世にも不思議な転生者 作:末吉
ドタバタと相成ったキャンプが終わり、残すところ今日だけとなった連休。
いつも通りに起きていつも通りのメニューをこなし、いつも通り朝食を食べた俺は
「暇だ……」
リビングの天井を見上げながら暇を持て余していた。
「私達がいなかったとき、大智はどうやって過ごしてたのよ」
食器を洗っている母親が俺の言葉に反応して聞いてきたので、俺は思い返しながら答えた。
「……発明と、読書と、睡眠」
「お父さんみたいなことするわね……遊んだりしなかったの?」
「連絡先なぞ、知らん。携帯電話なんていう機器も持っていないし」
「あー、それもそうね」
別段必要性を感じないので持ってなくてもいいんだが。そう思っていると、何を思いついたのか母親が「なら」と言ってこう提案してきた。
「今日はその携帯電話を買いに行くわよ」
「……えー」
「えーじゃない。固定電話があるから問題ないと思ってるでしょうけど、外に出たら大智と連絡取れる人いないのよ? 何かあったらどうするの」
「その時はその時だ」
「大智が死にそうになったら?」
「死ぬのを待つ」
「大智の知り合いが死にそうになったら?」
「関係ない」
「…………買いに行くわよ」
禅問答のような会話をしたら、うすら寒い感じが辺りを包んだ。同時に、母親の声が低かった。
体の危険信号がバンバン出て今逆らったらやばいと直感した俺は、おとなしく頷くことにした。
こうして俺は携帯電話を買う事と――――
「ちょっと待て! その前に地下室の整理途中だろ!?」
「あぁあなた。昨日は地下室で眠ってたの?」
「誰かが崩して戻っちまったからな……何とか荷物全部運んで戻ってきたってわけだ」
「その前に風呂入ったらどうだ?」
「うっせ! 抜けぬけと言ってるんじゃねぇよヴァカ!」
――――なったが、親父が戻ってきたので、先に整理の続きとなりそうだ。やれやれ。
「おらやるぞ大智!」
「分かったから大声を出さないでくれ」
風呂から上がり朝食を平らげた親父はいつの間にか作業着に着替えており、俺に対して怒鳴ってきたので騒がしいと注意した。
さて。庭にあるのは大小さまざまな段ボールが約百個。玄関近くまで侵入してきたこれ一つ一つに親父の発明品が入っているらしいので、中身を確認していかなければならないそうだ。
家の外からそんな光景を眺めている親父の隣にいる俺は、よくもこれだけおいといたなと逆に感心していた。
「まずはどこから?」
「いやその前に」
そう言うと親父は携帯電話を取り出しどこかにかけた。
「あ、母さん。とりあえず二階の庭側の窓開けてくれない? そう。ちょっとそこから荷物運ぶからさ……あぁありがとう」
そう言うとパタンと閉じ、ポケットにしまう。
「よし、じゃぁ開封作業は物置の上でやるから。終わった奴はまた塞いで二階の窓から俺の部屋に搬入。要らないやつはそのまま名前書いてそのタワーの中に戻す。分かったか?」
「分かったが……まさか塀を上って物置まで行くんじゃ」
「当たり前だろ」
そう言うと親父は近くの電柱によじ登ってから塀の上へ。
それ以外ないか。そう思った俺は、垂直跳びの要領で塀の上へ飛んだ。
塀の上を歩いて物置までたどり着くのに結構時間がかかった。
親父が前にいるのもあるが、近くに密集している段ボールの圧迫感でバランスが崩れそうになることがあったからだ。
さすがにやばいと思ったな。ダンボールが崩れ落ちてくるんじゃないかという強迫観念に襲われた。
今からしばらくは段ボールを見ると思いだしそうだとげんなりしていると、親父がいつの間にか持ってきていたマジックペンとカッターとガムテープを置いて胡坐をかいた。
「とりあえず手当たり次第に持ってきて」
「なんで俺が」
