世にも不思議な転生者 作:末吉
「……ハッ」
目が覚めた。
空腹で目が覚めたのもあるが、おそらく親父の一撃を受けて意識が回復したのが今なのだろう。
時間がわかるものを探そうと思ったが、ここがキャンプ場だということを思い出し、いつの間にやら入っていたテントから抜け出すことにした。
「月が出てるということは……夜か」
道理で俺がいたところに両親も寝ていたわけだ。
というか、あの二人は一体何時間寝るつもりなのだろうか……?
随分長く寝てるなぁと思いながらボーっと月を眺めていると、盛大に腹が鳴った。
「……野草探すか」
食べれば何とかなるだろう。
ということで周辺で食べられる野草を探し、適当に摘み取ってから水で洗おうと思い先程釣りをしていた場所まで向かうことにした。
「あらさっきの少年」
「……テメェ」
野草を洗いに来たらさっき俺のバケツの中身を食べた女が川を眺めていた。
「どうしたの草なんか手に持って」
「何も食べてないから腹の足しに」
「結局食べてないのね」
なんか申し訳なさそうにしているが、もう過ぎたことなので俺は言った。
「今から食べるから別に気にしなくていい。それに、これももらったわけだし」
そう言ってポケットからパールを取り出すと、女は感心していた。
「分かった? それが謝罪の品だって」
「空のバケツに入ってたら嫌でもな」
そんなやり取りをしつつ野草を洗う。
別にそこまできれいに洗う必要はない。土などをとれればそのまま食べれるものだけしか採ってきてないからな。
黙々と俺が洗っていると、女がまだ洗っていない野草を手に取り真似して洗い始めた。
「食べる気か?」
「まさか。魚は食べるけど野菜は食べないよ、私は」
どうやら手伝ってくれるようだ。
俺は内心感謝しつつ、ふと疑問に思ったことを訊ねた。
「魔法でも使えるのか?」
ピタリ、と野草を洗う手が止まる女。
となると図星なのか……と思っていると、洗ってくれた野草を地面に置き背伸びしながら女は言った。
「ここまで逃げてきたはいいけど、まさかこんな少年が管理局の手下とはねー」
「いや。俺は管理局と面識などないが」
「え? ならなんで知ってるのよ? この星で知ってる人って、管理局の仲間でしょ?」
「俺はそもそも管理局すら知らん」
そんなやり取りをしていたら野草を全部洗い終えた。
さて食べるか……そんなことを思い手に持っていた野草を食べていると、女が頭を掻きながら「調子狂うなぁ」と呟いた。
「どこか悪いのか?」
「違うよ。体調の問題じゃないよ」
「ならいいが」
しかし……前世と同じ草って意外と生えてるんだな。割と感動している。
そんな野草を食べているので感慨も一入だが、味がないのでそれをぶち壊しにしてくれる。
無表情のまま食べ続けていると、女がため息をついた。
「どうしたんだ?」
「いや、こっちの問題……ていうか、驚かなかったわね、魚を丸ごと食べたの見たのに」
「空腹だからだろう?」
「それもあったけどね……」
どこか遠い目をする女。ひょっとすると何かしら事情があるのだろうか。
まぁ関係のないことだけどな。そう思いつつ食べていると、女は立ち上がった。
「さてと、行こうかね」
「そうか」
「……そこは『行ってらっしゃい』とかいうんじゃない?」
「会って間もないのにいうほど俺は義理深くない」
「やっぱり調子が狂うね」
「あっそ」
そんな会話をしていたら野草をすべて食べ終えた。だが腹の足しにもならなかった。
食べたら余計に腹が減った……等と思いながら空を見上げたら、肩をちょんちょんと叩かれた。
思わず叩かれた方に顔を向けると、女が笑顔でいた。
「ありがとね。
「何の話だ?」
いきなり礼を言われたので首を傾げる俺。だが女は理解しているのか、俺の横に座って語り始めた。
「私を釣り上げてからほとんどいてくれたじゃん。そのおかげか迂闊に手を出してこなかったし。君が離れた後は私が魔法使って今まで逃げてたけど、もういいや。十分に楽しんだし」
「それはよかったな」
「うん。君のおかげでこの星の事を少し知ることができたし。本当、感謝してるよ」
感謝、か……。最近そんな類の言葉を言われるのが多くなったな。
ここ数日の会話を思い返してそんなことを思った俺は、女に向けて言った。
「何のためにここに来たのか知らんが、せいぜい厄介ごとを持ち込まないでくれ」
「命の恩人にそんなことするわけないって」
「どうだか」
女から顔を背け、月を見上げながらつぶやく。
雲に少し隠れているがそれでも光り輝いている月。その光に照らされている俺は、前世での記憶を思い出した。
――――まだ起きてたの、大智?
