世にも不思議な転生者   作:末吉

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気付けばお気に入りが増えるという珍事。ありがたいです


15:入院

 …………ここは。

 

 『俺』は周囲を見渡して現状を確認する。

 辺り一面真っ白……という訳でなく、白い空間の中に一部だけ黒い点が存在していた。

 

 いや。点じゃない。これは穴だ。なんとなくそんな気がした『俺』は、何気なく近づいて穴を覗く。

 

 そこに映っていたのは、体のあらゆる部分が欠落している俺だった。

 腕は消え、目は潰れ、足は粉々になり、体からは粒子のような「何か」が消えて行った。

 その代り、その周りに漂っている黒い「何か」がその部分を補填するかのようにまとわりついていた。

 

 そこでふと気づく。『俺』は今、何を見ているのだろうかと。

 あの黒い空間にいる俺は一体誰なんだろうかと。

 

 白い空間の中にいる『俺』は首を傾げて考えていると、上から声が聞こえた。

 

『あれから三日……いや。無理矢理寝かせてからだから、入院してからだと五日か。暇だ』

『しかしこいつの体も大概だな。あんな瀕死の状態だったのに、いまや外傷の痕もなく、後は骨折とかの内部的なものだけらしいし。親に似たのかね……』

 

 聞いたことがある……声。確か、あの時の……

 

 思い出していると、また別な声が聞こえた。

 その声は事務的な報告をするように感情を感じさせない口調で、誰に向けてだか言っていた。

 

「完全回復まであと24時間。それに伴い【力】に関しての制限を最大にまで引き上げます」

 

 その瞬間。急に『俺』の体が重くなった気がした。

 一体何なんだ――そう思っている内に『俺』の視覚情報が消え、こんな言葉が耳に残った。

 

 

「回復終了。これにより長嶋大智の意識が覚醒。――――の意識は封印されます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「お。やっと目覚めたか。あんまり友達の奴らを心配させるなよ、おい」

 

 目を覚ましたら、強面な男が俺の顔を覗きながらそんなことを言っていた。

 

 一体誰だと言いたかったが口が開けず、体も妙にだるかった。

 確か俺はあれを使って呪獣を倒し、誰かが近づいてきたからすぐさま家へ帰って……そうだ。

 家に帰ったがすぐに意識が途切れたんだ。

 それがどうしてこんな状態になっているんだろうかと目をつむりながら思っていると、強面の男が感心していた。

 

「医者曰く、2週間は意識は取り戻せないほどらしいんだが……本当すごいな、おい」

 

 それに対して返事をしようにも体は動かないし口も動けないので何もできない。

 おそらく麻酔か、それ以上に強い薬を打たれたからなのだろう。少し重い頭でそう推測する。

 

 あっちの世界ではこんなものなかったな。人員不足みたいな状態がどこの国でも起こってたから一秒でも長くということで医療技術――しかも迅速治療技術が発達してたから、『サルでもできる人体接合』やら『飲むだけで内部の傷を治す薬』やら、そんなものが結構あった。

 なので、当然麻酔なんてものはあの世界ではあまり使われなくなったので(手術の時では使ったが、それでも手術時間終了で効き目が切れるものぐらい)、こういうのは新鮮だったりする。

 

 さっさと体を動かして調子を確かめたいと思いながら目を開けると、いまだ強面の男が俺の顔を覗いていた。

 

「お、開けやがったか。起きたんだったら開けとけ」

 

 そう言うと、男は視界から消えた。

 

 何がどうしてこうなっているのかわからないが、少なくとも簡潔にわかる事実があるとすれば。

 

 

 ――――どうやら俺は、入院しているという事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別段入院すること自体に疑問は抱かない。【F式】を使用した後は大体入院コース、と言うサイクルがあの世界でも通例だったからだ。

 

 最終術式コード『限界突破』。通称【F式】。

 

 これは、あの世界で俺が神様達と戦闘出来る様になった術式で、実質俺にしかできないものだったりするのだが、使うときは大体単騎決戦だったので、存在自体明るみに出ていないだろう。

 

 術式、と言っても魔法とかそういうものではない。一種の催眠解除のキーワードだ。

 

 俺は普段、身体能力を意識的に抑えて生活している。だが、それだと怒りで我を忘れた場合すぐさま元に戻ってしまう恐れがある。

 故に俺は『体に見合った身体能力のみ持ちえる』という自己暗示を自分でし、それを無意識へ埋没させていた。

 その結果『身体能力は人並み以上だが、それを引き出すには自身の体の限界が上限』という制約がつけられた。

 

 まぁあっちの世界ではやる必要なく制約されていたようだが、こちらの世界では一度死んだからかなくなってしまい、自分でやる必要が出た。それに気づいたのは、公園で一人遊んでいた時だったとは、幸運なのかそうでないのか。

 

 ……話がそれた。要するに、そう言った催眠を解くため――身体能力を限界まで引き出すための術式と言う言葉を借りたキーワードが【F式】なのである。

 

 なのだが……今にして思うと少々腑に落ちない点が存在する。

 

