世にも不思議な転生者   作:末吉

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少し間が空きました。すみません


140:覚悟と進行

『よかったのか』

「何がさ、ナイト」

 

 基地から離れ、管理局関係すべてをおいてきた僕はどこかにある世界を一人歩きながらナイトが話しかけてきたので、答える。

 

『彼女のこと』

「……はやてが言わんとしてたことはわかってたよ。頑張りすぎないで一緒に行こうってことぐらい」

『ならば』

「でもね。面と言われた時の悲しそうな顔を見たときにね、思ったんだ。『ああ、僕はなんてひどい奴なんだろう』って」

 

 立ち止まって手のひらを握る。そのまま力を込めていたから血が出てきたようだけど、僕はそんなこと気にせずに続けた。

 

「好きな人を守りたかった。ただそれだけなのに、いつも僕は守れない。心配ばかりかけてしまう」

『……』

「はやてが好きなのに変わりはないよ。だけど、酷い奴にも変わりない。僕のわがままだからはやてが怒ったり泣き出してどうしようもなくなるかもしれないけど……ははっ。これはどうあがいても僕はひどい奴としか映らな……!!」

 

 心臓が痛み出したのがわかり胸を抑えて蹲る。

 発作に変えたといっただけなので痛みは消せないものだというのは予想できていた。

 死にはしないだろうこの痛み。生死の境から蘇った代償。

 おかげで僕はこうしている。そう思いながらいつまで続くのかわからないこの痛みに耐えながら立ち上がり、顔を苦痛でゆがめながら一歩一歩確実に踏み出す。

 

『一緒に歩めばよかったのでは?』

 

 痛みに耐えながら歩いているとナイトがそんなことを言ってきたので歯を食いしばりながら「確かにその選択が理想的……現実的…だよ」と答える。

 痛みがだんだんと引いていく。不規則なタイミングに不確定な時間。こればっかりはもうどうしようもない僕は割り切って続けた。

 

「守るといっても互いに守り、守られるのが一番いいのだってわかる。でもね、こうして喋ってて思ったんだ」

 

 そこで僕は言葉を区切り、空を見上げる。

 浮かんでいたのは星空。月はない。この世界には月がないようだ。

 普段から月がある夜を見慣れていたからか違和感があった気がするけど、この状況は今の僕を表しているようだったのでなんだか笑えてきた。

 

 区切った後の言葉は口にせず、僕は視線を戻して歩き出す。

 行く当てもない。これからどうするかなんて一つしかないけれど。

 

 ――僕の中ではやては『お姫様』なんだって。

 

 本当、笑っちゃうよね。こんなんじゃ好きだなんて言えないよ、まったく。だけど、

 

「それでも僕のことを好きでいてくれたのはうれしいね。こんなことしたから合わせる顔もないし、会うこともないかな」

『……どうだろう』

「え、やめてナイト。そんなフリ」

 

 

 そんな他愛のない会話を繰り広げながら、僕達は『強さ』を手に入れるために彷徨い始めた。

 

 

 

 

*……視点

 

 静かな機動六課内。

 その中の隊長の自室前にはなのは達が集まっていた。

 

『…………』

 

 一同は沈黙したまま。そして部屋の中から音が聞こえ……ない。

 

「はやてちゃん……」

 

 うつむいて胸の前で手を握りしめながらつぶやくなのは。

 ヴォルケンリッター達も大体うつむいており、フェイト達すらも心配そうにしか見守れない。

 

 雄樹がはやてと別れを選んだその日の朝から現状は変わらない。

 彼女は部屋から出てくることもせず、また何をしているのかもわからない。

 祐樹は祐樹で行方不明になっており、そのことからなのは達は二人の間に何かがあったことを推測できていた。

 

 しかしながら、かける言葉を見つけてはいなかった。

 

 現在男性陣で彼の部屋を捜査しているが、残されていたのは管理局の所属を記したカードぐらいで他は特に手掛かりになりそうなものがないとのこと。

 また、様々な世界で探そうとレーダーなどで魔力の探知をしているが、いかんせん数が膨大なので見つけられるという望みは薄いだろう。

 

 自分たちの時に助けてもらったのに、どうして助けられないんだろう。

 そんな現状に、祈るように考えるなのは。

 

 そんな中、ヴィータが重い口を開いた。

 

「……どうして、はやてばっかりこんなつらい目に遭わなきゃいけねぇんだ」

『…………』

 

