世にも不思議な転生者   作:末吉

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と銘打ってありますが、はたしてその通りに感じてもらえるか不安です。


16:説教

 準備体操を終え、肉体的損傷が完全に回復したことを確認した俺はベッドに座り、【F式】について考えることにした。

 

 何故かと問われると、自分で思い返してみて疑問にしてはあまりにも小さな引っ掛かりだが気になる点が存在したからだ。

 

 俺がこれを覚えたのは、あっちの世界の八月。立花遥佳が神様の話を聞いて俺をとある場所へ連れて行った結果である。

 

 場所、と言っても寂れた神社の中に閉じ込められたのだが。

 

 そこで色々あって覚えたのがあれだったのだが……出るときに何か言われてたな。

 確か……『捨てなければ手に入らない力だ』だった気がする。

 なにを、などと問う前に崩壊したので聞けなかったが、今にして思えばあれは『感情』という人間らしいものを捨てなければその力は使えない、という意味だったのだろうか?

 さらに言えば、自己意識内に埋没している自己暗示は本当に必要なのだろうか?

 

 そう考えると【F式】と感情についての関連性が見えてくるのだが果たしてそれが正しいものなのかどうか……などと考えていると、ドアの前に気配が三つ。

 

 宮野巡査は先ほどの対面で知っているが、他二人は覚えがあるようでない。

 

 前にあった気がしなくもないんだが……などと思っていると、ドアが開き姿を現した。

 

「おう坊主。テメェにはお茶をプレゼントだ」

「ありがたい。飲んだことがあるモノだ」

「だから無表情で言うなって!」

 

 お茶を入り口から投げられたのでキャッチし礼を言ったら怒られた。

 

 なんでだろうか?

 頭の中で疑問符を浮かべながらプルタブを開け飲んでいると、宮野巡査の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「……ん? この声、どっかで聞いたことあるような……」

「はやて。ひょっとして……」

 

 う~~む。つい最近あった気もするしそうじゃない気もするのだが……ダメだ、思い出せん。

 俺は探るのをあきらめ、彼に尋ねた。

 

「宮野巡査の後ろにいる二人は誰だ?」

 

 そう聞くと彼は後ろをちらっと見て笑顔で言った。

 

「ん? ああ。この二人は診察が終わったらしく暇そうにしててな。最近図書館である人を見かけんっていうから、とりあえず会わせるために連れてきた」

「誘拐?」

「失敬な! 善良なる一警官の、心あふれる配慮です」

「説教するには邪魔じゃないか?」

「一緒に説教に参加してもらうんだよ」

「…………」

「何ため息ついてんだテメェ!」

「あぁ! 大智や!! シグナムに言われて半信半疑やったけど、ホンマに大智や!」

「はやて。病院では静かにと、あれほど言っていたじゃないですか」

 

 なんか無計画っぽい宮野巡査の言にため息をついたら、彼の後ろから地方語でしゃべる声とそれを諌める声が聞こえた。

 この声でようやく誰だか思い出した俺は、だがそれに触れることなく宮野巡査に話しかけた。

 

「病院では静かにした方がいいのでは?」

「…………チッ」

 

 そう言って自分はパイプ椅子に座ってしまい、彼の後ろにいた二人の姿が完全に露見した。

 

「よくも無視してくれたやん」

「……中に入ったらどうだ?」

 

 そう言うと車いすに乗った少女――八神はやてがその隣の女性――シグナムに押されながら中に入った。

 

 ……やれやれ。とんでもない再会の仕方だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ。なんで最近図書館へ来ないん?」

 

 入っていきなりそんなことを言われた俺は、最後に入ったのはいつだったのか思い出していた。

 

 ……………………猫について調べたときか。

 

 存外時間が経っていないことに驚くところだが、理由を探さないといけないと思い探した結果。

 

「そんな暇がなかったから……だな」

「そうなん?」

「ああ」

 

 うなずいてから色々と思いだすが、とんでもない悩み事しかなかったので忘れることにし、俺は宮野巡査に視線を向けた。

 

「お。なんだ、説教を聞く気になったのか?」

「まぁな。さすがに他人がいるから早めに終わらせた方がいい」

「何の話や?」

 

 たまらずはやてが割り込んでくる。シグナムはというと、静かにはやての後ろに立っていた。

 彼ははやてを見ながら、俺を指さして言った。

 

「こいつに説教するって話だ」

「説教? 何かやらかしたんか?」

「いっぱいあるぞ……っていうのは冗談で。こいつのあほな考えを矯正させようっていう意味での説教だ」

「あー、なんか分かるきがするわ。図書館でもつかみどころが全くといっていいほどない感じしたし」

「だろ?」

 

