世にも不思議な転生者   作:末吉

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とりあえず久々(初?)の主人公悪役もどきモード


64:気にしないさ

「――――どうして?」

 

 震えた声で月村が問いかけてくる。その声と浮かべられている表情を見て、どうやら真実のようだと確信した俺は、ありのまま答えた。

 

「お前を誘拐したのは、ヴァンパイアハンターだ」

「!?」

「どこかで情報が漏れたんだろ。俺もノス――ノスフェラトゥから聞くまでは分からなかった…ちなみにだが、ノスは吸血鬼の頂点にいる奴だ」

「よろしくね」

「……え? え?」

 

 驚いたと思ったら今度は困惑しだした。

 ふむ。一方的情報の開示は冷静になる機会を失うのか。なるほど。

 月村の行動や表情を見ながらそんな結論を出した俺は、そのまま説明を続けた。

 

「で、九割確信を持って訊ねたんだが……どうやら本当の事のようだな」

「……うん」

 

 顔を俯かせて悲しそうに頷く月村。…大分ショックだったようだな。誘拐より、隠し事がばれた事の方が。

 この日が来る前に正体に当たりをつけていた時、『この世界じゃ吸血鬼という要素は限りなく薄いから、僕の世界に来なければ狂暴化もしないし血を吸ったりできない。よって危険性はないんだよねぇ』とノスがコーヒーを飲みながらつぶやいていたのを覚えている。

 つまり超薄い割合で流れているだけで、普通の人間と変わりない。

 だからばれても問題ないような気がするんだが……等と思っていると、月村が悲しそうに微笑みながら質問してきた。

 

「……どこで知ったの?」

「だから後ろにいるこいつ」

「どうも~ノスフェラトゥでーす。一応吸血鬼の真祖やってまーす」

「……本当?」

「本当だ。お前を誘拐した奴らはノスの……」

 

 ここで俺は口を止める。

 なぜなら、この後の事を口にするという事は月村に別世界の存在を教える形となり、さらにいうと神様云々の話までしないと絶対に納得しないと思えてしまったからだ。

 当然、言いかけた俺に対し月村は普段とは裏腹のしつこさで詰め寄る。

 

「ノスさんの、何?」

「……」

「なんなの?」

「………」

「ちゃんと言ってよ、長嶋君」

 

 ――隠し通せないか。

 そう判断した俺は魔法や転生者云々の話を抜いた全てを説明しようと語ろうとした、その時。

 

「すずかお嬢様!」

 

 背後から聞き覚えのある声が聞こえ、ノスと一緒に振り返る。

 そこにいたのは、顔が必死というところ以外何一つ汚れのない服装のノエルさんだった。

 この瞬間俺は計画を即興で立て、彼女が何か言う前に月村の首筋に左手の指先を当てた。

 

「動くな」

「長嶋君! ど、どうして…!!」

「長嶋様。これは一体……」

 

 事態の急転について行けない月村に、俺の行動の真意を測ろうとしているらしいノエルさん。

 だが、そんなものは測らせない。

 俺は左手の指先を当てながら叫ぶ。

 

「ノエルさんや。あんた、こいつを助けに来たんだろ? なら一歩でも動くな一ミリでも手を動かすな。さすがに瞬き位なら許してやる。こんなことやってるが、すべてを拘束しようってわけじゃないからねぇ!」

 

 狂った奴らなら前世でもたくさん見たからな。そんな奴らをコピーするぐらい簡単だ。

 動かなくなったノエルさんを見て、俺はノスに「例の十字架を寄越せ」と言うと、すぐに意図を理解したのか「了解ドン」と黒い笑みを浮かべて懐から例の十字架を取り出す。

 

 それを見て固くなった月村とノエルさんを尻目に、俺はわざとらしく叫ぶ。

 

「いやぁ、ノスのお蔭で久し振りにいい獲物が手に入ったなぁ! 吸血鬼(・・・)なんて、いい値で売れるんだろうなぁ!!」

「「!!?」」

 

 驚いていて声が出せない二人。

 気にせず俺は続けた。

 

