世にも不思議な転生者   作:末吉

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投稿の踏ん切りがつきませんでした。

お久し振りです。


141:残された者・残した者

「………今頃」

『未練でもあるのか』

「先んじて言われるとなんだうっ!」

 

 不意に心配になったことを漏らしたところ発作が起こり、彼は膝をついて胸を抑える。

 この発作のタイミングは実にランダムで、法則性なんて実際存在しないのが六回目ぐらいで悟った。時間もランダム。一瞬もあれば今のところ一時間ぐらいの激痛に襲われる。今後長くなる可能性もあるだろう。

 

 時間の経過はわからない。正直、この世界の時間の流れが気になるけど痛みのせいでそれも難しい。

 それでも彼は、痛みに耐えながら自分がいる世界についてわかることをつぶやく。

 

「……寒い、ね」

『バリアジャケットが解けていないので大丈夫のはずですが?』

「うぅぅぅ……体の芯を凍らして、く……」

『マスター?』

 

 痛みと寒さにより我慢の限界を超えたらしい彼は雪原の中に倒れこみ、意識を失った。

 その瞬間を見た誰かはそのまま彼に近づき肩に担いでどこかへ消えた。

 

 

 

 その頃はやての部屋の中では。

 

「与謝野晶子っていうたら……君死に給う事勿れ以外思い浮かばないやん……ほんま、いつまでもうちのこと心配してくれとるんやな……」

 

 箱を机の上に置き、椅子に座りながらその箱を見つめてそんなことを呟いていた。

 

 カチャリと音がする。

 

 はやては分かりきっていたのかその箱を迷うことなく開ける。

 その中に入っていたのは、折りたたまれた手紙だった。

 

 彼女は迷った。この手紙を読むべきかどうかに。

 しかしながら、その逡巡は無情にも意味をなさなくなる。

 手紙を取り出した箱の底からホログラムの雄樹が出現したからである。

 

「なっ」

『おはよう、かな? はやて。たぶん、手紙は読んでもらえないだろうからこうして映像を残すことにしたよ。いつ撮ったのかって? それはまぁ、気にしなくていいんじゃないかな?』

 

 笑顔のまま。別れる前と変わらない愛しき人の姿に思わず手を触れそうになるが、あと少しというところで手が止まる。

 そんなことを想定していないはずなのに、『ごめんね、はやて。僕の態度で君を傷つけて』とはっきり言った。

 

「……え?」

 

 今度こそはやては、言葉を失った。

 

『たぶん、君がこれを見ているってことは僕が君のもとを離れてしまったんだろう。先のことなんて僕にはわからないけど、謝っておくね。ごめん』

「……」

『で、えーっと……どういう時に見ているのか分からないからなんて言えばわからないんだよなー。はやてには正直言って傷ついてほしくないとか、いつも言ってることだし』

「……うちにばっかり言うて、自分は傷つきまくってるやろ」

 

 つい思わずこぼれたその言葉に対してなのか知らないが、彼は『本当だよね』と賛同した。

 

『僕も大智のことを言えないんだよね。本当。自分が守ろうとしてばかり。たぶん、これを撮った後のことを僕は覚えてないだろうから、そのまま突き進んで……結果的にこの映像が流れそうなんだよね』

「そこまでわかってるなら……なんでや。なんで一緒に強くなろうって言えなかったん?」

 

 もはや過去に撮ったという意識は彼女の中になく、彼の姿に問いかけた。

 

「なんでうちに黙って自分で大智に師事したん? なんで自分だけで何とかしようとしてるんや? ……なんで、うちのことを『好き』って言ってくれたん? ……なんで? なんでなんや、祐樹……」

 

 返事がないことなど分かりきっているにもかかわらず、彼女の胸の内から彼に対する言葉があふれだす。

 

「あの時『怖い』っていうたんがこうなったんか? けど、一緒に乗り越えたかったんや。一人で先に進もうとしていく大智を見て、それに並ぼうとしている雄樹が怖かったんや。だからあの時……」

『男っていうのは、大好きな人の前では格好をつけたがるもんだよ。僕も例に漏れず、ね。大智は知らないけど』

「それで傷ついていくのを黙ってみてろいうん? そないなこと、できるわけがないやん」

『何言ってるんだ、と思うだろうけど、僕にとってはやてを守れる――愛する人を守れるっていうのは、特別なんだ、前世じゃできなかった、僕のあこがれでもあり、夢でもある』

