世にも不思議な転生者   作:末吉

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お待たせしました。


128:憤り

 ファーストアラームの件が収束した次の日。

 慢心があったという事実が俺を驚かせたため、朝早くから基地を出て一人トレーニングをしていた。

 あれはあまりにも最悪だ。下手をすれば死んだというのに全力を出さなかったなんて。

 苛立たってくる気持ちを発散させるように全力で正拳突きを繰り出す。

 

 ドパァン! と空気を割るような音を響かせながらも俺は満足できずに逆の拳で正拳突きを行う。

 

 己のやるせなさに苛立ったまま正拳突きから流れる様にひじ打ち、回し蹴り、後ろ回し蹴りと続ける。

 そのどれもが全力で繰り出されているので衝撃波となって周囲を襲い、速度が凶器となって障害物を薙ぎ払う。

 

 シュッという小さな音で繰り出されるのにドパァァン! と少し時間を置いて響き渡る徒手空拳。その被害となるのは俺を囲んでいる木々たち。

 

 常に全力でありながら汗が飛び散っていくだけで息は切れない。それどころか行動が次第に簡略化されていく。

 

「やれやれ。朝から張り切りすぎじゃろ」

「らぁぁぁ!!」

「っと」

 

 目の前に現れたスサノオを全力で蹴り上げたが紙一重どころか余裕で後ろに回られたので、挙げた足をを全力で地面に振りおろ――

 

「いや、それは不味いじゃろ」

 

 ――そうとしたら俺の視線が地面を映したので反射的に両手を地面に突き出して逆立ちし、バック転をして距離をとる。

 

 警戒したまま睨んでいると、「己を戒めるのはいいが、環境破壊はやめてほしいものじゃの」とあたりを見渡しながら呟く。

 それにつられて見渡すと、周囲に木々は倒れたり粉々になっていた。まるで嵐か爆撃機が爆弾を落とした後のような感じ。

 随分やっていたんだなと思いながら体に痛みを感じていると、「多少は頑丈になったんじゃないか? 三時間もやってたかが痛覚が来るだけなのじゃから」と言われた。

 

 

 別な理由だろうと思っていた俺はそれを口にせず、痛みに歯をくいしばって耐えながら「で、準備はいいのか(・・・・・・・)?」と訊ねる。

 

「当たり前じゃろ。わしら神様じゃぞ? もうすでに誰を鍛えるかは決めておる」

「……そうか」

「じゃがお前だけは固定ではない。総当たり戦じゃ」

「だろうな」

「……もう少し驚いたらどうじゃ?」

「推測は立っていた。驚く必要性がない」

「……そんなに己が憎いか? あんな失態を起こした自分が」

「!!」

 

 痛みも忘れスサノオの胸ぐらを黙ってつかむ。

 ギリギリギリと痛みが伴っている中力を込めていると、「そこは人間らしくなりおって」とその体勢のまま俺の鳩尾に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 銃弾より速い蹴り。その上人間大の力を至近距離、しかも無防備のところに入れられた俺はそのまま背後の樹を数本ぶち抜いて意識を失った。

 

「今はお主だけじゃないんじゃから、激情に飲まれるでないぞ」

 

 瞼が落ちる前のスサノオのそんな言葉が耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 カチ、カチ、カチ……時計の針でも進んでいるかのような音が聞こえるために俺はゆっくりをと瞼を開ける。

 気絶してたんだよなと思いながら体を起こして周囲を見渡したところ……俺は絶句した。

 

 なぜなら、辺り一面が大小様々な時計で埋め尽くされていたからだ。

 

「ここは……」

 

 頭を回転させて状況を整理しようとしながら呟く。周囲には誰もいないので返事はないはずなのだが

 

「これまた珍しい。《主役》が自分から来るなんて。一体どうやって……って聞くまでもなかったねそう言えば」

「!?」

 

 紅茶の香りを漂わせながら誰かが俺の言葉に対しそう呟いた。驚いた俺は飛び起きて周囲を警戒しつつ見渡していると、「【狭間人】なら別に不思議でもないよね」と正面に笑いながら紅茶を持っている男がいた。

 反射的に距離をとろうとした俺だったが、気が付けば椅子に座っていた。その男も座り、優雅に紅茶を飲んでいる。

 

 見た目は平凡そうな男だ。顔立ちが童顔だからか年若く見られそうだが、こいつはとんでもない奴だ。そう直感した。

 

「まぁピリピリしないで。この空間に来たのは君で三人目だね。二人目との間に僕的には一千年ぐらい経っている気はするけど、まぁここにいるから時間の経過は分からないんだよね……あ、どうぞ。のみなよ」

 

 そう言ったと同時に俺の目の前に現れた紅茶。

 毒でも入っているのかと思いながら警戒していると、「毒なんて入ってないよ。それとも、コーヒーが良かった?」と訊いてきた。

 

「誰だお前?」

「まぁまずはのみなよ」

 

 しつこいくらいに薦めてくるので仕方なく飲む。すると、その男は自己紹介をした。

 

「僕に名前はないよ。強いて言うなら《運命の管理者》か《俯瞰者》かな」

 

 一口飲んだ俺はカップを置いて「なんだそれは?」と訊ねる。

 

「君に言っても分からないよ。ただ僕は、無数の選択肢の中の一つを君に選ばせる程度の者さ」

「……」

 

 サラリと言われた内容に驚きを隠せない俺は黙りつつ攻撃しようとして、再び紅茶を飲んでいた。

 

「!!」

 

