世にも不思議な転生者 作:末吉
「鵺……ねぇ」
正体を聞いた伊弉諾は名前を吟味するように何度もつぶやいてから「しかしまた、かすりもしないやつと結婚したなぁ、おい」とため息をつく。
「好きになったのに名前が関係すると思うか?」
「そういって結婚したんじゃねぇのか、おい。それでこの状況って、あんたもバカじゃね?」
「……実際には少し違う。彼女が私を憎む理由、殺したがっている理由は知っている。私が結局彼女の正体を間近で見て彼女を封じ込めたからだ」
「……そんなこったろうと思ったよ」
一気に冷めたのか目を細めてつぶやく伊弉諾。いつの間にか手に持っていた剣の柄を強く握りしめながら。
その耐えている姿を見ながら初代釈迦は「殴りたいなら殴ればいい。私にはそれだけの責任がある」というと伊弉諾は「おもっくそぶん殴りてぇよ確かに」と答える。
が、続く答えは神様らしいものだった。
「が、それでも大智が選んだ道だ。今更文句を言うのもこっちから助ける必要もない。だから殴らない」
「……そうか」
「ただし」
「?」
いかにもな答えに何とも言えずにいると伊弉諾が付け足したので首を傾げる。
そして彼は言った。
「あんたがそいつを封じ込めた本当の理由……そうなった要因。すべて話せ。いい加減あんたも解決しねぇと先に進めねぇだろうが」
口角を釣り上げ、挑発的な笑みを浮かべながら。
*
「…………」
目を開ける。確か俺は黒い『何か』に襲われて……どうなったんだ?
この空間内に地面というものがあるのかどうかわからないが、俺は自分の無事を確かめてからため息をつく。
このまま永久の時をここで過ごさないといけないのかと思うとだんだん苦痛に感じてくる。今になって後悔の気持ちがこみ上げてくる。
「くっそ」
もう割り切ったはず。受け入れたはず。こうなることはわかっていたはず。
だというのに思わず悪態をついたのは、『神』になったばかりということでまだ『人間』が残っているからか。
そうやって悔いていたところ、俺以外の息遣いを聞いたので首が動く範囲で見渡し、見つけた。
安らかに眠っていたその少女は金髪で、身長は130ぐらいだろうか。顔立ちがどことなくなのはに似ている。
未練たらたらだなと幻覚を見てる自分にため息をついてみたが、気配や鼓動の音、すべてをその少女から感じ取り錯覚ではないことを知る。
一体どしてこんなところにいきなり少女が現れたのだろうかと思いながら少し考察してみる。
俺はこの空間にとらえられている。そのままボーっとしていたら黒い『何か』が急に襲ってきたので反射的に目をつむり……開けたところ、こうなっていた。
つまり、黒い『何か』が俺の中の記憶で人物を形成したということになる。状況から推察すると。
一体何だこれはと頭を掻きたかったが、あいにく鎖につながれているのでそれもできない。
「……どうしたものか」
とりあえずこの退屈な空間で起きた珍事に関しては対処をしないといけない、か。
*斉原雄樹視点
「全員助けるのは骨が折れたわい」
「おー大丈夫かスサノオのじいさん」
「基地は完全に壊れたように見せたが、大丈夫じゃろ。ちょいっと傷は受けたがな」
そういって腕にできた真新しい傷を見せるお爺さん――スサノオ。
それを呆れ顔で見た青年――もうひと柱の神様は「まぁ腕に傷だけだったらいい方じゃね? 俺なんて腕吹っ飛ばされたんだぜ?」と吹っ飛ばされたらしい腕の方を回す。
かなりのんきな会話だと思いながら、
「こ、ここ……は?」
右腕は衝撃で砕かれ、左足の感覚がない。目も焦点が合ってない。
そんな状態の僕が声を上げたことに気付いたのかスサノオともうひと柱の神様は僕の声にこたえた。