――ああ
何時だったかの戦いの時。俺は不寝番の時間を過ぎても一人起きていた。そこに何をしに来たのか立花遥佳が来た。
――――明日、時間的には今日だけど、早いのに大丈夫?
――別に
俺がいつも通り返事をすると、彼女は隣に座って月を見上げた。
――――綺麗だね、月が
――生憎上空を見る余裕すらないから上を向いてないが
――――もう! そこは頷いてほしかったんだけど!!
――……そうだな
そんな会話をしてると、彼女が不意に呟いた。
――――月ってさ、夜にしか見えないんだよね
――そうか? 昼間でも輝いてるんじゃないのか?
――――ううん。見えるとしたら夜だけ。それと似たように、太陽は昼間しか見えないんだよね
――それが?
――――もしね、月が太陽に恋してるんだとしたら…………
「何考え込んでるの?」
「……少し昔を思い出しただけだ」
顔を覗き込まれてそう訊かれたのですぐに背けて答える。
一体なんでこれを思い出したのだろうかと思いつつ、俺は背けたまま訊ねた。
「それより、帰るんじゃないのか?」
「そうだけど、少年が名前を教えてくれないから帰りにくいの。さっきから聞いてるのに考え込んでてさ」
「……それは済まなかったな。俺の名前は長嶋大智だ」
「ダイチね。それじゃ、ダイチ。さようなら」
「ああ」
手を振りながらそんなことを言ってきたので俺も軽く手を振って返事をすると、女の姿が消えて行った。
まったく人騒がせな奴だ。そう思ってため息をついた俺は、周囲に感じる見知った気配に声をかけた。
「出てきていいぞ。帰ったらしいから」
「なんで逃がしちゃうのかな。一応不法侵入者として捕まえる人だったのに」
「お前らが俺を気にせずに捕まえればよかっただけだ」
「あーそれを言われるとね……」
「ていうか用事ってこれだったのか委員長」
「まぁね」
その言葉と同時に月明かりに姿を現したらしい委員長。そのまま歩いてきたかと思うと、隣に座った。
「どう? キャンプは」
「温い」
「……難易度で聞いたわけじゃないんだけどなぁ」
苦笑しながらそんなことを言う委員長。
だとしたら他に何があるのだろうかと思っていると、委員長を諌める声が後ろから聞こえてきた。
「斉原君。彼は私たちの仕事を妨害したんだよ? どうして暢気に会話してるの?」
委員長はその女の声に肩をすくめ、振り向かずに答えた。
「彼はあの人が誰だか分かってないから咎められないし、彼の集中してるところを邪魔すると怖い目にしか合わない気がしたからね」
「別に。絶食状態にならなければ俺は騒がれても問題ない」
「とかいいつつ石ころを手元で遊ばせないでくれない? いくらバリアジャケットを展開してるからといって、君が投げたら死ぬかもしれない」
「今の俺にそこまでの威力は出せない。せいぜい衝撃でしばらく行動不能にできるぐらいだろう」
「……だから基準がおかしいんだってば」
「リンディさんから念話が来たよ。しゃべってないで戻ってきて、だって」
「行って来い」
「……行こうか、テスタロッサさん」
ただ送る言葉を言っただけなのに、なぜか委員長はため息をつきながら立ち上がり後ろにいた気配に近寄った。
そこでふと聞いたことがある名前を聞いた気がしたが、別にいいかと思い月を見上げながら言った。
