世にも不思議な転生者   作:末吉

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132:キャッチボールそして

「おーし。やるか大智ー!」

「こい」

 

 そう言ってミットを構えるとそこそこ離れた距離から思い切り足を上げてから地面につけ、思い切り腰を回して腕を振り抜く。

 

「そりゃ!」

 

 試合のピッチングでは絶対に言わないだろう叫び声をあげてボールを投げる裕也。その球速は150を超えている。

 マウンドの倍近くある距離にも拘らず球速を維持できることに驚きだろうが、慣れている俺にとっては驚くことではない。

 

 コントロールが良いお蔭か普通にミットに構えたところに来た。

 パシィィィン! と豪快に音を響かせるが、手は全く痛くない。

 届いたことを確認した俺は「衰えていないな」と言ってから投げ返す。

 

 スパァン!!

 

「ったく! 一々本気なんだからお前は!!」

「多少手を抜いてるぞ」

「マジか!」

 

 軽口を叩きあいながら、それでも投げるスピードは変わらない。

 そんな様子を見たシグナムが、ポツリと呟いたのが聞こえた。

 

「キャッチボールとはあのような速度で行うものなんですね」

「いや違うからね! あの二人が特殊なだけ!!」

 

 一緒にされたくないとツッコミを入れる雄樹。

 あいつらまだやってなかったのかと思いながら繰り返していると、「よっしゃ肩温まってきた!!」と叫ぶ裕也。

 

「本気でやるぞ!」

「さっさと来い」

「だっしゃぁぁ!!」

 

 直後俺のミットに響く轟音。あまりの音に鳥たちが羽ばたき飛び立っていった。

 

「どうだぁ!」

「結構いい球だ、な!!」

 

 お返しとばかりに俺も投げ返す。モーションはもはや常人の目には映らないほどに速い。

 

「ぐおっ!」

 

 裕也が思わず吹っ飛ぶ。それぐらいの速度で投げ込んだのだから当たり前なのだろうが、よもや音が遅れて聞こえてくるなんて予想もしなかった。

 

 起き上がる様子のない裕也に俺は駆け寄ると、「あーやっぱりとんでもねぇ」と空を仰ぎながら呟いていた。

 怪我が無い様なので安心しながら「大丈夫か?」と手を差し伸べる。

 

「ああ。……ったく。相変わらずとんでもない球投げやがって」

 

 俺の手を握って立ち上がった裕也はそんなことを呟く。

 

「お前も人の事言えんだろ」

「大半はお前のせいだがな」

 

 そう言って笑い合っていると、グローブをはめたまま雄樹がこっちへ来た。

 何か言われる前に、裕也が言った。

 

「そういや俺らがやってる間ずっと見てたよな、雄樹」

「え!? 大智に言われるならわかるけど裕也に言われた!? 一体どうしちゃったのさ!」

「いや……普通にちらっと見てただけだぜ」

「……なんてことだ。裕也に負けた……」

 

 がっくりと肩を落とす雄樹。そんな姿を見た俺は肩を叩いて「中学の頃から負けていたからな」と止めを刺しておく。

 

「おい! 相変わらずだな!!」

 

 苦笑しながら俺の事をとがめる裕也だが、その声が本気じゃないことをを感じ取っていたのでスルーする。

 

「大丈夫か?」

「…傷心させておいてよくいえるね」

「言葉にショックを受けたのはそっちだろ」

「せめてそこは謝罪の言葉が欲しいかなぁ……」

 

 何を言ってるんだと思ったのでとりあえず尻を蹴り上げてからシグナムを見て言う。

 

「やってやれよ」

「とんでもなくおしり痛いんだけど……まぁ今更だよね。はぁ」

 

 そう言ってからシグナムの方へ行き、一言二言喋ってから互いに距離をとった。

 

「ようやくやるのか」

「まぁ俺達のとんでもない奴見たからだよな」

「だろうな。久し振りにやったが、あの時より上がってたよな?」

「そういうお前こそ。思わずぶっ飛んだぞ」

 