「でもよぉ! そんなの面白くねぇだろ? だからさぁ、こう考えてみたわけだ。――――銀の十字架を身につけさせて、じわじわと死に行く様を見ようってよぉ!!」

「させま「できる訳ないじゃん、ただの人が」ぐあっ!」

 

 さすがに俺の外道極まりない発言が聞くに堪えなかったのだろう。ノエルさんは殺気を持って接近しようとしてきたが、それをノスがただのひじ打ちでログハウスをぶち抜くほど吹き飛ばした。

 

「ノエルさん!」

「大丈夫。死んじゃいないよ。ただ傷だらけなだけさ」

「……どうして!? どうしてこんなひどいことするの長嶋君! いつもなら何事もなく説明した…!」

いつも(・・・)? 一体何の話をしているんだ、お前?」

 

 月村が俺の態度が豹変した理由を聞いてきたが、俺はただ問い返した。

 信じてたものを、ぶち壊すように。

 

「――――え?」

「お前達と一緒に居た時の俺が『いつも』だと思ってるなら、そいつは間違いだっての。俺の本性は冷酷非情。つまり、昔の方が正しい」

「う、そ…」

「はっ」

 

 今にも壊れそうな月村の言葉を鼻で笑い、俺はノスに十字架を首にかけるように指示。

 頷いたノスはネックレスの金属部分を持って普通に月村の首にかける。

 と、ここまでうまくいったものの力の消去云々は話が出来ないことに今気づいた俺は、もう面倒だったので月村の腹を殴って気絶させる。

 

「ふぅ」

「お疲れドン。最初何言ってるんだと思ったけど、まさか十字架を渡すこと以外の全てをあやふやにした上に、自分を悪役にするなんて……普通の精神構造じゃできないよ?」

「別に。お前の目的はあいつらの送還と、十字架を渡して力を消すか否かを決めさせること。悪役は、第三者が来てしまった場合俺達をまずどう思うのか瞬時に考えた結果そうなっただけだ。…それより、さっさとあいつら連れてトンズラするぞ。一応メモを挟んだから大丈夫だと思うが、悪役になってしまったので読まれるかどうかわからない」

「君が嫌われていいのなら別に問題ないけどさ…ま、それもそうだね」

 

 俺達は小屋と月村を放置して外に出、縛られた四人を持ち上げてその場を離れた。

 

 

 

「――てか、攻撃できないんじゃなかったのか?」

「何言ってるの。あれは肘を置いたところに彼女が飛び込んできただけだよ」

 

 

 

 

 

 

*月村すずか視点

 

「――――ですか! 大丈夫ですかすずかお嬢様!!」

「――待って!」

 

 聞き覚えがある声に呼びかけられた私は、体を起こして叫びました。

 普段ではありえない行動をした長嶋君を止めようと手を伸ばして、駆け寄ろうとしたところで。

 

「すずかお嬢様……」

 

 感極まった声が聞こえたので振り返ると、全身擦り傷だらけの上に服がボロボロのままであるノエルさんが居ました。

 

「…ノエルさん。その傷」

 

 もしかしてあの時の? そう聞こうとしたら、いきなり私を抱きしめて嬉しそうに泣きながら、こう言ってくれました。

 

「……無事で良かったです」

 

 私も、素直にお礼を言いました。

 

「ありがとう、助けに来てくれて」

 

 

 

 私、月村すずかは、吸血鬼です。その事を知っているのは、私の家族と士郎さんと恭也さん、長嶋君の両親と長嶋君と一緒に来ていた自称吸血鬼の真祖と長嶋君と誘拐犯四人だけです。なのはちゃんやアリサちゃんたちは知りません。

 士郎さんには、長嶋君の両親のつながりで警護のようなことをしてもらったことがあります。

 

 ……自己紹介はこのぐらいにしましょう。

 

 私はノエルさんから離れて「このまま家へ帰るんですか?」と分かりきったことを質問してから、先程の長嶋君が豹変した理由を考えていました。

 

