世にも不思議な転生者 作:末吉
炎天下らしい中路上で説教をしているバニングスに、おとなしく聞いている高町。
を見ながら、俺は月村に話しかけた。
「高町はともかく、バニングスは大丈夫か? あいつだけだぞ、帽子かぶってないの」
「そうだね。ちょっと心配かな」
というだけで行動を起こさない俺達。で、少し疑問に思ったことを聞いてみた。
「二人で勉強してたようには見えないんだが……誕生日会の準備…なわけないか。何してたんだ?」
「長嶋君。女の子だけで出かけてたってことで、男子には知られたくないものだってあるんだよ?」
そう言われたら強く出る訳にもいかず、元々それほど興味もない疑問だったため「まぁ買い物にでも行ったのか」と納得し、俺は説教をしているバニングスの方へ近づいて自分がかぶっていたテンガロンハットを頭からバニングスに被せた。
少し驚いた声を上げたバニングスは説教をやめて俺に振り返る。
「何するのよ!」
「路上で説教するのはいいが、長くなるなら帽子でもかぶれ。ぶっ倒られても困る」
「うっ」
バニングスが言葉に詰まったので、俺はこの場から立ち去る好機だと思い二人の間に割って入ってから高町の手を握り、近いバニングスの顔を気にせず(バニングスは帽子をかぶらせたのに顔が赤かった)申し訳なく言った。
「悪いな。こいつにも事情があって先を急いでいるんだ。その帽子は次会った時でいいから」
最悪返さなくていいけど。そう心の中で付け足しながら、高町の慌て様を無視して引っ張るように歩き出す。
「……あ、ちょっと! 待ちなさーーい!!」
なんか後ろで制止を呼びかけられたが、構っていられん。
……しかし、高町の体温ってこんなに高かったか?
「着いたな」
「……う、ん。そう、だね…………」
目的地の玩具屋の前で息切れしていない俺とは対照的に呼吸を整える高町。早歩きぐらいのペースのはずだが、疲れるほどだったのだろうかと思ってしまう。
なぜなら、
「……ここ、ね」
「あ、なのはちゃんの誕生日プレゼントを買いに来たときのお店だね」
後から追ってきた二人もそんなそぶりがなかったからである。
これは体力不足が原因なのか管理局の仕事での疲れが原因なのか……等と思いながら、これからの事をどうするか考えることにした。
一応、俺は高町に誘われ月村の誕生日プレゼント選びに随行している。
しかし、月村とバニングスが追いかけてきてしまった。
そして俺は、女子がプレゼントされると何が喜ぶのかわからない(高町の時は、バニングス達が選んだのも参考にし、使えそうなものを適当に見繕った結果)。
……? そういやそれぐらい(俺のプレゼント選びのセンスのなさ)高町は知っていたはずだろうに、どうして誘ってきたのだろうか。
自然と高町の手を放し腕を組んで考え始めたところで俺は首を振って追い出し、現状の組み合わせ的なことをすぐさま組み立て、自然と口に出た。
「悪い高町」
「え?」
「俺じゃ力不足だ。だから、バニングスと一緒の方がいい」
「……どういう意味?」
それに俺は答えずにバニングス達に向き直り、バニングスだけを手招きした。
「バニングス。ちょっと来てくれ」
「はぁ? 何よ一体」
そう言いながら近づいてきたバニングスに、俺は「ちょっと高町の相談に乗ってくれ。俺じゃ無理な話だ」とすれ違いざまに言ってそのまま月村まで歩き出す。
月村はあまり事情を察せていないので戸惑っている……というか、俺以外の全員が戸惑っているに違いない。
この場で口にするのは得策じゃないことぐらいわかっているつもりの俺は、とりあえず携帯電話を取り出して二人にメールをする。
「ん? ……あぁ、そういうこと」「なにかな? ……!」
「どうかしたの、二人とも?」
驚いた二人を見て不思議そうに尋ねる月村だったが、二人ともごまかし、片方は残念そうな、もう片方は怒った視線を俺に向けてきたので、とりあえず頭を下げる。
そんな状況にますます困惑する月村だったが、バニングスが「そこの喫茶店で待ってたら?」と勧めてきたので俺は頷き「じゃ、そこで待つか月村」と言ってついてくるよう促した。
「え、ちょっと」
「行くわよなのは」
「うん……」
歩き出した俺を追いかけるように月村はこちらに向かい、それに合わせて高町とバニングスは玩具店へ入った。
……心なしか高町の元気がなくなっていたが、大丈夫だろうか。
*高町なのは視点
今日はアリサちゃんたちのお誘いを断って、すずかちゃんのために誕生日プレゼントを選ぶのを長嶋君と一緒に手伝ってもらう予定でした。
でも、途中でアリサちゃんとすずかちゃんと合流して変わってしまいました。
「…………なんで分かってくれなかったんだろう」
「あいつが鈍いのは今に始まったことじゃないでしょ?」
「それもそうだけど……」
「……まぁ、なのはの言わんとしている意味は分かるけど」
お店の中に入った私達はそんな会話をしながら店内を見て回りますが、いかんせん気持ちが沈んでいてそれどころじゃありません。
長嶋君は、春先までとはだいぶ変わっているように思えます。本人が言うには『表情面では変わっているが、それ以外は変わっていない。ただ、接している時間が長くなったことによって見る面が変わっただけだ』そうです。
確かにその通りかもしれません。今までは学校でもそれほど見ることがありませんでしたし、家が近所だというのにまったく会話らしいものが在りませんでした。
だけど今では、連絡を取り合ったり、一緒に勉強したり、こうして一緒にお出かけをしたり、魔導師の特訓をしてくれます。
「いつまでも落ち込んでるんじゃないわよなのは」