 なにやら話が俺抜きで盛り上がっているのだが、そろそろ始めてもらいたい。

 そんなことを思っていると、ようやく説教が始まった。

 

 

 

 

 

 

「まず最初に言っておく。テメェがなんでそんなにも交友を拒絶しているか分からねぇ。だがな、そういった行動をとっている感情ならわかる(・・・・・・・)。俺も昔はそうだったからな」

 

 いきなり昔話をされたが、ここはどう解釈すればいいのだろうか。そう思ったが、後半の部分で聞き逃せない単語が出てきたので話を聞いた。

 

「俺もつい最近まで……といっても十代後半までだが人間不信でな。人と関わるとロクな事がないとか、誰も信用できないとか思っていたわけだ。とりわけ、大人とか同年代とかの事は」

 

 俺は別に……などと思ったが、

 

「お前もそうだろ? 一人でも生きられるから別段かかわる必要がない。だったら関わることが億劫だと。そう思ってるんじゃないのか?」

「……」

 

 図星で黙る俺に、愉快そうに笑いながら彼は続けた。

 

「やっぱりか。目が昔の俺に似てたからそうだとは思ったが……あの二人の間に生まれたのに何がどうしてこうなったのやら」

「続きは?」

「おぉ、そうだった。で、だ。まぁ人なんて嫌いってまで考えが至ってからずっと喧嘩に明け暮れてたんだが、ある時お前の親父さんに出会ってこう言われたんだ。『寂しい生き方してるな』って」

「寂しい? 本人の指針で生きてるんだから寂しいとか言われる必要ないんじゃないか?」

「よくもまぁそんな難しい言い回しができるな、本当。……でもま、当時の俺もそう考えて反論したんだよ。『あんたに言われるほど寂しいわけじゃない』って。そしたらなんて返してきたと思う?」

「知らん」

「『殴ることでしかつながりを求められないなんて、寂しい以外の何物でもないだろ』そう言ったんだよ」

「つながり……」

「そう。俺は別につながりを断ちたくて喧嘩してただけだと言い聞かせてたんだが、どうやら本心はつながりを求めていたんだと、お前の親父さんと喧嘩してわかったよ」

「でもそれは結局のところ他人の意見だろ?」

「本当に猜疑心の塊だな。否定する行動の中に自分の本音が隠れている。これもあの人が言っていた言葉だが……今のお前を見ていると、確かにそうだな」

「なに?」

「さっきも言ったが」

 

 そこで言葉を区切り、彼は缶コーヒーを飲む。

 

「ふぅ。……本当に嫌ならすぐにでも山里に引っ越して誰ともかかわりを持たずに生活すればいい。だが、今のお前はどうだ? こうして少なくとも俺やそこにいる八神さん達、そして高町さん達と関わりあいになっているのに特に嫌なそぶりを見せない。口では嫌そうな言葉を言っているにもかかわらず、だ」

「……それは」

「遠慮してる? 違うな。昔の俺と一緒で臆病なんだよ、お前は。感情を出すことで、人と積極的にかかわることで、その人から嫌われるんじゃないかと思う程に」

 

 宮野巡査に矢継ぎ早に言われる言葉に押し黙る俺。同時に、親父が最後に残した言葉を思い出した。

 

『ちっとは周りに合わせて生きてみろ』

 

 これは暗に、『周りのつながりをちゃんと作っておけ』という、我が親のアドバイスだったのだろう。確証はないが。

 そうこうしていたら、巡査は結論を言ってくれた。

 

「人生の先輩からアドバイスだ。人のつながりってのは、衝突ぐらいじゃ切れないぜ。だから、感情を出していったって問題はない!」

 

 恐れずに出していけ! そんな言葉を親指を突き立てていい笑顔で言ってくるので、俺も真似して笑顔を作って親指を突き立ててみた。

 

「こうか?」

「! ……ぷっ。アカン。ツボや……はっはっはっはっ!」

「おまっ、それはとてもじゃないが笑顔に見えないぞ!」

「……そうなのか?」

 

 彼に言われて俺はまねるのをやめたが、八神がツボにはまったらしくまだ笑っていた。

 

「……まぁそこら辺は時間が解決してくれるだろう。まだガキなんだし、感性が成長すれば感情の出し方も、おのずとわかるはずだ」

「どこかの修行僧か?」

「そこは勢いよくツッコミを入れるのがベストやろ」

 

 さり気に会話に入ってくる八神。結局こいつは何のために連れてこられたのだろうか?