 そんな風に立っているとシグナムがあらぬ方にボールを投げ、雄樹が取りに向かっていた。

 ちゃんと謝っているところを見ると悪い事だと自覚はあるらしい。

 やったことないと難しいかもな、意外と。そんなことを思いながら、二人のキャッチボール姿を俺達は立って眺めていた。

 

 

 

 

 

「あー久し振りにやって肩疲れた」

「俺は別に」

「意外と難しいですね、雄樹」

「まぁ、そうかな」

 

 裕也の家への帰り道。

 俺達は横並びに歩きながらキャッチボールの感想を言い合っていたのだが、不意に雄樹が質問してきた。

 

「そういえば裕也ってさ、結局どこに就職したの?」

「あれ、言ってなかったか?」

 

 今更な疑問だったようで裕也が首を傾げ、次いで俺の顔を見る。おそらく俺が言ったと思ったのだろう。

 他者の進路を一々いう事ないため首を振ると、苦笑して「なら力也と合流したら教えてやるよ」と答えた。

 

「もったいぶるね」

「別にもったいぶることないけどな。ただ、こういうのは焦らした方が驚きがあるだろ?」

「それを言ったら驚きも半減するって」

 

 そう言って雄樹が笑うので裕也も笑う。俺はというとボロボロになっていないグローブを宙に放り投げながら黙って歩いていた。

 

 別に横槍を入れても良かったがそんなことをする必要もなかった。久し振りの対面なのだから野暮というものだろうと察して。

 

 と、ここで思い出したかのように裕也が雄樹に聞いた。

 

「そういや雄樹。八神とどこまで行ったんだ?」

「ブッ!」

 

 吐き出すものがないというのにそんなことをする。一体何を焦っているのだろうか。

 顔を赤くしていく雄樹に、裕也はさりげなく追い打ちをかけていく。

 

「まぁ仕事で互いに忙しいだろうからまだ結婚して身を落ち着かせるなんてないんだろうけどよ、デートとか何回かしたんだろ? だったらキスの一回や二回したんじゃないかなーと思うんだが……そこら辺どうよ? ひょっとしてまだなのか?」

「なっ、あっ、そ、そそそそ、それは、その…………と、というかさ! 裕也にはそういう人とか居ないの!?」

 

 まるで追及を逃れる人の様に話題を振る。どうやら反応を見る限りまだのようだ。

 それに裕也も気付いたようでおとなしく乗った。

 

「俺は……まだだな。ぶっちゃけ仕事の方が忙しかったし」

「へ、へぇーそうなんだ。結構告白とかされたんじゃないの?」

「いんや。残念ながら。甲子園三連覇した時には完全に燃え尽きていたから次何すっかなーって考えて日々を暮してた。その間告白なんてされなかったぜ」

「へぇー意外だね。告白普通にされていたと思ったけど」

「ないない。力也みたいに毎日違う人が告白しに来たのと違って俺は平穏に暮らしてたさ」

「うっそだー」

 

 なんだかんだでいつもの調子を取りも出したようだな。

 雄樹の顔を見てそう思った俺は次いでシグナムへと視線を向ける。

 視線に気付いたらしい彼女は俺の方へ向いてから近づいて訊いてきた。

 

「なにか?」

「いや。楽しかったか?」

「ああ。あんな風にコミュニケーションが取れるのかと新しく発見した」

「そういやそんなの知らなかったんだな」

 

 デリカシーのない言葉にしまったと思ったが、彼女は笑って「ああそうだ」と答えた。

 

「私達はずっと戦っていたからな。はやてや長嶋達に出会わなければこんな風になれなかっただろう」

「そりゃ良かった」

「あ、そういやよ」

 

 不意に裕也が呟いた言葉に俺達は反射的に反応し、「どうした?」と質問する。

 

「昼、どうする?」

「あー」

「もうそんな時間だったのか」

「皆さんでお決めください」

 

 シグナムがそう言ったので、歩きながら男三人で決める。

 

「どこかいいところある?」

「あー……まぁあるっていえばあるかな。大智はあるのか?」

「……まぁ。もしくは自炊だな」

「また大智は……こういう時ぐらい外食しようよ」

「だよな。せっかくの同窓会なんだから」

「なら……あそこだけだな」

「じゃ、大智がお勧めする場所でいいな? つうか俺がお勧めする場所ってファミレスとかそんなところだぜ?」

「おい」

 

 いきなり決定するなよ。確認とらないとあそこ開いてるかどうか知らないんだぞ?

