世にも不思議な転生者   作:末吉

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特に区切りの章は入れませんが、蛟竜編第二話です


46:海上空中大乱闘

*……視点

 

 穏やかに揺れる波。微かに香る塩の匂い。

 辺り一面海であるこの場所で、『彼ら』は闘っていた。

 

「ハァァァ!」

「くそ、ガキのくせに……!」

 

 男は少女に距離を詰められて攻撃されていることに苛立っていた。

 これでも男はそっちの世界では名の通った犯罪者であり、その魔法の技術には自信があった。

 だが、目の前の少女にうまいように接近されて攻撃されている。それを防ぐのに手いっぱいだという事実に、男の苛立ちは募る一方だった。

 

 ふざけやがって……そんなことを思いながら鍔迫り合いをしていた男は、その金髪の少女の腹を蹴飛ばす。

 

「あぐっ!」

 

 金髪でツインテールの少女は腹を蹴られて後ろに跳ぶが、ダメージがそれほどないのか少し距離を離れるだけにとどまった。

 が、それこそ男が待っていた時だった。

 

「くらえっ! ウォーター・ファング!!」

「え、キャッ!」

 

 男が魔法を発動させ、少女は避ける前に発動した魔法を直撃した。

 吹き飛ぶ少女。

 それを見た男はこれで終わっただろうと思い後ろを振り返ったところ。

 

「騒ぐならよその土地でやれ」

「がはっ!」

 

 明らかにこの場に似合わない格好をした少年に腹を殴られ、いくつかの骨が折れた音がしたと同時に意識を失った。

 

 

 少年は海に落ちるその男を自身も落下しながら見下ろし、「これで終わったか」と呟いた。

 

 

 海に浮かんでいたのは、吹き飛ばされた少女と似たような人たちと、男とその仲間たちだった。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 やっと終わった。というか、意外と楽だったな。

 沈みながらそんなことを思う俺。

 

 いや、海上に出たらそのまま空中まで飛んだから、どこで誰が闘っているのか把握しての制裁だから面倒の部類だろうな。

 そう思い直した俺は、そう言えば俺ってどうやって帰れるのだろうかと思った。

 

『すまぬな。我はまだ回廊は使えぬゆえ、主を送り返すことはできぬのだ』

「おいおいおい。そしたら俺はどうやって帰ればいいんだよ?」

 

 いきなり現れて謝られた上に最悪なことを言われたので、俺は少し焦った。

 以前の俺だったら帰れないなら帰れないでいいかと思っていたのだが、はっきり言って学校の途中なのだ。帰らないと怪しまれる。

 

 いや、理事長あたりならうまくごまかしてそうだな。本当に、うまい具合に。

 だとしたら帰らなくてもいいのだろうかと思い始めていると、『助太刀感謝する』と言われた。

 

「お前が無理やり連れてきたからやる羽目になったんだがな」

『だとしてもだ……そうそう。上に漂っている者どもを近くの島に流すのだが、主も来るか? 帰れぬなら島に行けばなんとかなるだろう』

「なんとかなる、じゃなくてなんとかする、のが正しいんだがな」

『そうであるな』

 

 笑って言うんじゃねぇ。そう心の中でつぶやきながら、俺は蛟竜の提案に乗って再び水上へ投げられた。

 

 

 

 先程と同じように空中まで放り出される。が、二回目なので特に感慨も浮かばずに水面に着地したと同時に、俺は駈け出した(・・・・・)

 

 水上を走るのは到底無理だと言われている。なぜなら、水というのは液体で、表面張力が薄いからだ。

 軽く触れるだけならまだしも、足を入れるとなると沈む。

 が、足を入れてからすぐに抜き、もう片方の足を入れ……の繰り返しなら幾分か走れる。

 ただし、それはコンマ何秒というシビアさと、その速度を維持しなければいけないが。

 

 んなことを俺は今、何の気なしに行っている。

 

 バシャバシャと足を入れ替える度に飛び散る水を無視して一心不乱に前へ進む俺。

 実際これで走れているか不安だが、まぁ前に進んでいるように見えるので問題はないか。潮の流れに任せてるしな。

 その内漂ってる奴ら追い抜かすんじゃないかと思いながら走っていると、前方に漂っている集団が。

 区別できるって楽だなぁと思いながら、最後に腹を殴って気絶させた男の仲間の一人の腹に飛び乗り、流されるまま漂うことにした。

 

