世にも不思議な転生者 作:末吉
……………………。
「――――――よぉ」
…………ん。誰かが呼んでる。
「――――気か? いい加減目を覚ませ」
……仕方ない。
そう思って目を開けると、俺と姿が瓜二つ――右頬に炎の絵が描かれている以外はそっくりだった――が覗き込んでいた。
俺は咄嗟に蹴りを入れたが、そいつは特に気にせずに止めていた。
「いきなりだな」
「それはこっちのセリフだ。何の用だ、あんた?」
「礼と助言をしに。もうすぐ消える身だからな」
「そうか」
そいつ――輪廻とでも呼ぶか――の言った意味を理解した俺は、「やっぱり死んだのか」と思ったのだが。
「違う」
「なに?」
輪廻に否定され、思ったことに対して言われていることに対する疑問など消し飛んだ俺は、すかさず訊ねた。
「俺とお前は一心同体なのだろ? なのになぜ否定できる?」
「正確に言うならば『永劫輪廻乃尊という神の魂を元に誕生した長嶋大智という人間』なのだが……まぁいい。まずは昔話をしよう。そこから続けてやる」
そう言うと輪廻は、おもむろに自分の過去を語りだした。
「俺は遙か太古の時代……といっても仏教が広まった時だな。その時に六道輪廻の管理者として存在していた」
「そんな神様の名前、聞いたことないんだが」
「それは後でわかる。当時、俺は死者と生者を見届けていたため、神でありながら人の姿で過ごしていた。現とあの世を行き来しつつな」
「だろうな。六道とは、天界道・人間道・修羅道・地獄道・餓鬼道・畜生道と、迷いを持つ魂たちが生前の業の深さによって落ちる道のこと。そこから六道輪廻は、『生前の罪の深さによってそれぞれの道へ生まれ変わる』といったものになったのだから」
「詳しいな」
「当然。仏教の神様だって襲ってきたんだ。そのぐらい理解してないと」
「そうか……話を戻すが、俺は人間道――つまり現にいるときは、ある村に奉られていた」
「どんな村だ?」
「仏教徒ではないが、神様、というものへの信仰が深い、とても笑顔が絶えなかった村だった」
「……」
「子供達が俺と一緒に遊ぼうとし、村の老人たちは実りを見せて俺に感謝をする。別段何もやっていないのに、ただあがめられている存在だけだというのに」
「それから百年ぐらいたった時、俺に闘神としての神格がついた。どうも他の世界だか他のところでは、戦争が多発した年だったらしい。それと同じ年に、俺に巫女がついた」
「彼女は俺に対して怒ったり、笑ったり、泣いたりしてくれた。齢十四ぐらいだった彼女が、百年近く生きていた俺に対して」
「……なぁ」
「『その時のお前は感情をどうしていたのか?』だろ? ……そんなもの簡単だ。生きる者が死ぬ。そんな循環を延々見続けてみろ。発狂するか、精神が壊れるか、感情が消えるかのどれかだ。俺は、感情を消した」
「やはりか」
「ああ。だが彼女は俺の為なのかどうかは知らないが、いっぱい笑っていっぱい泣いて、いっぱい怒ってくれた」
「そいつはまた……」
「お前も似たような奴がいただろう? そんな話は置いといて戻すが、ある時から彼女の様子がおかしかった」
「どんな風に?」
「いつもなら俺を探しに来て連れて行かれるのが普通なのだが、探しに来ない上に社にいない。そんなことがそれから五日ほどあった」
「さすがに心配になった俺は探しに行こうと思ったが、仕事があったため都合が取れず。結果的にそれから更に十日ほど経った日だ。その村に戻ってみると、何やら様子がおかしかった。そこで社へ急いで戻ると、彼女が佇んでいた。真っ白な着物に、赤い斑模様をつけて」
「その斑模様とはもしかしなくても……血か?」
「そうだ。おそらく誰かの血だろう。それが誰なのかは分からんが。まぁ俺は思わず驚いて『何をしてたんだ!』と聞いたらいきなり襲われた。殺したくなかったため手加減して気絶させたのだが、そこで声を聴いた」
「声?」
「ああ。『こんな奴と一緒に暮らすなんて、土台無理な話だ』とだ。声を聞いた俺は半ば勢いでその声の方向へ彼女が持っていたものを投げたが、それは弾かれた。おかげで姿を現したがな」
「誰が?」
「悪魔だ。仏教にいるほうじゃなく、西洋宗教に出てくる悪魔。願いをかなえる代わりに魂をいただくという方の」
「なんでまた……確か交流などしてなかったはずだろう?」
「秘密裏に交流していたとしてもおかしくはないだろう……ともかく。姿を現した悪魔に俺は心中穏やかではないが冷静に尋ねた。『お前の目的はなんだ』と」
「答えなかったろ?」
「いや。馬鹿正直に答えてくれた。俺という神様を引き摺り下ろす為に俺の事を想っていた巫女に近づき願いをかなえてやったとな」
「馬鹿だな」
「ああ馬鹿だ。そして、そんな言葉に怒った俺もな」
「?」
「人の想いを利用するな! とキレた俺は悪魔を粉微塵にして魂ごと破壊した後、そのままあたり一帯を更地に変えてしまった」