「ここは大智が所有している世界じゃな。もとは蛟龍が統括者じゃったところ……といってもピンとこんじゃろうが、高校三年生の時に一度来たことがある世界じゃよ」
「まぁお前たちが知ってる唯一の安全地帯だな。ここには『何もない』からアイツが来ることはない」
「……み、ん、なは…?」
「死んではおらん。安心せい」
「一番重症なのはお前だからな」
そう、か……僕が一番重症なのか……。
段々とぼんやりしてきた頭の中。心臓の鼓動は弱まっているのが自分でもわかる。
こりゃぁ僕……し……
「ジャッジャーン! 呼ばれて参上! 韋駄天超特急便!!」
「遅いわ全く」
「文句は俺様じゃなく薬作ってたやつらに言って! 人間用にするの面倒だってぼやいてたんだから!!」
「さっさと飲ませないと、もうすぐ死ぬぜ?」
「おお!? 傍観してるんじゃねぇよだったら!!」
瞼を閉じかけてる中そんな声が遠くの方から聞こえたと思ったら口の中に何かを強引に突っ込まれた感覚があり、そのあと液体が流し込まれ……とんでもなくまずくて思わず叫んだ。
「うぇぇぇ!!」
「おう超即効性! 俺様みたく素早い効果!」
「……ギャグみたいになったの、こいつ来てから」
「テンション高いし、別によくね?」
「うぇぇぇぇぇ! おえぇぇぇぇ!!」
あまりのまずさに右手でのどを抑えながら口の中に残っているものを吐き出そうと頑張るが、何もないのかただ叫んでいるだけ。
思わず立ち上がり、水を探そうとクリアになった視界で周囲を見渡していると、「転生者ってのはタフなんかおい?」と質問してる人が見えたので「み、みみみ水!」と気持ち悪さをこらえながら叫んだ。
それを聞いていたのかその人はため息をついてから「おい韋駄天。あの苦みを打ち消すものもらってきてるんだろ?」とサングラスに髑髏のネックレス、そして派手な衣装でショルダーバックを下げている男の人は「忘れたぜ!」と親指を突き立てて答えた。
「とってくるんじゃよ韋駄天」
「イエッサー!」
なんかもういろいろ耐えられなくなってシュールを通り越した光景に何も言えないでいると、一瞬姿がぶれたと思ったら手に何かを持っていて「へい!」と答えた。
「ほれこれを飲め」
そういって手渡されたよくわからないものを僕はそのまま飲み干し……口の中の凄絶な苦みが取れたことに胸をなでおろしてから自分が普通に動けていることに驚き、そして変な人がいることに驚いた。
頭の中で何から言うべきかわからないまま口に出したのは、これだった。
「はやては!?」
「軽症じゃよ。お主があの衝撃を人間の中でまともに受けた結果な」
「他の奴らも似たようなもの。せいぜい骨折がある程度だ」
「安心しろよボーイ!」
そうかはやてやみんなはそれほど深い傷を負わなかったのか……よかった。
そう思って息を吐くと、心臓が急に痛み出した。
「ぐぅ!」
「おい、大丈夫か?」
「副作用じゃろ。何かは知らんがな」
「副作用一瞬! 活性化の反動しばらく!」
「……韋駄天って、会わない間何があったんだ?」
「別に知らんでもいいでないかの?」
蹲って胸を抑え、歯を食いしばる。こらえながら聞こえたのだと、あの状態から一気に元通りになった反動が来てるということになるんだけど、気配からして僕以外の人間がいないようなので助かった。他の人たちは基地のどこかにいるのだろう。
っていうか、しばらくってどれくらいだろう…? と考えていると、「さて。わしらは戻るか」とスサノオのお爺さんはつぶやいたのが聞こえた。
「いいのかよ?」
「見立てじゃと二日。それぐらいなら付き添わんでも問題ないじゃろ。それに、機動六課の基地に幻術と転移を使って腰が痛くなったから寝るわい」
「俺様は他に配達あるから行くぜ! アディオス!!」
そういうと青年以外は姿を消したらしい。
