「……」「どうしたのなのはちゃん?」
動きが固まった理由に思い至り俺は沈黙を貫くが、理由を理解してないらしいアリシアは純粋に訊ねる。
それが、自分が今行っている行為が原因であることに気付かず。
「……アリシアちゃん?」
「どうしたの?」
なのはの怒気に本人は気付かず訊ね返したところ、彼女はいきなり引き剥がされた。
「な、何するのなのはちゃん!」
「なんで抱き着いてるの?」
「なんでって……スキンシップだよ?」
そう言って俺の方へ動くのが分かったので、俺はなのはの後ろへ瞬時に移動する。
空ぶったアリシアはそのまま地面に倒れ込み、なのはの後ろにいる俺を見つけて「なんで避けるの!?」と叫んできた。
「なんでって……しつこいから」
「え!?」
「いや、気付いてなかったのアリシアちゃん…?」
今更驚くアリシアにすかさずなのはは言うと、「だって大智からアプローチしてくれないんだもん!」と本人を前にして叫ぶ。
そういやあんまり俺の方から何をするってないなと今までを思い返しながら心の中でうなずいていると、なのはも確かに…と呟いていた。
というかここで痴話げんかやるのもどうかと思うんだがと思った俺は、面倒だったのでなのはとアリシアと一緒に屋上へ転移した。
一瞬で景色が屋上になったことに驚く二人。それを見ながら、「正直、今はアプローチをするしないの話じゃないから考えてなかった」と答える。
「じゃぁどういう話!?」
「なのはたちの生死の話。最悪世界が崩壊するおまけつきで」
「え!?」
「ど、どういう事なの!?」
「くわしいことはあまり。ただ、お前達が直面する敵の中で最大最強だという事だけしか言えない」
「偽神とかじゃないの?」
「そいつらも増えていくだろう。確実にな」
そう言うと急に二人は黙る。アリシアなんて今までの明るさがどこかへ行くほど。
たぶん二人とも察したのだろう。今回戦うことになる敵の正体を。
だから言いたくなかったんだがな…と思いながら、「悪いが当分の間この事については黙っておいてくれ。はやてやフェイト、それにフォワード勢にも」とくぎを刺す。
「どうして?」
「下手に士気を落とされたら死ぬ可能性が高くなる。それだけは避けたい」
「雄樹君はいいの?」
「どうせランスロットあたりから聞いているだろ。構いはせん」
「……うん。分かったよ」
「私も……そっか。しばらくは無理なんだ……これは『約束』を」
「アリシアちゃん!」
「ん?」
謝ったアリシアが何かつぶやいたのかなのはが叫び、自分で何を言ったのか理解したアリシアが口を慌てて塞いだので首を傾げる。
約束、か……おそらく女子の間で決まったものだろうな。
それ以上深くは考えることをせず、「という訳だ。終わるまでは何をする気でもないし、おそらく終わっても俺が行動するかどうかは怪しい」と締めると、「「そこは頑張って!」」と声を揃えて言われた。
それから多少地球内での話をしてたら二人とも呼び出されたようなので解散。
手持無沙汰になった俺はどうするかと考えていると、小さくて白い竜が空から俺の肩に止まった。
今度は竜か…大分懐かれるよな、本当。なんて思いながら俺の肩に止まっている竜の顎を撫でる。
「フリードー! どこー!!」
気持ちよさそうにしているのを見ながら撫でていると下から声が聞こえたので、飛び降りて誰か確認する。
そこにいたのはエリオの隣にいた女の子。確か以前竜の里の依頼でドラゴンのストレスを発散させに行った時に案内をしてくれた――
「キャロ・ル・ルシエだったな」
「あ、こんにちは! そして、お久し振りです長嶋さん!」
そう言って笑顔で挨拶するキャロ。フリードに反応した白い竜は、そのまま彼女の頭の上に乗った。
察するに相棒とかその類だろうとあたりをつけながら、「散歩か?」と質問する。
「はい」と肯定したので俺はそのまま別れようとすると、彼女はついてきた。
