世にも不思議な転生者 作:末吉
「俺はたかがゲームを買いに行くために使う惑わしの杖を回収させられたのか……」
スサノオに回廊へ引っ張られて自分の部屋に突き飛ばされた俺は、さっきの話を総合してため息をついた。
まったく。なにが干渉するのはマズイだ。どう考えても接触する前に自分で片が付いただろうに。
そんなことを椅子に座りながら考えた俺は、今回の原因である神具――惑わしの杖の特徴を思い返していた。
惑わしの杖。それは、
魔力を発している奴らの魔力の一部をかすめ取り、距離など関係なく見せる幻覚の杖。
これだけ見れば対処の施しようのないものだが、俺は常日頃魔力を完全に封印しているので陶酔している主犯をボコボコにするのは簡単だった。
ちなみに、この杖は自身の神聖な雰囲気(誰彼関係なくあがめさせる気配)を隠すために使われているとのこと。
その主な用途がゲームを買いに行くことに俺は呆れたが。
「……ハァ」
『高町さん達に説明したのがそんなに嫌だったんですか?』
「それもあるが、な」
今頃俺の言ったことに関して、他言無用だとか秘密にしようだとか言ってることだろう。そう思うと懸命な判断だと思うのだが、教えてしまったことに少しばかり罪悪感を抱いている。
もともと、神様云々の話は俺だけが知っていればいいだけの話。それを他人に話す道理も必要も、全くといってもいいほどない。
先の連行時もそうだ。俺はでっち上げたりなんだりすれば、神様に関する一切の事を関知せずに終わったはずだ。
にもかかわらず教えておけと言ったのは――件のスサノオ。
曰く『将来嫌な予感がする』とのこと。
別に今じゃなくてもいいだろうにと思うのだが、爺はこの機会に言えと言ってきた。
しかしながら……
「それに従って言う俺って相当だな」
『ですね』
簡単にナイトメアに同意された。随分と薄情なものだ。
あー今日もいろいろあったなぁと立ち上がったところで、俺は躍起に作ったものが入った箱を見つけ、思い出した。
と同時に、下から声が聞こえた。
「大智-!高町さんが来てるわよーー!!」
……逝ってくるか。
そう決意して箱を持ち、俺は黙って下へ降りた。
『ちょっとマスター!? 私一人ですかーー!?』
喋られても困るからな。
*アリサ・バニングス視点
「……長嶋はどこか行って戻ってこないらしいし、なのはも出かけたまま帰ってこないって。本当にどうするのよあの二人!」
「アリサちゃん。長嶋君はきっと誕生日プレゼントを探してるんだよ。なのはちゃんも色々あるだろうし」
「何言ってるのよ! 今朝なのはのお父さんとあいつが勝負して、それをなのはが見てたらしいのよ! そこから探しに行くほどあいつはバカじゃないでしょ!?」
そう問いかけたら、すずかが何かに気付いたらしく首を傾げた。
「ねぇアリサちゃん」
「なによ?」
未だにあの二人の事が心配な私は気付かない。
「最近長嶋君の事結構気にしてるよね。先月の最初辺りは大分嫌っていたのに」
「なっ!?」
――自分が、結構あいつの事を気にしてることに。
私の名前はアリサ・バニングス。家がお金持ちで、なのはやすずかとは入学してからの親友。そして、そこに最近加わったのはあいつ――長嶋。
最初の方はものすごく嫌いだった。テストじゃ毎回全教科満点をたたき出して当然って顔をしてるし、私達の事なんて誰ひとり関わる気がない、いてもいなくてもいいような存在だと扱われているようで。
だけど最近は違う。前と変わらない素っ気ない態度はあるけど、少しずつ感情というものが出てる気がする。
まぁ、たまにド直球に物事を言ったり、小学生とは思えないほどの頭脳や常識はずれな行動をしてるけど。
それでも親しみはある程度持てたし、対等に接してくれるから最近はからんでいるけど……
「き、気になんかしてないわよ!!」
「顔真っ赤だよ?」
そう言われて顔を触る私。
すずかにからかわれていると分かっていながら、体温が上昇していることが分かった私は顔を背けて「そ、そりゃ、あれだけ怒ればね!」と誤魔化した。
でも実際少しばかり気になっている。というより、あいつに関わった人たちはみんな気になるんじゃないだろうか。鮫島も最近あった時、楽しくあいつと会話していたし。
そう考えたら少しばかり冷静になれた。
