世にも不思議な転生者 作:末吉
俺と雄樹が倒れて数日経ったある日。
普通に空中をランニングしていると、なのはが何か用があるのか追いついてきた。
俺はなのはに視線を向けず「何の用だ」と訊ねた。
それに対しなのはは「今日はフォワード勢お休みにするって」と答えたので、危うく止めそうになった足をそのまま動かして走りつつ「またか」と呟いた。
酸素が薄いからか若干呼吸するのがつらい。息が上がっているのが自分で良く分かる。
そこまでの距離を走っていないんだがなと思いつつスタート地点に来た俺はもう一周走ろうとしたところ、なのはが目の前を遮ったのでたまらず足を止めた。
「なぜ止める」
「大智君、止めないといつまでもやってるでしょ? だからだよ」
「自分で決めたものをこなさないと後味が悪いんだ俺は」
「それでも! ……また倒れた時に一緒にいれないのは嫌だよ、
そう言って悲しそうにするなのは。
言っている意味に関して理解し、それゆえにどうしたものかと悩む。
これぐらいで俺が倒れることはない。数日前みたいに激務が襲わなかったら丸一週間不眠不休で働いても大丈夫だと自負している。
そんな事知っているであろうなのはは、それでもこうして立ち塞がっている。
その意味は理解できている。俺の事が好きで心配だからだという。
もちろん俺はなのはやフェイト達が傷つくのは嫌だ。だからこうして一緒に居る。
それで俺が一人で何かやってフェイト達が蚊帳の外だというのを考え――俺は両手をあげて言った。
「悪かった。当事者になれないのはやっぱりきついよな」
「分かってくれた?」
「ああ。今回は一緒に休もう」
そう言うと、なのはは露骨に嬉しがった。
「本当だよね!?」
「あまり嘘はつかないぞ」
「そう言って仕事の連絡入っても休むんだよね!?」
「……ああ」
その発想は今頭の中になかったな。
もし入ったら恐らく行っていただろうから勘というのは侮れないなと思いながら嬉しそうに宙を舞うなのはを見ていると、プライベート用の携帯電話が鳴ったので出る。
「はいもしもし」
『おー大智! 今日こっちに来るんだって? 生憎俺撮影あるから昼間は無理だけどよ、夜に会おうぜ!』
「おい」
いきなり早口で説明し、すぐさま切った元一。
しまいながらもどういう事だとなのはを見ると、なにやら苦笑した顔を浮かべていた。
「どういう事だ?」
「えっと……怒らない?」
「怒るも何も教えてくれんと」
そう言うとなのはは「えっとね…」と説明を始めた。
「二人が倒れた翌日にはやてちゃんが『みんなで地球へ行って今度こそ全員で休もう』って言ったからアリサちゃん達と連絡を取って都合の良い日にってなったら今日になったんだよ」
……なるほど。それじゃ俺は知らないわけだ。基本的に自分のやる事やって一日過ごすから。
ダメかな? と言いたそうな顔をするなのはに俺は笑い「いいさ。ありがとう」と礼を述べた。
「え、ううん! 大智君にはいつもお世話になっているし、少しばかりのお礼だよ!!」
「世話になっているのはどちらかというと俺の方だと思うがな」
「そうかもしれないけど……って、もうすぐ時間じゃん! 大智君!! 早く戻らないと!!」
そう言って慌てるなのはを見た俺は、右腕につけていた腕時計型の転移装置を起動させてすぐさま基地内に戻る。
「着いたぞ」
「って、あれ? 大智君どうやってここまで来たの?」
「いつぞやの転移装置の小型版」
簡単に説明しながら歩き出すと、「待ってよ!」と案の定なのはがついてきたので、そういや博士達どこに避難させようと今更思った。
「――という訳で少々避難してもらえるとありがたい」
『あー、それは確かにやばいね。ならイクスヴェリアちゃんにも言っておくよ』
「なるべくなら地球から離れてほしくないな。敵に見つかって操られでもしたら面倒だ」
『了解社長。ログハウスの方で過ごしてるよ』
『私の娘を探す機械を作りなさいスカリエッティ!』
『……という訳でね』
「ああ」
通話が終わった俺は仕事用の携帯電話をポケットに入れ、自分の部屋の中を見渡して持っていくものがないか確認する。
まぁ転移装置でいつでも戻って来れるから忘れても問題ないのだが、一々戻るのが面倒なのだ。それは誰もが当たり前の事だと思う。
にしても地球に戻るのか……久し振りでもないというこの感じが何とも言えないな。などと思いながら荷物をまとめているとノックの音が。
『大智君? もう準備終った?』
「もうすぐで終わる」
なのはの催促にそう答えた俺は言葉通りに手早く終わらせ、ドアを開けて待っていたなのはに「さぁ行くか」と言って集合場所へ向かった。
「うん!」
嬉しそうに横に並ぶなのは。その横顔を見て「俺は一人で行き来してるから久し振りって感じじゃないんだ」とうっかりこぼしてしまった。
「え、本当!?」
「ああ。ぶっちゃけ暇なときは地球に戻ってる」
「えー。それはずるいよ大智君……」
ショックを受けたようななのはに対し笑顔を浮かべた俺は、「ま、基本的に任せた営業状態を調べるついでなんだがな」と付け足す。
「…でも、アリサちゃん達とは会ってるんでしょ?」
「そりゃそうだろ。地球に戻って一回でも顔を見せなかったらその日の夕方の電話で説教を食らう」
「それは分かるかも。やっぱり心配だからね」
俺はそんなに心配させるような人間なのかと今までを思い返して心当たりがあり過ぎたのでその話題を黙って終わらすことにし、「走るか。はやてたちに怒られるし」と言って駆け出すことにした。
