世にも不思議な転生者 作:末吉
「おいノス!」
「分かってる!!」
俺は通り過ぎて行った車の方向を見てノスに叫ぶと、ノスはそれに呼応してこの場から消えた。おそらく、通り過ぎて行った車を追いかけて行ったのだろう。
一瞬警察に連絡するかどうか悩んだが、俺も追いかけようと決めて通り過ぎて行った方向へ駆けだした。
畜生! いくら受け身でないと自体が動かないからといって面倒なことしやがって!! 一体どこへ向かったんだあの車!
面倒だったのでコンクリートの壁を蹴って電柱へ飛び乗り、そこでいったん考える。
……落ち着け。焦ったところで事態は好転しないし、ノスが追いかけてるのだから問題ない。
そう自分に言い聞かせて深呼吸をする。
二回ほどやって気持ちが落ち着いた俺は、そこに立ったまま道の進行方向で監禁及び軟禁しても大丈夫そうな場所を探す。
相場的には廃工場や廃コンテナだったりするのだが、そういうのが見える範囲にない。
となると一体どこへ車が向かったのだろうかと佇みながら目をつむって考えていると、若干遠く――北西辺りからだろうか――車のブレーキ音が小さく鳴り響いた。
…………あっちか?
片目を開けてブレーキ音が聞こえた方角を見る。しかし、ここから上は見えても下が見えないので、道路状況が分からない。
とにもかくにも行動してみないと分からないか。そう考えた俺は、微かながらに聞こえた方角へ屋根伝いで向かった。
「くそっ! 違った!!」
まさかガードレールに突っ込んで事故を起こした奴だったとは。幸い死人もおらず応急処置だけをしておいたが、とんだ無駄足だった。
舌打ちした俺は地面を駆けてからもう一度電柱へ飛び乗り、もう一度周囲を見渡す。
いっそのこと魔力を使いたが、こんなところで使うと後が面倒だしそもそもナイトメアは置いてきたので無理。
携帯電話への連絡はノスに持ってかれたので、同じく無理。
全部後手に回っちまったじゃねぇか! と電柱で地団太を踏んでいると、パサパサと羽ばたく音が聞こえた。
一体どこからだと不審がりながら周囲を見渡すと、一匹の蝙蝠が目の前で飛んでいた。
「? ……ああ。ノスか」
すぐに正体を看破した俺はその後の蝙蝠がすぐさま飛び立ったのにも対応し、そのまま追いかけて行った。
蝙蝠が一匹……となると、見つけて監視してるかか、つかまって一匹だけ残したかのどちらかだろうか。そこら辺は考えたところで現状を理解していないのだから分からないが、とりあえず無事を祈るとするか。
蝙蝠一匹の後を追ってついた場所は森の中。結構生い茂っているので、大分放置されているのだろうと推測できる。
…そういえばあったな、誘拐犯が身を隠す場所。
なんで思いつかなかったんだろうと思いながら蝙蝠を探すと、背後から気配がしたので咄嗟に振り返って距離をとる。
「って、お前か」
「やっと来てくれたね。僕じゃ先制攻撃はできないのだから、さっさと来てくれないと」
「……で、どこにいる」
「あっち」
俺の後ろを指したので振り返る。しかしながら生い茂っているせいで視界が悪く、奥に何があるか分からなかったが、おそらくログハウス的な小屋だろう。
ひとまずわかったので、俺はノスに向かって手を出した。
「なに?」
「着替えさせろ」
「あ、うん」
服をひったくって着替え、とりあえず携帯を確認してみる。
斉原や高町、バニングスといった面々から電話がかかってきていたことを確認。バタンと閉じてポケットに入れ、「近づけなかったのか?」と訊ねた。
「難しいね。ちょっと罠がありすぎて」
「まるで追手があること前提みたいな用心の仕方だな」
「彼らの用意周到さには何かがある。そうなると、僕達は既に見つかってるのかもしれない」
「それを念頭に置いて行動してみるか……その罠は?」
「ワイヤーだったり銀の矢だったり」
「お前の存在も念頭に置かれてるみたいだが………」
「みたいだね」
肩を竦めてため息をつくノス。それを見た俺は体ごと後ろへ向ける。
「策はあるのかい?」
何をするのか薄々見当がついたらしいノス。そんな彼に対し、俺は首を左右に回してから答える。
「あるわけがない。正面突破だ」
「…だよね」
苦笑する声が聞こえたが耳を貸さず、俺はクラウチングスタートから全力で駆けだした。