 そう思っていると、八神が巡査に話しかけた。

 

「なぁお兄さん。大智っていつまで入院するん?」

「さぁな。一か月ほど入院する予定だったのが完治したらしくて。まぁ明日医者に見せてから、だな」

「ふ~~ん……せや!」

 

 さり気にすごいことを言ったのに気付いてないのか、何かを考えた八神。

 そのあとに言われたのは、色々と驚く内容だった。

 

「入院してる間、うちが感情の出し方の練習を手伝ったるわ! 図書館の時に割と世話になったし!」

「……」

 

 何を言い出したんだろうか、こいつ?

 そう思って彼を見ると、大きく頷いていた。

 

「えぇやろ?」

「……い」

「おい坊主。今さっき言ったこと思い出せ」

「『さぁな。一か月ほど……』」

「そこじゃない! お前、今のボケか!?」

「今さっき言った言葉を復唱しただけだ」

「畜生! ここにきてまさかの天然発生だと!? こうなったら否応なくテメェに感情を教えてやる!」

「それはいい案やな! うちも乗ったで!!」

「そうか。そうだよな!」

 

 俺抜きで話が進んでいく現状。はっきりいってどうすればいいのかわからない……と今までは思ったが、話を聞き、アドバイスっぽいのも聞いた俺はとりあえず頭を押さえながら言った。

 

「……お前ら黙れ。うるさくてかなわない」

「「!!?」」

 

 驚く二人。

 そんな二人を見ながら、今の反応は正しいのかと結論付けた。

 

「い、今のって……」

「ああ。微かにだが、あいつが怒ったぞ」

「ということは……」

「早くも特訓の成果が出たか!」

「そんな特訓してないし、そもそも特訓は了承したわけじゃない」

「間をおかずに返事が出来る様になったで?」

「これは……会話するごとに進歩するタイプか!」

「何がだ」

「大智……恐ろしい子!」

「だから何がだ!」

 

 つい声を荒げてしまった。ああ言われ続けると、さすがにこうして怒鳴らければ黙ってくれないと思った故に。

 こんな会話は、シグナムが止めに入るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

 宮野巡査と八神のコンビに対して怒鳴り倒していたら、なんだかどっと疲れが出た。

 

「疲れた……」

「結構楽しかったな。あの子も元気に混ざってきたし」

「なんであれだけはしゃいでまだ元気なんだ?」

「そりゃお前、感情を出し慣れてるかどうかの違いだろ」

 

 俺も昔はそうだったんだぞ。そう言いながらコーヒーを飲む巡査。

 俺はというと、あくびを漏らしていた。

 

「眠い……」

「寝ろ寝ろ」

「お休み」

「おう」

 

 巡査に促されて俺はまぶたを閉じ、意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *……視点

 

 

 

「寝たかね」

「理事長や。お前の神出鬼没ぶりには慣れたつもりだが、それでも窓の近くから出てくるのはどういう仕組みだ?」

「影があるからこそ光がある。単純にいうと、黒と白の境界線で生きているからね」

「ますます分からん」

 

 そう言うと、宮野はコーヒーを飲み干し缶をテーブルに置いた。

 

「で?」

「で? とは?」

「とぼけるな。俺を使ってこいつに少しでも感情に興味を持たせる気だったんだろ?」

 

 その問いに理事長は笑っただけで答えなかった。

 

「相変わらずの腹黒さだな」

「失礼な。私はただ円滑に進めるための準備を適材適所にしてるだけだよ」

 

 さらりと言われたセリフに疑問符を浮かべる宮野だったが、窓の景色を見るように椅子から立ち上がると、穏やかな表情をしながら言った。

 

「お前の思い通りに動くのは癪だけどよ、こいつと接してわかったことがある」

「なんだね?」

「こいつは、一方面では俺に似ている。だが、他方面ではやっぱりあの二人の子供だということを、な」

「他人に似ていると思うのは、共感する部分のみだ。それ以外は全く違う要素しかない」

「そういう部分、お前とこいつは似てるぜ」

「……」

 

 一矢報いたとばかりに笑う宮野。それを見た理事長は何も言わなかったが、いい気分ではなかった。

 

「で?」

「ああ。だからなのか、俺はこいつの事を気に入った」

「そうか」

「お前もそうだろ?」

「どうだろうな?」

「まぁともかく。明日医者に見せて退院って流れになるだろうぜ」

 

 そう報告すると、「分かった」とだけ言って、理事長は消えた。

 残った宮野は缶を捨ててから、壁にもたれかかって寝た。




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