 それは、呪獣という呪神よりは弱いがそれでも天災より恐ろしい存在を俺一人が【F式】を使っただけで倒せてしまうことだ。

 あの世界で使っていた武器に似たものを作って持参していたとはいえ、所詮劣化版だ。それこそ夜刀神に傷一つつけられないくらい。

 なのにあれを口にして飛び出して呪獣に攻撃し始めた時、案外バッサリと切り刻まれているのに違和感を感じた。

 それに、体が傷だらけになっているのにその痛みが来ないのもおかしな感覚だった。まるで痛覚神経を「何か」が阻害しているか、それこそ切れた神経をつなぎ合わせていたかのように。

 

 そんなことを考えていたら麻酔が抜けたのか、体全体に力が戻るのを意識的に感じした。

 

 ようやくしゃべれるな。そう思い口を開いたが、ここで動きを止めた。

 

 

 なんといえばいいのだろうか?

 

 意識は覚醒したし、麻酔も抜けた。体が動かせるようになったので別に問題ないのだが、いざしゃべろうと思うと何を言えば正しいのかわからなくなった。

 

 ………………起き上がった方がいいか。

 そう結論付けた俺は、素直に起き上った。

 そして周囲を見渡すように首を回す。

 

 見えたのは白い天井、夕日が沈む景色が映っている窓、そして本を読んでいるらしい強面の男。

 面識の覚えがない俺は、素直に聞いた。

 

「誰だ?」

「!? い、いきなり声をかけるんじゃねェ! 驚いちまったじゃねぇか」

 

 声をかけられた男はびっくりしたらしく本を落としそうになり、拾いながらそんなことを言っていた。

 集中すればそんなことにでもなるのだろうかと思いつつ、もう一度質問した。

 

「誰だ?」

「……ハァ。分かってはいたが随分とマイペースだな、おい」

「…………」

「あぁ、分かった分かった。ちゃんと紹介すっから。だからそういう目はやめろ」

 

 そう言って男は本にしおりを挟んで閉じ、立ち上がって咳払いをしていった。

 

「本官の名は宮野勝也巡査であります。趣味は喧嘩にサバイバル、登山などで、二十六歳独身であります! ……って感じだ。ちなみに、こうしているのはお前の学校の理事長の提案で、お前の両親は俺の恩人だ」

 

 ………………。どう反応すればいいのだろうか、これは?

 自己紹介を受けた俺はそう思い、非常に困った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――てな感じだ。隣が高町さんでよかったな。後で礼でも言っておけ」

「高町が俺を見つけたのか……となるとあの場にいたのはやはり……」

「何を言ってるかしらんが……体の方は大丈夫なのか?」

「問題ないかもしれないから動きたいのだが」

「大丈夫じゃね? すでに起き上がってるし」

「随分簡単だな、警官」

 

 俺がここにいる経緯を教えてほしいというと、宮野巡査は簡単に説明してくれた。

 ……途中に出てきた雑談に関しては流すことにした。

 

 が。理事長に関してはますます謎が深まるばかりとなった。

 

 俺の両親の関係などこの際どうでもいい。家の場所を知っているのも良しとしよう。

 

 だが宮野巡査曰く突然現れ、突然消えた。学校の経営者である人間にそんなことが可能なのか。

 などと考えたところで、彼が「おお。すっかり忘れた」と言って部屋の隅へ移動したので切り上げ、彼の姿を視線で追った。

 

「お前が寝てる間に見舞いに来た客が置いてったものだ。執事付きやらメイド付きやらいたが……お前って実はモテる?」

「まさか。単純に付き合いの上での行動だろう。そこに心配と言う単語はないはずだ」

 

 俺がそう吐き捨てると、「あー、なるほど。だからか。分かった分かった」と、宮野巡査は勝手に納得した。

 

 そして持っていたものを置いて俺に近づいたかと思うと、俺の事を思いっきり殴った。

 

「ぐっ!」

 

 俺にとってはビンタされるのと変わらない衝撃だったので吹き飛びもせず、顔が左を向く程度だったが、いきなりの事だったので混乱した。

 

 なぜ殴られたのかはわからない。

 そんな風に思っていると、彼が教えてくれた。

 

「俺はあいつの言はいまいち信用ならない気がして嫌だったんだが、今のお前を見て納得した。お前、無意識的に、それか意識の奥底で『嫌われることが正しい』とでも思ってるんじゃねぇか? 最悪のケースだと、他人を信じていないか、だ」

 

 ピクリ。彼の言葉に俺は反応した。

 

「その反応だと当たりのようだな……ったく。こんな説教に俺を回すという意味を知っているとしたら、あいつはどこまで知っているんだよ」

 

 そう言って息を吐く宮野巡査。そのしぐさに煙草を加えたら栄えるだろうなぁと適当に考えたら、何故か病室の外に出ようとしていた。

 

「どこに行く?」

「タバコ吸いに行ってくる。ついでに、飲み物でも買ってきてやるよ。話はそのあとだ」

 

 そう言って本当に病室を出て行き、誰もいなくなったので俺はベッドから出て準備体操を始めながら、先程の言葉を考えていた。




拝読ありがとうございます。
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