世にも不思議な転生者   作:末吉

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34:生きること

「ハイ合格ー」

「……ん?」

 

 視界が真っ白に染まったので反射的に目をつむり、近くで親父の声を聞いたので目を開ける。

 すると、俺の目の前に拍手をする親父が立っており、その後ろには母親が笑顔で立っていた。

 

 どういうことか理解が追い付かない俺は、ふと体に残っていたはずであろうダメージがないことに気付いた。

 慌てて自分の体を見ると、なんとバリアジャケットを装着したままで、『心配しました……』とナイトメアが呟いていた。

 

 んん? これは一体どういうことだ?

 

 さらに混乱を極めた事態に腕を組んで首をかしげてうんうん唸っていると、それを見かねたのか親父が「いい加減にバリアジャケット解除しろよ」と言ってきたので、俺は考えるのを放棄してそれに従った。

 

 魔力まで抑えた俺は、訳が分からなかったので、素直に親父に訊くことにした。

 

「いったい何が起こったんだ?」

 

 対して親父はあっさりと答えた。

 

「死の淵に追い込まれて希望を見出さないと抜け出せない幻覚を見せただけ」

 

 …………幻覚?

 一瞬サラッと言われたので流しそうになったが、言葉の意味を理解した俺は怒鳴った。

 

「ハァ!? それは俺を殺しにかかったってことじゃねぇか! 馬鹿じゃねぇの!?」

「でもお前はそうじゃなきゃ自覚しないだろ?」

 

 しかし、親父の反論に息を詰まらせた。

 そこに畳み掛けるように親父は言った。

 

「俺だって本当はやらせようと思わなかった。だがな、お前のその『死』に対する受け入れ方。それが異常なほどにあっさりとしすぎているのが気にくわねぇんだ。自分が死んでも特に世界は変わらないと思っているその眼が、な」

「実際」

「実際? そんなものはお前の勝手な想像だろうが。お前が死んだらお前と関わった奴らの世界は変わっちまうんだよ。例え大きな世界が変わらなくてもな。だから言っておく。金輪際死をあっさりと認めるな。生きようとせずにただ迎え入れるな。何が何でも生きてやるんだと足掻け。神様と喧嘩しようが悪魔と殺し合いしようが、絶対に周りにいる奴らのためにも、そして自分が生きるためにも、足掻け」

 

 そう力説した後一呼吸入れて、優しい笑顔で俺にこう言った。

 

「お前は、一人じゃないんだからな」

 

 そう言ってしゃがみこみ、俺の頭に手を載せて撫で始める親父。後ろにいる母親もうんうんと頷いていた。

 

 ……一人じゃない、か。

 頭を撫でられながら、俺は似たようなことを言ったやつを思い出した。

 むろん、立花遥佳だ。

 あいつも俺にそんなことを言って、クラスの奴らと馴染ませてくれた。

 今の今まで覚えていたつもりだが、どうやら当たり前過ぎて無意識の中に分類されていたようだ。

 

 確かに俺は一人じゃなかったし、今もそうだ。

 ならばその認識を前提としたものを組み立てなおさなくちゃいけない……と前世でやっておけよと思わずにはいられないことをやろうと思ったが、これが案外即興でできた。

 

 死に掛けの特攻の様に、というと聞こえが悪いが、要はいかなる状況でもあきらめない気持ちを持って生きよう。以上。

 

 ふぅ。意外と早く解決した……そう思ったら、先程から両親が俺をじっと見ていることにようやく気付いた。

 一体何を待っているのだろうと思い首を傾げると、我慢ならなかったのか親父が俺の両肩に手を載せて言った。

 

「なぁ、大智。お前、俺達に言うことあるよな?」

「?」

 

 また首を傾げると、ハァッとため息を盛大に漏らした後、近くで怒鳴ってきた。

 

「お礼の言葉だよ!!」

 

 思わず耳をふさぎたくなったが両肩を固定されているため不可能。

 もろに食らった俺は耳がキィーーーーンとなって脳が軽く揺られたことを自覚しながら、「あ、ありがとう、ございます」と言ったら、両親が抱き合って「「やっと言ったーー!!」」と飛び跳ねていた。

 

 そういえば、お礼を言うなんて割と初めてだな。なんて考えながら見ていると、「あ、そういえば」と思い出したかのように親父が飛び跳ねるのをやめて言ってきた。

 

「なに?」

「いや、あの幻覚。仕組み的には魔法じゃないけど副作用はないから気にするなよ」

 

 そう言われるとさすがに仕組みが気になるので、俺は聞いてみた。

 

