世にも不思議な転生者 作:末吉
フォワード勢の訓練が早めに終わり、なおかつ全員が基地内にいるある日の事。
俺はバリアジャケットを展開せずに宙を浮きながら、同じく宙を浮いているなのは・はやて・フェイト・雄樹・シグナム・ヴィータの六人に向かっていった。
「たった数日とはいえ俺が配った個別メニューをサボらずにやれたことは褒めよう。だが、この集団訓練はお前達の基礎能力を引き上げる全体メニューだ。簡単に言うなら、俺の身体能力と遜色ないところまで引き上げるつもりでいる」
「え!?」
「い、いきなりどういう事や!?」
驚くなのはとはやてに「時間がないから説明する気もない。今から始めるぞ」と言って封じ込めた俺は、この日のために考えた工程が書かれた紙を全員に配る。
それを詳しく読もうとしてる彼女達に対し「時間がないから流れだけ理解してくれ」と釘を刺してから「八剣抜刀」と魔法を発動させる。
「魔力解放ランクはBランク。使用魔法はランク内最強種。身体能力は全力を出す。これは、俺が神様達と超高速肉弾戦をするのと同等の状態だ」
全員の顔に緊張が走るのを見た俺は、「紙を見たから分かっただろ? 今から十五分は俺に全力でぶつかって来い。その間お前達が何度死にそうになろうが、その都度回復させるのでそのつもりで」と説明する。
それを聞いた瞬間、当たり前の様に雄樹以外は動揺する。
一から十まで説明する気のない俺は、浮いている刀を二本持って構える。
「戸惑うな迷うな困惑するな。お前達も薄々勘付いているだろ? 今回の敵は、神様達だということに」
『!?』
知っていた雄樹やなのはは驚かず、また最初に聞いていたはやてやフェイトは予想が当たっていた様だが、それでも動揺していた。
動きのない彼女達に対し、俺は補足した。
「とはいっても雷神たちやペルセウス・オーディン達じゃない。あいつらはあくまで俺達と交流する側だ。敵は神様の方でも恨みの強い方だな。詳しいことは教えられない」
そいつらと闘うんだ。まずはお前達が強くなってもらわないといけない。
そう言って向こう側のアクションを待つが、雄樹以外は俯いたまま。
唐突の事だから現実を受け止められないのだろうかと思いながらも、「それじゃ行くぞ」と言って俯いているなのはに近づいて左手で握っていた刀で切りつける。
対しなのはは反射的にデバイスで刀を防ぐ。
この速度で反応できたとは少しばかり成長したものだと思いながら振り抜いて吹き飛ばし、右手で雄樹の剣を防ぐ。
「気付かないと思ったか?」
「思わないよ! けれど、些か甘く見過ぎてるんじゃない?」
その言葉を皮切りにシグナムが矢を放ってきたので蹴り上げてずらし、雄樹の剣を弾き飛ばしてから「雷刀・白龍」と呟いて左で握っていた刀で円を描くように全身で一回転する。
そのすぐ後、シグナム・雄樹・はやて・ヴィータに頭上からの落雷が直撃した。
「はぁぁぁ!!」
フェイトがシグナム達に構わず突っ込んできたと思ったら、すぐに俺の顔面近くで鎌を振り下ろしていたので、右の刀の柄で彼女の腹部を殴る。
「ぐふっ」
ミシリ、と嫌な音が聞こえたがどうせ回復させるんだと思った俺はそのまま吹き飛んでいくフェイトの姿を見送り、後ろから感じる強烈な魔力の流れを察知して大きく避ける。
俺がいた場所を通り過ぎた桃色の光を見た俺は、発射された場所の方を見る。
すると、なのははそこにはすでにいなかった。
まるでスナイパーのようだなと思いつつ目を瞑ってその場に留まる。
音が聞こえる。動き続ける魔力を感じる。
何かを待っているのだろうかと思いながら右手の刀を「流刀・翠」と言いながら、流れるように横に振る。
ゆっくりと、それでいてよどみのない動作で刀を振る。
その動作の後から――正確には刀を振る軌跡上から――水が出現した。
その水は何をするわけでもなく漂っている……のではない。
俺は水平に持っている刀をそのまま下ろすと、出現した水は槍となって飛んだ。
「え!?」
なのはの驚く声が頭上から聞こえる。それを聞いた俺は終わったなと思いつつナイトメアに「全員に回復魔法」と言うと、勝手に全魔力を解放して『全体回復始めます』と言った。
なのはの悲鳴が上がったと同時、俺の魔法の発動も終了した。
それから十五分が経って。
空中で体育座りをしている俺以外の全員と、そんな彼女達を見てため息をつく俺の姿があった。
「……十五分で三十六回死にかけたな」
「正確に言わんでええ」
「しかもひとり頭」
「だから言わんでええいうとるやろ!!」
はやてからの元気なツッコミをスルーし、俺はぐるりと見渡して事実を述べた。
「これがお前達の実力だ。神様が本気になったら秒間で殺されるぐらいだな」
全力を出したら間違いなく一つの世界が終焉を迎える。その事を知っている俺は、しかし言わずに、「ま、現時点の話だ。そう気落ちするな」と励ます。
と言ってから、「そんじゃ、次の訓練行くぞ」と宣言する。
『え』
「紙に書いただろ。流れを読めと言ったはずだ。休憩二分で次は全力上空マラソンだ。全員位置につけ」
『ちょっと』
「異論は認めん。よーい、スタート!」
そう言って手を鳴らした瞬間、彼女達は全力で宙を駆け出した。
そこからしばらくして。
全員疲労困憊で立てなくなっている現状の中。一通りの訓練を終えてるので俺はその姿に感心する。
