世にも不思議な転生者   作:末吉

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更新が滞り申し訳ございません


144:日々尊く故に

*……視点

 

 そしてニブルヘイムから雄樹は追い出された。

 字面からすると突然のようだが、そもそも副作用が収まってから死者に片足突っ込み始めたのだから当然だろう。

 ついでに言えばルシファーも追い出された。ちゃんとヘルは覚えていたらしい。

 一人と一柱がどこかの世界に不時着してため息をつく。

 

 先に話し始めたのは雄樹だった。

 

「あの、ルシファーさん」

「……ん?」

「僕に修行をつけてくれませんか?」

「修行ね……」

 

 ルシファーは腕を組んで考える。堕天使として有名な存在だが、元をただせば天使長だ。条件もなしに鍛えるのは構わなかったが、正直面白くないなと思ってもいた。

 真剣なまなざしで見つめてくる雄樹に必死さを感じた彼は唸りながらしばらく考え、頷いた。

 

「いいぜ」

「本当ですか!?」

「但し」

 

 了承されて喜んだ雄樹だったが、続く言葉に警戒心を抱く。

 

「お前がその装備を頼らないと約束できるなら、だ」

「…………」

”何? また私を除け者にするというの?“

 

 甘く、妖しい声が雄樹の頭に響く。憑りつかれたといっても信じられる状況だが、彼はその誘惑を振り払うことに成功した。

 

「…はい、わかりました」

「どうやら、お前が身に着けたものがどれだけやばい代物なのか理解できているようだな」

「はい」

“ふふっ。流石ね。それでこそ選んだ甲斐があるってものよ”

 

 反抗的な態度だというのに逆に嬉しそうにする。楽しんでいるなと思いながら大きく息を吐く。

 ルシファーは言った。

 

「そうと決まれば、先ずは『慣れ』だな」

「慣れ、ですか?」

「そうだ。環境に適応してもらうのが強くなるのに手っ取り早い」

 

 そう説明するやいなや彼は翼を広げる。その動作に連動して夥しい数の魔方陣。

 思わず身構えたが、ルシファーが小さく呟いた瞬間。

 

 彼は地面に叩きつけられた。いや抑えつけられたと言ったほうが正しいのかもしれない。

 声を上げる暇も、異変の前兆を感じる隙も、自分がこうなった原因を想像するに至る証拠となるものを何一つ拾うこともできず。

 

 彼は体全体がミシミシと音を上げている状態で、うつ伏せになったまま動けないでいた。

 

 だが、証拠を拾うこともできなかったこの状況故に原因を理解できた。

 その思考を読み取ったのか、ルシファーは「そうだ」と答えた。

 

「重力だ。お前の周りの重力の力場にだけ、さらに負荷をかけた。これに『慣れる』のが、最初の特訓だ」

 

 指すらも動かせない雄樹は、その言葉を聞いて歯を食いしばった。

 

 今受けているのは漫画とかで有名な特訓法だ。重力という負荷を普段以上にすることにより、立って生活ができない状態になる。その状態から起き上がれれば、元の重力下では見違えるほどの能力向上が見込まれるという、理論的に立証されているのかどうか怪しい方法。

 

 理屈で言えば正しいのだろうけど……そんなことをきしむ頭の中で考えながら指を動かそうとする。が、例えるなら全体に重石がのっかっている状態。均等に抑えつけられている中で一部を動かそうとしても、難しい。

 

 歯を食いしばりながらも重力の拘束に抗っていると、ルシファーが檄を飛ばしてきた。

 

「これくらいすぐに跳ね除けられないなら、今回生き残るのは難しいぞ!」

「!!」

 

 言われた未来を思い出し、歯を食いしばりながらも懸命に、自分はまだこんなものじゃないと言い聞かせるように、指を動かそうと脳に命令にする。

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 必死に、ただ必死に指先を見ながら力を込めていったとき、不意に抑えつけていた重力が消えた。

 

「あぁぁぁぁ! ……あ、あれ?」

「惜しかったな。けど、それ以上やるとお前が死にかねないからな辞めた」

 

 突如として消えたことに戸惑いながらも勢いよく立ち上がった彼は、ルシファーの言葉に生返事をするほかなかった。

 

「で、今筋繊維ボロボロで全身動かそうとするたびに激痛が走るだろ」

「え……っつぅぅ! あ、がぁぁぁ!!」

「寝てろ」

 

 ルシファーに言われて歩こうと足を上げようとしただけで過去最大の激痛が全身を駆け巡り、雄樹は絶叫する。今まで痛みに慣れたと思っていたが、まだ先があった事すらも考えられない彼は、ただ、叫び続ける。

 が、その姿を見てすぐさまルシファーは右手を彼に向けて魔法を使い、そのまま眠らせた。

 

「食事も回復手段もないこの場所で特訓なんてやってられるか」

 

 そうぼやいた彼は右手で指を鳴らして雄樹を消し、ついで自分も転移した。

 

 その世界に残ったのは、クレーターだけだった。

 

 

 

 一方その頃大智の消えた地球では。

 

「やっぱり無理なの? 天上」

「手紙を読んだのだから状況は理解できてる筈だろうけど、難しいだろうね。人間が神様の謀を超えるというのは」

「そう……」

 

 力也が一人大学の食堂の席で読書をしていたところ、アリサがそんなことを話しかけてきたので顔を上げないまま答える。予想が出来たその答えだが、アリサは実際に聞くと歯ぎしりをしたくなった。

 

 表面上彼らは大智の退場を受け入れている……のだが、全員納得がいっていなかった。

 

