世にも不思議な転生者 作:末吉
「何拾ってきたのよ、ルシファー。干渉しない代わりに居座ることを許可したはずなんだけど?」
「緊急なんだから良いだろ? ほれ」
すべてが氷でできているお城の中。その玉座に座っている漆黒のゴスロリを身にまとった女性が対峙している灰色の羽をたたんでいる灰色のロングのの男性に言うと、彼は肩に担いでいた祐樹を投げる。
意識を失っている彼を一目見て彼女は驚きの表情で染めた。
「なんで生きてる奴がこの世界にいるのよ!?」
「あ? 半死半生になってるからじゃねぇのか? 俺様を扱うやつがそんなこと言ってたぜ、ヘル」
「……なるほどね。で、彼をどうする気?」
「邪魔にならんよう住まわせてくれや」
「却下。置いてきなさい」
「それは無理。こいつ、このままにしておくと死ぬから」
「…………」
理由に思い至った彼女は目を閉じてしばらく考えてから、息を大きく吐いて「……分かったわ。その代わり、元気になったら追い出しなさい」と許可をした。
「おーサンキュ」
「言っとくけど、あんたも消えなさいよ」
「なぜだ!?」
「邪魔なのよ」
「う、うぅ……」
二人の会話の中、うめき声をあげたに気付いた二人は、慌てて行動を開始した。
はやてはロキの言ったことがしばらく理解できなかった。
なんやて? 大智を連れ出す?
そんな疑問が浮かんでいるのが分かっているのか、ロキは笑顔のまま「計画内容としてはね」と続ける。
「闇の牢から彼を連れ出すっていう簡単なものなんだけど、そもそもそれを開くのには統括者の許可がないと駄目なんだよ。最悪、力業でこじ開けることもできるけど、それは世界崩壊と同じことだからね」
「ちょい待ち。なんや、統括者って? そんなもん知らんわ」
「だろうね。まぁ説明聞く? 詳しいこと聞くのも面倒でしょ?」
「せやけど……」
そういいながら脳内では言葉の意味を推測するはやて。
統括者……闇の牢を管理してる神様あたりやろうか。
そんな彼女の思考を読んだのか、ロキは「まぁそんな感じかな」と口にする。
「分かっているようだからもう説明しないでおくけど、大智を力業で助けると世界壊しちゃうから必然的に許可を取らなきゃいけないんだけど、まぁ普通に無理だよね」
「ならどうする気や?」
「言ったでしょ? 一緒にいる『少女』の方を出すって」
「言ってへんわ」
「あれ、そうだっけ?」
笑いながら、それでも陽炎のように煙に巻くその態度にはやては腹が立っていたが、どうすることもできないので「それでも許可がないとあかんのやろ?」と聞き返す。
「一回だけなら別に問題はないんだ。なんたって僕は神様。しかもペテン、欺瞞、トリックスターと言った別称まであるんだからね」
そういうとくるりと一回転して雄樹の姿になる。
「ほらこの通り。完全再現できてるから一回騙すぐらいなら問題ない。とはいってもこんな手段遣うと僕も闇の牢行きになるから大智助けるのが難しいんだけど……そこは同志がいることだし何とかなりそうかな」
「?」
「ああこっちの話。で、どうして少女の方なのかというと……まぁそれは実際に遭ってからのお楽しみってことでいいかな。あんまりしゃべると勘付かれそうだからね」
「……」
「まぁそう睨まない睨まない。最後に君の大切な人の居場所を教えてあげるんだから」
「っ、どこやそれ! はよ教えんかい!!」
彼の居場所と聞いていても経ってもいられなかったのかはやてはつい嚙みつくが、ロキはそれを意に介したわけではなく「あんまりせっかちだと嫌われるよ?」と冗談を言って肩をすくめる。
それが功を奏したのかはやては沈黙したようで、大人しくできるじゃないかと彼は思いながら「彼はね」と言葉を吐き出す。
「瀕死の重傷から何とか復活できた……まではいいけど、その直後に誰かからの言葉のせいで折れたのかな? とりあえず世界を転々としてたらしいね」
「…………」
暗にはやてのことを非難しながらもロキは続ける。
「まぁ復活の代償も大きくて足手まといになりそうだったし、良かったんじゃない? 彼が自分で離れるという判断は。じゃなきゃ僕が通しても行けるわけないからね――」
――ニブルヘイムに。
彼がいる場所を、笑みをたたえて。
はやてはロキの言った場所がよくわからなかった。
「ニブルヘイム? どこやそれ」
「どこかにある世界、ってことで。詳しい情報あげたら行きかねないでしょ?」
「……」
図星だったので何も言えなかったはやて。それを見ながらロキは「まぁこれで全部話し終えたから。約束ちゃんと守ってね?」と言って背を向け、ふらりと消えた。
一人になったはやては整理しなきゃいけないことがたくさんあったが、ひとまず雄樹が生きていることに安堵してベッドに入った。
――ニブルヘイム。
北欧神話で存在する九つの世界の下層に存在する冷たい氷の国。ヘルヘイムと同一視されているのがあるから死者の国のイメージもある世界。
そこに存在する氷でできた一際目立つお城の中。
彼――斉原は床の上で正座させられていた。
対面――煌びやかな椅子にふんぞり返って座っている女性――はそんな彼を見下ろしながら「あなた、転生して生を授かったはずなのに、どうしてこの世界にいるのかしら?」と質問する。