 今度こそ本気で驚く。攻撃しようという考えが一瞬で消え、いつの間にか紅茶を飲んでいたことに。

 その様子を見ていたそいつは笑みを浮かべながら「ま、これで分かってくれた?」と言ってから嬉しそうに席を立った。

 

「まぁ本来なら君となんてすれ違いもいいところだったんだけど、何の因果かこうして君が来てしまったからね。迎えが聞こえるまでのんびりしてくれたまえ」

「おい」

「?」

 

 聞き捨てならなかったので俺が呼び止めると、そいつは首を傾げていたので聞いた。

 

「迎えが聞こえるまでとはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味さ。待ち人がいれば自然と戻れる。ここは分岐点の中なのだから」

「?」

「世の中分からないことだってあるってこと。ああ、一つ訂正があったね。さっき僕は『本来なら』と言ったけど、あれは間違い。ここに『本来』はなく、あるのは『可能性』と言う選択肢だけ。その可能性の中でたまたま君がここに来るということになったわけだ」

 

 長年人と会わないと説明も下手になってるな…と呟いたのを聞き流しながら整理していると、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

 それと同時に足から消えて行く俺の体。

 

 それを見たそいつは何かを思い出したのかごそごそと何かを探す動作を何もない空間で始め、どこからか何かを取り出したと思ったら俺に投げつけてきた。

 

「それは『その世界』に返すよ。といってもそれは、最初に来た人が置いて行ったんだけどね。ちゃんと頼まれた通りにしたから、君がよく知る男に渡しといて」

 

 何の話だと言いたかったがすでに俺の姿は消えかかっていたので、何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

「大智君!」

 

 悲痛な叫びが耳元で聞こえたので俺はすぐさま瞼を開けて体を起こす。

 俺が初めてここに来た時にシャマルさんの手伝いをした場所だなとすぐさま理解した俺は、運ばれたのかと納得しながら叫ばれた方を見る。

 すると、なのはが涙をためて俺を見ていた。隣にはフェイトが。

 

 なんだか心が痛むなと心配してくれた二人に対して思っていると、二人とも俺に抱きついてきた。

 

「お、おい」

「よかった、よかったよぉぉ!!」

「うん、うん!」

 

 …………二人とも、ここが一応カメラ付きだというのが分かっているのだろうか?

 

 

「半日も俺寝ていたのか」

「うん。スサノオさんが大智を気絶したまま連れて来たんだけど目を覚まさなくて」

「本当に心配したんだよ!」

「悪かったな」

 

 今は医務室から出て外へ向かって二人に挟まれて歩いている。これだけだと両手にはなだということになるが、実際には窓から飛び降りていこうとしたら捕まってこうなっているだけ。

 いささか心配性ではないだろうか。なんて思ったが、それがうれしい自分もいたので何も言わずに従っている。

 

「んで、他の奴らは?」

「えっとね、今日は休んで明日から次の段階へ行こうと思ったんだけど……」

「私のところに雷神さん、なのはのところにミカエルさん、雄樹君のところにランスロットさん、シグナムのところにペルセウスさん、はやてのところにオーディンさん、ヴィータのところにトールさんが来て特訓をぶっ通しでやってる。それだけだったらよかったんだけど、雷神さんがいつの間にかエリオを、ミカエルさんがスバルを、そしてボコボコにされたスサノオさんがティアを教えてたんだ」

「どおりで目まぐるしく動いてる奴らの方が多いわけだ。となるとルシエも……」

「? キャロは確か部屋で休んでいるはずだけど」

 

 事情を把握した俺が呟くとフェイトにそう言われたので、別にいいかと思いながらさっさと外に出ることにした。

 

 と、ここで気付いた。

 

「そう言えば俺、ナイトメアどこに置いたっけ?」

「部屋に置き去りにしたんじゃないの? スサノオさんそんなこと言ってたから」

「そうか…なら先に行っててくれ。ナイトメア取りに行ってから向かうから」

 

 そう言って一人駆けだそうとしたところ、同時に「ダメ」と言われた。

 動きを止めて戻した俺は「なぜだ?」と振り返って質問する。

 

「そうやっていつも一人で何かするでしょ、危ない事」

「私達を助けてくれるのはありがたいけど、大智が死にそうになるのは嫌だよ。私達」

「いや……たかが取りに戻るだけだぞ?」

「それでも!」

「お前はもう少し心配される身だという事を知れよ」

「そう……って、え?」

「ん?」

「竜一さん?」

「おいーっす」

 

 なのはが驚いて親父の名前を言うので、俺は振り返らずに「何か用か?」と訊ねる。

 

「ほれ」

『マスター! また私を置いていきましたね!! いくらなんでも一人で何とかしようとし過ぎですよ!!』

「……いや、今回置いて行ったのは単に一人で憂さ晴らしをしたかったからなんだが」

『関係ありません!』

 

 ……なんかナイトメアも人間っぽくなったなぁと半分以上の文句を聞き流していると、親父がいきなり「さ、行こうか」と言ってきた。

 それだけで半ば予想できていた俺は、ため息をついて流れに乗ることにした。

 

 

 みんなが訓練をしているという場所へ連行された俺達が最初に見たものは、荒い息を吐きながら寝転んでいる集団と、のんびりとお茶を楽しんでいる神様達だった。

 

「そりゃまぁそうなるよな」

「大丈夫、みんな!?」

 

 納得している俺と寝転んでいる人達に駆け寄るなのはとフェイト。

 その声を聴いたらしい神様達は朗らかだった空気が一変した。

 その空気を知っている俺は魔力を解放してからバリアジャケットを展開し、太刀の切っ先を神様達に向けて「さぁやろうか」と不敵に言った。

 

 




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