世にも不思議な転生者   作:末吉

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三十話になりました。お読みになっている皆様、ありがとうございます。


30:夜

*……視点

 

 大智が宙を舞う姿を見て、風神は内心「しまった」と思ってしまった。

 そもそもここへやってきたのは大智が生きてるというからであって、まったく干渉する気などなかったのだが、久しぶりに聞いた毒舌に我を忘れて本気で攻撃したのだ。やった後で興奮が冷め、今やもう、いつ大智が落ちてくるか気が気でなかった。

 

 だからこそ、彼女は気付かなかった。

 

 宙に浮き続け、落ちてこない彼の意味を。

 

「くっそ。あと少しタイミングが遅かったら細切れになって死んでたぜ、まったく」

『間一髪でしたか。申し訳ありません』

「別にいい。……さて、どうすりゃ話が聞けるかな」

 

 宙に浮く寸前に魔力を全開放できた大智は、そのおかげで何とか致命傷を負うことなく宙に浮き、宙に浮いたときにバリアジャケットを展開してそのまま佇んでいた。

 外傷はたくさんあり、血は出ているが、どれもこれも軽傷。

 

 だが彼は仕返しをするのではなく、どうやって話を聞くかに焦点を置いていた。

 

『やり返さないのですか?』

 

 そこまでやられて黙っている人間ではないと思ったナイトメアはそう聞くが、大智はハァっとため息をついてから言った。

 

「お前な……神様相手に喧嘩とか自殺以上に無意味なことだぞ」

『ですが夜刀神の際はやっていたじゃないですか』

「今の俺には【力】がないんだよ。輪廻っていう神様の力がな」

 

 そういって見下ろすと、風神と視線が合った。

 

 彼女は大智を目視すると、扇子を広げ地面を蹴って同じ高さまで跳んできた。

 

「よく耐えた。死んだとばかり思った」

 

 地面のへこみなど気にせず、また大智に攻撃したのに悪びれもしない風神。

 そんな大智は銀色の太刀の切っ先を下し、自然体の状態で訊いた。

 

「ここには何の用だ? 小人がなんか気味悪がってたぞ」

「そうか。それは悪かったな。少しばかりこの世界を走破してる途中にここに扇子を落としたせいで」

「で、高町をどこへやった? そして何の用だ?」

 

 大智がもう一度聞くと風神は腕を組んで考え込み、数分経って思い出したのかポンと手を打って答えた。

 

「ここにはお前に渡したいものがあってきた。高町というのは先程いた女子の事だろうか。ならば別に危害を加えていない。少し放置してるだけだ」

「ならさっさと渡すもの渡して帰れ。そして自分の世界へ帰れ」

 

 風神の答えを聞いた大智は一息にそう言った。心底嫌そうな顔をして。

 

 それを見た風神は咄嗟に扇子を扇ごうとしたがやめ、やれやれと首を振った。

 

「まだあれを気にしてるのか」

「当たり前だろうがバ」

 

 ヒュン キン

 

「次似たようなこと言ったら切り刻む」

「だったらさっさと用件済ませて失せろ」

 

 どうしようもないなと風神が思いながらつぶやくと、大智は根にでも持っているのかサラリと嫌味を言った。

 その結果キレた風神が風を起こし、それを大智が斬って一触即発な雰囲気に。

 

 互いに睨み合っていると、不意にナイトメアが大智に質問した。

 

『何かあったんですか?』

「それ壊していい?」

「テメェを先に消すぞ淫乱」

 

 ブチッ! 大智の一言で風神がキレた。

 

 彼女の周りで荒れ狂う風。乱気流を生み出したり竜巻を生み出したりしているが、その場に留まり続けている。

 まるで、物量で消し炭にでもするように。

 

 対する大智は冷静に、それでいて集中していた。

 

(【力】が消えて初の神様と戦闘か。はっきり言って勝ち目などないに等しいが、それでもまだ死のうとは思わない)

 

 右手で持つ太刀を強く握る。その眼には死んでたまるかという意志がありありと見て取れた。

 

(キレた風神はああやって力をためて一発で終わらす。その一発が恐ろし過ぎるが、なんとか耐えたら……チャンスだな)

 

 そう考えて太刀を水平に構え逆手持ちにする。

 どう考えても長さ的にやるのが難しいそれを大智はやり、腕を下す。

 

 勝負は一瞬。そう決めた大智が自然体のまま待っていると、その時が来た。

 

「私だって」

 

 風神が顔を上げる。そこには先ほどまでの冷徹な印象はなく、修羅の様に怒り狂っていた。

 

「好きでやってたわけじゃないのよぉ!!」

 

 そう叫ぶや否や、彼女の周りにできていた風の塊が一斉に飛んで行った。

 すべて大智を狙った攻撃。はっきり言って前方だけでなく上下左右後方と全方位から迫ってくる風を防ぐことなど、ただの人間には不可能だろう。

 

 だが神の力なくとも常人以上の身体能力を持つ大智は、一度戦ったことのあるからか、対処法を心得ていた。

 

「テメェのせいで世界にホモやら百合やら増えちまったじゃねぇかバカ野郎ぉぉ! 要らん知識もたらしやがってぇぇ!!」

 