「あんたはいっつもそうや。自分のことを必要以上に話さん。前に大智が言うた時にはぐらかして終わったのを覚えとるで」

『……そろそろ切れるころだ。それじゃぁはやて。あとは手紙を読んでくれたらうれしいかな』

「………………雄、樹」

 

 ホログラムの映像が切れ、真っ暗な部屋に戻ったことにより、彼女は愛しき人の名を呟く。

 うっすらと涙が零れ落ちる。頬を伝うそれは机に落ちていくが、彼女はそれに気付かない。否。気づいていながらも、それをどうにかしようと考えてはいなかった。

 

 なぜなら。

 

「雄樹! 雄樹……!! うちは、うちは……! 雄樹がおらん日々なんていやや! いつも気にしてくれて、いつも笑顔で、いつも一生懸命で……それでいて『いつまでも一緒にいるよ』って言うてくれた雄樹がおらんのが!!」

 

 誰もいない部屋の中で、思いのたけを吐き出しているから。

 いったん呼吸を置いて再びしゃべろうとしたところ、聞き覚えのある声で「ごめんね、はやて」と声が聞こえたので振り返ったところ……彼そっくりな人物がたたずんでいた。

 

「……誰や」

 

 ぐすっと鼻を鳴らしてから眼を鋭くして尋ねると、「やっぱり『愛』ってすごいね」と一瞬にして雰囲気が変わった。

 そっくりだった人物は声が変わるのとともに姿も変わり……仮面をつけている少年の姿になった。

 

「やぁ初めまして。神様の中でも特別変な立ち位置にいるロキだよ。悲しみに暮れて絶望している貴女に愛と希望の情報と、少しばかりのお願いをしに来たんだよ☆」

 

 笑顔でそう発言した彼の姿を見て、はやての警戒心は一気に上がる。

 そんな心情を察しているロキは「お願いをやってくれたなら、僕は君が望む情報を教えよう。愛しの君の居場所とか? 闇の牢についてとか? 大智の現状とか? どれか一つなんてけち臭いことは言わないよ。なんたって神様だからね」と提示する。

 

「な、なんやて!?」

「静かに静かに。これは君以外に話す気はないし、他の誰かに僕のお願いを話したら教えた情報をきれいさっぱり記憶から消し去るからそのつもりでね」

 

 交渉という行為であるはずなのにロキの表情からは不安や動揺が一切見られない。

 まるでうちがやってくれるとしか考えてないのかこいつ……と直感したはやては「なんでうちなんや?」と確認する、

 

「え? だってそうじゃないと僕が面白くないから」

 

 キョトンとした顔で、あるいは当たり前のことをどうして聞くのか分からない顔をしてロキは答える。が、それを聞いたはやては「面白い、やて?」と聞き返す。

 

「そう。だってみんなお通夜みたいな雰囲気出して、どいつもこいつもこれから最終決戦に向かうって雰囲気じゃないんだもん。面白くないじゃん」

「だから」

「総隊長でしょ? 君が一番元気になってくれなきゃ他の人も暗いまま。ほら、君しかいない」

「……」

 

 仮面をかぶったまま――だが、雰囲気としては楽しそうにすらすらと説明したロキ。それを聞いて観念したはやては「……何をしてほしいんや?」と訊ねる。

 それに対しロキは鼻歌を歌いながらステップを踏んでいた。

 

「おい」

「……ん? ああ。えっとね、とりあえず適当な日にみんな休みにしてもらって、レジアス中将から確か監査ということでスバルちゃんの姉が来るからその前に建物を修復してもらって、護衛に関しては強制だろうから行ってね。それから……」

「まだあるんかい」

「たぶん、休みの日に子供拾うから匿っておいてね。それからそうだね……彼とは会えるまで連絡を取ることをしない。そのぐらいかな?」

「……え?」

 

 最後の最後に嫌な制限をかけられたはやては思い切り呆ける。

 それにすらロキは言論を封じさせる。

 