何時までも心配していられないわね。そう思った私は探しに行こうかと思ったら、準備が終わったのかなのはのお父さんたちが奥から出てきた。
「なのははまだ来ないのかい?」
「はい……」
私がそう答えると、なのはのお兄さんが質問した。
「どうして父さんは長嶋君と一緒においてきたんだ?」
「ちょっと喧嘩紛いなことをさせちゃったからだよ」
「あなた優しいわね」
「まぁ私のせいでもあるからね」
「でも、私長嶋君って一度も会ったことないんだよね。どういう子なの?」
全員に問いかけるようななのはのお姉ちゃんの質問。
全員が全員考え込んでいると、近くで足音と聞き慣れた声が聞こえた。
『長嶋君って顔が広いね』
『顔が広いのは俺じゃなくて親だ。…しかし、巡査が相手でよかった。おかげで自宅へ強制帰宅は免れた』
『え? あるの?』
『ああ。一日に二回』
『……大変だったね』
「「「「「…………」」」」」
「あれ? なのはの声がするけど、もう一人が長嶋君?」
『? どうしたの長嶋君? もうすぐで着くのに』
『…………空が綺麗だなと思って』
『いきなりどうしたの?』
『いいから見上げてみろ』
『うん。…って、うわぁ。本当、綺麗だね』
そんな声が聞こえ、私はあいつがどうして立ち止まってるのか理解した。
おそらく、驚かす準備の時間稼ぎのつもりなのだ。
そう思った私はなのはのお父さんに伝えようとしたけど、先にあちらが理解したのか、「みんな、クラッカーを持って」と指示を出した。
全員が持って待っていると、それに合わせたのか再び歩く音が聞こえた。
そしてなのはが入ってきた瞬間。
私達はクラッカーを鳴らして「なのは、誕生日おめでとー!!」と言った。
こうして始まったけれど……。あいつ、クラッカーを鳴らした瞬間消えなかったかしら?
*
「この世界じゃ容易に人に銃口を向けないと理解しているし、祝いの日にそんなことをしないことも分かっていたはずなのだが……いかんな。前世でのものが体に染み付いてしまっている」
ハァッとため息をつきながら電柱から姿を現す俺。
マジでビビった。なんだよ、あれ。なんであんなものが普通に売られてるんだよ。
そんなことを思いながら翠屋にもう一度入ろうと店の前に立ったが、先程逃げた手前入り辛い。あと、割と目立ってる上にあちらから様子が丸見えなのでものすごく恥ずかしい気がする。
いっそのことプレゼントだけ置いて帰ろうかと考えていると、中からバニングスが出てきた。
「入らないの?」
「恥ずかしい」
そう言うと、バニングスは目を丸くした。
「あんたでも恥ずかしいなんて思うの?」
「こういうのだったらな」
「……そう」
すると、いきなりコップを渡してきた。
「空だな」
「これだったら中に入りやすいでしょ? 準備に来なかったけど、最後のアレの時間稼ぎしてくれたみたいだし」
「気付いてたのか」
「あんたの会話の変化でね」
そういうとバニングスはすぐに戻ったので、俺は片手にコップを持ち、箱は潰れないように抱えながら扉を開けて久し振りに翠屋の中に入った。
のはいいのだが。
「君が長嶋君!? うわぁ、ものすごい無表情な顔だね!」
「ハァ……」
入って早々メガネをかけた女性に話しかけられた。
おそらく高町の身内だと思うのだが、一回も顔を見たことがないので分からない。
あちらも分かってなかったようなので、俺は遠慮なく質問してみた。
「お名前は?」
「あ、そうだった。私の名前は高町美由希。なのはのお姉ちゃん」
「……美由希さんですか。俺の名前は長嶋大智です」
「不思議な子だね、なのは」
「え、うん。結構不思議なんだよ、長嶋君」
名前だけの自己紹介をしたら高町とそんな話をする美由希さん。
ふむ。あまり人と関わりを持たなかったから情報がない意味での『不思議』なのだろう。そんなことを考えていると、桃子さんが訪ねてきた。
「そういえば、竜一さんと怜奈さんはどうしたのかしら?」
「両親は面倒だったので家においてきました。まぁ二人もどこかへ行こうと思っていたらしいですが」
「よくやった大智君!」
両親の所在を質問されたので素直にどこかへ行ったと伝えると、士郎さんが喜んでいた。
本当に会いたくないみたいだな、うちの親父に。
そんなことを思いながら、士郎さんに勧められるがまま料理を食べることとなった。
「そういえば長嶋君」
「どうした月村」
