世にも不思議な転生者 作:末吉
「ふっ!」
俺は横に駆け出し、同じように走ってる夜刀神に向かって連射する。
ダダダダダン! 勢いよく弾が発射されるが、落下物や夜刀神自身が張っている神壁のよって防がれた。
ちっ。やっぱりこれはあんまり役に立たないか。そう思いながらホルスターに戻し、太刀を両手で持って夜刀神に接近する。
夜刀神は迎え撃つ気らしく、移動をやめ両手を広げてきた。
「さぁおいで! 僕の胸へ!!」
「そのセリフは聞き飽きた!」
銀色の太刀を下から上へ切り上げる。丁度、太刀の切っ先が届く距離で。
ガギギギギギ! 神壁に切っ先が当たり火花が散る。
本気で力を入れ、さらに自分の魔力を太刀にまとわせてるのに破れていない。
振りぬいた俺は同じ個所を斬るために返す刀で同じ場所に振り下ろす。
パリン……そんな音が聞こえ追撃をしようとしたが、俺は後ろに下がって距離を取った。
「やっぱり分かっちゃう?」
「嫌でもな。お前を理解していると」
「ふふっ。嬉しいね。でも、悠長にしてられないよ?」
その言葉と同時に落下してくる壁やら何やら。
見上げると、いくつもの宝石もどきが何やら発していた。
その上、至るところの床に黒い空間が出てきた。
「……なんだこれ」
「虚数空間、って言ってね。魔法を無効化し、空間に取り込まれるっていう代物さ」
「そうか」
夜刀神が親切に教えてくれたが、俺は礼も言わず再び太刀を持って近づく。
「ハァァ!」
横に一閃。しかし夜刀神が出した黒いもののせいで防がれる。
「ちぃ!」
「
防いだ夜刀神がそう言葉を発し、黒いものは形状を変えた。
防いだときは盾だったのに、今では前方の俺を殺すための――――
前方180度一斉攻撃の棘と。
その棘が発射される数秒前に俺は全力で後ろに逃げ始めた。
夜刀神は、死と呪いの神格。故に黒いものの正体は、死。
触れたりなんだりしたら関係なく死ぬ。そう思うと、俺の体は反射的に下がった。
「くっ!」
俺は舌打ちした時棘を出し終えたのか消え、今度は球状となった。
さっさと終わらせたいのに厄介だ。そう思ったが、夜刀神の姿がいなくなってるのに気付いた。
「どこに……」
「ここだよ」
その言葉が後ろから聞こえ反射的に距離を取った瞬間、前方にあった球状がレーザーとなって俺の腹に貫かれた。
「がぁぁぁぁ!」
思わずその場にうずくまり、貫かれた部分を抑える。
『マスター! 立ち止まっちゃダメです!!』
「あはっ!」
ナイトメアと夜刀神の声が重なって聞こえ、俺は背後から蹴られた。
人間以上の力を有する蹴り。俺も似たようなものだが、蹴られた衝撃を緩和できるほど余裕がなかったため、そのまま反対側まで吹き飛んだ。
ゴガン! と壁を突き抜け真正面から壁に激突した俺は、さすがに意識が朦朧としていた。
これからの事を考えようにも血が足りないのか思考がまとまらず、体のあちこちが折れたりなんだりしているのか力が入らず太刀を持ってるかどうかわかりにくい。
ただ魔力のおかげか、なんとか体を動かすことができる。
ならまだやれる。そう思い直し、俺は壁から抜け出し振り向く。
「前世と違って結構ボロボロじゃない。そんなんじゃ僕の愛を受け止めることなど出来ないよ」
「……はっ。余裕だな、おい」
「実際ね。君、前みたいに使わないから」
「?」
「魔力というものだけに変換してるせいだろうね。前にも言っただろう? 君は元神様だって。いくら魔力で能力を強化しても、元々の身体能力が高くても、神様本来の力には及ばないのさ」
だから、もう殺してあげるよ。僕のモノにするために。
そう言うと夜刀神は俺の元へ駆けだした。
俺はとりあえず右手に太刀を持っているのか確認。
持っていると分かったので、何も考えず右から左へ太刀を振った。
