世にも不思議な転生者 作:末吉
今年中にこの章終わらせる努力します。
スーパー銭湯でのキス騒動の翌日――つまり、地球から戻ってきた俺達。
恨めしそうな視線を受けながら帰ってきた俺だったが、のんびりしていられなかった。
「まさかホテルの護衛をするなんてな……」
『でもどうして外に来たんですか? 中でなのはさん達と一緒に居ればよかったんじゃないですか?」
「……どうにも、恥ずかしくてな」
『え?』
ホテルの屋上で風に当たりながらホテル周辺及び内部の人の動きを感知しつつナイトメアと喋っていると、ナイトメアがすっときょんな声を上げた。
俺の近くには誰もいない。下にヴィータとティアナがおり、残りのなのはたちが内部にいる。地下にシグナムとエリオ、キャロルにザフィーラが一緒に行動している。
なぜ俺が個人なのか。それは、俺が万能だというのもあるが、俺個人が願った結果である。
理由は単純。ここいらで俺自身をここから退場させようと考えているからである。
いや、自己犠牲の精神でもこれ以上任せられないという訳ではない。
あの日――なのはとキスをする辺りから、俺の『人間』になれていた部分が一気に塗りつぶされてしまったためである。
そのこと自体は別にいう必要もないので彼女達に言っていない。ただしこの任務の移動中に親父からメールで『とうとう来ちまったか…』と送られてきた。
いずれ来るだろうと分かっていたのだからそれほどショックではないようだが、その文面に悔しさが感じ取れた。
つまり俺は『長嶋大智』という『人間』ではなくなり、何の役割もない真っ新な『神』となってしまった。
どうして神になれたのか。その予想はできるが、それが正しいかどうかは分からない。
それに関しては掘り下げる意味など存在しないため今はしないが、説明を求められれば開示しようと考えてはいる。が、会うことがあるかどうかわからない。
神格を持たない神ほど厄介なことはない。故に無暗に力を振るうことを禁じられているのが習わし。
しかしそのような状況に等ここ数千年なかっただろうなと思いながらぼんやりとしていると、念話が届いた。
『あー大智? 外の様子はどう?』
『現在敵影なし。そちらはどうだ』
『こっちも特に異常なし』
『そうか』
そうこうしている内に建物内部で何かが始まったようだ。何やら内部の気配が慌ただしい。
一人一人が手に取るようにわかってしまうのは前世もそうだったなと思い返しながらため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
「さて」
念話は切ってある。もうすでに行動に移せる。あとはもう、どの程度まで俺の行動が許容されるかという点を残すのみ。
「今までありがとうな、ナイトメア」
『え?』
気の抜けた返事をするナイトメアを腕から外し、空中に投げて透明な箱で囲う。
『マスター!?』
「もう俺には必要ないんだお前は」
悲痛な叫びに聞こえたが俺は無視し、落ちてきた箱をキャッチしてポケットに入れる。
これでもう邪魔するものはない。後悔は出てくるだろうが、そんなものは今考えるべきではない。
確認できる敵対人物を把握した俺は、槍を手に出現させて握り、森の中に思いっきり投げた。
さぁやろうじゃないか、狂人ライカ。
*……視点
――最初に聞こえたのは耳がつんざくような爆撃音だった。
それを起こしたのが誰であるか知らないホテル内の他の機動六課のメンバーは、パニックで逃げまどい始める人たちをどうにか落ち着かせていると、外の警護をしていたヴィータから念話が届いた。
『おいみんな! 大丈夫か!?』
代表してはやてが『大丈夫や』と返事をすると、『こっちはさっきの衝撃か知らないが、ガジェットがわいてきた!』と報告してきたので「なんやて!?」と思わず声を上げる。
フェイト達も混乱する状況の中での出現に戸惑う。
そのままはやてが念話の続きをしようとした時、別な声が聞こえた。
『割り込み悪い。が、俺には時間がない。手短に言おう。さようなら』
たったそれだけ。一方的な言葉に怒鳴り返したが相手は一向に反応しなかった。
――その意味に気付いたのは、やはり彼を好きだったからだろうか。
「――どうして」
「なのはちゃん? それに……フェイトちゃんもどうしたん?」
俯く二人に訊ねるはやて。その二人に代わり、雄樹は答えた。
「大智はもう管理局からも、僕達の前からもいなくなるつもりだ」
その言葉に、はやては驚愕した。
「な、なんやて!?」
「……危なかった」
「なんだ今の」
「本当危なかったねぇ。マキナ様様だね」
「茶化すのはいい……ここを任せる」
「はいよ」
軽く返事をする女を一瞥したマキナは、興味がなくなったのかそのまま消えた。
それを見送った彼女は召喚陣を起動させている少女の近くにいる男に話しかけた。