 そう叫んで前方の竜巻を逆手持ちした太刀で消し飛ばし、魔力を足に集中させて空を蹴る。

 ギュン!! などと音を出し風神へ迫る大智。

 

「死んで詫びろぉ!」

「一回死んだじゃないバカ大智!!」

 

 迫りながら体をひねり、接近したところで叫びながら太刀を振ったが、その一撃は彼女の風によって阻まれてしまった。

 そのままの状態で、彼らは口喧嘩をし出した。

 

「現れたと思ったらいきなり男連れてってその場でやりやがって! そのせいでうちのクラス気まずくてどうしようもなかったんだぞ!?」

「だからあれは体がいう事聞かなかったって言ったじゃない頭でっかち!! 顔を赤らめすらしなかった鉄仮面男!!」

「んだとこの阿婆擦れ!」

「なによ死にぞこない!」

 

 ギギギギギギ!! などと風と太刀が音や火花を散らしていると、急に二人の距離が離れ、同じ所へ視線を向けた。

 

「やれやれ。だから儂が行こうと言うたのに」

「ス、スサノオさん!? ど、どうしたんですか一体!」

「……?」

 

 視線を向けた先にいたのは二メートルを超えるのではないかと思える大男――スサノオ。

 彼を見た風神は驚いて素の状態で応対し、大智はどこかで聞き覚えがある声だなと記憶を思い返していた。

 

 彼女の質問にスサノオは立派な無精髭を触りながら答えた。

 

「なに。ちゃんと出来とるか心配での。……にしてもお主ら、なぜそう下品な喧嘩しかできないんじゃ?」

 

 後半の部分を交互に見て訊いたのだが、大智はその視線に目もくれず考え込んでおり、風神はすぐさま大智を指して「こいつが悪いんです!」と顔を真っ赤にしていった。

 

「いや。どちらも悪いじゃろ」

「そんな!」

「……そうか。あんたが俺を転生させたのか」

「今更じゃの。しかも今の話題一切関係ないし」

 

 ハァッとため息をついたスサノオは、風神を見て言った。

 

「ほれ。さっさとアレを渡さんかい。その為にこの世界に来させたのに」

「分かってます! 正直、大智にはもう二度と会いたくありません!」

「こっちも願い下げだ」

「なんですってぇ!?」

「落ち着かんかお主ら……まったく」

 

 またもや臨戦態勢になったのでスサノオは息を吐いて腕を振った。

 たったそれだけの動作なのに、彼らは動けなくなった。

 

「……くそっ。こわせねぇ」

「なんで私まで!」

 

 風神は抗議の声を上げたが彼は無視し、続いて何かを取り出す動作を行う。

 すると今度は風神の羽衣みたいなものから光り輝くものが出てきて、動けない大智の目の前まで移動した。

 

 それがなんなのか分からない大智は、「……これは?」と訊く。

 するとスサノオが説明してくれた。

 

「それはあの方からの贈り物じゃよ。なんでも『きたる時に使ってください』とのことじゃ」

「だからなんだ?」

「時期が来れば教えるわい。儂は帰るぞ」

 

 とても説明とは言えなかったのでもう一度たずねたら、はぐらかされた上に帰られた。

 あまりの勝手ぶりに、縛る力がなくなったのに彼らは固まったままだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃ、わた…私も帰る」

「ああ」

 

 俺を転生させた神様――スサノオが帰ってその場で固まったままだったが、先に我に返った風神が元のキャラクタに戻り、帰ると言った。

 そのおかげで我に返れた俺は短く返事をするだけにとどまった。

 

 また暴言を吐いてから喧嘩が辛すぎる。

 先ほどの言動を振り返り反省することにした俺は、神様相手にケンカ売るのはやめようと固く心に誓うことにした。

 

「そういえば」

「なんだ」

 

 帰ろうとしたのになぜか足を止める風神。

 何か伝え忘れたことでもあるのだろうかと思いながら訊くと、予想外なことを言われた。

 

「あの高町という女子。中々将来性のある子だったな」

「…………」

「どうした?」

「だから?」

 

 間髪入れずに聞き返す。

 この場で何で高町の将来のことを言われなきゃいけないんだという思いで。

 

 すると風神は驚いたと言わんばかりに目を見開いていた。

 

「……好きとか、そういう感情はないのか?」

 

 そう言われ少し己を整理して考えて出した俺の答えは、「分からん」だった。

 

「そうか」

「ああ」

 

 そのやり取りをした後に風が吹き、風神は姿を消した。

 

「バリアジャケット解除及び魔力全封印」

『……了解しました』

 

 姿が消えたことを確認した俺は地面に着地した後ナイトメアに、バリアジャケットの解除と出てる魔力を全部封印させることを頼んだ。

 ナイトメアは少し間を置いて頷き実行した。

 

「ふぅ」

 

 滞りなく作業が終わり息を吐いていると、急に疲労感に襲われた。

 

 ……これは集中力の使い過ぎなのだろうか。それとも……

 

 なんてことを考えながら、気怠い体で眠っていた高町をおんぶしてテントまで運んだ。

 そのあとのことは覚えていない。




次でキャンプが終わります。
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