世にも不思議な転生者 作:末吉
「………………体が慣れてしまったようだ」
まだ体の疲れが完全に抜けきっていないことを自覚し、なおかつ睡眠不足に陥ってるにもかかわらず、おそらくいつも通りの時間に起きた俺。
両脇に両親がおりスヤスヤと眠っているのを見た俺は、たまには休むかと思い二度寝した。
「大智起きろぉ!」
「あなた。大声出さなくても聞こえてるんじゃないかしら?」
「んなこと言ってもな。二度寝してるんだぞ? 起きる保証がどこにある?」
「朝食だから大丈夫じゃない?」
「……うるせぇ」
二度寝して数時間も経ってないのに両親(親父)にたたき起こされ、不機嫌なまま起きた。
くそっ、ふざけんじゃねぇよ。俺二度寝したばかりだってのに叩き起こしてんじゃねぇよ。
親父に対してそんなことを思いながら半目のまま体を起こした状態でいると、何かを察知したのか親父が「おい、もう少し寝てたらどうだ? 起こしたのは悪かったから。ちゃんと朝食も残してもらうから」と急に言い出したので、俺の意識は勝手にブラックアウトした。
それからどのくらい経ったか知らないが、俺は自然に目が覚めた。
体を起こす。
体内時計など完全にあてにならないので今が何時なのか分からん。
そう思いながら、俺はナイトメアに訊こうとし……荷物がないことに気付いた。
そうだ。俺が持ってきた親父作のテント(?)の中だった。
こりゃ外に出ないと時間がわからないか。そう考えた俺は普通に外に出た。
のだが……。
「見事に誰もいないな……」
「高町なのは様が起きられたら皆様で山まで行きましたので」
「鮫島さん」
鮫島さん以外誰もおらず、みんな山に行ったと言われた。
となると俺は戻ってくるまでフリーなのか。そう考えたが、ふと疑問に思ったことを訊ねた。
「今日も鮫島さんはここにいるんですか?」
「えぇ。お嬢様のご指示ですので」
「大変ですね」
「いえ。このご老体ではついて行くので精一杯ですし、私は戻られたお嬢様方のサポートをした方が効率がいいですので。……あちらは月村家のメイド達に任せておいて問題はありませんからね」
「そうですか」
「ところで長嶋大智様」
「はい?」
俺が質問を切り上げて荷物を取りに行こうとしたら鮫島さんに呼び止められたので、俺は足を止めて振り返る。
「なにか御用ですか?」
「竜一様から朝食を残してほしいとのことでしたので……食べますか?」
「……いただきます」
親父。ちゃんと残してもらうよう頼んだのか。
あの言葉は嘘じゃなかったのかと内心驚いていると、「では案内いたします」と言って俺が向かうテントの方へ鮫島さんは移動していた。
足運びの上手い人だなぁと感心しながら、俺は鮫島さんの後ろを歩いて行った。
「こちらです」
「目玉焼きに……焼き魚。割と豪華ですね」
「お褒めに与り光栄です。もっとも、魚の方は昨日の余り物ですが」
「結構です。昨日、食べていませんでしたので」
「そのようですな。お嬢様が『残しておいて』と仰られましたし、ご両親の連係プレーで気を失われましたし」
そんな会話をした後、俺は「いただきます」と手を合わせて言い、食べ始めた。
「大智様はお優しいそうですな」
「……突然なんですか?」
所要時間数分で食べ終わった俺は使った紙皿で適当に折ったりして遊んでいたら、鮫島さんにそんなことを言われた。
当然俺は遊んでいた手を止め、紙皿をゴミ袋の中にバラバラにして入れてから聞き返した。
「そのままの意味です。アリサお嬢様が最近そんなことをおっしゃられるので」
「…自分では『優しい』と思ったことはありません。『甘い』と自覚していますが」
「なるほど。優しいではなく、甘い、ですか」
「えぇ」
「「…………………………………」」
そこから途切れた会話。俺はというと、なぜそんな質問をされたのか理解できていなかったからだ。
と、その沈黙の中、鮫島さんが口を開いた。
「…信じているのですね、ご自身
「は、ですか」
「えぇ。は、です」
……なるほど。見抜かれていたのか。
心の奥底では、いまだに俺が人を信じていないことを。
随分あっさり分かってしまったようだと思いながら、俺がいつ知ったのか尋ねると、「このキャンプでですよ」と笑顔で答えられた。
参ったな。俺はうまく隠してたつもりなんだが。
そう考えていると、「私もあまり違和感を感じませんでしたけど」と前置きして説明してくれた。
「お嬢様からよく話を聞いていましたので事前情報は把握しておりましたが、実際に会ってみるとその情報通りで驚きました。事前情報と見た目での情報が一致することなど、そうそうありませんからね」
「そうですか」
「はい。お一人でいることを望み、あまり一緒に行動しようとしない。他人からの施しを受けることを良しとしない、優しく強いお方だと」
「……良く分かりましたね」
俺は息を吐いてから鮫島さんの言ったことを肯定した。的外れなことなど言われてなかったし、事実だったために否定する必要がなかったからだ。
俺の潔さも分かってたことなのか大して驚かず、鮫島さんは話を続けた。
「ですが、裏を返せばそれは他人を信じておらず、また人と合わせられないことです。人間というのは他人を信じなければ生きていけない生き物なんですよ。そうでなければ、地球から絶滅していますから」
「…………」
「どういった人生を送られたのかはわかりませんが、
笑顔でそう締めた鮫島さん。