「さて、さっきの質問に答えるとするとあれはこの位置がばれた証。あんなの直撃したらここにいる人間全員百回死んでもお釣りがくる威力だったんじゃないかねぇ」
「……なんだと?」
男は怪訝そうな顔を浮かべる。それを見た女は笑いながら彼――召喚魔法を発動させている少女の近くに現れた大智に「そうだろ?」と確かめる。
「ああ」
「!?」
ボロボロのマントを身に着けた男は驚いて振り向き迎撃態勢をとろうとしたところ、誰もいなかった。
「遅いぞ“旦那”」
「!!」
声がした方へ勢いよく振り向く。すると彼は木の上に立って彼らを見下ろしていた。
旦那と呼ばれた男が混乱している中、「久し振りじゃないかい大智」と獰猛な笑みで女は声をかける。
それに対し大智は鼻で笑い「わざわざ世界を跳んで戦いを望むか“狂人”。平和になった世界はやはり行き辛いか?」と挑発する。
「まぁねぇ。戦争やってた頃はよかったよ。どこへ行けども戦いがある。だけど最近じゃそんなものもなくなっちまった。そのせいで渇きが治らないんだよ……ってことで、早速はじめようじゃないか“人外”」
「その腕が鈍ってたら瞬殺してやる」
「そっちこそ平和な戦いでふぬけたことしか出来なかったら殺してやるよ」
その言葉を皮切りにまき散らされる殺気。傍観せざるを得ない男がそのまま立っていると、大智は地面に降り立って両手に刀とロングソードを構える。
それを見た狂人と呼ばれた少女は腰に身に着けていたホルスターから銃を、背中の鞘から大剣を抜いて同じく構える。
「「……」」
互いに集中して相手の出方を窺う。その隙に逃げられるのだろうが、男は召喚陣を起動させている少女への配慮か逃げ出さない。
勝負の始まりは大智の一言からだった。
「死ねライカ」
「死ぬのはあんたの方さ」
そう言葉を交わした直後。彼らの身体がぶれたかと思うと鍔迫り合いに持ち込まれており、そのすぐ後に衝撃波となって空気が吹き荒れる。
「ぐっ」
『おいヤバいって旦那! このままじゃ巻き込まれて俺達も死ぬぞ!!』
空気の衝撃波に耐えていると彼の頭の中から声が聞こえた。
それに対し何も言わずに踏ん張っていると、こんどは距離をとってから互いに蹴りで相殺し再び空気の猛威が吹き荒れる。
先程と同等の猛威に晒されながら耐えていると、「邪魔だよゼストたち! さっさと中断してここから逃げな!」と叫び声が聞こえた。
それと同時に鳴り響く剣戟と銃声。その一つ一つの動作は視えない代わりに風の刃をまき散らしていく。
ゼストと呼ばれた男はそれらを避けながらライカの言葉に従うことにし、いつの間にか気絶していた少女を抱えてこの場から駆け出す。
その場からいなくなったことをも確認せず、彼女達はさらに加速させていく。
「……な、なんだあいつらは」
倒れ込んだ少女を抱きかかえながら森の中を奔るゼストと呼ばれた男。
咄嗟につぶやいた彼の脳裏には、先程の瞬間が焼き付いていた。
目が追い付かないほどの速さと、鍔迫り合いに至った時の衝撃波。
そのどれもが体験したことがない領域。英雄と呼ばれた彼でも、流石に驚きを隠せなかった。
離れろと言われおとなしく離れたが、一体どこまで行けば安全圏なのだろうと足を止めて不意に考えたその時。
彼が目的の一つであった彼女の声を聞いたのは。
「こんにちは、ゼスト。元気そうね、娘は」
「なっ……メガーヌ!? 生きてたのか!」
驚きで声を上げるゼスト。それに対してメガーヌは娘と呼んだ少女を一瞥してから「私ってやっぱり死んだことになってるのかしら」とゼストに訊ねる。
あまりにも冷静なその質問に面食らう彼。しかしながらなんとか「いや、行方不明となってる」と返す。
「あなたはどうかしら? ある情報筋からだと死亡したという事だけど?」
「…………」
唐突な確信を持った言葉に彼は動揺する。その間にも大地は揺れ、爆撃音が響き渡る。
そのまま黙っていると、メガーヌはため息をついて「だんまりということは合ってるのね」と言い、続けた。
「まぁいいわ。ルーテシアが生きているのだもの。あなたに任せるわよ」
「なっ……君の娘だろ! どうしてだ!!」
「今会うべきではないから……というのもあるけど、自分で探してほしいのよ。かわいい子には旅をさせろって言葉の通りに」
「……」
その眼に母親としての愛情が込められているのを悟ったゼストは、深くため息をついて「変わったな君は」と呟く。
「確かに変わったかもしれないわ。けれど、それがダメなわけじゃない」
そういうとメガーヌは背を向けて歩き始める。ゼストはそれを止めない。
「ああ、そういえば」
「なんだ」
何かを思い出したのか立ち止まって呟いた声に反応すると、彼女はサラリと言った。
「復讐は考えてもむなしいだけよ」
「!」
「それじゃ、あなたの手で私のところへ来てくれることを祈るわ」
驚くゼストに彼女は振り返って微笑み、今度こそ森の中へ消えた。
