世にも不思議な転生者   作:末吉

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珍しく二回更新します。


137:彼が消えた後

「……久し振り」

「そうだな。わざわざ見つけるとは、やはり私を殺したいか」

「……うん」

 

 言葉にすれば簡単なやり取りの中、二人の間では何かしらが動いていた。

 

 それは空気だったり、目に見えない力だったり。ともかく二人の間では攻防が喋りながらも起こっていた。

 

「……死んで?」

「悪いが、私が死ぬことは今のところない」

 

 そう言った瞬間、理事長の首が吹き飛んだ……かのように見えた。

 

「な?」

「……」

 

 何も変わっていないその姿に少女はほんの少し首を傾げてからもう一度試す。

 今度は四肢がちぎれ、首が飛んだように見えたにもかかわらず先程から対面している格好、姿勢でそこにいた。

 

 少女は今度こそ首を傾げる。こんなおかしなことが起こる理由に心当たりがなくて。

 

「当然の帰結だと思って今日はおとなしく引いてくれたまえ。どうせ様子見のつもりだろ?」

「……殺す気」

 

 そう言って連撃を入れるが、理事長の姿は陽炎の如く揺れるだけ。

 これ以上やっても無駄だと悟った少女は背を向け「……必ず殺す」と怒気を孕ませた声を残して消えた。

 

「……やれやれ。時間の問題だが――」

 

 理事長は切り替えたのか入口に背を向け、息を吐いてから言った。

 

「――もう救済はできんぞ、長嶋。いかなる志願があろうとも、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もない空間。空間を認識できているというのに物も距離感も、音も、色も、匂いもないという中。

 俺はどこにつながっているのか分からない手枷と足枷に拘束されている。

 時間の概念がないだろうこの空間に気が付いたら繋がれていたので、あれからすぐさま繋がれたのだろう。

 

 どうせ誰も来ない場所だ。何をしたところで変わらないだろうに。

 

 まぁ仕方がない。そう割り切った俺は、静かに瞼を閉じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

*……視点

 

「………」

 

 重苦しい空気が機動六課の基地にある食堂を支配する。

 誰も彼も口を開かず、ただうつむいているだけだった。

 

 

 現在ホテルの事後処理が終わり、帰投した彼女達はすぐさま食堂に集まり、ある報告をした。

 

 それはもちろん――長嶋大智の失踪である。

 

 正確に言うなら彼は失踪した訳ではないのだが、そのような事情彼女達が想像できるわけもなく、魔力反応がある時からプツリと切れたので終わってからその世界内を探していた。その結果を総合的に判断した結論を失踪と位置づけたのだ。

 

 というわけで、全員意気消沈している。

 

 そんな時だった。

 

『うわぁぁぁん、マスターァァ!』

 

 と雄樹のポケットの中から彼女達にとって聞き慣れた叫び声が頭の中に響いた。

 雄樹は慌ててポケットから取り出すと、やはりナイトメアだった。

 

『マスターのバカァァァ!!』

「ナイトメアも知らないの?」

『……って、あれ? なんで雄樹さん? あれあれ? 私マスターのポケットに入ってたはずなんですけど』

 

 そんな声を聴き、意気消沈していた空気は霧散したが、それでも謎が残ったため多少なりとも元気になった。

 

 口火を切ったのはやはりというか、はやてだった。

 

「さて。みんなも落ち込んでいたけどここらで仕舞いや。今からはここからの事について話そう」

『っていうかマスターは!? どこ行ったんですか!?』

「うちらも分からんのや」

『え』

 

 あっけからんと言われ二の句が継げなくなる。

 切り替えの早さがよくなったはやてはナイトメアの言葉を無視し、「ほな、話そうか」と切り出した。

 

「とはいってもうちらには大智がどこへ行ったのか探すことなど出来へん。大智の能力はその気になればうちらの目を欺けてしまうからな」

「それは分かってるけど! 大智君は私達に『さようなら』って言ったんだよ!! あの時と同じようにいなくなっちゃうのは……!」

「なのはちゃん。少しは落ち着いてな。うちらにはって言うただけや」

「え?」

 

 噛みつくなのはに対しはやてはそういうと周囲をぐるりと見渡してから言った。

 

「うちらより大智の場所を知ってるっていうたら、神様ぐらいしかおらんやろ?」

『!!』

 

 その言葉に全員がはやての方を見る。

 その驚き様を見て満足した彼女は言葉を続けようとしたところ――遮るように声が響いた。

 

「残念だが、今回ばかりは教える訳にいかないんだよ」

 

 全員声がした方へ向く。

 

 そこにいたのは、傷だらけの男――大蛇だった。

 食堂入口の壁に寄りかかっていた彼は壁から離れてから一歩で彼女達の中心へたどり着く。

 

 驚かれているのを無視し、彼は自己紹介した。

 

「俺の名前は八岐大蛇。今回敵役を途中までやっていた神様だ」

『!!』

 

 全員が思い思いに警戒する。が、雄樹とはやてだけは冷静に訊ねた。

 

「敵役って……そんな簡単にばらしちゃっていいんですか?」

「なんで大智の居場所教えてくれんのや」

「ちょっと待ってください八神隊長、斉原教導官! どうしてそんな暢気なんですか!?」

 

 スバルがそう絶叫すると、二人は顔を見合わせてから声を揃えて答えた。

 

「「だって過去形で自己紹介したから」」

『……』

 

 全員が絶句していると、大蛇は腹を抱えながら笑っていた。

 