地面が抉れる音と土砂が噴射する音と木の枝などが折れる音がした時にはすでに、小屋の目前だった。
おそらく五百メートルほどの距離があったのだろうか。ほぼ数秒、下手したらコンマ以下の秒数で着いたようだ。
が。車が急に止まれないように、そんなスピードを出した俺も慣性の法則で止まれるはずもなく。
止めようと思ったが空しく、そのまま小屋に突っ込んだ。……運よく窓ガラスの部分に。
「な、なんだ!?」
「おい今上から凄い盛大にガラスの割れる音がしたぞ!」
「とりあえずフォグたちを呼び戻せ!」
階下でそんな騒ぎ声が聞こえたが、窓ガラスを突き破って多少慣性を失った俺は体を一回転させて着地。その際窓ガラスの破片で掌を切った気がしないわけでもないが、もうすでに服はボロボロ、全身切り傷だらけなので問題なし。
てか、この小屋二階が……というより屋根裏部屋があったのか。良かった。いくら俺の身体能力がおかしくても、ログハウスの木にぶつかったら死ぬ。
などとやっていたら誰かが顔をのぞかせたので、俺は問答無用で勢いよく蹴る。
「げふっ!」
顔面に直撃し、そのまま下に落ちた。高さがないからか死んではいないようで、そいつに追撃を入れるために飛び降りようと下を覗いたら、仲間が俺に気付いたようで銀のナイフとアサルトライフルの乱射をしてきた。
咄嗟に俺は顔を引っ込め、何かないかと周囲を探す。
とはいえここは屋根裏。おそらく無人の小屋だったろうからモノがあるはずが……
「ないか」
よくよく考えてみればこいつらの方が先に来ていたのだ。ここに何かあったとしても没収されているだろう。
ならばどうするか。俺はとりあえず破った窓から屋根の上に跳びつつ考える。その時に残りの窓ガラスを思いっきり割ったので、下手すると気付かれたのかもしれない。
一体どうしたものか。敵は四人。こちらは二人だが味方が使い物にならない。おまけに人質まで向こうにいる。
目標は人質――月村の無傷での救出及び犯人の無力化&送還。ハンデとして俺一人攻撃が可能、魔力使用不可、軽度負傷……か。
状況を確認しながら屋根のてっぺんで胡坐をかき、俺は腕を組んで考えようとしたところで銃弾が飛んできたので首を横に動かすだけで避ける。
チッ。もう外に出てきたのか。そう舌打ちしながら後ろから来た銃弾を避ける。
すると同じ後ろからナイフが飛んできたので、人差し指と中指でナイフを挟み取り立ち上がる。
銃弾の嵐がこちらに向かって飛んできたが、ナイフを手に入れたのでそのすべてを弾く。
キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキッ!! という音が周りに響く中、俺は気配を確認する。
……ふむ。小屋の中に一人。おそらく月村だろうか。他四人は正面に二人裏に二人分散している。まぁ攻撃されてるので分かりやすいのだが、一人だけ何もしてこない。
もう面倒だな。さっさと終わらすか。
銃弾を弾き続けながら方針を決めた俺は、そのまま正面入り口の方へ移動する。
前方の銃撃が激しくなり、後方の攻撃がなりを潜め始めた状態で俺は見下ろす。
金髪や茶髪といった、この世界じゃあまり珍しくない髪の色。それとガンマンみたいな恰好。ただしテンガロンハットをしていない。それが観察した結果。
「……もういいか」
弾切れになったらしく銃撃がやんだので、俺はナイフを振る手をやめて飛び降りる。
その様子にマガジンを換えようとした片方は驚いていたが、もう片方は冷静に俺を見上げ…その瞬間には俺の頬の横をナイフが通り過ぎた。
頬が切れて血が流れ、ナイフに込められていた人の殺気を久し振りに感じた。最近はこういう輩を相手取らなかったからな、若干反応が鈍っているのかもしれん。
普通に小屋の入り口近くのテラスに着地した俺は、その正面にいる二人の男に対し先程切った頬の血を擦りながら笑いながら挑発した。
「良い反応だ」
「そういうテメェこそ。ガキのくせにいっちょ前にナイフ振り回しやがって」
「おいレクサ。さっき顔面に蹴りいれられたからって怒るな」
「けどフォグよぉ!」
「悪いが」
二人が言い争っている内に俺は冷静にナイフを投げてきた男――フォグに肉薄し、
「手早く終わらせる」