陽炎のような消え方をした彼女の後を見つめていたゼストは、音が段々近づいてきてることに気付き、再び距離をとることにした。
「おーおー周りに配慮してるんだかしてないんだかわかんねぇ戦いだな、あいつら」
ズドン! バゴン!! と音が響き渡る光景を見ている八岐大蛇は腕を伸ばしてから息を吐き、「いいねぇまったく」と羨ましそうにつぶやく。
『大蛇。出番』
「ん? ……ああはいはい。行けと。了解了解」
もう少し見ていたかったなと後ろ髪引かれる思いで彼はその場から消え、次の瞬間にはなのはたちの目の前に現れた。
『転生者は行動できない』
どこからか声が響き渡る。一体どういう事だと彼らが訝しんでいると、大蛇は雄樹を指さして「グッナイ」と笑う。
効果はすぐさま現れた。
「あれ?」
「え?」
「雄樹? どうしたんや雄樹!!」
何の前触れもなく雄樹は倒れ込み、動く気配も言葉を発する気配もなくなった。それを見た彼女たち――特にはやては慌ててゆするが、動かない。
それを見た大蛇はマキナの能力も面倒だよなと思いながら「大丈夫大丈夫。死んではいないから。文字通り動かなくなっただけ」と言っておく。
彼女達はこちらを見て、彼は更に続けた。
「言っとくけど俺じゃないからな、やったの。まぁ放置しておけばそのうち復活するから」
「そんなこと言うて納得すると思うた……?」
「あなたが誰か知らないけど」
「敵ならここで捕まえます」
そう言ってバリアジャケットを展開しそれぞれ構える。
それを見た大蛇は爬虫類特有の先端が少し分かれた舌を出してから「いいねぇいいねぇ。こういうのもあるから楽しいんだよ」と言った瞬間。
彼女達と大蛇の間に上から人が降ってきた。
それはただ叩きつけられたというのではなく、吹き飛ばされたと言っても過言ではない勢いのつき方。
降ってきた人はすぐさまそのまま床をぶち抜いて下に落下し、その後も音が響き渡る。
四人があっけにとられていると、それを追うように人影がちらっと見えた。
その人物は影でしか三人は視えなかったが、大蛇だけは完全に見えていたため口笛を吹いてからバックステップで距離をとる。
それを見たフェイトは「待って!」と言ったが、大蛇は鼻で笑って「残念だが、俺はあんた達とは遊べないでな」と言い、景色に紛れるように姿を消した。
それに動けなかった彼女達は、次いで上から降ってきたガジェット達に対処するため武器を構えた。
「さすが大智だねぇ! 一向に衰えた様子がない!!」
「ふん。混ぜてまで強者を求めたお前はどうなんだ」
「さすがだねぇ。分かってたのかい」
先程大蛇達の目の前で落下し、現在地下の駐車場で鍔迫り合いから互いに距離をとってのにらみ合いに発展した大智とライカ。
淡々と事実を述べながら右手に持ったロングソードの剣先を向ける大智に対し、この状況が心底楽しくてたまらないのか大剣を舐めるライカ。
現在の駐車場の有様は悲惨の一言に尽きる。叩き落されて物の数秒で止められていた車はすべて壊れ、駐車場の柱は折れてはいないがボロボロ。後何度もしないうちに壊れるのは目に見えている。
だが、それでも彼らは場所を変えようとしない。
睨み合いながら距離を、思考を、隙を盗もうとしている。故に場所などの些細なものなどこの二人には興味がない。
じりじりと動きながら、ライカは言った。
「そういえばさっきあんたが大事にしてる奴らがいたねぇ」
「そんな暇があるのか」
その言葉を皮切りに動き出した大智。それを見たライカは持っていた銃を右に向けて発砲するが、大智は後ろから姿を現し刀とロングソードで背中を切りつける。
「ぐぅ!」
切られたライカは前のめるが踏ん張り、大剣で後ろをなぐが消える。
手ごたえがないのが分かり切っていたのかライカはそのまま振り回し、一回転してからその場から消える。
続いて響き渡る剣戟と銃声。火花や銃弾の穴がまき散らされているのを視覚出来るのは置き去りにされた音と同時。
ライカの方がボロボロになりつつある中、一向に無傷の大智は高速で攻撃をしながら「よく持ったな」と呟く。
「ふん。嫌味かいそれは」
「素直な感想だ。昔だったら半分で終わっただろ」
「ふっ。まさか覚えてるとは、ね!!」
「もう終わり、だな」
「はっ。そんなこと言ったって終わらせな……!!」
大智の宣言を覆そうと攻撃を繰り出そうとかまえたライカは、瞬間思いっきり距離をとった。
が。
「さらばだ”狂人”。お前に構っている暇はない……穿て
「だぁぁっぁぁ!!」
距離など関係などないように大智は光り輝く槍を投げる。
それを受けたライカは大剣で防ぐが、次第に大剣に罅が入る。
それをみていた大智はもう興味がなくなったのかその場から消え失せており、残ったライカは槍を防ぎながら叫んだ。
「最期の最後まで大智らしいねぇ全く! けど気をつけな、うちらのボスはもう……!!」
最後まで言わず、彼女は槍に飲み込まれた。
お読みいただきありがとうございます。