「一度離れたからってすぐ合流させちゃ可哀想でしょ? 謝りたいのは分かるけど、しばらくは我慢した方が感動的になると思うけど」

「……」

 

 一理あるのか黙り込むはやて。それを見たロキは「ま、そういうわけだからよろしくね。それじゃ、教えてあげようか。君の知りたい諸々のことを」と話を進める。

 もちろんはやては何も言うことができないので、話はそのまま進んでしまう。

 

「まずは何処から話そうかな。やっぱり彼は最後? なら大智についてかな」

「……」

 

 口を挟むことなく進んでしまうこの流れにはやては不機嫌になるが、それを無視してなおもしゃべり続ける。

 

「そうだねぇ……確かスサノオさんたちに聞いた話だと、はぐらかされたんだっけ?」

「……闇の牢にいることは漏らしたけど、他は何も言うてない」

「ああそう。それじゃ、闇の牢についての説明した方が早いかな。あれはね、最初に罰を受けた神様以降に作られることになった、神様専用の牢屋だね。どの世界にも存在していて、その世界が消滅する際にごっそり消滅することになる、いわゆる自壊付き?」

「な、なんやて!?」

 

 あっさりと説明された内容に思わず驚きの声を上げるが、ロキが指を口元にあて「シー」と言ってきたので反射的に口を手で隠す。

 

「ま、実際は空間隔離しているから叫ばれたところで誰も気づかないんだけど」

「なんでやねん!」

「言ったでしょ? 約束守らないと記憶全部消すって。だからだよ」

「……」

 

 さっきと言ってること違う気がすると思いながらも口に出さないでいると、察したのかロキは説明を続けた。

 

「君は多分、見たことはないかな。ジュエルシード事件の最後に出てきたぐらいだから。あれ確か、テスタロッサ母が籠っていた世界消滅したんだよね最終的に」

「……そういえば」

 

 書類で見た彼女は思い出したのか呟く。

 

「そんでもってその予兆として虚数空間と呼ばれているものが表出するんだけど、あれが闇の牢の表層部分。ブラックホールみたいに力を吸い込むから近づいたら一発アウト。そんでもって吸い込んだ力を自壊用に変換し、放出して世界と一緒に闇の牢に存在したものを消滅させる役割を持つ」

「そんな中に大智がおるってわけなんやな?」

「そう。自分の神格が定まっていない状態で力を使うことは禁止されているからね。むしろ大智の場合、その自覚を持って自ら入ったみたいだけど」

「は!?」

「きっかけは何だろうね? まぁその辺は濁すとして、『人間』になったのを自覚したと同時に『神様』になった彼は可能な限り敵を排除してからこの舞台からリタイアしたのさ。君たちだけでもなんとかなるように」

 

 おかげでラスボスだけになった現状だから大智も本望かな? そう笑いながら付け足したロキは、はやてが俯いていることに気付いた。

 

「どうしたのさ? 彼には感謝していればいいんじゃないの?」

「…感謝やて?」

 

 そう答えて顔を上げるはやて。彼女の眼は据わっていた。

 地雷を踏んだことを理解していたロキは、それでも「君達にはどうすることもできなかったよ。なんたって大智は神様の依代として生み出された存在だったのだから」と追撃する。

 

「っ」

「ああそうそう。現在闇の牢が機能している場所は二ヵ所しかない。けど、その場所ばかりは教えることができない。さっき何でも教えるとか言ったけどごめんね」

「……それはええ。けどな」

 

 キッとはやてはロキを睨み、「それでも、大智のこと心配してるなのはちゃん達の気持ちを蔑ろにしていいわけないやろ!!」と涙交じりに叫ぶ。

 それを聞いたロキは笑みを深め、「ここから先はアフレコなんだけど……」と漏らす。

 

「このことは誰にも言わないでね? 言ったら彼から君の記憶と感情を全部消しておくから」

「なんやて!?」

「怒らない怒らない。言わなきゃいいだけだから……で、その話というのがまぁ本当、計画してる段階だから実行する時期は未定なんだけど……」

 

 そういってロキはいったん区切り、少し間をおいてから言った。

 

「大智を闇の牢から連れ出す予定。ね、誰にも言えないでしょ?」

 

 そういった彼の顔はとても歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「……は? なんやて?」




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