世にも不思議な転生者 作:末吉
俺は闇の書について、『悪魔召喚の書を初代釈迦が無害なものへ改造して世界情勢を知る本にしたのだが、ある日盗まれて人に渡った。その時にはすでに闇の書の前身である夜天の書へとなっており、そこから改悪を重ねて出来てしまったもの』という話を聞いた。
盗んだ奴は誰だと質問したのだが、スサノオは『わからん』とはぐらかした。
嘘だと分かってはいたが、どうしても言いたくないのだろうと思いそれ以上は訊かなかった。
だから俺は夜天の書に戻すために本を奪い、マモンに操られていたのかわからなかったが妨害しそうな少女二人を拘束した。
なのにマモンの口から第三者の存在を示唆された。
悪魔の虚言だと突っぱねることが出来る話だが、弱ってる状態でそんなことを言う悪魔はほとんどいないだろう。
ましてやマモンは『欲望』を司っている。生きることに貪欲ならば、あまり嘘をいう事はないだろう。
とりあえず第三者がいることを仮定しよう。俺は頭でそう決めていると、マモンが「ああ」と肯定した。
「いたさ。悪魔の中で一番話が分かる俺に、そう持ちかけてきた奴がな」
まぁ話が分かる云々は置いておこう。俺には判断がしづらい。
「そいつは誰だ?」
「そいつ
「極東に生まれし神の遣い、か。久し振り、といえばいいのだろうか」
「「!?」」
突如別な声が聞こえ、マモンは「まさか…」という顔をしたので、俺は声の主へ振り返る。
そこにいたのは、純白の翼を背中から生やしており、古代ギリシャ人がしてそうな格好をしている
俺はすぐに正体を看破したが、あまりにも予想外だったので一歩下がり、そいつらの総称を呼んだ。
「…なんで、大天使の奴らが」
「全ては我らが主のために」
間髪入れずに前の方にいた金髪――ミカエルが答える。
その後ろにいる三人は、ミカエルの答えに頷く。
「我ら主の命により原作にアレンジを加え」
「最終的に流れを変えることなく」
「悪魔を全滅させることを考えておられる」
「故に本は返してもらう。アレがなければ始まらない」
……。なんていうか、こいつら馬鹿なんだろうか。
俺は、いかにも俺達を痛めつけますよ的なオーラを発している四人組を見ながらそう思った。
とりあえず声をかける。
「お前ら。一応計画全部吐いたからな?」
「「「「………謀ったな」」」」
声が揃う。なんかしまりがない。
まぁそんなこと良いかと思いながらマモンを蹴飛ばして大天使たちを嘲笑い、挑発するように言った。
「来いよお前ら。倒したら本を返してやろうじゃないか」
「笑止」
ミカエルの魔力……いや、神力か。それが一気に膨れ上がる。
さすが腐っても大天使の長。神に等しき力を持つ天使か。
そんな感想を抱きながら、特に気負いもせずに自然体のまま。
「ようやく悟ったか」
「これが構えだからな。悟ったわけじゃないし。かかってこいよ」
「……小僧が」
中性的だが端正な顔立ちが歪む。その次の瞬間目の前に現れたので、右手を相手の胸に当て普通に押した。
俺のレアスキル、自動身体強化。桁外れな身体能力の補助程度にしか今まで使わなかったが、文字通りその身体能力に魔力を上乗せして倍以上に出来るようになった。ただし自動なので、無意識内で魔力による強化の具体案を出さなければいけない。
まぁ、簡単にできたが。
で、俺の身体能力プラス全魔力一点集中(+収束・圧縮)による相乗効果により、ミカエルはそのまま大天使たちを巻き込んで森の中に突っ込み、聞こえなくなった。
随分あっさり終わったと思いながらバリアジャケットを解除し、マモンを探すが見つからない。
ついでに言うと、天上の姿も見当たらない。
まさかと思いゆっくり改造中の小屋へ戻ると、やはり奪った本が消えていた。
「盗んで消えやがったなあの野郎」
「そりゃないよー。言われたとおり、せっかくクロノ仲間に引き込んだのにー」
「な、長嶋が二人!? 一体どうなってるんだ!」
振り返ると、俺の姿をして崩れてるノスと、俺が二人いることに驚き交互に見ながらあわてているハラオウンがいた。
