世にも不思議な転生者   作:末吉

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136:さよならと加速

「ははっ。いいねぇいいねぇ! あっという間に終わりに近づいちまったぜ!!」

 

 大蛇は空で現状を眺めながら嗤う。

 眼下に広がるのはガジェットが爆発していく光景。ホテル自体は崩壊しかけており、次何かあったら崩落するのは間違いないだろう。

 

 誰がその惨状を作っているのか知っている大蛇は一通り笑ってから、ある人物を見かけたのでそこへ降りることにした。

 

「よぉ旦那。彼女の娘抱えてここから逃げようってのかい」

「……お前」

 

 ゼストは目の前に現れた大蛇を見て歯噛みする。この力が支配する現場から彼女を連れて一刻も早く脱出したい気持ちが裏切り行為に当たるのだろうと予想して。

 

 しかし大蛇はそんなことを考えている彼に「あーいや。別に逃げるなって言ってる訳じゃねぇんだ」と言い出したので混乱する。

 

「別にお前さんが今ここでいなくなったって俺達が困るわけじゃないし、そもそもうちのトップはそういう事に興味ない。だから別に裏切り者だと言って殺すことはない」

「……だったらなぜ引き止める」

「ん? いや、このままいなくなられると教えたいものも教えられなくなるからだよ」

「何?」

 

 怪訝な表情を浮かべたゼストを見て、大蛇は笑いながら「ほら、復讐相手の事」と言った。

 

「今この場にいる娘の親と同じチームだったあんたの、さ」

「!!」

 

 驚くゼストに大蛇は「驚くことじゃねぇよ。俺達神様だぜ? 何でも知ってるに決まってるだろ」と言ってから「まぁそれも正史の話で、この話は知らんがな」と付け足す。

 

「どうする? 知りたきゃ教えるぜ?」

「そうだな……」

 

 言われてゼストは熟考する。

 

『どうすんだよ旦那』

『……』

 

 彼の頭の中に響く子供の声。それを聞き、なおかつ黙っていると大蛇が「まぁするもしないのそっちの自由。約束に関してはちゃんとするのが神様だからな」と返事を待たずに言い出す。

 

「あんたの復讐相手はジェイル・スカリエッティという餌を出したレジアス中将辺り……というのもあるがもっと根深いところを答えるならば管理局を造り、なおかつ未だに君臨している三人」

 

 唐突の言葉にゼストは驚き大蛇を見る。彼は、何ともないと言わんばかりに続ける。

 

「まぁぶっちゃけるとその三人はうちのボスにこんなことが始まる前に殺されているんだけど。いやー脳だけで生きていると言えるのか甚だ疑問だが、そこまで生きたいのかね」

「……殺した? あの奴らをか」

「別にどうってことないだろ? 神様(俺達)なんてそんなものだ。この世界に住む奴らなんて本気出せば一人を除いて塵芥にできる」

 

 そう言ってニヤリと笑う大蛇を見たゼストは、冗談でないことに気付く。

 今更ながらに冷や汗を流していると、「まぁこっから先は好きにすればいい。もう縛られることはない」と大蛇は背を向けながら言った。

 

「……どういうことだ」

「正史なんてクソくらえ。この世界はもはやどう向かうか予想が出来ない。だったら、あんたが復讐を成し遂げて死ぬなんて惨めな終わり方しなくたっていい」

 

 そんなのは個人の自由だから俺は特に何も言わねぇよ。そういうと大蛇はフラフラと歩きだし、すぐさま姿を消す。

 残されたゼストと彼が抱きかかえているルーテシアは、その場に留まった。

 

 暴力という猛威がふりまかれている範囲内で。

 

 

 

 

「……まさかこのために『とっておいた』なんて」

「別に。お前でも大蛇でもどちらでもよかった。ただ近くにいて、危害を加えるのが分かったから相手にしただけだ」

 

 気だるげな少女は持っている本を閉じて放り投げ、代わりに出した鎌で攻撃しながら相手――大智に話しかけ、大智は全身から『何か』を放出しながらその攻撃を捌きつつ返事をする。

 

 二人は移動しながら攻撃をしており、時折通り過ぎた際のガジェットの破損が唐突に見えるので、キャロ達は驚くのだが全く気にしていない。

 

 そうして二人の勝負は続いていた。

 

「……棒に振る気、だね」

「棒に振るわけじゃない。これが俺の終着点であり、『答え』となる」

「……でも、彼女には勝てない」

「……」

 

 一体何を言っているのか分からない顔をしながら大智はいつの間にか自身の背中に浮かせている無数の刀から一振りを手に取り彼女の鎌を受け止める。

 

「神刀ノ壱・家具土」

「っ」

 

 受け止めた刀が大智のつぶやきとともに焔を纏ったのを見てマキナはおとなしく飛び退く。直感で危険だと判断して。

 距離をとった少女――マキナだったが、大智はその刀を腰の方に回しそのまま居合い切りと同じ要領でその刀を振り抜く。

 その結果焔は命を吹き込まれたかのように伸び、距離をとったマキナの場所まで届いた。

 

 反射的に鎌で防ぐ。だが質量を、意思を持った焔はその鎌を避ける。

 

「!?」

 

 予想に反した出来事に反応が遅れたが、マキナは神壁でそれを防ぐ。

 その間に大智は詰め寄り、もう一振りの刀を大きく振りかぶって「神刀ノ弐・八大竜王」と呟いていた。

 

「細やかなる雨よ、我が敵を貫きたまえ」

「がうっ!!」

 

 回避行動が間に合わなかったマキナだったが、それも神壁で防ぐ。しかし、横薙ぎにされた刀の軌跡から現れた水は通り抜け、腕と腹部を貫く。

 片膝をつき、血が流れているのを確認した彼女は神壁があるのにどうして攻撃が通じたのか理解できなかったがこれだけは確信を持ってしまった。

 