ナイフを持っていない左手で拳を作り、ほぼゼロ距離でかなり加減して腹部を打った。
今の身長としては百三十ぐらいで、相手はおそらく百六十ちょい。頭一つ分足りないぐらいの状態なので若干腹部へ当てるには斜め上へとなってしまう。
故に今の結果として、フォグは数センチ浮き上がり白目をむいて後ろから倒れた。
隣――レクサだったか――が驚いている間に、俺は持っていたナイフを奴が持っていた銃に向けて投げ、どうなったかを確かめる。
見るとどうやら銃口に当たったらしく、ちょうど真ん中に刺さっていた。
それを見て再度驚くレクサ。
その隙を見逃す気がない俺は、首の骨が折れないように上段回し蹴りを食らわせ、首から全身へ衝撃をいきわたらせて気絶させた。この間十秒近く。
人の本物の殺気を相対したのはこの世界で初めてじゃないだろうかと思いながらこの二人をどうしようか考えていると、屋根から声が聞こえた。
「
俺は振り返りもせずに答えた。
「見ればわかるだろ。縛っておけよ、ノス」
「この二人と一緒に縛るさ」
その瞬間先程まで屋根にあった気配が、俺の目の前にいる二人の近くに現れた。気絶させただけと思われる、裏側にいたらしい二人を引きずった状態で。
…おそらく礫かなんか投げられたんだろうな、こいつら。
自己完結した俺は縛り終えたらしいノスに言った。
「じゃ、さっさと救出しようぜ」
「その前にその傷だらけを何とかしようか?」
…………無理じゃね?
とりあえず出血が激しい部分――頬の部分は傷跡が残ろうが関係ないので、血が流れないと分かるまでボロボロになったシャツの袖を破ってガーゼ代わりにして拭き、それ以外の傷はすでに止血していたので放置。
うっかり手のひらを切ったりしたが、それもシャツの袖を破って巻くことで誤魔化す。
ていうか、もう両袖がないのだが(頬の部分を拭いた袖も掌に巻いてる)。
応急処置を終えた俺は、蹴りでドアをぶち破る。
いともたやすくぶっ飛び、階段があった空間に激突する。完全にドアの部分はオシャカになっているが気にせず、ノスより先にそのまま小屋に侵入して月村がいる方へ向かう。
「どうやら無事なようだな」
「良かった。彼らが彼女に攻撃というか危害を加えていたら、間違いなくカーミラの拷問から僕の罰をしなくてはならないから」
本当、あれだけは面倒だからなぁと思い返すノスを無視し、俺は椅子に座らされて猿轡をされ、縄で縛られている月村を見る。
ノスのいう事を信じるなら、月村は肉体的には無事なのだろう。精神的な方は…分からないが。
これが精神的ショックになったりでもしたらどうするかと思いながら縄をほどき、猿轡を外し、月村に声をかける。
「おい月村。大丈夫か」
「う、うぅ……な、長嶋君? と、後ろにいる人は?」
すぐに目を覚ました月村が、俺とノスの存在に首を傾げた。
まぁそれも当然だろう。自分が誘拐されてすぐに俺達が助けに来るのは。それに、ノスとは初対面だろうし。
うっすらとそんなことを考えながら「俺の知り合い」と短く答えると、俺の状態に気付いたのかいきなり慌てだした。
「その怪我どうしたの!? まさか、私を誘拐した人たちと…!?」
そこまで慌てるほどの状態だろうか俺の今は。戦場だと当たり前のような傷なので、月村があわててハンカチを傷痕に充てようとする姿が不思議に思えた。
なので俺は月村を手で制止させて言った。
「確かにそうだが、別に大したものじゃ「それじゃその手に巻いてる布からにじみ出てる血は何!?」……ガラスで切った」
「……そう、なんだ」
ひとまず月村が落ち着いたようなのでさっさと用件を済ませようと質問しかけたら、先にお礼を言われた。
「ありがとう長嶋君。助けてくれて」
「まぁ車が通り過ぎたのが見えたからな。見過ごせなかっただけだ。お「やっぱり変わったよ長嶋君。最初の頃とは雲泥の差だよ」…ところで」
何やら嬉しそうに俺を評価していたが気にせず、俺は本題に入った。
「助けたからと卑しいことをする気はないから一つだけ確認する。……月村。お前吸血鬼だろ?」
「――――え?」
容赦なく放った言葉は、月村の顔に絶望の表情を浮かべさせた。
――まるで、知られてはいけないものが露見したように。
ご愛読ありがとうございます。