 だって足疲れたし。膝が笑い始めたし。体力ごっそり持ってかれたし。

 そんなことを思いながらボーっとしていると、他の奴らの意識が戻りかけたようなので飛び乗って気絶させまくり(またうるさくならないように)、島に到着するまで誰も起きなか……ったわけじゃないな。俺、一人だけ気絶させなかったんだ。なんとなくかわいそうだったから。

 

 で、その一人はどうしているのかというと。

 

「また君? なんでここにいるの?」

 

 島に到着して近くのツタで全員縛ろうとした時に「何する気?」と後ろから声をかけられ、仕方なく振り返ってからこうして説教(?)を受けている。

 

 ちなみに、その一人――フェイト・テスタロッサの仲間たちも未だ気絶中で、一応ツタで縛ってはいないが、攻撃しようものなら全員をそこらの木に張り付けてやろうかと思案している。

 

 俺は彼女の質問に対し「じゃぁお前らはなぜここにいる?」と聞き返す。

 すると答えられないと案の定返ってきたので、「俺も黙秘する」と言って海の方を見る。

 

 ふむ。浜辺から見る景色というのはこんなにもきれいなものなのか。初めて感動した気がする。

 前世じゃ荒れ狂った景色しか見たことがなかったからな…と考えに耽っていると、何を考えたのか知らんが、俺の隣に彼女が並んだ。

 

「どういうつもりだ?」

「別に」

 

 そのまましばらくボーッとする俺達。

 カモメなどの鳥類が見えず、ただ静かに揺れる波。

 心が穏やかになる……と思いながら、俺はぽつりと漏らした。

 

「……どうやって帰るか」

「え?」

 

 俺のつぶやきが聞こえたのかこちらを向く彼女。

 

「君、帰れないの……?」

「ああ」

 

 そう言うと、彼女はため息をついた。

 

「何があったか教えてもらえないのは分かったけど、どうやって帰る気だったの?」

「知らない。そもそも強引に連れてこられたからな」

 

 普通にそう答えると、「……ハァ」とため息をつかれた。

 どう思われようと別に構わなかったので俺は反対側を見る。

 

 見えたのは生い茂った森林。それ以外は特になし。

 蛟竜曰く『島』なので、一周するのにそれほど時間がかからないだろう。

 何時までも海を見て感動する必要がないと判断した俺はそのまま森林へ歩き出そうと思ったが、彼女が止めてきた。

 

「どこ行くの?」

「探索」

「一人で?」

「なぜ集団行動が前提なんだ?」

 

 彼女の質問に思わず言ってしまう。

 

 行動の選択と実行は組織に入っていないならば、おのずと自分で決めることになる。それぐらい常識な上に、足手まといはいらん。

 なぜわからないのだろうかと思いつつ答えを待っていると、「君を一人にさせられない」と言われた。

 俺からしたらお前らが追っていた奴らを放置すること自体に疑問しか覚えないんだが。

 そう言うと彼女は黙ったので、俺はそのまま探索しに向かった。

 

 

 

「ジャングルだな、本当」

 

 ツタを手刀で切り落とし、警戒心をあらわにしながら周囲を見渡して進んでいく。

 途中に存在した大木は乗り越え、遭遇した原生生物のクマ擬きを殺気だけで追い払った。

 一回大木を壊そうと蹴ったら凹んだだけにとどまり、殴っても同じで、その時は血が流れた。

 今は血が出た拳を持っていたハンカチを巻きつけ、移動中。

 

 どこまで俺は進んだのだろうかと思ったが、考えるより先に進まなければと思い一直線に進んでいくと、視界が開けた。

 

「…………は?」

 

 思わず呆けた声を出し、我が目を疑う。何度も瞬きをして確認したが、何一つ変わっていなかった。

 堪らず俺は呟く。

 

「崖の先に小屋があるだけ、だと……一体どうなってやがる」

 

 そう。どのくらい歩いたのかわからないが、ともかく視界が開けた場所が崖先で、一軒小屋が存在していた。

 

 もともとこの世界の事を俺は知らない。だからここに小屋が建っていても、別段不思議ではないと思ったりする。

 だが、あの場所から一番近い島がここで、それ以外の島が全く見えないので、小屋一軒だけ存在するのが不気味だったりする。

 ひょっとして誰か住んでいる島なのだろうかと思い近づこうとしたが、これ以上は一人になったら探すかと考え、来た道を引き返すことにした。

 

 はっきり言って、戻った時にあいつらが消えていても問題はない。むしろ消えていてくれとさえ願う。

 なんて言ったって邪魔なのだ。行動を阻害される。

 一人でのんびり思いっきりやりたいことをするには、やはり集団は邪魔にしかならない。

 

