世にも不思議な転生者 作:末吉
『マスター、今日もお出かけですか?』
「あぁ。何か用事があるらしい」
『……またですか』
「悪いな」
『私もつれて行ってくれませんか?』
夏休み四日目。午前八時四十五分。快晴。
出かける準備(といっても財布と携帯電話ぐらいしかない)がすでに完了したので新聞を読みながらナイトメアと雑談していると、唐突に自分も行きたいと言い出した。
別に連れて行く理由がないんだがな……等と思いながら、新聞をめくり答えた。
「特に用事がないだろ」
『それはそうですが! 私だってたまに外に出たいなーと思ったりするんです!!』
「熱に弱くないのか?」
『そんな軟弱じゃありません!』
「……どうしてもついてきたいのか?」
『ハイ!』
なんだか高町みたいなことを言うなぁと思いつつ新聞を読んでいると、『今年は例年より日差しが強い模様。熱中症対策をして外出してください』という記事を見つけた。
「砂漠でフルマラソンを昼夜問わず行えばこれぐらいで熱中症になるとは思えないんだが……」
『いえ。砂漠って、昼はともかく夜はとても寒いんですよ? 風邪ひきますよ下手しますと』
「知ってる。ただ、体力もつくし暑さに耐性もつくから、やった方がいいかもしれないというだけだ」
『小学生どころか大人でさえも拒絶する内容ですけどね……』
「まぁ保険で帽子でもかぶって外に出るか。幸い時間はあるし」
『それで、私は一緒に行っていいんですか?』
「……ああ」
やったー! と嬉しそうに叫ぶナイトメアを放置しながら、俺は帽子を探しに二階へ上がった。
午前九時四十五分。快晴。
十五分前行動はもはや習慣化されているほど当たり前。
というわけで、俺は今公園の入り口前に佇んでいるんだが……
「やっぱり帽子が不思議なんだよな……」
『持ってきた時は驚きましたよ』
「俺は必要なかったから持ってなかったが……親父の部屋行ったらなぜか
『しかもそれ、ジャストサイズなんですよね?』
「ああ。……いつの間にこれ作ったんだろうな」
『それは私にもわかりかねます』
この会話の通り、俺はテンガロンハットをかぶって佇んでいる。気配を自然と同化させているせいかあまり目立っていないが、はっきり言ってこの帽子は二重の意味で目立つだろう。
だが、それがなくとも俺はこの場合目立っているのだろう。
いつぞやのように動物、しかも猫のほかに鳥までも集まっているのだから。
気配を同化させる意味がなくなったので段々ともどす。その過程でさらに猫や鳥が集まってきたが、俺には追い払うことが出来ないので、我慢。
日光以外で熱中症になるなんてことはあるのだろうかと思いながら携帯電話をポケットから取り出すと九時五十分。
あと十分待つのか……流石に倒れたりしないよな。
そんなことを考えながら、日陰に移動せずそのまま待っていた。
通り過ぎる人たちの視線をスルーし続けて待つこと、更に二十分ぐらい。
猫は俺の横に一列に並んでおり、鳥たちは俺の後ろのコンクリートの塀にこれまた一列に並んでいる。この光景ははっきり言ってびっくりどころじゃないと思う。現に、写真を撮る奴らもいたし。
まぁテンガロンハットを深くかぶっていたから顔は映らなかったと思うが。
でそんなことになっていた時、高町は来た。
「ごめん! ちょっと色々準備してて……って、えぇ!? ど、どうしたの長嶋君この光景!」
「やっと来たか」
俺はハットを元の高さに戻し、高町のところへ移動する。その際鳥は一斉に飛び立ったが、猫だけはフラフラと移動するだけだった(うち数匹は俺の後をついてきた)。
高町の格好は夏だからか薄手のもの。暑いからか麦わら帽子をかぶっており、両手で手提げバックを持っている。胸には俺があげたペンダントが。
これから一体何をするのだろうかと思っていると、先程の光景が気になったのか「どうしてあんなに集まっていたの!? すずかちゃんのところやアリサちゃんのところもうそうだったけど!」と勢いよく質問してきた。
現状暑いのを我慢していた俺はそのテンションに合わせられずに「歩きながら答えるから。どこへ行くか案内してくれ」と促した。
「あ、ご、ごめん! えっと……行こう?」
「どこに」
「こ、こっち!」
そう言って高町が先導して歩き始めたので、俺は普通に歩いて高町の隣に行き、そこからペースを合わせた。さすがに短い時間だがほぼ毎日やっているので、歩調位は真似できる。
「「……」」
会話がない。俺は別にいいんだが、高町が挙動不審になっているので温度差がすごい。
ここは合わせるか。そう決めた俺は高町に話しかけた。
「なぁ高町」
「な、なに!?」
「さっきの光景は、あれだ。動かないで待っていたら自然と集まってきたんだ」
「そ、そうなんだ…す、すごいね、長嶋君!」
「凄いのかどうかは分かりにくいな。動物に好かれやすいわけじゃないと思うし」
「長嶋君がやさしいから、きっと動物さんの方も寄ってくるんだって!」
「話変わるが、勉強は?」
「本当にいきなりだね……長嶋君は?」
「終わった」
「うそっ!?」
「夏休み二日で終わらせた。……そっちは?」
「え、わ、私は……まだ一教科しか終わってなくて、少しずつやっているけど、管理局の方もあるし」