「いやそれは……」
「さすがにやりすぎたと思うだろ? 俺も今となってはそう思うが、如何せん怒りに支配されてたからな。そのあたりは何とも」
「それからこうなったのか?」
「いや。巫女だけにはそんなことをしなかったから生きてはいたんだが、『私も殺してください。あなたのためにと思ったのにこんなことになってしまったのですから……』と言ってきた」
「それで殺した、と」
「少しはためらった。彼女のことが好きだったからな――――が、結局殺してしまった」
「それで今に至る、と」
「ああ」
過去を語り終えた輪廻は俯きながらこう言った。
「…………今となっては後の祭りだ。あの時は最善だと思った。だけど結果は好きだった女を殺し、村を更地に変え、絶望の淵にしか居場所がなかった」
俺はその無表情の中に翳りや後悔、苦痛が見えた。
だから何か言いたいのだが、生憎俺は励ます言葉など使った記憶がない。
どうしようかと頭の中で考えていたが、ふと言葉が漏れた。
「……ありがとう」
「? この流れに礼を言うような箇所があったか?」
不思議そうにしている輪廻に、俺はもう思いつくまま言った。
「ああ。お前には悪いが、あんたのおかげで俺はこうして生まれた。それが一つ。二つ目は力を貸してくれてありがとよ。今回の最後の一撃。あれはあんたが力を貸してくれたんだろ? そうじゃなきゃ、いくら神壁壊したとしても綺麗に真っ二つになるわけねぇしな」
「……」
「最後に。仲間を助けてくれて、ありがとう」
「…………フッ。俺もだ」
輪廻はそう言うと右手を突き出してきたので、俺も右手を出して握手した。
「頑張れよ」
「生きてたら頑張る。『人』を目指してな」
「生きるさ。お前はもう、『人形』じゃないんだから」
輪廻はニヤリと笑う。それにつられて、俺も不恰好ながら笑ってみる。
……表情筋がうまく動かない。今度から顔の動きを修業に取り入れるか。
表情が上手く出来ないためにそう考えていると、輪廻の足から次第に羽となって消え始めた。
思わず声を上げようと思ったが、輪廻が先に口を開いた。
「ふむ。お別れだ。いくつか助言をしておこう」
「…………」
「一つはお前自身。普通に生きてるから安心しろ」
「マジでか?」
「二つ目はお前の学校の理事長。あいつは俺達と似たような存在だ」
「は?」
「三つ目はお前の願いはかなったから気にするな」
「……どうも」
そこまで言ったら、輪廻の顔まで消えかかっていた。
「で、最後だが……」
「まだあるのか」
「お前が死んだのは、
「はぁ!?」
輪廻の言葉に俺は驚いた。俺の死因が人によるものじゃないということに。
「あれは……悪魔、が」
「おい! それは一体……!!」
「…まだ……続く。がんば……れ」
そう輪廻が締めると同時姿全てが羽となり、全部が上へと舞い上がった。
俺はそれを呆然と見上げていたが、途端に意識を失った。
【『救済』プログラム終了。これにより、長嶋大智単体の意識のみ活動可能。永劫輪廻乃尊の意識は消滅しました】
『……すいません。まさか入院先から脱走するとは』
『さすが俺の息子だな!』
『そうね! さすが私達の息子ね!!』
――――――――――――えが聞こえた。しかも周囲から。
『長嶋君……良かった』
『本当だね。……でも、よく生き残ったね、彼』
……聞き覚えのある、声。
段々と意識が覚醒していく。
俺の名前は、長嶋大智。輪廻の魂をもとに出来上がった人間。
…………ああ。なるほど。戻ってきたのか、俺。
少し遅れて結論が出た。思考能力は落ち着いてきたようだ。
ならば起きよう。そう考え、俺は瞼を開けた――――――
「お。起きたようですよ、先輩」
――――ら、視界に宮野巡査の顔だけが映ったので、反射的に頭突きをしようとして……その直前で止まった。
「ぶねっ! 坊主、危うく鼻を折り掛けただろうが!!」
彼のそんな声が間近で聞こえたが、今の俺にとってはどうでもよかった。
なぜなら、
これが輪廻が消えた弊害か……手を握ったり開いたりして改めて理解した俺は、ふと顔を上げてみた。
するとそこには、やたら仲が良さそうな夫婦と、委員長に高町、そして宮野巡査がいた。
彼らはみんな笑顔で、何故か何かを待っていた。
これは俺に何か言えという事なのだろうか――――そう思い、仕方なく俺は口を開いた。
「今、何日「「却下!」」……なぜだ?」
「お前、ここは普通『俺は、一体……』だろ!」
「違うわよ! 『ここは……』でしょ!」
「?」
「先輩。ここ病院ですから。静かに静かに」
「はははっ。君の両親も負けず劣らず、だね」
「そうだね」
ああ。先ほど邪魔をしてからまくし立ててきたのはうちの両親か。道理で懐かしいと思ったわけだ。
しかし両親はいいとして、他三人はどうしてきたのだろうか?