 私はここで死ぬ。

 

 本来なら彼女自身この話に介入する気はなかった。最初から外れた世界を修正するのが面倒だったというのもあるが、見ているだけにとどめておこうと考えていた。

 

 そこから現在に至るまでのお話はまた別なモノになるため割愛するが、ともかく彼女はこの生涯が閉じるのを確信して目を瞑った。

 

 だが。

 

「……?」

 

 その瞬間が一向に訪れないため彼女は首を傾げる。

 それを見てからかどうかは知らないが、彼女の耳に大智のこんな言葉が聞こえた。

 

「……やめておく。これ以上は無駄な戦いだ」

 

 嘆息交じりの終戦宣言。

 それを聞いて目を開けたマキナは、「どういうつもり?」と質問した。

 

「もうガジェットの存在は消えた。偽神が現れたようだがそれも消滅。建物の損害はとてつもないが、誰も欠けることはなかったようだ……だから、終わりだ」

「そう」

 

 納得した様子を見せたマキナを見た大智は、背後に浮かせた刀を消してから「なぁ大蛇。最後に勝負しようぜ」と空に向けて話し掛ける。

 

「良いのかよ? もう(・・)

「後戻りはできん」

 

 姿が見えないのにそういうやり取りをした直後。

 

「いいぜぇ! 本気出してかかって来いよぉ!!」

 

 地面から出てきた槍みたいなものが大智の顎を突き刺した。

 

 ――ように見えた。

 

「当たらん」

 

 その直前に槍自体を根元から折っていたようで、片手で弄んでいた。

 

「牽制のつもりか。この程度で」

「いや思っちゃいねぇよ全く」

 

 そう言いながら森の中から出てきた大蛇。

 好戦的な目で大智を見ながら構え、「さぁ時間いっぱいまで楽しませろよ!!」と挑発しつつ突っ込む。

 

 一歩で肉薄した大蛇はさらに一歩踏み込み、ジャンプして背後をとろうとするが、後ろに目があるのか考えが読まれていたのか大智は振り返りからの左回し蹴りを繰り出す。

 それを空中に留まって回避した大蛇は続く右上段蹴り…と見せかけてのひじ打ちに対し踵落としで腕を狙う。

 

 が、大智はそれすらもブラフに使い踵落としが当たる寸前で肘を戻し、その勢いで腰まで回した掌底を当てる。

 

「ぶっ飛べ!」

「ふっ!」

 

 腹部に直撃するはずの攻撃を大蛇は咄嗟の判断で左腕で受け止めるが吹き飛ばされる。

 左腕が盾となり、からだ全体の直接的ダメージには至らなかった。と自己判断しながらも、木に叩きつけられた衝撃で肺の空気を吐き出す。

 

 それからノロノロと起き上がり、左腕が使い物にならなくなったのを理解した大蛇はその腕を自分で切り飛ばし力を込めてもう一度生やした。

 

「ってててて……まぁ楽しいからいいけどよ」

 

 嬉しそうに呟いた彼は左腕を自分で潰し「さぁこっからだ!!」と叫ぶと同時に両手を合わせる。

 

「させるか」

「っと、やっぱ近くに居やがった、か!」

 

 突如として攻撃してきたのをすんでのところで避ける。避けながら、彼は指を鳴らす。

 

 瞬間、大智の動きが固まった。

 

「へっ。マキナの拘束は解けても俺のは解けないだろ?」

 

 そう言いながら両手を再び合わせる大蛇。その表情には笑みがこぼれている。

 対し大智はいつもと変わらない無表情。ただし口角が少し上がっていた。

 

「試してみるか?」

「あ?」

 

 怪訝そうな顔をする大蛇に対し、大智はただ目を瞑って「我縛られず」と呟く。と、同時に肉薄する。

 

「ハァ!?」

「食らえ!」

 

 驚きに染まった大蛇に対し大智は遠慮なく攻撃を加える。

 

 拳の連打から蹴り技で宙に浮かせ、そこからプロレス技で落とし、反撃される前に雷を落として焦がす。

 だがその程度じゃなんらダメージを与えられないことを大智は知っていたので追撃をしようと構えたところ、体の芯が揺さぶられた。

 

「!!?」

 

 思わず膝をつき、心臓の部分に手を当てる。

 段々と冷静になり、たどり着いた結論に息を吐いた。

 

もう時間かよ(・・・・・・)

「そのようだ」

 

 立ち上がっていた大蛇を見ずに返事をする。その声色にはどことなく切なさを含ませていた。

 

「……なのは達に会ったら」

「あ?」

「楽しかった。ありがとう……そう伝えてくれ」

「……ふん。神の名に連なる者として、見届けたものとして、その約束は果たしてやる。あと、代表して言わせてくれ……悪かった(・・・・)

「いや、別にいいさ。このおかげでこうして、ここに……ぐぅぅぅ!」

 

 倒れ伏し、胸をいきなり抑える大智を見下ろしてから大蛇は背を向け目を閉じて歩きながら呟いた。

 

「――本当、すまねぇ。まだ続くのに、よ」

 

 そう言いながら歩く大蛇の後姿は、どことなく――いや確実に寂しそうだった。

 

 

 

 

「……ふむ。こうなってしまったか」

 

 何かを感じたのか。仮面をつけた理事長は自身の部屋の椅子に座りながらそう呟く。

 

「――久し振り(・・・・)。そう言えばいいのかね」

ようやく(・・・・)見つけた(・・・・)

 

 

 ――理事長の目の前にいきなり現れた少女は、そう言って笑った。




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