「良くついてこられたな。はっきり言って、途中でやめるというかと思った」
そんな辛辣な言葉を吐いたが、反応する気力がないらしく言葉は返ってこない。
まぁ無理もないかと思いながら座り込むと、俺の身体の疲労感が一気に来た。
「っ」
『大丈夫ですか?』
「……疲れた」
『そんなにハードだったんですか?』
「いつも以上に神経を使ったからだろうか」
細かいところまで見て気を配る必要が無意識に集中力を削り、疲れを生じさせた。そんな感じだろう。
人を見るのも大変だなと今更なことを感じながら座っていると、雄樹が口を開いた。
「……そこまで、気を遣う、のは……やっぱり」
「喋れるまで回復したのなら、あとはお前がこいつらを見てやれ」
「……え?」
俺は立ち上がって腕を伸ばし、首を左右に曲げてから「ナイトメア、セットアップ」と指示を出す。
『わっかりました!』
元気よく返事をし、バリアジャケットを展開してくれた。
着流しにガントレットにレギンスという格好で太刀を握った姿と言うのは、なんというか随分久し振りのように感じる。
「…どこ、行くんだい……?」
雄樹が質問してきたので、俺は簡潔に答えた。
「俺自身も鍛えなおしてくる。ちゃんと今日中には帰ってくる」
その言葉の瞬間、俺の周囲の空間は歪んだ。
「で、どうだったよ?」
「まぁ及第点だな。ギリギリ。良くも悪くも」
「なら期待できるんじゃね?」
「おそらくな」
目の前にいる親父とそんな会話をして、俺はぐるりと見渡す。
ペルセウス、孫悟空、トール、オーディン、スサノオといった戦神、武神と呼ばれる奴らが勢ぞろい。しかも目の色がマジ。
好戦的なのは今の俺にとっていいことだと思いつつ、太刀を肩に乗せながら「悪いな。
それに対し彼らは「別に」と一様に言ってから、構える。
御託はいいってことか……。そう思った俺は太刀を構え、魔力を全部解放する。
それに気付いた彼らはニヤリと笑い、次いで得物を出さずに全員で襲いかかってきた。
それが開始の合図。音を越えて襲い掛かってくる彼らに突撃するように、俺も飛び出した。
「おらぁ!」
手始めにペルセウスがハルパーで切りかかるので紙一重で避ける。
そのまま切り返してくるのを蹴飛ばして遠ざけたところ、眼前には如意棒の先が。
反射的に首を左に動かして避け、そのまま遠ざかろうとしたところにトールが拳で上から殴りかかってきた。
それを今度こそ全力で後退したら背後からバチバチと音がしたので障壁を展開。
しかし雷がそれを破りかけてきたのでゴロゴロと転がってその場を離れたところ、オーディンが杖から出した無数の光球――空を覆い尽くすほどの――を発射させる動作が目に入ったのですぐさま立ち上がった瞬間、ペルセウスの矢が俺の肩めがけて飛んできたので太刀で叩き切ったが、一斉に光球は飛んできた。
これは本気過ぎるだろと冷や汗をかきながら、俺は全力でその光球を切り伏せることにした。
が、その間を待つほど奴らは甘くない。
光球にかかりきりになっている状態で一斉に攻撃してきたので、ふざけるなと叫びたい気持ちを発散できず全部直撃した。
「……」
「お、起きたか」
目が覚めて地面に仰向けになっていることを認識した俺は、親父の顔を見てから先程までの訓練を思い返すように瞼を閉じてから訊ねた。
「どのくらい
「ざっと二時間ぐらい。今関わった奴ら母さんやミカエル、風神と言った女性陣に説教受けてる」
「?」
理解が出来ないのでなんとか体を起こして周囲を見渡すと、神様であろう奴らが正座して粛々と女性陣の説教を聞いていた。
俺が悪いというのになんであいつら説教受けているんだろうかとぼんやり感想を抱きながら見ていると、親父が頭を掻きながら「いきなりあれは誰がどう考えても無謀だって」と呟く。
「だが時間がない」
「お前奥の手を使わないし、魔法すら使えなかっただろ。最初からあんな大人数の神様相手取るなよ」
「奥の手を使わずに戦えなければだめだ。手札を全部ばらした際、相手に対策をされる」
「
「……それでも、俺はやらなければならない」
そう。いかに自分が持っている強さを高めることができないとしても、その強さでの戦闘スタイルの変化や制限状態での戦い方を確立させることはできる。そのためにこの乱戦をやる。
すこしでも相手側に情報を渡さないように。少しでも勝率を上げる様に。
出来る事だったらなんだってやると決意を固めていたところ、親父がため息をついた。
「まったく。お前がそう固くなってどうするの」
「かたくなってない」
「いいや固くなってるね。お前強張り過ぎ。もっとリラックスしようぜ? 相手が俺達側だったとしても、やる事なんて変わんないんだからよ」
あまりに軽く言うので一瞬呆けそうになったが、それもそうだと思った俺は息を吐いて深呼吸をする。
攻撃して来るなら迎え撃つ。たったそれだけ。
だいぶ体の調子が戻ってきたので立ち上がった俺は、逆に座り込んだ親父に言った。
「ありがとよ」
「良いってことよ。俺達は手伝えるけど、参加はできそうにないからよ」
「そうか」
やっぱりと思いながら準備体操を始める。
それに気付いた女性陣が視線を向けてきたので、俺は「もう大丈夫だ」と言ってから頼んだ。
「次は人数を絞ってくれ。この体操が終わってから始める」
そこから夜までぶっ通しで訓練をし……隊舎に戻ってきたら、完全に寝静まっていた。
ご愛読ありがとうございます。