 助けに来てくれたのに自分で誘拐したと言い張り、ノエルさんを一緒に居た人に攻撃させ、私を気絶させて放置した彼。

 まるで自分を悪者にして事を収めようとしている。

 

 そう考えたら私は、無性に腹が立ちました。

 

「あの、ノエルさん。長嶋君の事なんだけど…」

「お嬢様を誘拐したと仰っていたご学友ですね。お嬢様、もう二度とあの方と一緒に居ないでください」

「違うよ」

「え?」

 

 長嶋君の言葉を信じたノエルさんがそんなことを言ったので、私は即座に否定しました。

 ノエルさんが呆気にとられたので、更に私は言います。

 

「私を誘拐したのは長嶋君じゃない。長嶋君は、私を助けに来てくれたんだよ」

「ですが、なぜ彼はそう言わなかったのですか?」

「そ、それは…」

「どうして月村家の秘密を知っていたのですか?」

「それは……ノエルさんをそんな状態にした人に聞いたって言ってた」

「ならその人はどうして知っていたのですか?」

「吸血鬼の真祖だって言ってたけど」

 

 そこからしばらくノエルさんの質問に分かる範囲で答えていたら、ヘリの振動でなのかどこからか紙がヒラリと落ちました。

 私の答えに何やら考え込んでいるノエルさんは気付いていなかったようなので、床に落ちた紙を拾って広げ、そこに書かれていたものを見て思わず声をあげそうになりましたが、なんとか耐えて続きを読みました。

 

『月村へ。これがお前の手にあるということは、俺が逃走してるのかもしれないが、気にするな。お前の正体を知ったところで言いふらすこともないし、気にしていないから。

 で、だ。

 おそらくお前に銀の十字架のネックレスが渡っているだろう。

 それはお前の吸血鬼の力を封印する十字架だ。もっとも、それを決めるのはお前だが。

 やり方は簡単。その十字架を握りしめて『封印する』と強く願うだけ。したくないのなら、おとなしく外せ。以上』

「……長嶋君」

「…お嬢様? なぜ泣いておられるのですか?」

「え?」

 

 ノエルさんに言われ慌てて目元を拭う。その時、指先に雫を感じました。

 なぜ泣いたのかと理由を考えましたが、すぐに思いつきました。

 

 嬉しかったのです。秘密を知っているのに、変わらぬ態度で接してくれたのが。同時に、解決策を用意してくれたのが。

 今まで言えなかった自分の秘密。知られたらいじめられるのだろうと思い、今まで隠し通してきた事実。

 それを知ったにもかかわらず、長嶋君は変わらぬ態度で助けに来てくれ、多少行き違いがありながらも解決策を用意してくれました。

 私はもう、迷いません。

 長嶋君の無実を証明するため、私は不思議そうな顔をしているノエルさんに声をかけました。

 

「ノエルさん」

「なんですか?」

「長嶋君は私を助けてくれました。それは事実です」

「……でしたら、なぜ彼はお嬢様を人質に取ったのですか?」

「それは…」

 

 言葉に詰まりました。

 私を助けたのに、私を人質にする。この矛盾した行為の理由の説明に対し。

 長嶋君は面倒そうなことは基本的に早く終わらせ、悪いところだけを肯定し、自分に関わりのないことは徹底的にかかわらろうとしない天才。といっても過言ではない人間です。

 『人』になることを目指し、いたって真面目に突拍子のないことをし、平然としている。そんな人なんだと……

 

「あ」

「どうしました?」

 

 アリサちゃんたちと長嶋君のことについて色々話した事を思い出し、ある仮説を思いついた私は声を上げノエルさんはそれを見て首を傾げたので、その仮説を――なぜだか確信を持てる仮説を――口にしました。

 

「ひょっとして、ノエルさんに誘拐犯だと勘違いされたと思っているんじゃ…」

「あ。なるほど」

 

 こうしてノエルさんの誤解は解け、私はどこにいるか分からない長嶋君にメールで『今日、忘れないで来てね』と送りました。

 送るとき少し緊張したのは、誰にも言えない秘密です。




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