ある程度食べて満足した俺は一人離れて箱を誰もいないテーブルに置き、椅子に座ってボーっとしていると、月村が話し掛けてきた。
やれやれ。今日はいろんな人と話す日だな。他人と話す人数なんて、きっと過去最高だろう。
しかし今日の主役って高町だよな……など考えていると、何故か正面に月村が。
「?」
「どうかした?」
「いや……今日は結構な人と会話したなと思って」
「よかったじゃん」
「そうなんだろうが……疲れる」
「慣れればいいと思うよ」
そう言って微笑む月村。印象的には聖母マリアだな。あの人は敵として出てこなかったらよかったけど。
もしそうなったら世界中の犯罪者が洗脳されて……
「長嶋君。また上の空だよ?」
「……あ、悪い。で?」
「その箱って、なのはちゃんへの?」
そう言ってテーブルに置いてある縦長の箱に視線を注ぐ月村。
そんなに気になるものだろうかと思いながら肯定すると、「……手作りなんだよね?」と確認された。
「そりゃそうだろ。親父に機械借りて、パソコンで図面引いて、材料漁って、納得いかないから削っての繰り返し。箱とかの準備できたのに渡すものができないものだから、さすがに焦って昨日は徹夜した」
「……色々と言いたいことはあるけど、長嶋君って凝り性?」
「たぶんな。納得いくまで妥協せずに作るから」
「すごいね、本当」
「そうか?」
「そうだよ。その人に贈るものを一所懸命に作ったんだから。誰もバカにできないし、みんな尊敬するって」
「ただの自己満足だがな」
なぜか褒められたのでそう言うと、「そこは直さないとダメだよ」と顔を近づけていってきた。
直すも何も一面を述べただけなんだが……なんて思っていると。
「なんであんたたち見詰め合ってるのよ?」
バニングスが横から不機嫌そうに聞いてきたので、俺は顔をバニングスのほうへ向け、「何か用か?」と聞いてみた。
すると、バニングスは黙って後ろを指差したので追ってみたら、高町が家族と楽しく談笑していた。
……ウサギの人形を持って。
なるほど。もう渡して構わないと。
そう納得した俺は箱を持って椅子から立ち上がり、「渡してくる」と言って向かうことにした。
「高町」
「え、何この箱?」
「プレゼント」
「……え?」
高町に呼び箱を渡したら不思議がられたので正直に答えたら、目を大きく開けてこちらを凝視していた。
「おかしいか?」
「え、ううん! 違うよ!! ちょっと驚いちゃっただけ!」
「そうか」
「うん……開けても、いいかな?」
「構わん。金がないから全部作ったものだが」
ため息交じりでそういうと、高町の開ける仕草が止まり、翠屋の時間も止まった気がした。
ん? 何かまずいことでも言っただろうか?
バニングスと月村以外=高町家の全員が固まったのを見て首を傾げながらそんなことを思っていると、恐る恐るといった感じで士郎さんが訊ねてきた。
「ということは……プレゼントも、その箱もなのかい?」
「えぇ、まぁ」
材料費や工賃は気にする必要なかったので。
そう言いたかったが、とても言い出せる雰囲気じゃなかったため口をつぐむことにした。
少しして、高町がおもむろに包装紙を外して箱を見る。
箱も包み紙と同じで、ちょっと頑丈そうな紙をもらってプリンターでデザインを印刷。それを組み立てただけ。丁度上が外れるようなものにしたので、特に問題はなかった。
ちなみにデザインなども自分で考えた。かなり悩んだがな。
一週間でよく出来たな、俺などと今更自分を感心していると、高町が「スゴイ……」と言って息を漏らしたのが聞こえた。
何に感心しているのだろうかと思い考え事をやめてそちらに目を向けると、どうやら箱を開けて中身を確認したらしい。
「これ、本当に長嶋君が作ったの?」
「何度も言わすな」
高町が恐る恐ると言った感じで箱から中身を取り出して聞いてきたので、さすがに鬱陶しくなったからそう言って背を向けたら、バニングス達も息をのんでいた。
はて。一体何を驚いて……いや、小学三年生で渡したもの全部作り物というのには驚くか。
他に驚くことあったかねなんて腕を組んで考えていると、いつの間にか全員に囲まれ一斉に同じことを言われた。
「これが手作り!?」
悪いか。ステンレスで作ったウサギ(図鑑参照)のロケットペンダント。
それでは……と、そう言えば四十話になりました、この作品。いつ消えるか分かりませんが、頑張って投稿していきます。