が、その前に彼は質問した。
「ここ……どこですか?」
しかし彼女は「は?」と聞き返した。
「いい? ここは私の世界。ここでは私がルール。あなたの疑問を答える必要はないわ……それで? 生者がどうしてこんなところにいるのかしら?」
再び問われ、彼は自分の行動を思い返しながら答えた。
「確か……世界を放浪していて、気が付いたら寒くなっていて気を失っていたのですが……」
「そう……あなたは自分で来たわけじゃない……そういう訳ね」
「はい」
「……(なら考えられる犯人はお父様だけね)」
「え?」
「なんでもないわ」
そういうと彼女は立ち上がり「まぁ来てしまったものは仕方がないわ。しばらくはそこにいるもう一人の居候の世話になりなさい。私の仕事の邪魔さえしなければいいわ」と言い残し消えていった。
彼女が消えていったのを見たは正座を崩し、座り込んだ状態で「結局ここはどこなんだろう?」と呟く。
それに答えたのは後ろからだった。
「ニブルヘイム……氷の国とか死者の国とか呼ばれている無限にある世界の中の一つさ」
「!」
斉原は驚いて振り向く。
そこにいたのは身長180を超えていて灰色の翼が生えている、男。
誰かわからない彼は素直に質問した。
「あなたは……誰ですか?」
「ん? 俺様はルシファーだ。ゼウス達がわからすりゃ、敵だな」
「ルシ……ファー……?」
まぁ現在敵対してないから過去の話なんだが。そう付け足されたが、彼は聞いていなかった。
ルシファー。天使の長として君臨していたが追放され悪魔になった唯一無二の存在。
力也が悪魔に憑りつかれている原因を作り、はやてが手にした夜天の書の大本を作った存在。
喜んでいいのやら怒ればいいのか複雑な彼は、しかし突如として襲ってきた胸の痛みを堪えるために俯く。
「……なるほどな。
突然蹲った斉原を見てルシファーはその状態と、どうしてここにいられるのかの理由に思い当たり納得する。
こりゃ
そう思いながら先程から感じる視線の先を一瞥した彼は、いつの間にか起き上がった斉原に対し「お前、強くなりたいのか?」と質問する。
「……え、あ……はい」
突然の質問に困惑した斉原だったが何とか肯定すると、「ならしばらくここにいればいいぞ。それを安定させるためにも」と言われた。
それ、と自分の状況を突かれたのが分かった彼はルシファーに向かって「どうしてですか?」と質問する。
「簡単なことだよ。今のお前は崩壊寸前なんだ。なんでそんな薬を使ったのか知らないが、ただの転生者の器に超が付くほどの回復促進を促したら肉体が崩壊を迎える。それを防ぐために痛みと同時に効果を薄めているんだよ、今」
その言葉で自分が神様達に飲まされたものが何なのか理解した。
となると、やっぱり僕あの時また死んでいた可能性があったのか……と考えていると、ルシファーは続けた。
「ここは死者の国の側面もある。本来なら普通の人間が来れるわけもなく、来たら死人の仲間入りだが、崩壊寸前のお前はまさに半死半生だから問題ないし、敵らしい敵はこの世界に現れることはないから休むという点でも最適だ。痛みが無くなったら戻れるぜ、きっと」
「……なるほど。ありがとうございます」
「いいってことよ。居候の先輩だからな」
そう言った彼は斉原に「ま、あの嬢ちゃんに許可はもらったし、とりあえず案内してやるぜ」と言って背を向けたので、彼はついていくことにした。
それからルシファーは必要だと思われるところを案内していく。
「ここが風呂だが……水風呂よりきついから慣れないなら入らない方がいいぜ」
「ここは食堂だが、生者がここの飯食えないから俺に別の世界からとってこさせるか自分で何とかするか我慢するかだな」
「で、ここはこの世界の【統括者】――ヘルのプライベートルーム。間違って入ったら即行死ぬから極力近寄らないこと」
行く先々でぼんやり見える何かをチラ見しながらルシファーの説明を聞いていた斉原は、ふと疑問に思ったことを聞いた。
「【統括者】って何ですか?」
「大智から聞いてないのか? 要は世界を管理する神様のことだよ。お前たち管理局が数多の世界の平和を守るなら、そいつらは数多の世界の趨勢を見守る存在ってところ」
「……それって、どこの世界にもいるってことですよね?」
「おうそうだ。基本的に」
「例外は?」
「んなの聞いてどうする? 関係ないこと聞いたところでどうすることもできないだろ」
「……そうですけど」
しぶしぶ納得したらしい斉原に、ルシファーは「で、お前の部屋だが……」と説明を続ける。
「あるんですか?」
「あるわけないだろ。俺だって適当なところで寝てるか城出てかまくら造って過ごしてるんだから」
「あー……」
となると基本的に自給自足でこの環境に慣れないといけないのか……。
相槌を打ちながら考えていると、「邪魔にならなければいいと思うぜ? 文句さえ言われなければ基本的に自由に行動できるからな」と言ってルシファーはどこかへ消えた。
残された斉原は目をつむって気配を感じ取り、胸を抑えながら気配がなるべくしない場所へ歩き出した。
彼女のことを、考えながら。
お読みいただき有難うございますお久し振りです。