「遅いやん二人とも」
「すまない。ついさっき話を聞いてな」
「聞いてなかったっけ……て、大智その時いなかったね。そういえば」
「あの時は私達だけだったし、みんなに言った時大智フラッと居なかったんだよ」
「……あの時か」
丁度その時地球に戻って仕事の報告書に目を通していた。たまに見ないとどんな仕事をしていたのか把握出来ないからだ。
というか、その時普通にアリサ達と一緒に居たがそんな話題一切なかったぞ。
情報の隠蔽でサプライズ的な事をしたかったのだろうかと思いながら黙っていると、「ほなみんなええか?」とはやてが聞いてきたので返事を軽くする。
全員の返事が聞けて満足げなはやては、「さぁ行くで!」と言って俺達を促した。
……どれだけ行きたかったのだろうか。
で、地球の、鳴海市の山奥にあるログハウス(もう一軒別な方)に着いた俺達。正確に言うならその場に転移したのだが、そこら辺は別にいいだろう。
ともかく。ついたらアリサとすずかが出迎えてくれて、久し振りの再会に抱き合ったりして喜んでいたので、俺は黙ってその場から離れた。
――はずなんだが。
「はやてと一緒に居なくていいのか、雄樹。それとどうしてついてきたんだシグナム?」
何故か雄樹とシグナムが後ろについてきていた。
俺の問いに対し、二人はそれぞれ答えた。
「久し振りに一緒に居られるから邪魔したくなかったし、大智ならこれから裕也達と会うのかなと思って」
「私ははやてから『一人で行動するようなら見張っといて』と言われました」
監視って……おいおいおい。などと内心思いながら顔に出さず「そうか」と答えた俺は、携帯電話を取り出して電話してみる。
相手は力也。
『もしもし大智? 珍しいじゃないか君から掛けてくるなんて』
「なのはたちが今日戻ってくることは知ってたか?」
『まぁね。だから今日は会社休みになったんだよ。今からでも会いたいならそうだね……裕也の家へ行ってみたらどうだい? 生憎僕は講義を受けるので午後からだけどね』
「分かった。夕方位には元一も戻ってくるそうだ。どうせなら一緒に夕食にでもするか」
『君がそう誘うというのは新鮮だから乗るよ。今日は予定なにも入れてないからね』
「また午後に」
『また勝負しようじゃないか』
そう言って力也は電話を切った。
携帯電話をしまいながらついてきていることを感じた俺は、なんの合図もなく足に力を入れて地面を蹴り、塀に上ってから屋根、それから電柱のてっぺんまで飛び移る。
「ちょ、それずるいって!!」
下から聞こえる叫び声に対し俺は返事もせず、何回かその場でジャンプしてからその場から跳んだ。
果たして追いつけるだろうかと思いながら。
山から下りてすぐの電柱から宙を跳んで数分。
軽く息が上がってることを気にせず道路に着地した俺は周囲を確認してからインターフォンを押す。
「はーい……」
家から出てきた眠そうな裕也を見た俺は、とっさに「とりあえず顔洗ってこい」と言った。
「ああ…………」
まだ寝ぼけているのか俺の言葉に頷くとのそのそと家へ戻り……鍵を閉めたところで勢いよくあいつが開けた。
「って大智!? お前戻ってくるの早くね?」
「別にそうでもない。たかが数分前だ」
「あー悪い。ゆっくり寝てようかと思ったんだわ」
そう言いながら欠伸を漏らす。寝てないのか今まで寝ていたのかのどちらかだろうが、俺には関係ない。
体つきは高校の頃から変わっていない中肉中背だが、経験してきた数が同年代より若干抜きんでているせいかとんでもなく落ち着いた雰囲気を醸し出している。
こいつも何気にモテてたよなと思いながら「急に悪いな社長代行」とねぎらっておく。
「まったくだ。電話ぐらいしてくれたっていいだろ。高町さんのご両親たちの喫茶店へは行ってないんだろ?」
「まぁな。なのはたちが後輩連れて行くと考えると遭遇するのもどうかと思ってな」
「ふぅん……ちょっと待っててくれ。着替えてくる」
そういうと裕也は家に戻った。そのわずか数分後、息を切らした雄樹とシグナムが来た。
「意外と早かったな」
「……まぁ……どこへ行くかは、聞いてたからね」
「……しかし、雄樹も速くなった、ものだ…私が後を追うので手いっぱいだった」
「そりゃそうだろ。これでシグナムに追いつかれてたら雄樹の練習量を十倍に増やしてもまだ温いと言ってやる」
「え」
血の気が引いたらしい雄樹が顔を青くするが、そんなものは自業自得なので気にせず「さて、これから何をするか」と呟く。
「決まってなかったの?」
「お前達みたく戻ってなかったわけじゃないからな。行く場所なんてないに等しい」
「だったらなんで俺の家に来たし」
「あ、裕也。久し振り」
「おう雄樹……で? とくに行く場所ないのならなぜ俺を呼んだし」
着替えて戻ってきたらしい裕也が呆れた感じで言ってきた。
それに対し俺は「暇だったから」と答えてから「久し振りにキャッチボールでもするか?」と質問する。
「それだったら雄樹やシグナムさんどうするんだよ」
「あ、僕やってみたいかな。シグナムはどうする?」
「キャッチボールというのはボールを投げ合うものか? ならやってみたいものだ」
「だそうだ」
俺がそういうと裕也が「マジか」と苦笑しながら言ってからグローブとか持ってくるからと言って再び戻った。
残された俺達は固まったまま待つと、数分で戻って来て人数分のグローブとボールを持ってきた。
「んじゃ、公園行くか。久し振りだからお手柔らかにな」
「おう」
お読みくださりありがとうございます。