 その言葉の真意を知っている者たちはさらに気落ちする。

 お通夜を通り越して暗い雰囲気の中、「何でここに君たちの基地があるのか知りたいんだけど?」という聞きなれた声が聞こえたので一斉に振り返る。

 

「……天上くん」

「基地の外観から察するに襲撃にでもあったようだ……ふむ? 斉原はどうしたんだい? ここにはいないようだが」

 

 気配を探ったのか正確にいない人物の名前を挙げる彼に一同は驚きながら、代表してフェイトが「行方不明なんだ。今朝から」と答える。

 

 その答えを聞いた天上は「行方不明、か……それなら安心した」と言い、「どうやってこの世界に来たのか知らないが、長嶋が色々といじっていた世界らしい。神様になって姿を消したアイツがいなくても変化がないことからいじられたものは変わらないことが判明している」と彼女達に背を向けながら説明する。

 

「……え? なんで天上くんは大智君が神様になったことを知ってるの?」

「地球組も知ってるさ。僕が契約している悪魔のおかげでね……それじゃ、頑張ってくれたまえ」

「待って!」

 

 なのはが引き留めようとしたときには彼は既にその場から消えていた。

 

 

 天上が消えて、はやての前の廊下はさらに暗くなっていた。

 思考能力はもう、残されていないに等しい。

 大智は神様になってしまったから消え、雄樹は知らないうちに消えていた事実すら、かつてのクラスメイトはあっさりと受け入れてしまっているのだから。

 

 また全員黙っていると、今度は「なんだか葬式みたいだが……一体どうしたんだよ?」と声が聞こえたのでその方へ向くと、戸惑った表情を浮かべながら如月裕也が立っていた。

 

「えっと……如月君? 天上君もそうだけど、どうやってここに?」

「ん? ああ、多分力也の方は悪魔の力でこっちに来たんだろ。俺はいつぞやのボードに乗ってここまで来て、知り合いだと言って通してもらった」

 

 アリシアの質問にあっさりと答えた裕也は、「そんで、これはいったいどうしたんだ?」ともう一度首をかしげて質問する。

 

 それに答えたのは、彼の後ろに来ていた力也だった。

 

「雄樹が行方不明になって八神が茫然自失になったそうだ」

「あ、マジで? あいつ、そんなに簡単に別れられるはずないと思ったんだが」

「だが、この現状が証明している。それに、アレ(・・)にも書かれていただろ。忘れたのかい?」

「ああ、アレか……つぅかマジであいつ(・・・)どこまで予想してたんだよ……」

「神様になった結果じゃないかい?」

「アレ? アレって何?」

 

 二人で納得しているので蚊帳の外になったフェイトが代表してそう質問すると、二人は顔を見合わせてから少し考えていたが力也の方は納得した様子で、裕也の方はわからないのか首をかしげていた。

 

「とぼけないでよ。大智から何か受け取ったものなんでしょ? それに書かれていたのは何?」

 

 きつめに質問すると、それに答えようとした裕也の口をふさいだ力也が代わりに答えた。

 

「悪いが、そのあたりの情報はどうやら君たちに漏れるのをあいつが嫌っているのかもしれない。だから僕たちは答えられない……が、さしあたっては君たちが知りたいいくつかを教えよう」

「どうして!? どうして教えてくれないの!? はやてちゃんがこんな風になっているのに!!」

「落ち着き給え高町さん。まずはそこを教えたいのだが……生憎と僕たちも詳しく知るわけじゃない。そこにどういう意図があるかなんて、推測の域を出ない。そこは了解してほしい」

 

 そう言って周囲を見渡し、裕也の口から手を放してから推測を語ることにした。

 

「教えられない理由は、この件の主役はあくまで君たちだから。ということが大本だろう。大智が残した手紙にそう、書いてあった。その最初の文に君たちに教えるなとあったからそういう解釈に僕はしているし、元一たちと一斉に開いて確認したから同じ考えだろう」

「あー、そういやそんな話したな……」

「ともかくだ。君たちに詳細を語ることができない理由に関しては語った。納得できるかともかく、それを含めて君たちには僕たちの知る情報を教えることはできない……いくつかを除いて」

「え?」

 

 力也の最後の言葉を聞いたティアナは思わず聞き返す。そのせいで一斉に注目を浴びたが、彼女は気になってないのか、力也に問いかけた。

 

「教えることができないのに、教えてくれるんですか?」

 

 その問いに力也はティアナに微笑んで「まぁね」と答えてから続けた。

 

「教えられないのは、大智が想定したのかあるいは『神様』になったから知りえたのか、これからの情報だ。だが、それ以外の中で大智が残した、これから起こる未来の中に存在する選択肢に到達した付近の情報は教えてもいいらしい。例えば……雄樹の居場所とかね」