 そう言いたかったがすでに流れが収束してしまったのでため息をついた俺は「電話で確認してみるわ」といつぞやに行った喫茶店に電話した。

 

「もしもし」

『ああ大智君か。久しいね、どうしたんだい?』

「今から行きたいんだが、開いてるか?」

 

 そう訊ねると『開いてるよ。看板出してないからこの時間帯お客居ないのさ』とあっさり答える。

 

「なら四名頼む」

『四人ね。了解』

 

 そう言うと相手側が切れたので俺は携帯をしまって雄樹たちを見る。

 

「大丈夫だそうだ」

「じゃ、行くか。道案内よろしくな」

「うん」

「頼む」

「ちゃんとついて来いよ」

 

 そう言って俺は歩きだした。

 

 

 

「ここ………だ」

 

 足を止めた時に覚えのある気配が大量に店内にいるので間が空いてしまった。

 なんでいるのだろうかと首を傾げたくなるこの状況だが、雄樹と裕也がさっさと入ろうとしていたので諦めることにした。

 

 が、シグナムは俺の内心に気付いたようだ。

 先に入らなかった俺を見た彼女は不意に立ち止まって俺の方へ来た。

 

「どうして立ち止まっているのですか?」

 

 それに対し俺は「立ち止まるのはダメだよな」と返事をしてから中へ入ることにした。

 

 中に入ったら案の定はやてやフェイト達が料理を食べており、雄樹たちは奥の方で座っていた。

 やっぱりか……と思った俺はおとなしくカウンターに座る。その後に入ったシグナムははやてを見つけてそちらに向かった。

 

「いらっしゃい。そして久し振りだね」

「そうだな。昼飯はなんでもいい」

「そう? なら適当に作るよ」

 

 そう言ってさっさと奥へ入る。雄樹たちの注文を聞いたのかどうか知らないが、入った順で構わんだろうにと思いながら俺はそれを見ていた。

 しかし偶然というのはすごいな全く。そんなことを思いながら欠伸をする。

 

『でもなんでマスター混ざらないんですか?』

『つい癖で』

 

 いきなり念話でナイトメアが話しかけてきたので素で返す。その後にしまったと思ったが、後の祭り。

 

『……マスター』

 

 人間だったら絶対にジト目だろうなと思いながらため息をつくと、両隣りに座る気配がしたので顔を向けず質問した。

 

「何か用かすずか、アリサ」

「あっさりとどこか行っちゃうんだもん。心配だったよ」

「というかあんた、小学校の頃にフェイトと一緒に来たって本当なの?」

「ああ」

 

 こともなく頷く。するとアリサは「ふぅん」と言ってから持ってきた料理を食べ進め始めた。

 

「ここ、おいしいわよ。ありがと」

「別に。知ってる人は知ってる店だし」

「それはそうだけどね……そういえば大智君」

「ん?」

 

 相槌を打ったすずかが急に俺の名を呼んだので首を傾げると、「斉原君たちと何してたの?」と質問してきたので「キャッチボール」と短く答えた。

 

「久々に戻って来てキャッチボールって。もっと他になかったの?」

「特に変わったところなんてほとんどないだろ。正直暇をつぶす方法考えるのが面倒だった」

「大智君らしいね」「まったくあんたは……」

 

 呆れられている反応をスルーしていると、「はいおまちどう。『心安らぐステーキ』です」と目の前にブロック状のステーキが置かれた。

 香りをかぐと油っぽさより香辛料が強く、先程まで訳も分からず尖っていた心が落ち着いていく。

 まったくすごいものだと思いながらナイフとフォークで食べていると、「落ち着いたようで何より。他に何かあれば声を大にして呼んでね」と言って奥の方へ消えた。

 

 相変わらずうまいと思いながら一心不乱に食べていたおかげで、俺は先程まで自分で抱えていたものが消滅していた。なんだったのかさえ思い出せないほどに。




こちらはまぁ不定期ですがよろしくお願いします。今後とも。

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