世にも不思議な転生者 作:末吉
このままだと序章の方が長いかもしれません。
何とかナイトメアを宥めた俺は腹が鳴ったので家にある材料で適当に昼食を作っていると、携帯電話が鳴った。
誰だよこんな時に。そう思いながら俺は無視したが、それでも鳴り続ける。
あぁくそっ。こんなタイミングの悪いやつは一体どこのバカ野郎だと思いながら調理する手をやめ、すぐに携帯電話を取るが、切れた。
「……」
着信履歴を見ると『リンディ・ハラオウン』となっていた。
これだけで何の用事か分かった俺は、調理を再開しながら携帯電話である人物に電話をかけた。
「ごちそうさまでした」
『調理しながら電話してたのに、どうして焦げてないんですか……?』
「日頃の積み重ね」
食べ終わった俺はすぐさま食器を流し台に持って行って洗って片付ける。それが終わったのでナイトメアを左手首に装着する。
『あれ? どうしたんですか一体?』
いきなりなことに戸惑ったらしいナイトメア。俺はそれを無視してただ一言
「
とだけ言って一歩踏み出した。
その瞬間、俺という存在は地球にはいなくなった。
『何度来ても慣れないんですけどこの空間』
「俺は別に」
今俺は特に何もない空間――ずっと道が一直線に続いてるだけのような空間――をのんびりと歩いている。
この場所で急ぐとろくなことがない。気づけば前の時代へさかのぼってしまったり、別世界――神様たちが暮らしている世界に行ってしまったり。
前世じゃよくやったなぁと思いながら俺は以前つけた目印を見つけると、迷わずその
回廊。これは神様達が世界を、時代を行き来するために用いられる移動法。自由自在に扱ったりできるのだが、半端物の神様だとどちらか一方しか使えないらしい。さらに言うと、この空間での移動先はその回廊を開いた神様のみだけが知っているので、実際に飛ばされるか事前に教えてもらうかのどちらかでしか知ることができない。
まぁさすがに二度引きずり込まれればどこにつながっているのかを目印できるのでわかるが。
ちなみに回廊の開き方は神様によってまちまちで、俺がやった方法はスサノオに事前に連絡した際に教えてもらったものである。……一日しか使えないが。
と、こんな説明をしていたらいつの間にか着いたな。誰もいない通路。
変わってなかったらこっちのほうだろうなぁと思いつつ、俺は以前の説明時に使われた部屋を目指した。
のだが。
「……そう言えばここからあの部屋まで行ったことなどなかったな」
そう。すぐに迷子になってしまい、現在どこにいるか皆目見当がつかない状態に陥ってしまった。
困ったな。近くに人の気配がしないし、部屋越しですら感じない。
一体どうしたものだろうかと腕を組んでその場で立ち尽くすことになった。
本当にどうするか。ここ以外に場所は知らないし、かといって闇雲に壊しながら進むというのも常識に照らし合わせれば愚の骨頂。
他に案があるとするならば適当に歩き回って人を見つけることぐらいなのだが、ここまで人の気配がしないと本当に誰もいないのだろうと勘繰ってしまう。
まぁ考えても仕方がないので行動に移すか。
これ以上の思考は無駄だと判断した俺は、本当に人がいないのかどうか調べるために適当な方向へ駆けだした。
「……内部構造を調べられるのはいいんだが、あまりにも無防備すぎて逆に怖くなる」
走り出して二十分ぐらいだろうか。大体の場所を記憶した俺は誰一人として遭遇しないまま、先程の場所まで戻ってきた。
しかしまったく人の気配がない。誰か内部に人がいないかと思っての行動だったのだが、蟻一匹見つけられなかった。
ここまで来るとメンテナンスされている可能性しか思い浮かばなくなったのでどこから出れるのだろうかと腕を組んで考えていると、
「侵入者が一人って、あなただったのね…」
「……ん?」
「久し振りね、長嶋君」
声につられて振り返ると、そこにはいつものような服装のリンディさんがいた。
俺はそのまま体を向けて気を付けの体勢になり、いつも通りの声色であいさつした。
「お久し振りです、リンディさん。すいませんお手数おかけしまして」
「どうやってここに侵入したのかは聞かないことにするけど……ここは整備中だから早くでましょう」
「わかりました」
そのままついて行く俺。罠などの可能性をここで考慮するほど人間不信に陥っていない。ただ人の好意、善意、信頼、純粋さを受け容れられずに信用できないだけだ。
きっとこれらを無条件で受け入れられること自体が『人』なんだろうかと考えていると、いつの間にか光に包まれていたらしく、先程までとは違い視界が明るくなった。
思わず目を細めてしまう。ちょっと夜目になっていたせいか、少しばかり目が疲れる。
「あ、長嶋君! 来てくれたんだね!!」
「……あぁ、高町か」
目を抑えながら聞こえた声の主の名前を呼ぶ。そしてすぐに目を開けると、高町とテスタロッサ、そして不機嫌そうな(実際そうだろうが)ハラオウンがいた。
どう考えても恰好からしてここで働いた後で、魔力も多少なりとも減っているように見える。
……意外と新鮮だが、それ以上の感想を持ちえないし持つ理由がないので何も言わず、俺はとりあえず周囲を見渡す。
その行為に首を傾げる三人を無視しながら、俺は背後から迫る人物の腕を掴んで一本背負いの要領で投げる寸前でその人物が慌て始めた。
「ちょ、ちょっと待って! お願いだからやめて!」
「むやみやたらに背後から近づくな」
