世にも不思議な転生者 作:末吉
ゴールデンウィークが過ぎて一週間。
テンションが低いままトレーニングを行って学校で不貞寝したり、暇つぶしに図書館によったら八神と再会し何故か怒られまくったり天上との会話をスルーし続けたり、理事長に意味なく呼ばれたそのせいでクラスメイトの奴らに不審な目を向けられたり、ナイトメアの機嫌が割とよくなったり、魔法に関してはあんまり変わっていなかったり、ちょくちょくいなくなる委員長にノート貸したり、体育の時間はできるだけなりを潜めようとしたけど目立ってしまったりしたが、まぁ慣れてきた。
のだが。未だに慣れないものが在ったりする。
「やぁ大智君。おはよう」
「……士郎さん。おはようございます」
いつも通り塀で瞑想していると、いつも通り新聞を取りに来た士郎に声をかけられた。
ぶっちゃけ塀じゃなくても瞑想は出来るのだが、朝からあんまり動きたくないがために体力をなるべく使わずに運動となる塀の上でやっている。
ランニングとかはどうなんだ、って? あれはトレーニングの一環だ。それ以外はあまり体力を使いたくないんだ。学校まで走るし。
家の中でもできるだろうって? 他人の目が多い時でも平常心を保つことも目的の一つなのだ。家の中じゃ家族しか妨害してこないので、飽きる。
士郎さんは新聞を取ったらしいが、その場に立ち止っていた。
ここ最近ずっとである。そして、次になんて言うのかも分かった。
「暇があったら一度打ち合いしてみないかい?」
もうずっとこれである。
一体何の恨みがあるのだろうかと考えたことがあるが、一切思い出せない。強いて挙げるなら、ここ最近行っていないことだろうか。
もっとも、本人いわく「フリスビーをやってる動きを見て少し刺激されてね」だそうだ。
俺は瞑想を中断し、息を吐いてからいつも言っている言葉を吐く。
「俺は学校がありますし、士郎さんは仕事があるじゃないですか」
いつもならここで引き下がるのだが、なぜだか今回は食い下がってきた。
「まぁそうだけど。腕を鈍らせないように定期的に振っているから大丈夫だよ。それに、来週の日曜日は休みだから」
そうきたか。なんて執念深さだ。
俺はため息をついて降参することにした。
「……分かりました。そこまでいうのでしたら来週の日曜日に。ですが、士郎さんが思う程俺は強くありませんよ?」
「何を言っているんだ。君からはある種の境地に至った雰囲気を感じるのに」
「…………」
「…………」
士郎さんの言葉で俺は自然とそちらへ視線を向け睨む。その視線を受けているのに対し、士郎さんの目は穏やかなままだった。
鋭いなぁこの人。そして、押しが強いな。そんな感想を抱いた俺は視線を外し、塀から降りた。
「もうやめるのかい?」
「今日はもう無理ですからね。来週の日曜日に続きをやりましょう」
「それもそうだね」
そんな言葉を交わし、俺達は自分の家に戻った。
「という訳で士郎さんと来週の日曜日勝負することになった」
「あー遂にかー」
「案外早かったわねー」
朝食時に先ほどの事を両親に報告すると、他人事のように感想を言われた。
まぁ闘うのは俺なのでそんな風に感想を言われても気にしないのだが、子供対大人の構図に関しては何か言ってほしかった。
この二人が何か言えば士郎さんも取り下げてくれるだろうかと思案しながら食べていると、そんな考えを見抜いたのかこんなことを呟いた。
「俺達が言うと火に油だしなぁ」
「そうねぇ。未だにあなたの事許してないし」
「だから誤解だって言ってるんだがな……」
本当にこの両親と士郎さんの間に何があったのだろうか。知りたいといえば知りたいし、知ったら知ったで面倒なことになりそうだから聞きにくい。
こりゃ言ってもダメか……等と思いながら食べ終わった食器を片づけるために椅子から降りると、両親が「「ま、なんにせよ」」と言ったのでその場で聞き返した。
「なにが?」
「お前が勝ってくればいいんだよ。圧勝して来い」
「そうそう。そうすれば実力を裏づけできるし」
「……んな無茶な」
両親の言葉にため息が出そうになったのでそんなことを呟き、流し台まで向かった。
登校時。
最近高町の欠席率が高い。なんでも、時空管理局なる組織で少々働いているとのこと。
そして今日も休みらしい。
ちなみに高町の欠席理由に関しては委員長が教えてくれた。委員長は臨時で手伝っているという事らしい。
俺にとっては殊勝なことだとしか言えない。自分で選択した道だ。他人がどうこう口出しする権利などないしな。
バニングスや月村とは少々会話するぐらいで交流らしい交流などしていないが、たまに高町の身について訊かれる。
なんて思いながら走っていたらバス停を通り過ぎた。別に乗ることはないので関係ないか。
今回も後から出たはずのバスに追い抜かれた。やっぱりあれは【力】のおかげだったのだろうか。
学校に着いた。はっきり言ってぎりぎりセーフ。
最近は眠くないがそれでも多少疲れが残るしな、などと思いながら席に着く。
「よぉ大智! また走ってきたのか、お前?」
「……悪いか?」
席に着いたら霧生が元気にあいさつしてきたので、俺は息を吐いて聞き返したら「いや。良く頑張るなぁと思って」とバツの悪そうな顔で答えてくれた。
「あっそ」
「……なぁ大智。そんなに毎日走ってマラソン選手にでもなるのか?」