「…でも、」
「あいつのメール見たでしょ? あいつだって出来ることなら約束通りしたかったはずよ。でも私の方が適任だと思ったから、あんなメールを寄越した」
「……それは分かってるよ。けど…」
長嶋君があの時送ってきたメールには『俺にはプレゼント選びのセンスがないので、バニングスについて行ってもらう』と書かれていました。
おそらく自分の事を知っているからこそ、このメールを送ってきたのでしょう。
ですが、私は納得できませんでしたし、なにより今日ずっと一緒に居られると思った長嶋君とこんな風に離れたのに胸が痛みます。
…………って。
「あれ?」
「どうしたのよ、なのは?」
思わず声に出してしまったようでアリサちゃんが首を傾げたので、私は慌てて誤魔化します。
「え、べ、べつになんでもないよ?」
「……まぁいいけど。さっさと選んであいつにジュースの一杯ぐらい奢らせるわよ」
「もう」
アリサちゃんの言葉を聞いて苦笑して後を追いながらも、私は不思議に思ったことを考えました。
昨日、長嶋君に電話を掛ける時ぐらいから気持ちが昂っていて夜もなかなか寝付けない状態になり、今日は、服を選ぶのに時間がかかって遅刻したり、服装を褒められて嬉しかったり、手をつないで緊張したり、一緒に居られないことに落ち込んだり、いつもより長嶋君がかっこよく見えたり……と先程まででも随分一喜一憂しました。
どうしてなのかと考え始めてすぐに、昨日の夜お母さんとお姉ちゃんに言われた言葉を思い出しました。
『なのは、長嶋君と約束してたわよね?』
『え!? なのは、もうデート!?』
「違うよ!」
「どうしたのよなのは? いきなり叫んで」
「……あ、ごめん。ちょっと思い出しちゃって」
「まったく……今はこっちに集中しなさいよ?」
「う、うん!」
それからはアリサちゃんと一緒にプレゼント選びに集中しました。
……それにしても、いつまで長嶋君の帽子かぶっているのかな?
*
「終わったか高町」
「うん……でも、どうして長嶋君は落ち込んでるの?」
喫茶店で待っている間月村と話して時間を潰していた俺だが、その際に言われた一言に衝撃を受けていたら高町達が俺達がいる席に来て、質問された。
落ち込んでいると思われた俺は苦笑しながら「別に落ち込んだんじゃいない。浅はかだった自分に失望しただけだ」と答えた瞬間、一斉に「「「そっちの方がひどいよ(わ)!!」」」と見事なツッコミが返ってきた。
「自分で自分に失望することのどこが酷い? 無力さを知ったら大体やるだろ」
「確かに…」
「…それは、そうだけど……」
「長嶋君。そこまで重く受け止めなくていいんだよ!」
言った本人である月村がそんなフォローをしてきたので俺はこの話題を終わらすことに決め、先に注文したコーヒーを飲みながらメニューを開いて訊く。
「で? お前達は何にする?」
「い、いきなり何よ」
「昼食だ昼食。もう十二時過ぎてるんだぞ? 要らないなら別に飲み物だけでいいが……」
「あ!」
高町があげた声に俺は首を傾げた。
「どうした? 昼食に関してなにか言いたいことでもあるのか?」
その問いに高町は逡巡したが、やがて覚悟を決めたように答えた。
「……行きたいお店があるんだけど、いい?」
行きたいお店、か。これは今日の続きという解釈でいいのだろうか。
先の失敗で少しばかり判断能力が鈍ってるという考えに至った俺は約一分くらい考えて、答えを出した。
「いいぞ」
「本当に!?」
「ああ」
頷いて俺は月村達に向き直り、言った。
「という訳だ。時間をとらせて悪かったな」
「良いわよ別に。今日はちょっと息抜きしてただけだから」
「うん。色々買いものして、あとはゆっくり帰るところだったから」
「そうか。ここの勘定は持つから、出るか」
「「「え?」」」
俺はコーヒーを一気に飲み干すとレシートをとって席を立ち、三人が呆気にとられている間に精算を済ませ、戻る。
「じゃ、行くぞ高町。案内してくれ」
「え!? あ、うん! …って、ちょっと待ってよ!!」
戻って早々俺は高町にそう言って出口まで歩きだし、それを見て慌てた高町は買ってきたものとバックを持って追いかけてくるようだ。
残り二人は急な展開について行けないのか、固まったままだった。
「とりあえず二人に戻ったわけだが……何を食べるんだ?」
「うえっ!? え、えっと……く、クレープ?」
「なんだそれ?」
「……え?」
『クレープ』という単語に俺が首をひねったからか、高町が信じられないという顔で驚いていた。
「知らないの?」
「まったく。菓子類なんてシュークリームやケーキ以外口にした記憶がないし、それらも翠屋で初めて知ったようなものだし」
「……」
「で、どういうのなんだ、それ?」
これから食べに行くらしいものが気になったので質問すると、高町が少し間をおいてから笑った。
気でも狂ったのかと思いながら「大丈夫か?」と訊くと、「長嶋君って、いつも通りだね本当に」と笑いが収まった後に言われた。
貶されたのか褒められたのか分かりにくい一言だったので返答に窮していると、いつものような元気な声で「クレープっていうのはね…………」と歩きながら説明してくれた。
実際食べてみると、生地が薄いからか包んでいたクリームなどが混ざり合って甘く、おいしかった。
ちなみに。
「どうだった、ナイトメア」
『外を眺められるのは嬉しいのですが、暇なことには変わりありませんでしたね』
「だから言っただろう。暇だ、と」
『次もつれて行ってくださいね!』
こんな会話を家に帰ってしていた。
お読みくださりありがとうございます。