そう思った俺は、両親の言葉をスルーして訊くことにした。
「ところで、宮野巡査はどうしてここに?」
「テメェが脱走したからに決まってるだろうが。あの後あいつが連絡くれるまで説明とか面倒だったんだぜ」
「! そうだよ長嶋君!!」
舌打ちしながら説明を終えた巡査の言葉に思い出したように、高町が一歩踏み込んで問いかけてきた。
「どうしてあの時あんな場所に来れたの!? それに、デバイス持ってたの!?」
怒っているのか驚いているのか分かりにくいが(おそらく両方だろう)、まくしてたてるように訊いてきたので委員長を見ると、こちらも頷いていた。
どうやら、味方はいないようだ。
正直に答えないと納得しないだろうなぁと内心ため息をついていると、急に両親が声を上げた。
「そういえば宮野! お前、警官になったんだっけ?」
「え、あ、はい」
「だったらどういった事件に遭遇したのか教えてもらえないかしら?」
「いや、それはさすがに……」
「ならタバコ吸いに行こう! 久しぶりに吸いたくなったんだ!」
「先輩って、タバコ吸ってたんですか?」
「そこは隠れてだよ! じゃ、行こうぜ!!」
「私は食堂にいるから。何かあったらよろしくね」
そう言うと、戸惑っている巡査の肩を組みながら親父は出ていき、母親も出て行った。
これはあれか。消えるからちゃんと言いなさいってことか。
いつの間にか拒否権が消えてるなと思いながら、俺は説明した。
「――――という訳だ。あんなところで会うとは思わなんだ」
俺が転生者だったり理事長があの場所へ送ってくれたりとなんだかんだで結構な部分をうやむやにしながら説明を終えた俺は、説明したものを思い返していた。
俺とあの女は小学校に上がる前に体をいじられて変な機械――デバイスを押し付けられて別々なところで育った。
で、ここ最近変な事件に絡んでることを知った俺は止めるために行動を起こした、という設定。
なんだろうな。明らかに無理がある話だ。だって俺、一回も手伝ってないんだぜ? 都合よく話をこじつけまくったとはいえ、こんな話を信じるなんて――――
「……大変だったんだね、長嶋君。だから私達ともあんまり交流しようと思わなかったんだ」
――――いた。高町が信じた。
なんだか悪い気がする。これが罪悪感なのだろうかと思っていると、委員長がため息をつきながら言ってきた。
「……まぁ深くは追及しないし時空管理局にも言わないでおくよ。その話が本当だとすると、その人がおかしくなったのはいじった人たちのせいなんだろうから」
それはありがたい。俺としてもこれ以上話を展開させるのが嫌だったからな。
そう思った俺は「そうしてくれ」と言ってから、今更なことを聞いてみた。
「そっちはどうなった? 何とかなったのか?」
その質問に高町は「それなんだけど!」と興奮していた。
その理由に関して薄々、というより分かっていた俺は、高町のセリフを奪う様に言った。
「実はね「誰かが生き返りでもしたのか?」うん! ……って、どうしてわかったの!?」
驚く高町の顔から視線を外した俺は、「さぁてな」と言いつつ心の中で神様に感謝していた。
ありがとよ、輪廻。伝えてくれて。
「長嶋君、話聞いてる?」
「……ああ、悪い」
どうやら真剣に念じ続けていたらしく、高町に言われるまで反応できなかった。
我に返った俺は言いたそうな二人に対して――おそらく高町の方が言いたそうだろう――努めて
「続き、聞かせてくれねぇか?」
その言葉に二人は驚いたようだが……顔を見合わせてから同時に言ってきた。
「「うん!」」
溢れんばかりの、輝かしい笑顔で。
―――――こちらこそ。頑張れよ
ここらでひと段落しましたが、次からは闇の書までの日常……になるかと思います。
ご愛読ありがとうございます。