 こういう考えを前世ではあまり持たなかった原因はやはりあいつがいたからだろうかと思いながら戻った時、やはりというか男達とテスタロッサ達が島の上空と海上でドンパチやっていた。

 

「…………」

 

 俺は黙って見上げる。すると、男とテスタロッサが闘っていた。実力が拮抗しているように見えるが、ダメージを受けていなければそうなっていただろう。

 目線を戻す。こちらでは皆さんが接近したり離れていたりしながら乱戦していた。

 

 ハァ。こいつらダメだわ。弱すぎて話にならん。

 思わずため息をついた俺は、また蛟竜にとやかく言われるのが面倒だったので、そこら辺に落ちている木の枝を拾って木の上を走る。

 

「どうした、動きが鈍いぞぉ?」

「キャッ!」

 

 そんな声が聞こえたが気にしない俺は先端で跳ぶ。

 ビィィィィィン! と木が(しな)る音が聞こえたが、その時はすでにテスタロッサを追撃しようとしていた男に肉薄しており、驚いて動きが止まった男の鳩尾に木の枝をバットを振る動きで当てた。

 

「がはっ……!」

 

 体をくの字にした男は吹き飛びはしなかったが気絶し、木の枝は折れ、俺はそのまま飛んでから海上へ落下。

 ちょうどドンパチやっていた奴らがいたので踏み台とし、落下速度を落としながら海上の奴らを沈めた。

 そこから水上ダッシュ(二回目)で浜辺まで戻り、近くに転がっていた石を傷を負わない速度で当て続けて鎮圧。

 

 疲れたと思いながら、俺は全員をツタで一人ずつ縛り上げた(誰彼関係なく)。

 

「終わった……」

「なんで私まで」

 

 とりあえずまた何か言われるのも面倒なのでテスタロッサも縛り上げる。バリアジャケットのまま縛り上げられたのが恥ずかしいのか、若干頬が赤いが。

 

 そんな抗議を無視して俺は今回の戦闘で使った筋肉をほぐす。大分全力だったため、疲労感が半端ない。

 

 と、ここで不思議に思ったことがあったのでストレッチをしながら訊いてみる。

 

「なぁテスタロッサ」

「な、なに」

「なんでお前らは戻らなかったんだ?」

 

 すると、テスタロッサは「君を帰さないといけないから」と答えた。

 ……。

 

「別に帰ろうと思えば帰れるぞ? お前らが帰れば」

「……君は本当になのはの言うとおりの人物だね」

「は?」

 

 なぜ高町がここで出てくるのだろうか? 不思議でならないのでストレッチをやめて後ろを振り向く。

 テスタロッサは一瞬ビクッとしたが、それでも答えてくれた。

 

「一人で抱え込んで解決する。周りに頼ることで周りが傷つくことを恐れてる。たとえ頼ったとしてもほんの少しだけしか手伝わせない。優しいけど、悲しい男の子だって」

 

 なるほど。人はやはり他人をよく見ているな……。

 そんなことを思いながら俺はストレッチを再開させつつ後ろを向いていった。

 

「前にも、似たようなことを、言われたな。一応、信じては、いるんだが……」

「それを信じてるとは言わないよ。私はなのはからそう教わった」

 

 教わった、か。やはり素直に感化できるのは子供の特権なんだろうな。

 多少羨ましく思いながら、俺はストレッチを終わらせて立ち上がる。そして、拾った小石を振り返って全力で視線の先へブン投げる。

 球速で言えば時速二百ぐらいだろうか。先程ストレッチをし終えたばかりだというのに、またやり直さないといけない。

 その小石はそのまま上空を進んでいくかに思われたが、百メートルぐらいで何かの壁にぶち当たったかのように破砕音が聞こえた。

 

 その音を聞いたテスタロッサは驚いて俺に訊いてくる。

 

「一体何が起きたの…?」

 

 俺は肩を回したりもんだりしながら「閉じ込められた。ご丁寧に外界との交信類もすべて切断されてる」と事実だけを述べた。

 

「うそっ! …………本当だ。つながらない」

 

 どうやら念話で誰かと会話しようとして悟ったのだろう。割と状況判断能力はあるな。

 犯人の目星が一応ついている俺は、頭をガシガシと掻きながらテスタロッサを縛ったツタをほどく。

 

「え?」

 

 呆気にとられているのをいいことに、俺は他の奴ら全員のツタをほどく。

 全員が全員呆気にとられていたので、俺は全員が見える位置に立ちただこう述べた。

 

「俺達はこの島に閉じ込められた」

 

 ……さて。どうやって脱出するか。




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