世にも不思議な転生者 作:末吉
*……視点
「先代。いや理事長と呼べばいいかの?」
「……スサノオか。彼なら回復してるさ。リンカーコアを蒐集されたにもかかわらず、それほど時間もかからぬうちに回復していたようだ」
そんな会話を繰り広げれる彼ら――着流しに下駄を履いて黙って彼を見ているスサノオと、仮面をつけて新品同様の白衣を身に着けてスサノオとは反対側に立っている理事長。
彼らは一人の人間のベッドを挟むようにして立っており、理事長は分からないがスサノオは心配そうな顔をしていた。
そもそも彼らがいる空間自体が異質。空間全てが白く塗りつぶされており、違う色があるとすれば彼が眠っているベッドの足の部分が銀色ということのみ。それ以外はスサノオと理事長を除き白。
この空間が球状なのか直方体なのか分からない。ただ平面上に無限に広がっている。
「……どうやら、原作が始まってしまったようじゃ」
彼――長嶋大智から視線を外して見上げ、独り言のようにつぶやく。
それに反応した理事長は頷いて答えた。
「そのようだ。向こうからテスタロッサ姉妹の転校手続きがありそうだから、今のうちに海鳴市の住民票を六人……いや、七人分か。をつくっておくさ」
「二人とも頑張ったんじゃが……やはり歴史の強制力には敵わなかったか?」
そう残念そうに言うと、理事長は即座に否定した。
「違う」
「どういうことじゃ?」
「
「……なんじゃと?」
鋭い視線を理事長に向けるスサノオ。その眼には説明しろという意志が宿っていた。
それを受け流した理事長は、大智へ視線を落として「そちらも見当がついてるだろうに」と意味ありげに言った。
「ところで…この分じゃと当分起きぬのではないか?」
「急に話題を変えるとはあなたらしい……彼女が駆けつけてくれなければ死んでいてもおかしくなかった。心臓を突き刺さなかったのはおそらく……」
「内臓をぶち抜いて殺したと確信したのか、彼女――シグナムという人格を持ったプログラムが来て逃げたか、じゃの」
「あるいは彼女達に誤解を植え付けて対立に拍車をかけるということも」
「ふぅむ。まぁここで我々が考えても無駄じゃろう。こいつともう一人の転生者に頑張ってもらうしかないわい」
「しかしながら、そこにイレギュラーがいることもお忘れなく」
「さてさてどうなることやら……」
眠りについている大智の一挙一動を見逃さないと云う様に、その空間で二人はじっと起きるのを待っていた。
*
――――生きているといえば生きているのだろう。そんな感じだ。
今意識的に感じているのは浮遊感。宇宙空間における無重力のような感じで、意識の俺は浮いてると感じている。
俺はどうしてこんな風になっているのだろう……あぁ、腹部刺されて出血多量だったんだか。
意識が途切れたのだからてっきり死んでいるのだとばかり思ったが、そこら辺はどうなのだろう。
ふと生じた疑問。口が動かないから喋っていないはずなのに、どこからか「生きていますよ」と返ってきた。
その瞬間から感じる重力。降り立った大地は雲のようにふわふわしていて、上は青かった。
まるで空にいるかのように錯覚するが、俺の体が若干透けているのを見るとどうやら別な場所らしい。
重力を感じた時に意識などが戻ってきた俺は声の主を探す。
「どこにいる?」
「ここです長嶋大智」
後ろから声がしたので振り返る。
そこにいたのは身長157ぐらいのパンチパーマ。目は若干の細めで、福耳がやたらに長い。
正体はこの時点で予想できたが、確信が持てなかった。
なぜなら、胸が若干膨らんでいるのが見えたおかげで、
俺が知ってるのは
少し考えてから質問する。
「お前は釈迦じゃないのか?」
すると彼女は俺に向けてにこやかに笑い、こう言った。
「いえ。私は釈迦です。
「……な」
驚く俺に、彼女――釈迦は続ける。
「釈迦というのは世襲制なんです。正式に言うなら釈迦牟尼。釈迦族の聖者という意味なので、一人だとは限りません……神になったのは一人ですけど」
「矛盾しないのか?」
「しません。先代――初代釈迦は八十で人間道から解脱し神になられました。そこから神の世界に様々な変化をもたらし、今のようなシステムが出来上がったのです」
「なぜそっちに話が飛ぶ?」
「すいません。少しでも長く話したいと思いまして……」
「用件だけを言ってくれればいい」
「ですよね……。要するに、釈迦の名前は解脱した魂が再び輪廻に戻る事があるので世襲制になり、先代の娘たる私がこうして名乗っているわけです」
「なるほど……で? どうして俺は生きてるというのにこんな場所にいるんだ?」
「え、えっと…」
「?」
いきなりしどろもどろになりだし顔を俯かせ、両手の人差し指をせわしなく動かし始める。
そんなに言いにくいことなのだろうかと思いながら首を傾げてみていると、急に釈迦が光に包まれ始める。