見当違いな質問をされたので、俺はただ「違う」と答えるだけにとどまった。
毎日というのはまぁここ最近の事であるのだが、一回も雨が降ったことなどないので雨が降ったらどうするか決めていない。
いい加減決めないといけねぇかな……等とぼんやり考えていると、「なんにせよ、今日もおかず期待してるわ!」と図々しく言って自分の席に戻っていった。
あいつ意外と大成しそうだよなと窓の景色を見ていると、近づいてくる気配が二つ。
俺は二人に向き直った。
「何か用か? 高町なら休みだそうだ」
「ここ最近多いわね……大丈夫かしら?」
「大丈夫というよりは、やってもらわないといけないだろ。休むと選択した以上は」
「長嶋君。それは厳しいよ」
「そうか? ……じゃなく。何用で?」
そう訊ねるとバニングスが「あんた放課後暇?」と訊いてきた。
家に帰るか図書館へ行く以外は特にやることのない俺は一泊置いて「……まぁ」と答えた。
それを聞いた二人はなぜかホッとし、「じゃぁ放課後ね」と言って去っていった。
意図がさっぱりわからない俺は首を傾げたが……先生が来たので放置することにした。
「やぁ貧乏な長嶋君」
「……天上か。如何様か?」
一校時目が終わり次の準備をしていると、珍しいことに天上が一人で来た。
一体どういう風の吹き回しなんだろうかと準備しながら思っていると、人を馬鹿にしたと思われる笑顔をしながらこう言ってきた。
「先生が来る前にバニングス達になんて言われたんだい?」
フム気障だな。そんな感想を抱きながら何と答えようか悩んだが、見知った視線と意味を感じ取ったので素直に「忘れた」とウソをついた。
矛盾した表現だろうが、少しばかり忘れかけているので間違いではない。
「こんな短時間に忘れるなんて、君の頭は阿呆なんだね」
「お前だって興味のないことすぐに忘れるだろ? 同じことだ」
「……ふん」
俺の言葉で何を思ったのか先程までの態度が消え、鼻で笑ってから席から離れた。
何か気に障ったのだろうかと思いつつ、視線を向けてきた方を向くと、友達と話していた。
それを確認した俺は、放課後どうなるかなぁと思いながら頬杖をついて窓を眺めた。
「なぁおかずくっ!?」
「霧生君。わ、私のお弁当あるから!」
「…………」
体育で悪目立ちした後の昼食。最近水梨の積極性が輪をかけてすごくなっているのに沈黙せざるを得ないまま霧生を放置して食べ始めると、「前、いいか?」と聞かれた。
誰だろうかと顔を上げると、そこにはスポーツ焼けをしているのかそれなりに黒い肌をした、俺より若干背の高い男がいた。
「誰だ?」
「こうして話すのは初めてだな。俺の名前は如月裕也。野球クラブでピッチャーやってる」
「如月か。何の用だ?」
俺は食べるのを忘れ目の前で座り始めた男――如月に来た目的を聞いた。
完全に座ったそいつは、「一緒に食いながら話してやる」と言って弁当を食べ始めた。
俺も再開すると、すぐさま如月が質問してきた。
「長嶋ってさ、野球やったことある?」
「……体育の授業以外はないな」
前世でも似たようなものだったと思いながらそう答えると、何故かがっくりと肩を落としていた。
「大丈夫か?」
「いや全然。そうか……俺自信あったんだけどな」
そう言われてさっきの時間を思い出した。
体育の時間。
先生が「今日は野球だー」と教育カリキュラムが心配になるほどの滅茶苦茶ぶりを発揮したために野球となった。
男女混合で男がバッターなら男が、女がバッターなら女がピッチャーという形式で行った。
で、俺は適当なチームに入り、全打席ランニングホームランという成績を出した。
その時のピッチャーが茫然自失としていたのだが……こいつだったのか。
悪いことをしたと思いながら「すまん」というと、「別にいい。謝ってほしくて来たわけじゃねぇんだ」と返してきた。
それじゃぁ一体? と疑問に思っていると、真剣な顔をしてこう頼んできた。
「俺に秘訣を教えてくれ」
「秘訣? なんの?」
分からないので首を傾げると、「とぼけるなよ」と前置きしてからこう言った。
「あそこまでジャストミートされたのは初めてだ。となると、たまたま打てたとかじゃない。だったら、何か秘訣があるとしか考えられないんだよ」
そこまで言われてなんで打てたのか考える。
が、すぐに結論が出た。
……球が止まって見えたから、だな。
はっきり言うと銃弾を至近で避けまくったせいか大抵のものが遅く見える。
今回もそれだ。遅かったから簡単に打てた。
ただそれを言うと如月が死に体になるだろうことは容易に想像がついたので、俺は飲み込み別な言い方をした。
「投げられたものをよく避けてたからだな。ボクシング選手の様に」
「なるほど……動体視力が良かったからか。ありがとな。なんかつかめた気がするわ」
そう言うと席を立ったので、俺は意外そうに聞いた。
「いつの間に食べ終わってたんだよ」
「そう言うお前こそ」
言われて自分の弁当箱を見ると、中身は空だった。
無意識に食べ終わったのだろうかと思いながら「そのようだ」と答えると、急に如月が笑った。
「お前面白いな」
「そうか?」
「ああ。ま、ありがとよ!」
「どういたしまして」
こうして昼食の時間は終わった。
お読みくださって誠ありがたきことです。