世にも不思議な転生者 作:末吉
「なぁノスフェラトゥ」
「なんだい長嶋」
いよいよ月村の誕生日になった。それまでの間にノス(親しい奴らはこう呼んでいるらしい)にこの世界の吸血鬼の正体を確かめてもらったり、自分でプレゼントを作ったり、ナイトメアを使用した状態での戦闘訓練を手伝ってもらったり、高町達の訓練をするために留守番させたりして仲良くなった…といえばいいのだろうか。
ちなみにだが、月村が件の吸血鬼で間違いないようだ。ちらっと見てもらってノスが頷いていたのだから、間違いない。
そして俺達は今、最終確認をしている。
「お前らの世界の住人がどこにいるのか分からないんだな?」
「そうだね。ここ周辺だってことは分かるんだけど、詳しい場所はここの【統括者】に調べるのを禁止されてね」
「なぜだ?」
「さぁ? 訊いたら、その力の余波によってこの世界が変な空間につながりかねない、って言われた」
「まぁ確かに。稽古をつけてもらった時全力じゃないと言われて悔しかったし」
「君だってだいぶ制限していたんじゃないの? 広場だったらもっと戦えたと思うけど」
「限定空間でもっと戦えるようにならなければ、この先そういう場面に遭遇した場合大変だ」
「ま、その話は置いといて。分かってるのは、今日確実にあいつらは彼女を襲う。じゃなきゃ数日前からこの世界に潜伏するはずがない」
「下調べがあるからな」
こんな会話をしながら朝食を食べる俺達。ナイトメアは俺達の会話を聞きながら『呑気ですね』と呟いたが、それに関してはスルーすることにした。
「しかしどうするの? どこにいるか分からないんだよ彼らは」
「二人組なのか?」
初耳なんだがそれ。
「いや、四人組だよ。彼らはそのチームワークで数々の規律を破った吸血鬼を屠ってきた実力の持ち主だ」
「あっそ。所詮四人いないとダメだろ?」
「君だったら生かさず殺さずを平然とできるだろ?」
顔を合わせず、朝食の皿に視線を落としながら会話をする俺達。
「お前が直接的に手を出せばいいだろうが」
「残念ながら僕は今【統括者】じゃない。君と同じだ」
「だったらなおさら」
「でもね、僕は【統括者】に手を出さないという条件を出されているんだ。攻撃から身を守るのならできるけど、反撃はちょっとね」
「……マジか」
いきなり攻撃できません宣言をされた俺はつい顔を上げてしまう。
それを読んでいたのかノスも顔を上げていた。
ニヤッと笑うノス。それを見た俺は嫌な顔をする。
畜生。俺がやらなきゃいけないってことか? まったく面倒くせぇ。
それが顔に出ていたのか、「大事な友達を見捨てるのかい?」と言われ、今度は苦虫をかみつぶした顔になった。と思う。
そんな俺の顔を見てノスは頷いていたから。
「うんうん。ろくでなしでなくて良かったよ」
「十分ろくでなしだと思うんだがな、俺」
「卑下するのは構わないけど、誰もそう思わないと思うよ」
「表立ってはな」
「君ってやつは……」
今度はため息をつかれた。変なことを言ったか俺は?