いくらボロボロとはいえ、それでも振り続けたことがあったので剣速は余り衰えず、結果的に
立花遥佳の体が真っ二つに斬れた。
「……え?」
驚く夜刀神。突進してきた勢いはそのままで、二分された体は壁に激突した。
「な……ん、で……?」
真っ二つになったのにしゃべれるとは恐ろしいと思いつつ、俺は太刀を杖代わりにしてなんとか立ちながら言った。
「……『神壁を壊せば強い人間と変わらず』。俺達が発見した、お前たちの突破口だ」
「なる……ほど…ね。道理で大火力の物量押しが流行ったわけだ」
「……」
俺はボロボロの体で夜刀神に近づいてみる。すると奴は、笑っていた。
何かおかしいものでもあるのかと思いつつ、訊ねた。
「さっき飛ばした奴らは?」
「……さっきの子供たちが乗っている船の中だよ」
「どうして笑っている?」
「…………君は本当に輪廻に似ているね」
輪廻と言われ、俺の体が一瞬固まる。
「そんなに、似てるのか?」
「まぁね。『アレ』を起こす前の彼は、今の君みたいなものだった」
「そうか……」
俺は太刀を置いてそのまま座る。
驚く様子の夜刀神を無視し、俺はナイトメアに呼びかけた。
「ナイトメア、訊きたいことがある」
『その前に回復魔法を使ってください!』
「別段動きが鈍くなるだけで問題ない……ところで、神様の野郎と通信できるか?」
『デバイスに尋ねる機能じゃありませんよ』
「それは困ったな……」
あることをしたくて神様が作ったデバイスに通信できるか尋ねたのだが……なかったか。
何かほかに方法があるかと考えかけた時、急に頭の中に声が響いた。
――――俺の力でも使うか? 封じられているとはいえ、他の神様と交信ぐらいならできるぞ
「……死にたいんだろ?」
思わず口に出して聞いてしまう。己の内に呼びかけた奴がいるのにもかかわらず、だ。
また、声が響いた。
――理事長が言っていた言葉。それと昔を思い出してな。いつまでもこうしてるわけにはいかないと思ったわけだ
…………昔、か。
ああ。今、はっきりとわかった。あの方がどうして俺にこんな罰をさせたのか。その答えを示したい
「そうか……なら、
脳内に響く声に俺はうっすらと唇の端を上げながら言い、文字通り変わることにした。
「俺をこの世に転生させた神様……どうせスサノオあたりだろ? ちょっと話があるから来い」
「やれやれ。久し振りに呼んだかと思ったらいきなり命令とは……輪廻よ、ずいぶん久しぶりじゃの」
俺の呼びかけにどこからともなく現れた大男――スサノオ。
文句を言いながら挨拶をしてきたので、俺は「久し振りだ」と言って早速本題に入った。
「長嶋大智からの伝言だ。『俺の願いは夜刀神のせいで狂わされた女二人を元に戻せ』」
「原作から離れていくのぉ」
「そんなの些末な事だろ。あいつは、自分がまきこんだと思ってるみたいだ」
「優しさも一周回れば性格破綻か。……お主はどうするつもりじゃ」
何気に貶してるスサノオが俺に尋ねてきたので、俺はフッと笑いながら言った。
「なに、ケリをつけに行くだけだ」
「もう足場がないな」
「まぁ崩壊しとるし、儂らがいたところが最後の足場だったのじゃろう」
「なぁスサノオよ」
「む?」
宝石が輝いている場所まで来たはいいが足場らしきものが全くない。そこで、黒い空間で埋め尽くされているのを見て感心しているスサノオに、俺は尋ねた。
「俺とあいつの魂を分けられるな? やってくれ」
「……何を言ってるのか、わかってるのか? ……まぁ無理なんじゃが」
無理、か……。ならば仕方がない。
そう思い直し、俺は【力】を開放する。
すると、銀色だった太刀が炎を纏い出した。
「地獄道の象徴は扱えるようになったのか……神格がなくなってるのに」