「そりゃお前、俺の方が確認作業速いし? 俺が作ったものだし? お前昨日置いて行ったから?」
「最後の方私怨だろ」
「いいからやれ」
親父にそう促され、仕方なく俺は近くにあった段ボールを物置の屋根の上に置いた。
「……これで、最後だ」
「お、サンキュー」
物置から一番遠くにある一番下にあった荷物を運び終えた(下から投げた)俺は、庭に寝転んで息を整える。
あ、ありえねぇ。小学三年生に持たせる荷物にしちゃ重すぎるのを全部やらせやがった。慣れてるし大丈夫だと思ったが……死ねる。
まず体全身に力が入らない。どう考えても筋肉に疲労が蓄積しすぎて筋肉痛が発生する。
次に体力が底を尽きているのがわかる。はっきり言って起き上がる体力すらない。
もういっそのことここで寝てしまおう。そう思いながら半数近くがいろんなところに置かれているのを気にせずその場で瞼を閉じようとしたところで。
「終わったぞー」
親父が上から呼びかけてきたので「……そう」と言ってそのまま意識を手放した。
――――最近こういうのばかりだな。
サワサワサワと風で揺れる草の音が聞こえる。
気持ちのいい音だ。前世ではこういう音以上に銃撃音やらがうるさかったからな。
こういう音を聞いてると、なんというか気持ちが落ち着く。自然という癒しがこんな俺の気持ちを穏やかにしてくれると脳が処理していく。
ああ静かだ。聴覚情報のみであれば風の吹く音ぐらいしか聞こえない。草木が揺れる音ぐらいしか聞こえない。
これが平和で平穏なのか。これを目指して前世では戦っていたのか。
そんな思考が働くと同時に意識が浮上して今や瞼を閉じているだけの状態となっている俺だが、なんとなく起きるのが嫌だった。
こんな風に戦闘もなく、ただただ雑談だったり家の事だけをやり風の音を聞きながら静かに過ごす。
まるで映画に出てくる自由人っぽい感じになるが、そんな理想が平和になると叶うという事実に感動した余韻に浸りたいのだ、今。
『……気持ちよさそうに寝てるわね、あなた』
『すいませんすいません息子一人に荷物すべて任せてすいません』
『……少しは反省したかしら?』
『ハイ』
……なにやら両親の不穏な会話が聞こえたがどうでもいい。というか無視だ。せっかく感動してたのに水を差された気持ちになりたくない。
『それじゃもう一度言うわよ……気持ちよさそうに寝てるわね、あなた』
『そうだな……口元が微かにニヤけてるぜ』
『いい夢でも見てるんでしょうね……』
『だといいな』
むぅ。あちらはあちらでしんみりした雰囲気を作ってしまった。これでは俺がいつ起きればいいのか分からないではないか。
まぁまだ余韻に浸れるか。そう思い直した俺はそのままボーっとしようとしたが……
『あ。いけね。翠屋の機械類整備する約束忘れてた』
『……どこまで空気をぶち壊せば気が済むのかしら?』
『という訳でちょっくら大智連れて行ってくるわ』
何故か親父と一緒に行くことになっていた。
それを聞いた母親は、さすがに反論した。
『さすがに連日連れまわしてたら可哀そうよ。それに、携帯電話買う予定だし』
『携帯電話なんて俺が作った奴でいいだろうに。電話とメールしかできなくて、赤外線送受信しかできない奴』
『一般携帯と同基準だったかしら? あなた、オーバーテクノロジー作りが多いから』
『そこは別に問題ないぞ? 相手の基準に合わせて出来る様になってるから』
『……通話料とかの計算はどうするのよ?』
『電話会社には悪いが徴収できないな』
『電波は完全に盗んでるわけね』
『そこを言われるとちょっとな……』
痛いところを突かれたというトーンで答える親父。
ていうかまさか、親父たちが使ってるのってそう言うのじゃねぇだろうな……?