いきなりしどろもどろしだしたので、俺はため息をつく。
「まぁそれで終わるならいいが……まだ手伝いなんだろうから無理に行かなくていいと思うぞ? 宿題出来なかったら、それこそ本末転倒だ」
「うっ……でも私、」
「でももなにもない。両立できるようなスケジュールを組め」
「……うん」
「まぁ俺は大体暇だから、勉強で分からなかったら電話するなりして頼っても構わん」
「………え? 長嶋君、今なんて言ったの?」
「ん?」
俺の何気ない一言に高町が目を見開いて足を止めて訊ねてきたので、俺は少し先で立ち止まって思い返しながら振り返って答えた。
「『暇だから勉強ぐらいなら頼っても構わない』こんな感じじゃなかったか?」
「うん。そうだった」
「それが?」
「……以前は自分で何とかしろって言ったのに、ずいぶん変わったなと思って」
そう言われて納得する。
確かに俺は、自分でやるのは自分で何とかしろと言い続けてきた。
けど今は、分からなかったら俺に訊いても構わないと言った。
変わったな、俺。今更ながらに思う。
おそらく、これまでの交流による外的要因(おもに手伝いやら一緒に作業する類)を経験した結果だろうと分析。
それでいて、高町の現状を聞いた限り時間があっても宿題が終わらなそうだと勝手に推測したのもあるのだろう。
ふむ。こうしてみると他人の心配してるな。俺は宿題という心配事がないから関わっている物を淡々とこなしていくだけだからか知らないが。
こうして思い返してみると去年までの夏休みってつまらないものだったんだなぁと思っていると、「聞いてるの?」という声で引き戻された。
「悪い」
「上の空だったけど……大丈夫? 少し休む?」
心配そうに聞いてきたので「考え事をしていただけだ」と答え、高町に「で?」と聞き返す。
「あ、うん。頼っても、いいかな?」
「バニングス達に手伝ってもらうのが最良だろうが…時間合わないだろうしな、お前」
「最近あったよ、私」
「あっそ」
会話終了。見事に自分で終わらせてしまった。
今はナイトメアが黙っているが喋り出したら怒るんじゃなかろうとかぼんやり思っていると、今度は高町が話しかけてきた。
「ね、ねぇ長嶋君! その帽子、結構おしゃれだね!」
「こんな西部劇に出てくる帽子が?」
「そう!」
「そんなことない。オシャレだというなら、お前の方だろ」
「え!? う、うそっ!」
「何をそんなに慌てているんだ? 自分で考えて着てきたんだろ?」
「う、うん……」
暑いからか高町の頬が若干赤い。熱中症じゃなければいいんだが、確かめるすべもないのでこのまま歩……
「なぁ高町」
「な、何長嶋君!?」
「俺達はどこへ向かっているんだ?」
「え? ……あ」
俺の言葉に高町はどういう事か気付いたらしい。周囲を見渡してから「あれっ? あれっ!?」と慌て始めた。
それを見た俺は少し考えてからどういう事か理解した。
――――どうやら、本人が目指していた場所とは違うところに来たらしい。
「ごめんね」
「気にするな」
四度目ぐらいのやり取りをしながら、俺達は高町が目指していたお店――玩具店へと足を進める。
なんでも、月村の誕生日が近いからプレゼントを買うというもの。
それで俺は何で来てるのかというと……一緒に選んでほしいとのこと。
――というのを、右往左往していた高町を落ち着かせて聞いた。
場所や道順は歩いていた人を適当に捕まえて訊いたので、分かっている。高町がそれについて謝っているのは当然か。
最初に許したはずなのにどうして未だに謝ってくるのだろうかと少し辟易しながら歩いていると、少し遠くの前方からバニングスと月村の姿が見えた。
「バニングスと月村がこっちにくる」
「えっ! ど、どうしよう!? 私今日、二人と勉強する約束してたの断ってるのに!」
慌てながらサラッと言った言葉をスルーすることにし、俺はそのまま歩きだす。
だって俺関係ないし。最悪気配消して一人逃げればいいし。
だが一応事情を聴いたのでフォローぐらいはするか。そう考えながら歩いていたら割とすぐ距離が縮まった。
「ようバニングスに月村。宿題終わったか?」
「てことは、長嶋君は終わったんだね?」
「二日前にな」
「本当に終わらせたの?」
「有言実行は当たり前だろ。…そっちは?」
「私は二教科ぐらいかな? 色々と忙しくて」
「私もまだ三教科ぐらいしか終わってないわよ」
「そうか。……ところで、近々月村が誕生日を迎えるそうだな?」
「そうよ。…って、あんたには言ってなかった筈よね?」
「高町からさっき聞いた」
「あんた会ったの?」
バニングスの質問に頷いて肯定した時、後ろから駆けてくる音がしてから俺の手を握ったと思ったらそのままバニングス達の横を通り過ぎようとした。
が、麦わら帽子をかぶった高町に気付いたらしいバニングスが、とっさに高町の腕をつかんだために失敗。
あ、こりゃ怒られるな。高町の手の震えを感じながら俺はそう直感し、すぐさまそれは現実となった。
……しかし、この状況で高町は何と言い訳するのだろうか?
誕生日に関しては以前の前書きでありました通りです。
ありがとうございます。