一瞬どうしようか考えたが別にいいかと思いそのまま歩いていると、「あの時は本当にありがとうございました」と隣を歩いているルシエが言った。
あの時も言われたのに礼をもう一度言う理由はあるのかと思いながら「仕事だからな」と同じ返事をする。
「私の力が足りないばかりに手伝っていただいて……」
「別に。嘆くなら努力して磨け」
「はい。分かってます……あの、長嶋さん」
「ん?」
何か聞きたいことがあるのか急に声のトーンを落として俺の名前を呼ぶので反応すると、何故か顔を赤くしたルシエが大声で質問してきた。
「高町教導官やテスタロッサ執務官、アリシアさんやシグナムさんと恋仲だというのは本当ですか!?」
「……」
とりあえず言いたいのは『シグナムは入ってない』という事なのだが、改めて突きつけられると俺自身首を傾げてしまう。
一体「恋仲」とはどういった状態の事を指すんだ、と。
いや、自分の中で『恋』や『愛』の認識はしている。彼女達に対してだとどこか恥ずかしさを覚えるのも事実。
だがそれが「恋仲」といわれるかと問われれば――自分の中では到底肯定できない。
「どうなんですか!?」
俺が悩んでいるとルシエが詰め寄る。が、俺はそれといった答えを考えられないので代わりに出所に関して質問してみた。
「そんな話どこから流れているんだ?」
「え? 管理局にいる人なら大体の人が聞いたことある噂ですよ? だってアリシアさんは公言してますし、休みの前日になると高町教導官やテスタロッサ執務官はどこか嬉しそうなところを目撃されていますし、八神課長がそのことについて色々言っていましたから」
「……シグナムについては?」
「長嶋さんの話をされるときどこか女っぽい雰囲気を醸し出すともっぱらの噂だそうです」
「……そうか」
シグナムに関しては絶対戦闘狂の血が騒いだ結果逆に女っぽくなったんだろうと推測する。偶にいるからな、そういう奴。
つぅか管理局全体で噂になってるってすごい影響力だなあいつらと他人事のように思いながら、とりあえず「そんな噂話より先に自分を鍛えろ」と逃げる。
それを聞いたルシエは痛いところを突かれたという顔をしながら「はい…」と小さい声でつぶやく。
……まだ引きずってるのか、こいつ。
あの時に起こったことを思い出した俺は、「あの時はどうすることも出来なかったし、
驚いた顔を見せたルシエは「そうですね」と呟いてから、俺に頼んできた。
「あの、もう一度見せていただきませんか?」
何を、というのは聞かない。俺がこいつに見せた中でアンコールを頼まれるのは一つしかないから。
「前回よりは低いぞ」と前置きした俺は、立ち止まって右手を前に伸ばす。
地面に現れるのは魔法陣。英数というより梵字に似た文字が書かれた円の。
俺は何を唱える訳でもなく、ただ「巨竜召喚」と呟く。
目の前に俺の足元にある魔法陣と同じ形で倍以上に大きいものが現れる。
俺の解放してある分の魔力がごそっと奪われるのが分かるが普通に立ったままでいると、藍色の鱗の羽が背中から生えている、全身藍色のコーディネートの男がその魔法陣から現れた。
魔方陣が消えたことを確認して腕を降ろすと、現れた男が俺を見るや「今度はどうした?」と質問してきた。
前回この魔法を使った時に一緒に居た少女が見たいと言ったからと答えると、俺の隣にいたルシエに視線を移す。
「ふむ……。確かにあの時の少女だ。少しは絆を深められたようだな」
「あ、ありがとうございます!!」
人間と立ち振る舞いは似ているが姿が全身藍色な上、翼まで生えている。
このドラゴン――神竜バハムートは、頭を下げているルシエを褒めた後、「話は知ってるな?」と俺に質問してくる。
俺が黙ってうなずくと、「気を引き締めろ。生半可な気持ちでは迎えうてんぞ」というや勝手に消えてしまった。
さすがだな…と思った俺は、気合を入れなおしているルシエに「頑張って成長しろ」とエールを送ることにした。
ご愛読ありがとうございます。