朝食を食べ終えた俺達は、食器を片づけながらこれからどうするか話し合う。
「君はプレゼントできたのかい?」
「まぁ……そっちの対策はできてるのか?」
「心許無いけど何とか。現地調達だと限度があるし、観衆の目に入った場合も考慮しないといけないからさ」
「最悪俺が見ていた奴全員気絶させると言っただろうに」
「どこで誰が見ているなんてわからないからね」
食器を片づけた俺達は再び椅子に腰かけて予定を話そうと思ったが、インターフォンが鳴ったために中断。
俺が席を立って玄関へ向かい、ドアを開けた。
「お、おはよう長嶋君!」
「まだ八時前なわけだが……早くないか?」
「え、えっと、い、いてもたってもいられなくて…」
恥ずかしそうに小さい声でつぶやく高町。気のせいか、少しばかり頬が赤い。
そんな姿を見て、そういえば昨日の夜高町が勉強を教えてとか電話きたから適当に明日暇な時間来いって言ったなぁと思い出す。いくら暇な時間と言えど、早朝はどうかと思うが。
まぁ来てしまったものはしょうがない。俺はそう考えて高町を家に上げた。
「やぁおはよう」
「あ、おはようございます、ノスさん」
リビングへ案内したらノスが高町に顔を向けてあいさつし、それにつられて高町も頭を下げた。
俺とノスのはっきりとした関係は高町には教えていない。親の知り合いだと言って、ちょっと探し物をするために数日泊まっているとだけだ。
ノスは俺達を交互に見てから何を得心したのか「それじゃぁ僕は散歩にでも行ってくるから、二人でゆっくりしな」とウィンクした。
何気障なことしているんだよと俺は思ってため息をついたが、高町は慌てていた。
「え、あ、その、そ、そんなんじゃありません!」
「そうかい? なら」
「ノス。それ以上からかうのはよせ」
「ははっ。長嶋はユーモアセンスが足りないよ」
「別に足りんでいい……高町。適当に座ってくれ」
「う、うん!」
こうして、高町の勉強を午前中手伝った。
正午。高町が持ってきた教科が終わったので玄関先で見送り、月村の誕生日に行くかという話で借りていたものを返し、とりあえず行くと言って帰ってもらった。
リビングへ戻ると、ノスが昼食を作りながら「服はどうするんだい?」と訊いてきた。
「このままで構わんだろ?」
「いやいや。どう考えてもダメでしょ。礼服着ようよ」
「馬子にも衣装だと思うぞ。この格好が俺にはお似合いだ」
「郷に入っては郷に従えだよ」
「馬の耳に念仏」
「機によりて法を説く」
「だから猫に小判……って、いつのまにことわざで会話することに?」
「ま、そんなことどうでもいいからさ。礼服着ようね、礼服。少しは雰囲気に合わせなきゃ」
「……礼服あったかな」
結局俺の方が折れ、昼食を食べてから礼服探しをすることになった。
『しかしマスターは押しに弱いですね』
「だよね」
「別に。これ以上続けたとしても不毛だと思ったら折れるだけだ」
「ふ~ん」
『それじゃ、押し売りされたらどうするんですか?』
「そうだとわかったら商品を投げつけてでも返す」
「…というか、ここに訪問販売の人たちが来たところ見たことないんだけど」
「俺も一度もない。郵便も。新聞は別だが……と、また話題がずれたな」
「だね」
『でしたね』
「というか、ナイトメアはどうして会話に参加しているんだ?」
『……』
当然の疑問を沈黙でスルーするナイトメア。
話が終わる。
「「ごちそうさまでした」」
二人とも手を合わせてそう締め、そのまま食器を片づける。
「ノスは大丈夫だろ?」
「当たり前じゃないか。僕はそのくらいのマナー弁えてるさ。君じゃあるまいし」
「うっさい。俺は勲章授与式には制服だったんだよ」
「……君は小学生なんだよね?」
…。どうやら俺が転生者だってこと知らなかったようだ。
これは一度説明した方がいいのだろうかと考え、正直に答えた。
「前世で兵士だったんだよ、俺は」
「なるほどねぇ。君の常識に疎い行動や、年齢以上に冷静な部分、そして年齢以上に器用もそれで説明がつくね。彼が薦める訳だ」
「彼…【統括者】か」
「詳しくは言えないけどね」
まぁ統括者は自ら正体を明かさない限り秘密だからな。