『!?』

 

 現在血眼になって捜索しているのに見つけられない彼の居場所を彼らが知っているという事実に、そして大智がこの状況とそうなった際の彼の居場所を予知していたことに、なのは達は驚く。

 その際、部屋の中から音が聞こえたが力也と裕也以外は気づいてなかった。

 

「ま、俺達も半信半疑だったけどよ。今日こっちきて珍しいログが残っていたからすずかさん達に手伝ってもらって判明した場所が、大智が書いていた場所だったから信じるしかなかったな」

「仕事が忙しいのもわかるが、メモするぐらいして情報を身に着けたまえよ社長代理」

「へいへいバイト秘書さん。昇給に関しては現状維持で?」

「まぁ金に困っていないから必要はないね」

「そうですかー」

「そんな世間話はいいから!! 斉原君はどこに行ったの!?」

「ん? まー教えるのも吝かではないんだが……」

 

 切羽詰まった声でなのはが質問したのに対し、裕也は頭をかきながら言葉を濁す。

 その態度にいい加減我慢の限界だったヴィータは「さっさと教えろよ! はやてが悲しんでいるんだぞ!!」と叫ぶと、すぐさま力也が切り返した。

 

「八神が斉原を傷つけた結果で自業自得だとしても、それを貫き通せるのかい?」

『なっ!?』

「そ、そんなわけねぇ! はやてが、はやてが大事な人を傷つけるなんて……!!」

「部屋に閉じこもっているのは自己嫌悪じゃないのかい? 今更自分の発言を後悔したところで事態は何一つ好転しないというのに」

 

 力也がうっすらと笑いながら悪魔のささやきのごとく言葉を紡ぐ。それを隣で見ていた裕也は肩をすくめて息を吐く。

 

「おーい力也?」

「想い人に不気味がられたらどうしようもないだろうね。まぁもっとも、彼は彼で彼女の事を『姫』としか見ていなかっただろうからおあいこなんじゃないだろうか」

「テメェ……!」

「大体君達は八神第一に考えている節がありすぎる。そんなんだからこんな状況で、彼女自身に非があるにもかかわらず、他者に責任を押し付ける。ナンセンスだ」

「テメェェ!! それ「調子乗りすぎだぞ、力也」

『!?』

 

 ヴィータが突撃を敢行しようとしたところ、裕也から底冷えするような、冷や水をかぶせられたような低い声が出たので一部を除いて全員が全身を震わす。

 対して力也は応えずに「そうだったね」と肩をすくめる。

 はぁとため息を漏らした裕也は「悪かったな」と言ってから背を向ける。

 

「今回はこれで帰るわ俺たち。落ち着いたら連絡よろ。あと、何か御用があるなら会社に仕事出してくれ」

「えっ、ちょっと! 雄樹君の居場所は!?」

「あー、悪いな。今回の状況が状況だから今度にしてくれ。代わりに、大事なことを教えてやるから」

「そんなのはいいから! ちゃんと教えてよ!」

「この基地を襲撃しただろう相手が今回の黒幕。もう引き返せないところまで来てるから頑張って強くなれ、だってよ。じゃ」

「ちょっと!!」

 

 フェイトの制止の声は届かず、力也と裕也の二人はその場からいなくなった。

 残された一同は、もやもやとしたものがまとわりついた所為か最初の頃より雰囲気は暗くなっていた。

 

 と、そんな時だった。

 

「高町教導官! テスタロッサ執務官!! 八神隊長! 報告があります!」

 

 そう言ってグリフィスが息を切らせながら来たのは。

 

「どうしたの?」

「斉原教導官の部屋を捜索していたところ、どこにもカギが存在しない箱が見つかりました。その付近を捜索したのですがなぜか鍵だけは見つけることはできず、隊長達が使っている文字で『与謝野晶子』と書かれた紙だけでした。それ以上はもう、何も……」

「そう……わかったよグリフィス君。その箱と紙は持ってきている?」

「はい。こちらになります」

 

 そうしてフェイトが受け取ったのは筆箱大のケースと、本当に『与謝野晶子』と書かれた紙。

 ではこれで失礼します。そう言ってグリフィスが敬礼してその場を立ち去ったのを見送った一同は、それらをどうするかと話し合い、部屋の前に置いておこうという結論に達し置いてから解散となった。

 

 

 

 誰もいなくなったはやての部屋の扉は開き、置いてあったケースと紙は回収された。




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