 アリサは一人でいると大抵苛立って八つ当たりをしたり、力也は体を鍛えながら突如としていなくなったライバルに恨み言を吐いたり、すずかは研究室に籠りっ放しになったり、一番の被害者であろう社長代理になった裕也は事務処理などでてんやわんやになって頭を抱えていた。

 

 とまぁそんな状況なのでこちらはこちらで何とかして大智に戻ってきてもらおうという意思が強くある。

 

「……全くアイツは」

「僕に当たられても困る。文句はいなくなった当人へどうぞ」

「いないのだからしょうがないじゃない」

 

 不機嫌さを隠さずに言い放つ彼女に、「そんな実益のない事はいい加減にやめて、少しは月村さんの手伝いでもしたらどうだい」と助言する。

 

「とはいってもね、すずかのやってることって下手に手伝えないのよね。あいつが作ったものを解体して仕組みの分析とか」

「サポートするのも手伝いの一貫だと思うけどね。メイド二人が動き回っているようだけど、君のサポートが合わされば良くなるんじゃないかい? 若しくは、停滞してる高町さんたちに檄をとばすとか」

「停滞って……何であんたが……ああ。悪魔ね」

「そういうこと。雄樹もいなくなって本気でダメだと思ったけど、八神は戻れたらしい。あの世界で必死に食らいついてるようだ」

 

 あの世界。それでアリサは高校生の頃を思い出した。そして、手紙に書いてあったことも。

 

「『勝てるかどうかは彼女たち次第』そう、書いてあったわね」

「まぁ僕達が手伝えなくはないのだがね」

「サポートぐらいしか出来ないのよね。矢面に立つなのは達に」

 

 その言葉を力也は否定する。

 

「危険を伴うが、彼女達の戦闘に参加できる可能性はある」

「本当なの、それ?」

「大智は多分、お勧めしないだろうね。まぁもっとも? 彼を引っ張り出すなら僕達も戦場に出張るぐらい引っ掻き回さないといけないだろうが」

「……なんというか、あんたも口が上手くなったわね」

「そりゃどうも。で? 知りたいかい?」

 

 話題を戻すように問いかけたところ、アリサは「すずかの解析を終わらせればいいんでしょ?」と正解の一つを口にする。

 

「それもあるが、もっと早い方法がある」

「何よ?」

「バニングスや月村さん、元一や水梨さんの手紙は一枚だけだったろ?」

「あんた達もそうだったんじゃないの?」

「いや、僕と裕也にはもう一枚手紙があった」

「ハァ!?」

 

 驚いて勢いよく立ち上がるアリサ。それを周囲の人は注目するが、彼女は気にせずに「なんで言わなかったのよ!!」と怒鳴った。

 

「理由は単純に何でも屋の営業に関するものだったから……というのが半分で、もう半分はあまり刺激してこっちに厄介事を持ってきたくはないからだ」

「何よ、その厄介事って」

 

 座り直して彼女は質問する。

 彼は少し間をおいてから本を閉じ、テーブルに置いといた缶コーヒーを飲んでから「管理局――つまり高町さん達が所属する組織さ」と答える。

 

「管理局? どうしてそこでそれが話題に挙がるのよ?」

「彼女達の役割を分かっていれば、どういう人物かは大体想像できると思うんだが」

「……」

 

 力也に言われて彼女は考え、そしてすぐに答えを出した。

 

「……犯罪者?」

「正解。とは言ったものの、現状はもう犯罪行為をしない良い人たちみたいだけどね。だからちょっと面倒になるのさ。彼らの痕跡が分かってしまうと」

 

 実際に遭ったことはないからどういった人物かは想像するしかないけどね。

 

 そう言って締めくくった力也が席を立とうとしたところ、「場所は知ってるの?」と質問されたので「まぁね」と短く答える。

 

「なら、教えなさいよ」

「行く気かい?」

「ええ。すずかもつれてね」

「そうかい……なら大智とつながりがあり、管理局と関係がないことを示さなければ誤解を招くだろうし持って行くといい」

 

 そういうと力也はポケットからバッジを取り出してテーブルに置く。

 

「何これ」

「社員証みたいなものだ。「博士」はどうやら異世界側担当のようだけどね。まぁ見せて事情を話せば理解してくれるだろう」

「……ありがと」

「なに、僕一人だけ向こうで暴れるだけじゃ意味がないだろうと判断しただけさ」

「……すでに行く気満々じゃない」

「あいつが神様になろうが関係はない。負けっぱなしのまま逃がすなんて、僕の名が廃る……分かるだろ? 君達だってあいつを好きで、戻ってきて欲しいと願うのなら」

「天上……あんた、いい意味で変われたわね」

「それぐらいはあいつに礼を言っても良いかな」

「借りるわ」

「ああ、頑張ってくれたまえ」

 

 そう言って力也がエールを送ると、アリサはバッジをポケットに入れて電話しながらその場を後にした。

 見送りながら、「愛、ね……果たして神様はそれを抑えつけられるかな、マモン?」と呟く。

 

 彼の脳内で『ケケッ。どうだろな。俺達には関係ねぇ話だ』と聞こえたが、力也は本を持って立ち上がり、缶をゴミ箱にノールックで入れてから歩き出しつつこう反論した。

 

「そうかい? 意外と君たちも関係あると思うけどね? 例えば僕との契約が切れたり、とかさ」

『……』

「あんまり人間を舐めない方が良い。現に君たちの力を借りてもこうして僕は平然としているのだからね」

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