残った青年は「まぁ俺も残る義理なんてないんだけどよ……」と呟きながら蹲っている僕の方へ近寄って座ったようだ。本当に激痛が走ってそれどころではない。
「痛みがつらいようだな」
答えられない。
「一応韋駄天からもらった発作に変える薬があるんだが、飲む?」
痛みがきつい僕は蹲った体勢のまま何度も頭を上下に動かした。
それを見たかどうかわからないけど、彼は「ほんじゃ失礼して」と僕の頭をつかんだと思うと無理やり顔をあげさせ、無理やり口を開けさせ薬を入れ、そのまま水まで流し込んだ。
激痛がだんだん収まっていくのがわかる。その分体の力が抜けていくのも。
何とかなったと思いながら「ありがとうございます」と返事をすると、「発作に変えただけだから変わんねぇよ」と言われた。
「耐えろ。どうせこの状況じゃお前たちが動くことはできんし」
「はい……」
僕がそううなずくと彼は立ち上がって「お前がいるのは基地の指令室の屋根。他の奴らは壊れた食堂室に集まってるぜ」と言ってから、消えた。
なんだか僕、結構な頻度で死の淵に行ってるなぁとぼんやり考えながら立ち上がり、きっと僕がいなくなったことによるパニックが起こってるのかもしれないと予測を立てて食堂の方へ向かった。
……まぁ当たり前のようにはやてに平手打ち食らって泣かれたよね。
で、その日の夜。
カリムさんに現状(基地ごと転移の理由)を報告し、これからの事について軽く話し合った僕たちはそれぞれの部屋に戻って寝ることにした。
僕はというと、外に出て月を眺めていた。
カリムさんのレアスキルが示した未来が全く外れたことに本人が驚いていたけど、僕としては神様の行動を人間が図れるわけがないと思っていたから驚かなかった。
そしてみんなはやっぱり落ち込んでいた。話し合いの時は言葉を出せていたけど、それ以外では言葉を発せず雰囲気が暗かった。
僕もその一人である。
遮蔽物のない空に満月が浮かんでいるという海ならではの光景に感動しながら寝転んで眺めていると、「まだ起きてたん、雄樹?」とはやてが声をかけてきた。
少し前から気配がしたのでわかっていた僕は、「まぁ眠れなくてね」と気障っぽく答える。
「そか……」
そう彼女が呟いたら風が吹き、木々が揺れる。
互いに黙ってしまったままでいると、はやてが言った。
「なぁ雄樹?」
「何?」
「うちな……本当に怖いのや」
そういうと彼女は僕の隣にきて同じく寝転がり、僕の方へ体ごと向ける。
僕も同じく体をはやての方へ動かして見つめあう状況に持っていく。
僕は口を開いた。
「だよね。僕もそう思ってる。神様の力を侮っていた証拠だなって。スサノオさん達がいなかったら今頃、」
「違うのや」
「え?」
笑顔で僕の心情をこたえると、はやてが悲しそうな顔をして否定したので僕は首を傾げる。
「違うのや。確かにそれもある。けど、うちが本当に怖いと思ったのは……雄樹の方や」
「……え、僕?」
とてつもないショックを受け、僕は何も考えられなくなる。
いま彼女は何と言った? 僕が『怖い』?
………………………………………………………………………………………………………………………………………ハハッ。
何かが崩れていく音がする。僕の中の何か大切なものが盛大な音を立てて崩れていくのが
僕の表情の変化が月明かりで分かってしまったのだろう。続けようとしていたらしい言葉を飲み込んだようで、彼女は僕の名前を呼んだ。
「雄……樹?」
僕はその呼びかけに
瞼を閉じながら彼女は「な……に」と呟いたのを聞いた僕はお姫様抱っこをして部屋の前に運んでから、自分の部屋に戻ってナイトをつけ、置手紙を書いてから部屋を出ていくことにした。
さようなら、僕が愛した人。
ご愛読ありがとうございます