「子供が徹夜とは、将来成長不全になるぞ」
「「君もそうでしょうが」」
そんな同時の発言を最後に二人は消え、残された俺はまだ残っていた気配に話しかけた。
「俺の最後の言葉、聞いてたか?」
「そうだけど……昼間のことが気になって眠れなくて」
そう言って出てきたのは高町。
一体どうやって抜け出してきたのだろうかと思ったが、それを言ったら俺のほうが不思議でならないだろうと思ったのでそこを聞こうとはせず、代わりに別な質問をした。
「さっきのあいつらのことだろ?」
「うん。リンディさんに言われて抜け出そうと思ったけど長嶋君が一人で釣りをしてる方向にいたし、長嶋君が戻ってきたと思ったらアリサちゃんと一緒にこの場所に戻っちゃったから」
「俺とバニングスがここに来ようとした時に感じた視線は高町か、やっぱり」
「分かってたの?」
「いや。さっきまでの会話で俺が受けていた視線が似た感じだったから推測しただけだ」
「……本当にすごいね、長嶋君」
そういった後、高町はなぜか委員長たちと同じように俺の隣に座った。
「なぜ?」
「何が?」
「なんでお前たちは俺の隣に座るんだ?」
そう質問すると高町はう~んとうなりながら考え、答えてくれた。
「……それは、安心できるから、だと思うよ」
「安心?」
「前と違って人を突き放す雰囲気がなくて、今はなんだか頼りになる雰囲気を醸し出してるから……だと思う」
頼りになる雰囲気か……一体どういう雰囲気なのだかわからん。
別段理解する必要性が感じられなくなった俺は「ふ~ん」と相槌を適当に打ってから訊いた。
「管理局って不法侵入者相手でも駆り出されるんだな」
「今回はあの人の状態を考慮しての特例だ、ってリンディさんは言ってたよ」
そうなるとあの女は一体何者なんだろうか。そんなことを思いながら、俺はふとポケットに入れていたものを思い出し、それを取り出して月明かりにあてた。
何を取り出したのか不思議そうにする高町だったが、月明かりにあたったそれを見て息を漏らしていた。
「キレイ……」
「確かに。よく見たいがために月明かりにあてたが、まさかこのパールの上に虹ができるとは思いもしなかった」
そう。俺がポケットから取り出したのは、あの女が俺のバケツに入れたパール。
昼間はバケツの中から取り出すだけだったのでわからなかったが、これは結構幻想的だ。
謝罪の品としては申し訳ない。そう思った俺は、そのまま高町に渡した。
「ほれ」
「えぇ! い、いらないよ。こんな高価そうなもの」
「鑑賞したからな。別にかまわん」
「でも、長嶋君のでしょ?」
「所有権は俺にあるからな。それから誰に譲渡しようが問題ない」
「駄目だよ! 人からもらったものは自分で大切に持ってなきゃ!!」
「深夜なのに元気だな、お前」
「……気にするところが違うよ、長嶋君」
最終的にこのパールは俺が持つことになり、高町は俺とのやり取りで眠気が襲ってきたのかあくびをしたので、仕方なくお姫様抱っこなる抱き方でテントまでは静かに運んだ。
なぜか慌ててた上に顔が赤くなっていたが……途中で寝てしまったので、なぜか起きていた鮫島さんに高町を任せ、俺は先ほどいたテントで寝た。
――――――月が太陽に恋したら、その恋は一生叶わなくて可哀そうだよね。
お読みくださりありがとうございます。