「おそらく、あの方の慈悲じゃろう。今もお前さんの事、心配していたからの」
「厳しいのだか優しいのだか、よくわからんな」
「で、どうするつもりじゃ」
「知れたこと」
そう言って俺は太刀の切っ先を宝石へ向ける。
「斬る」
「もう崩壊しとるのじゃし、いいのではないか?」
「これは、俺のけじめだ」
「……そうか」
「ああ」
俺の言葉に覚悟を感じたのか、止めるのをやめ一歩引いたスサノオ。
俺は俺で、多少回復した体に鞭を打つように長い助走を取り始める。
距離は十メートルほど。ならば助走からの全力跳躍でも余裕で届く。そこからこの太刀であれを斬ればいい。
そんなことを考える一方で、俺はあの時言われた言葉を思い出していた。
『目に光を取り戻すこと。それが唯一の解放条件だ』
そう言われ幾星霜経ったか覚えていないが、大分長かった気がする。
だが、俺はようやくその条件を解決できる予感がある。
目に光を取り戻す。それは、いつまでも過去を悔やむなという事。過去ばかりに囚われ、悲しみに暮れてばかりいるなという事。
しかしそれは過去を顧みるな、という事ではない。
過去を見つめ、未来を見据えろ、ということだ。
そこまで考え、俺は頭を振って目の前のことに集中する。
さぁ行くか。そう思って駆け出そうとしたところ、不意に誰かに抱きとめられた。
ふと振り向くと、魂だけとなった夜刀神が、俺の背中に抱きついていた。
「乗っ取った体は?」
「きちんと成仏させたよ。僕ももう、長くはないからね」
「だろうな」
……それにしても。どうしてこいつは俺の背中に抱きついているのだろうか?
「本当、君も鈍いね。君が神様だった時からあんなにアプローチしてたのに」
「悪いが、記憶にない」
「だろうね。あの時の君は、一人の人間に好意を寄せていたからね」
「………………ああ。そうなのか」
「え?」
夜刀神との会話で、ようやく理解した。どうして自分があの時やらかしたのか。今まで、死のうと思ったのか。
【あの巫女】の言葉もあったが、それ以前の問題だ。
俺は、あいつのことが好きだった。ただそれだけの事だった。
ならばなるほど。自分の行動にも納得がいく。
要するに俺は怒りで更地にし、死んで再会したいがために死のうと思っていた。
よっぽど好きなんだな、俺。内心で苦笑しながらそう思い、夜刀神に感謝の意を述べた。
「ありがとう。お前のおかげでようやく理解した」
「……え? まだ、理解してなかったの?」
「そうらしい」
そうこうしている内に段々足場がなくなっているのだが、俺はそんなことを気にせず考える。
いやはや。まさかここまで感情を知らんとは。どこまで俺達は似ているのだろうか。全くもって愉快愉快。
そんなことを思ってから、俺は
「感情は理論じゃない。本能だ。事柄に対して感じたことを動作や口調で表せ。それができれば、少しはマシになる」
言い終わった後、俺はすぐさま駆け出しギリギリの部分で跳躍した。
「うおぉぉぉぉ!!」
自分を鼓舞するように叫び声をあげ、炎を纏った太刀を両手で持って頭上に構えたまま宝石もどきまでの距離を身に任せていると。
「死者の怨嗟よ、その恨みを放て!」
そんな声が後ろから聞こえ、俺の横を通り過ぎる形で黒いものが飛び宝石もどきに直撃した。
まったく。自分の手で終わらせようと思ったのか、あいつは。
少しばかり苛立ちを覚えた俺は、後ろを振り向かずにこう叫んだ。
「勝手に死ぬんじゃねぇぞ! 俺の謝罪を受けてからにしろ!!」
そして、宝石もどきたちを上段切りで叩き切った。
――――――やっと、見つけられたようですね
精根尽き果て意識を失いかけている俺の脳内に、そんな声が流れた。
読んで下さりありがとうございます。