その事について声をかけるかどうか少し考えているとあちらも気付いたようで、自分の体を見て慌てながら何か言って消えた。
「一体なん、だった……」
俺はというと、彼女が消えて少しして気を失った。
「――――ん、うぅ」
「気が付いたようじゃの」
「リンカーコアも完全に修復し、傷もなし、か。殺されかけて半日も経っていないというのにな」
「! アイツ!!」
聞き覚えのある声が二人分聞こえたが、意識を失う前に刺してきた相手を思い出して勢いよく起き上がり、周囲を見渡して一気に冷静になった。
「……この空間は?」
「理事長の作った空間じゃよ」
「君がやばくなりかけていたんだ。助けてくれた彼女に礼を云いたまえ。ちなみに、今私達は別世界にいる」
「…本当、あんたはどんな神様なんだ? ここまで何でもアリだとさすがに候補は絞れるけど、まったくわからん」
「次第に分かるだろうからいいじゃろ」
「…そうか」
明らかに面白がっているスサノオを見て嘆息し、俺は確認するように二人に訊ねた。
「
「全部にきまっとるではないか」
「今は引き金が引かれ、それに伴いテスタロッサ一家とハラオウン一家が引っ越してくる」
「そんな風にシナリオが続くのか……くそっ!」
俺はたまらず寝具に拳を思い切りぶつける。そのせいで寝具が壊れることはなかったが、衝撃だけが空間内に響き渡る。
それは後悔によるもの。何も訂正せず、何も言わず、最悪のケースを想定しなかったことによるもの。
自分の事が、最低で、本当にどうしようもない人間だと改めて認識させられた。
知ってる奴らを平然と傷つけることが出来、傷つけることに罪悪感など抱かない。
戦場では当たり前な考え方。今日味方だからって、明日味方だと限らないという考え方。
少しでも変わったつもりだったが、やはり所詮は戦場出身。変わることは叶わない、か。
「もう高町達とは会わないし、丁度いいといえば丁度いいか」
「何諦めとるんじゃ馬鹿野郎ぉ!」
「ぐっ!」
胸板にスサノオの遠慮のない一撃が入る。その一撃が流石神。海を割るほどの威力に値する。
当然何の抵抗もできなかった俺だが、吹っ飛ばされるだけで特に痛みは感じなかった。
その不自然さを不思議に思っていると、理事長が気障らしく提案した。
「スサノオの怒りももっともだと思わないのかね? 思うのだったら私から提案だ。
なるほど。あくまで自己判断にゆだねる気か。しかも最後の確認。あれは俺じゃなくてスサノオに向けてだな。
となると俺に選択肢は…なさそうだな。
素早く結論を出した俺は、これはもう決められたモノなんだろうかと疑りながら、スサノオに被せて頷いた。
「だそうだスサノオ」
「任された」
そこからはあっという間の出来事。
ナイトメアに説教され、服がスサノオと同じ着流しになり、理事長が片手を振りながら俺達を送り出した。
*斉原雄樹視点
「一体どういう事なんだい……?」
『どうかしたか、主』
「あぁナイト。…どうやら僕の計画は失敗していたらしい」
『そうか』
「うん。…ただ、大智のお蔭で流れが原作に持ち直したのが幸いだよ」
自分の部屋で先月あたりに郵便で送られたデバイスにそう語ってから、僕はため息をつく。
まさか今日という日が起こらない様にしていたことが無駄になってしまうだなんて……しかも気づいても後の祭りな状態だったし。
油断していたのかもしれない。何も起きないものとばかり思っていたからかもしれない。
計画的には何の問題もなかった。流れ的にも人への被害は最小限になるはずだった。
けれど、どうしてか知らないけど狂った。ここまでやってきた、すべての予定が。
僕の中学生までの脳をフル回転させる。転生前の原作知識から今の僕達の世界の相違点を洗いなおすために。
まずはプレシア・テスタロッサ、アリシア・テスタロッサの生存及び性格の変化。
次に、夜刀神の存在。
そして最後。長嶋大智と斉原祐樹という、イレギュラーな存在。
他にもヴォルケンリッターの出現尚早、神という存在、学校の理事長と大智の関係などある……って、結構な数があるや。
一旦それを紙に書き出した僕は、それを見て再び考え出す。
そして気付いた。いや、こんなのは前から気付いてもおかしくなかった。
今までの相違点がそれを物語っていたのだから。
ここが、原作を根底に置いただけの世界だということに。
「……ならばなるほど。原作通りだと思って行動してはダメだという事か……ははっ」
一人で少し笑った後、僕は笑顔のまま勉強机に頭突きをした。
――――この後悔を心に刻み、これ以降の展開を原作通りにさせないことを誓いながら。
――――それでもはやてを助けると、心に確認しながら。
……そういえば、どうして大智はあの場にいたのだろうか? 一応高町さんの家辺りまで結界の範囲だったようだけど……
ご愛読ありがとうございます。