しかしながら素直に信じられなかったので「……心の奥底で信じれる方法がわかりません」というと、諌めもせず呆れもせず鮫島さんは答えてくれた。
「信じたい人と一緒に行動することです。その人の見方や考え方、それらを行動を通して知っていけば、信じられますよ」
妙に実感がこもった言葉。まるで自分もそうやって生きてきたと言わんばかりに重みのある言葉。
その言葉を聞いた俺はそれらを受け止めて呟く。
「一緒に、行動する……」
「そうでございます。信用、信頼と言葉はありますが、結局のところ一緒にいなければ何もわかりません」
ダメ押しとばかりに補足してきた。
そこまで言われ俺は、納得した。
他者の意見に左右されたくないというのが俺の持論だが、この時ばかりは、いやこの時を以てしてその持論を捨ててしまおうと思った。
自分の行動にとやかく言われても気にしないところは変わらないが、人の話を聞く、他人と出来るだけ関わろう、位には思えた。
何故かと問われたら『変わろうと思ったから』で十分だ。そう考えれば行動を起こすだけで変わることができる(厳密にいうと変わり始めることができるなのだが)。
そこまで考え、俺は鮫島さんにお礼を言った。
「ありがとうございます」
「いえ。執事として当然のことをしたまでです」
鮫島さんは笑顔を少し軟化させて、そう返事してくれた。
「もうそろそろ皆様がお戻りになられる頃合いですね」
「何時ですか?」
「十二時ぐらいでしょうね」
そこから少し談笑していたが、鮫島さんが腕時計で時間を確認してそんなことを言ったので、俺はもうそんな時間かかと立ち上がった。
「どこへ行かれるのですか?」
「昼食の調達ですよ」
「それなら問題ありません。我々が持ってきておりますので」
「……すいません」
「そう謝らずとも結構です。大智様は前日まで教えられていませんので」
そんなやり取りをしていると、外が騒がしかった。
戻ってきたのかと思った俺は、鮫島さんと一緒にテントから出た。
「おぉ! 大智、起きたか!! こっちは楽しかったぞ~」
「……周りを少しは考えろ」
そんなに楽しかったのか親父は大分元気だったが、それ以外――母親を除く――はとても疲れていた。
特に高町はぐったりだった。
士郎さんでさえ地面に倒れこんで息を整えていたので、どれほど過酷だったのかは想像に難くない。
俺はこの惨状を作った親の息子として謝罪した。
「すいませんうちの親がバカをやらかして」
「おい大智? さりげなく俺の事バカだと言わなかったか?」
何言ってるんだ。言いたいことはたくさんあるのにバカだけで留めたんだから気にしないでくれ。
そんなことを思いながら、バニングスの介抱をしている鮫島さんに訊いた。
「食料や調理器具はどこにあります?」
「私達が先程いた小屋にありますが……どうするおつもりですか?」
俺は考えるそぶりもせず、普通に答えた。
「なに、親父の尻拭いみたいなことですよ」
と言ってきたものの食材がわからないので確認する。
「とりあえず疲労回復中心だろうが……食材をあまり使いたくないな」
ざっと見たところまぁよく集めてきたなと言わんばかりの種類がクーラーボックスの中に入っていた。
とりあえずの目標は疲れている人に食べやすく、なおかつ疲労回復につながるお手軽料理。
親父の昼食はいらないとして……俺や鮫島さんはそれほど疲れていないだろうから別に少量でも構わないだろう。
残りの人がどれくらい食べるか分からないがとりあえず十人分まとめて作ればいいか。
そう思った俺は、近くにあった野菜の一つを手に取り、何故か備え付けられていたキッチン(テーブルなどもあった)で調理を開始することにした。
調理時間三十分ぐらい。とりあえず切って切って切ってまとめて和えて……という作業をやったり、なぜかミキサーがあったのでそれを使ってジュース作ったりしたらそんな時間になった。
ぶっちゃけ前世で作った料理をまねしたものだ。主に戦闘が終わった後に食べた料理。
こんなところでも役に立つとはな……等と思いながらテーブルに並べ(全十一人分。親父の分なし)、紙皿などを置いてから俺は小屋(テントじゃないという意味を改めて知ったため)を出た。
「鮫島さん、出来ましたよ」
「まだ三十分しかたっておりませんが?」
「簡単な料理だけですからね。それぐらいならできます」
「……って、あんたが作ったの?」
介抱されているというのに驚くバニングス。どこにそんな体力が……
「親父の分はないから」
「なんだとっ!?」
小屋に向かおうとした親父を止めるために言ったら、案の定オーバーリアクションというか、嘘だろ的な声を上げていた。
いや。これだけやらかしといて何言ってやがる。そこらへんに生えてる野草でも食べてろお前は。
そんな思いを言わずにいると母親が親父の肩に手を乗せ、「あなたの自業自得よ」とさらに突き落とした。
「ぐはっ!」と言った親父はそのまま倒れ、匍匐前進でどこかへ消えた。
あの男の頭は大丈夫なのだろうか心配になったが今更だと思い、士郎さん達を母親と一緒に小屋に入れた。
結果。
割と好評で、疲れが吹き飛んだようだと言われた。
そこまでの効果はなかったはずなんだが……皆さん元気になったようなので深くは考えない様にしよう。
食べた人たちには無論驚かれた。レシピも訊かれた。
ジュースについては特に触れなかった。
ご愛読いただきありがとうございます。