余韻のことなど忘れ繰り広げられる会話に対して言いたくなる。言いたくなるが、なんかここで干渉すると面倒事に発展しそうな気がしたので、俺はぐっと堪える。
それから少し会話したが結局親父が一人で翠屋に行くことになり、母親が見送ってる間に俺は起きて、背中の草を落としていた。
戻ってきた母親が俺を見ると、「じゃ、行くわよ」と言ってきたのでおとなしく従うことにした。
「まずは携帯電話からね」
「……荷物持ち?」
「当たり前よ。携帯電話だけ買って帰るなんて馬鹿なことしないわ」
違和感なしに返事をされるのであまり気にしないが、委員長辺りからすると『君は本当……』と呆れられることを言った気がした。
しかしなぜ委員長たちは呆れるのだろうか? あれぐらい簡単に思いつくものだというのに。
…………分からん。
一体どうしてなのだろうかと悩みながら母親の後をついて行くと、携帯電話を売っているらしいお店に着いた。
機種に関して言えばどれも前世より見劣りするものばかりだったため、なんだかなぁと思いつつ母親に適当に任すことにしたら、利用制限有りの状態の親父たちが持っているのと似たような形をした青色の携帯電話になった。
料金の支払いは、親父任せになった。
店を出た俺達はその足でスーパーへ向かう。
「今時の携帯電話って俺からしたら結構古いんだが」
「そりゃそうでしょうよ。前世じゃインカムマイク型しかなかったじゃない」
「……なんで知ってる?」
「ふふふっ。なぜかしらね?」
そんな怪しいやり取りをして近くのスーパーまで行こうとしたのだが、ここで急に母親が「商店街に行くわよ」と言い出し、方向転換して商店街へ向かった。
この街の商店街は割と人通りがある。前世では殆どがシャッターで占められており、地下道を通らなければ買えないというありさまだったから。
「久し振りって感じかしら?」
「まぁ。最近買い物に言った記憶で一番新しいのは夜のスーパーだから」
「……そうだったわね」
「ん?」
「な、なんでもないのよ」
なんか俺の今までの行動を見ていたような返事が聞こえたんだが……気のせいだよな。そうだと信じたい。
そう気を取り直した俺は、とりあえず買い物を済ませるべく母親に声をかけて一緒に歩き出すことにした。
…………分かったことは、母親もやはり色々やらかしていたことだった。
「まさか母さん、介護士でもないのに寝たきりの人の家に行って毎日看病してたなんてな」
「昔の話よ」
「レディースだっけ? たった二時間で全員真人間に更生させた話」
「それはもっと昔の話!」
荷物を六対四の割合(四は俺)で持つ俺達。
行く先々で母親の武勇伝が聞こえるので思わず聞き入っていたが、どうやら黒歴史に分類されるものらしく、珍しく慌てていた。
親父の場合自慢するだろうから、割と新鮮な反応だったりする。
『コレ、俺がやったんだぜ!?』と自慢げにいう親父……違和感が仕事しないな。むしろ嬉々として言いそうだ。
これだけ見ると対極的な二人なのだが、完全にべったり夫婦にしか映らないのはどういう事なのだろうか? まさに人間の不思議である。
何時かそう言う気持ちがわかるのだろうかと思いながら、母親の隣を歩いて帰路についた。
家に帰ったら親父が一人でゲームをしていた。
曰く、『早めに終わって帰ったら誰もいないからゲームしていた』そうだ。
こうして三人で夕飯の準備をして、呪詛のような勢いでつぶやき続けるナイトメアに気味悪さを覚えながら食べ終え、さぁ何をしようかと思ったらナイトメアが言ってきた。
『そんなに暇なら私を使ってください! はっきり言って暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で……とにかく暇過ぎたので使ってください!』
「どこで?」
『そ、それは……』
「魔法を使うには結界が必要だろ? それを張る場所を今から探すのは巡査に見つかるぞ」
『う、うぅ……』
「デバイスをいじめるなよ、大智」
「そうよ。いくらやりたくないからってそう言わない」
『え!?』
両親の言う事に反応して泣きそうな声を上げた。
神様ってのもいらんことしてくれたなぁと思いながら、俺は「そんな声を上げるな」と頬を掻きながら言った。
「ただ魔法についてイメージしにくいだけだ」
『だったらなおさらやりましょうよ! 遠距離がなければ神様を相手になんか……』
「在っても変わらない気がするが?」
だったらやる必要はないと思ったが、両親がこんなことを言ってきた。
「あった方がいいんじゃないかしら? 力押しするのにも必要じゃない?」
「お前の魔力制御具合なら神壁にヒビ位入れられるだろ。それが消えてるならダメージ位与えられるさ」
「……なんで俺以上に理解してるんだ? 魔力制御なんてどのくらいか分からんぞ」
気味の悪さに距離を取りながらそう言うと、顔を見合わせた両親が頷いてこう言った。
「「じゃぁ地下室行こう」」
…………まさかこんな早く使うとは思わなかった。
読んで下さりありがとうございます。