そう言って掴んでいた腕を放すとその人物――テスタロッサ姉が、なぜか少々不満げだった。
が、理由のわからない俺はどうでもいいのでリンディさんに「では行ってきます」と言った後に「回廊」と呟いて対象者だけを一緒に巻き込んだ。
「「「「うわっ!」」」」
俺以外の四人は情けない声を上げたが、ただ一人俺は景色を見渡して悪態をついた。
「ったく。おいスサノオ。なんだって直接的に開通した」
今俺達がいるのは古代の日本の大自然に佇む水車付きの小屋の前。自然の景色に人工物の象徴であるモノが何一つない、言ってみれば縄文や弥生時代あたりに存在していた当たり前の景色の中。
その中にある小屋の中から、悪態をついた俺に対し不機嫌そうな顔をしながら出てきたスサノオが、ため息をつきながら言った。
「お前が一向に来る気配を感じなかったせいじゃぞ」
「悪かったな」
「悪びれてないの」
そう言って俺達を見渡す。
俺以外はどういう表情をしているのかどうかわからないが、きっと驚いているのだろう。そう考えながら、俺はスサノオに訊ねた。
「例の空間はできたか?」
「傲岸不遜なんだか無遠慮なんだか分からぬの…まぁ出来とるが」
「これで惑わしの杖の件はチャラにするか。ありがとう」
「……もはや何も言うまい」
呆れたのか再び溜息をつくスサノオ。
もう少し詳しい説明を聞こうと思ったところで、ようやくなのか高町が口を開――
「ねぇフェイト。この水スゴイ綺麗だよ!」
「ちょ、ちょっと姉さん!」
――く前にすでにテスタロッサ姉妹が大自然を前にはしゃいでいた。
いや、正確にはテスタロッサ姉だけがはしゃいでいてテスタロッサが止めている、か。
声だけを頼りにその方向を向くと、すでにスサノオがそこにいてテスタロッサ姉の襟首をつかんで土手に立っていた。
「小娘よ。ただ人の身でこの水を浴びたらタダでは済まんぞ」
「放して!」
「ほれ」
かと思いきやいきなり俺の少し前に現れていきなりつかんでいた襟首を放したので、俺は咄嗟にスライディングキャッチ。
背中や尻の方が熱く、砂埃が少し舞う。
俺は腕の中にいるテスタロッサ姉を無視してその体勢のまま見下ろしているスサノオに訊ねた。
「…何の真似だ」
「怒るでないわ。ただこの小娘に対する警告じゃて」
そのまま睨み続けていると、テスタロッサ姉が恥ずかしそうに俺に向けてなのか言ってきた。
「ね、ねぇ長嶋君。わたし的には放してもらいたいなぁって思うんだけど……」
「それもそうだな」
言われた俺は転がってテスタロッサ姉を地面に降ろす。
ちゃんと彼女は降りたのだが、何故かこちらを一切見ずに小さな声で「…………ありがとう」と言われた。
別に面と言えという訳じゃないが、どうしてしおらしくなったのだろうか。スサノオは面白いものを見つけたという顔をし始めたし。
いきなりの変化に戸惑いながら立ち上ると、後ろから高町が「早くやろう長嶋君!」と少し怒った口調で言ってきた。
「ほほぅ」
「何呑気に感心している。とりあえず汚れた服洗わせろ。そして換えの服を貸してくれ」
「命令とお願いか。……まぁいいじゃろ。その間に話でも?」
「…構わん」
どうやらスサノオは高町達と話をしたいようなので俺は了承し、自分は水車付きの小屋の中で換わりの服を取りに向かった。
……にしても、どこで服を洗おうか。
*……視点
小屋の中に入った大智を確認せずに着流し姿の見た目五十代の好々爺――スサノオが高町達に真剣な表情を向けて訊ねた。
「お主達に訊きたいのじゃが、どうしてこんな風に鍛えてもらいたいんじゃ? はっきり申すと、主らが集まるより大智一人ですべてが事足りるしの」
あえて
しかしながら、高町は即座に答えた。
「確かにそうかもしれません。けど、友達があんなことに関わっているのに助けられないのが悔しいんです!」
それに呼応してか、テスタロッサも意気込んで答える。
「私はなのはとは違う理由ですが、強くなれるのなら頑張ります!」
その流れのままハラオウンを見ると、彼は警戒していた。
「どうした?」
「僕は結構です」
「ほぅ……それは?」
目を細めてスサノオが訊ねると、その眼力と漏れ出た殺気のせいか四人の腰がいきなり砕けたように座り込んでしまった。
やってしまったと思った彼は、すぐさま殺気を引っ込めて雰囲気を戻し、改めて質問した。
「君の
「!?」
「「「??」」」
言われた意味が理解できない座り込んだままの女子三人だが、ハラオウンただ一人は座り込んだまま拳を作って歯軋りをしてから、怒った表情でスサノオに訊き返した。
「…なんで知っているんだ?」
「そりゃぁわしは神様じゃからの。…で、どうする。仇討など何も生まないが、それでも強くなろうと思わんのか?」
その言葉がまるで悪魔の囁きだということは言った本人が一番理解している。だが強くなってもらわないといけないのだどんな理由でも、と思っていた。
この先神仏修羅やその紛い物などと彼女達も戦うであろうと予見されれば、否応なく。
果たして。スサノオの甘言が効いたのか、ハラオウンは入れていた力をすべて抜いてから「分かりました」と呟き、スサノオはホッと胸をなでおろすのを内心で行い、面では満足そうにうなずいた。
それと時を同じくして、大智が小屋から出てきた。
スサノオと同じ着流しの格好で、リストバンドを左腕に装着した状態で。
訓練の方はさらっと流していきたいです。
お読みいただきありがとうございます。