「ふははははっ!! やっぱりスサノオの野郎の転生者とその恋人は呑み込みが早い! いやーマジ面白れぇ!」

 

 ひとしきり笑ってから彼は浮かべる涙を拭き、真顔に戻って「あーそんじゃ説明するわ」と言い出した。

 

 

「……つっても、どこから説明して納得してもらうかなんだが……まずあいつがそこにいる転生者と違うってのは分かってるよな」

「……確かに神様達と一緒にいますけど、私達と同じ人間ですよね?」

 

 大蛇の言葉になのはが首を傾げてそう言うと、「あれ、あいつから話聞いてないの?」と真顔で返ってきた。

 

「あいつ、元々人間じゃないんだぜ。神様の魂を封じ込めた、ただの人形だ」

『!!』

 

 聞きたくなかったのか、それとも信じられなかったのか、彼女達の間に激震が走った。

 それを感じ取った大蛇はどうやらあいつ言わなかったんだなと予測して欠伸をしてから続けた。

 

「正確に言うなら人間道に囚われた神様の魂の器として現れた何代目かなんだけどよ。元の神様と性格も身体的特徴もぴったり一致した極めてまれな器。あいつはそのせいで夜刀神に見つかって今に至るんだけどよ」

 

「まぁこの世界に転生したってことは人間としての生を受けられたってことだから別にさしたる問題はないんだが、最初の厄介事――ジュエルシード事件であいつは一度魂に乗っ取られた。それはもう今の説明で分かってるだろさすがに」

 

 そう言ってから彼は見渡すが、話の理解ができているのがそれほどいないことに気付き頭を掻いてから「あー簡単に言うとだな、あいつはお前達と関わることになった最初の事件で一度神様の魂をその身に宿していたんだよ。あいつがその場所に来たとき様子がまったくおかしいことに気付いてただろ?」と詳しく説明したところ、ようやく納得がいったというように頷きだしたので、内心頭を抱えてから彼は続けた。

 

「それでまぁ解決する時あいつは虚数空間に飲み込まれたんだが、あいつが宿していた神様の魂が呪縛から解かれた際に最後の力で病院に送り、あの事件は解決した。それであいつは完全に神様の力を失うはずだった……」

「……だった、ですか?」

 

 恐る恐ると言った風にフェイトが質問すると、大蛇はためらいなく頷いて肯定した。

 

「そりゃそうさ。あんときあいつの代わりに神様の魂が虚数空間に消え、そのまま普通の少年として暮らせる……と思っていた連中もいたぐらいだからな。けど、実際は」

「そうならなかった。原因に心当たりはあるんですか?」

 

 冷静に訊ねる雄樹に口笛を吹いて彼なりの称賛を浴びせてから「そうそう。原因としては虚数空間に消えたのもあるが、大元の原因としては転生前の世界で神格化されたからなんだよ」と答えた。

 

「本来魂というのは死亡したことで肉体から解放され、六道に振り分けられる。だがあいつの魂は厳罰のために人間道で永い時を過ごしていた……っていうのはまぁ現状に関係ない。問題は肉体が死亡するという消滅をもって魂が解放されるという事。虚数空間ではそれがない。あの空間は、例えるなら遠心分離機。遠心力を利用して物体を分けるようなもので、肉体が消滅する前に力そのものを奪われ、そのあとそこで肉体が消滅する。そのラグがあるから大智の器に神様の力が少し残った」

 

 まぁそれがなくても変わらなかったかもしれん。そう言ってから天井を見上げると、「それと大元の原因にどんな関係があるんですか?」と質問が来たので視線を戻して説明を続けた。

 

「少し残るぐらいなら別に問題はないんだ。だが神格化されたという事実がその『少し残る』でも問題になる」

「え?」

 

 首を傾げる全員に対し、大蛇は「いいか?」と前置きしてから説明した。

 

「神格化っていうのはな。一定の信仰があればなれるっていうのが常なんだが、『一定』っていう言葉が曲者なんだ」

 

「一定。それはある程度の数なんだが、その数というのは実のところ俺達も分かってない。ただ、あいつは転生前の世界での活躍で銅像とか建てられて語り継がれていた。その上、俺達が任せた仕事先でその住民からあがめられた。それが一定に認定されたんだろ」

 

「その結果何が起こったかというと、神様の力が自身の力として宿ってしまった。だからレアスキルに神様の力を自在に扱えるものが身についてしまった。ま、それを使ったのは闇の書事件が最初だが……その様子だと誰も気付いてないだろ」

 

 そう訊ねると、当事者たちは首を傾げた。

 その反応でだよなぁと思った大蛇は、それでも続ける。

 

「で、その際記憶喪失とかになったりしたがそこはまぁ置いといて、だ。神様の力が自在に扱えるという事実がすでに神様になるスタートラインに立ってしまったんだよ」

 

 本当に厄介なことになと吐き捨てるように大蛇は言ったが、この場にいる全員は理解できているのかいないのか分からないが黙り込んでしまった。

 そんな中、ナイトメアが『あの!』と念話で大蛇に声をかけた。

 

「どうしたナイトメア」

『神様になったら何か不味かったんですか!? マスターも自分で神様になったことに気付いた時悲しげでしたけど……』

「あーそれか」

 

 過去をさかのぼるように説明して来たけど『神様』そのものについて何も触れてなかったなーと自身の説明を思い返しながら思った大蛇は、ふぅと息を吐いてから近くにあった椅子に座り「大智が神様になった経緯はこれで分かったろ? それじゃ次は、ナイトメアの質問通り神様についての説明をするか」と言った。




ご愛読ありがとうございます。
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