「どうしたらあんな複雑怪奇な幻覚出来るんだよ?」

 

 すると、スラスラとカンペなど見ずに説明してくれた。

 

「まずお前をここにぶっ飛ばす前に、あっちでこの空間内の映像を映写機を通して真っ黒にする準備をする。次に、お前の顎を打ち抜いた時に幻覚を見せる粉をこの空間内に充満させ始める。着地する前にシャッターを下ろして遮断して暗くする。以上!」

「……説明になってないぞ」

「……あー、幻覚の説明か。あれは単純にこっちでそう感じる様に操作していただけだ」

「は?」

 

 幻覚を操作する? 一体何を言ってるんだこの親父は。

 疑わしい目で見ていると、面倒なのか頭を掻きながらも教えてくれた。

 

「その幻覚の粉。はっきり言ってしまえばそれらすべて映像を映し出す機械――ナノグラフィティマシーンが混じっていてな。その操作された映像にリアリティを出すために痛覚神経だけを刺激するものと、自分が動いているように感じる弱催眠性のものを混ぜたものだ」

「……いろいろアウトじゃないか?」

「残念ながらセーフの域だ」

「あなたが研究したものだしね」

 

 サラリと言われる事情や内容。聞き流すにはどう考えても無理な内容ばかりだが、考える気がなくなった俺は流すことにした。

 

「じゃぁあの光は?」

「あ? あれはお前の表情を見て若干笑ったみたいだから空間内の映像をリセットしただけだぞ」

「……笑ったのか?」

「微妙なところだけどな」

 

 そんなこんなで、夜に地下室でナイトメアの魔法講義および演習が追加された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝時間。

 

「……寝れない」

『どうしたんですか一体』

 

 いつもなら寝ている時間帯なのに、眠気が一切起きなかった。

 

 自分ではかなり珍しいことだ。キャンプという環境下ではなく、自分の家で眠れないという事態は。

 

 一体どういう事かと思いながらベッドから起きて椅子に座る。

 なんだか頭が冴えてるな。椅子に身を預けて天井を見上げながらそう思う。

 

 実際思考に鈍りはなく、今の状態なら平気で薬品制作に着手できそうな気がする。

 やりたいとは思わないが。

 

「どうしたものか」

 

 なぜ眠くならないのかはわからない。おそらく極度の興奮状態と勘違いしたままだからだろうか。

 副作用有るじゃねぇか親父……そんな風に思いながら、俺は何の気なしに机に視線を戻す。

 

 そこには、神様――スサノオとの通信用マイク、風神が持ってきた四角い箱、そして、パソコンとナイトメアが置いてある。

 勉強机であるのにもかかわらず勉強できない環境なのだが、全部学校でやっているうえに宿題をリビングで終わらせるので特に問題はない。

 ちなみにパソコン内のデータは主に、設計図だったりゲームシステムだったりそれ関連のプログラムである。

 音楽も聞かない、テレビも見ない俺だが、パソコンはよく使っている。

 

 最近見慣れないファイルがちょくちょく存在しているのが不思議でならないが、親父が使っていたりするのだろう。

 

 風神が持ってきた四角い箱は開けることができない構造なので、もう放置以外出来なかった。時期が来れば分かるだろうし。

 

 俺はじっと見ていたが、パソコンなどをつけずに立ち上がり、再びベッドへ入った。

 

 ……寝れない。

 

 なら考え事をして眠くなるまで待てばいいか。そんな短絡的思考のもと、俺は今日言われたことと自分で決めたことを思い返していた。

 

 

 人はいずれ死ぬ。そのことは疑いようのない事実だ。

 だが、死にかけても生きることを諦めない。それが人間の一つの要素。

 そんなことなど一生に一度あるかどうかだろうが、それでも人は死にたいと思っていない。思えない。

 むしろ、諦めてなるものか絶対に生きてやる、という気持ちの方が強い人間の方が多いだろう。

 

 それなのに対し、俺は死ぬなら死ぬで構わないと思っていた。

 悔い等残すほど未練がなかったからなのだが、親父のカツの入った理不尽教育法により前向きにさせられた。

 どんだけオーバーテクノロジー詰め込んでやったんだよと言いたくなるものだったが、なんだかとても気分がいい。

 

 前世の事を割り切ったわけではないが、俺は今別世界に生きてる。その事を踏まえたうえで今の俺の指針は――――

 

 と、ここまで考えて眠くなったので、俺は寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――生きることを念頭に置いて『人』を目指す。これが俺の指針だ。




Thanks. The story is read.


……で、良かった気がしますけど。不安です。
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