スサノオが言っていた条件の一つを思い出し、片付け終えた俺はそのまま二階へあがって礼服を探した。
「…一応あったにはあったが」
「う~ん。あれはさすがにね……」
なんか母親の部屋に置いてあったのだが、なんていうかどことなく坊ちゃんみたいな服だったため流石にないなという意見で一致し、礼服をノスと一緒に買いに行くことになった。
「しかしあの服は何のために置いてあったんだろうか」
「さぁ? 案外似合っていると思ったからだと思うけど」
「絶対思ってないだろうな」
そんな会話をしながらノスの案内の元右へ左へ曲がったり直進していると、仕立て屋らしき店を発見した。
……見たことのない店。
店の前でそんなことを考えながら見ていると、ノスが「入るよ」と肩を叩いて促したので、俺は腹をくくって店へはいることにした。
「やぁギルジャーノ」
「おぉ、これはノスフェラトゥ様! お久し振りでございます!! ……そちらのお子様はどちら様ですか?」
「彼はあいつらが向かった世界で知り合った友人でね。彼の友人が狙われてるからお灸をすえるために手伝ってもらっているんだ」
「あぁ…奴らですか」
そんな会話が俺を放置して続けられる。
手持無沙汰な俺は、とりあえず周囲を見渡すことにした。
前世の世界史で中世ヨーロッパの店の一例を見たのと似たような感じ。展示されている服や生地はなく、俺達とカウンターだけが存在している。
湿気対策とかだろうかと思いながら傍観していると、「そうそう。戻ってきたのは彼の礼服を仕立ててもらいに来たんだよ」とノスは話を切り出した。
「そうなんですか……ちなみに、予算はどのくらいですかね」
「これで」
そういって取り出したのは、金貨らしき硬貨二枚。
「ほほぅ。さすがはノスフェラトゥ様。…分かりました。最高級の素材で作らせていただきます」
「いや、今日中に着るから彼の見栄えが他の人が嫉妬するほどかっこよくしてくれれば、素材は気にしないけど」
「了解しました! 至急準備して作らせていただきます!!」
ノスの提案に敬礼をした瞬間奥へと消えた。
「……あの人、ものすごい焦ってたな」
「そりゃそうだよ。普段三日かけて作るものを二時間ぐらいで作れと言っているようなものだから」
「お前鬼だな」
「服をちゃんとしない君のせいだけど」
そんな応酬をして待つこと一時間弱。
さっきの人は晴れやかな顔で(悟りを開いた顔ともいう)戻ってきた。
さすがにこの顔と吹き出ている汗でどれだけの激務か想像できたのだろう。ノスはその人を労ってからもう一枚同じ硬貨を出してカウンターに置いた。
「はいこれ。手間賃だよ」
「こちらが仕立てた服でございます」
そういって広げたものは、現代日本でも着る人が多い上下黒のスーツ。しかもネクタイとワイシャツも黒いという徹底ぶり。
「じゃ、試着しようか」
「ああ」
さすがにこれ以上注文を付ける気はないのだろう。ノスは俺に試着を促したので、頷いてその場で試着した。
「……存外着易いな。蒸れる心配もなさそうだし」
「しかもビシッと決まってるから子供だとなおさら思えないね」
「いかがでしょう?」
「ありがとう。これにする」
「いい仕事してくれたね、ギルジャーノ」
「もったいなき…お言葉です…ッ!」
「じゃ、まだ役目終わってないから僕達戻るね。カーミラ来たら、今日中に帰るよと言っておいてね」
「分かりました!」
再び敬礼で見送られた俺達は店を出た。その瞬間道はいつもの道に戻っていた。
恐ろしいな統括者。一瞬でそんなことできるのか。
まさに勝てる気がしないと思いながら、俺は自分の服装を見て声を上げた。
「どうしたの?」
「服がない」
「僕が持ってるから大丈夫」
「そうか」
話題終了。
服装が黒いスーツのままなのに違和感がなく、その上通気性に優れているので日差しが強いのに暑さを何故か感じない。素材のお蔭だろうか。
「そういえば今何時だっけ?」
「私服の方に携帯電話が入ってる」
「これね……もうすぐ四時になるね。一旦戻って君のプレゼント取りに行こうか?」
「だな」
そして曲がり角を曲がった時、一台の車がものすごいスピードで通り過ぎて行った。
そこに乗っていたのは、猿轡をされて気絶している月村と、男二人だった。
ご愛読ありがとうございます。