説明する時間も惜しいがノス曰く仲間に引き込んだそうなので、俺は簡単に説明した。
「あっちが吸血鬼。話自体は聞いたことないか? 吸血鬼の変身能力」
「いや、待て。吸血鬼だと? そんなのが存在するのか?」
「神様がいるのに吸血鬼がいないわけないだろ。ついでに言えば悪魔や天使もいる」
「……世界は広いな」
「お前らが管理してる世界なんて一握りだってことがよくわかったところで……さっそく行くぞ」
「ちょっと待て。僕はまだ説明もなにもされてな――」
「移動中に説明してやる。ノス。回廊出してくれ」
「OK~」
「いくぞ」
「うわっ!」
とりあえず騒がしくなりそうなのでノスに回廊を出してもらい、ハラオウンと一緒にその中に飛び込む。
さぁ、このままあいつが戻りそうな場所へ行くとしようか。
*……視点
「無事に戻ってくれることを祈るよ。僕は僕で、やることがあるからね」
回廊を消してからボソッと呟くノスの視線の先には、先ほど吹っ飛ばした大天使たち……ではなく、一人の女だった。
「特異点がいるとバレ易いんだよねー。彼も気づいてたようだけど何もしなかったし。何か用かい?」
「……」
精一杯の笑顔で彼は聞くが、彼女は何も語らない。
彼女はそこにたたずんでいるだけ。髪が長いせいなのか顔は見えず、身長的には百六十ぐらいだろうか。それ以外は着てる服が女物だったために、女性と判断できたのみ。
ただ漏れ出す気配が尋常じゃないため、彼は友好的な態度を一応とっているのだ。
「だんまりかい?」
「……がう」
「?」
ようやく聞き取れた声。その声に感情らしきものが感じられず、ただ機械のようにしゃべっているようだった。
がうってことは「違う」ということかな? そんなことを思いながら様子を見ていると、ようやく聞こえた。
「あなたじゃ、ない」
「…どういうことかな?」
少しばかり威圧するために神力を解放するノス。しかしながらビクともせずに、彼女は一歩踏み出してノスに質問してきた。
「どこに、いるの?」
「誰が?」
見当がつかないので首を傾げるノス。
それに対し彼女は一言告げた。
「
「――っ!
「どこ?」
ノスが理解を示した瞬間、彼女から漏れ出す気配が膨れ上がった。それは四千年近く生きていた彼にとって初めての感覚だった。
彼女の正体は知っている。その力の正体も知っている。しかし、今のような神が世界を影から見守るような制度ができる前に
思わずたじろいで一歩後ろに下がる。それを彼女は見ておらず、空を見上げて呟いた。
「
「え?」
聞き返した時にはすでにおらず、まるで彼女は煙のように消えていた。
「ふぅ……まいったね。あんな
ため息をついてそう言った彼は、肩を落としてから見上げ、この世界に浮いてる月が雲がかって見えないことに気付いた。
とりあえず心配だけをしておこうかなと思いながら蝙蝠になった彼は、そのまま自宅へと飛び立った。
ノスと髪の長い少女が対峙していたのと同時刻。
クロノと大智は回廊の中を走りながら、今回の件について話をしていた。
「今回はまた複雑になった。悪魔やら天使やらのせいで少しばかりややこしいものに、な」
「僕は十年前の事件から悪魔が動いてることしか知らない。そして、今の闇の書の所有者の名前しか」
「リーゼ姉妹が悪魔に憑りつかれて、グレアム提督は聞かざるを得なかった状態だったんだろ?」
「あぁ…しかし、その悪魔の目的や天使の目的のせいで今回の件が複雑化した、ということしか僕にはわからないんだが」
「今から説明してやる。そもそもの発端は闇の書――正確に言うなら
「……そういえば、すべてのロストロギアが神の忘れ物という報告がアースラ内であるんだが…アレはそういう意味か?」
「だろうな。その改造された本そのものはもう危険じゃなかったんだ。悪魔たちは自由になったが、各々好きな様に過ごしてるだけらしい。マモンの必死そうなところを見ると、そうとれた」
「マモン……?」
「悪魔の名前の一つだ。七つの大罪のうちの一つ、強欲を司る、な」
「なるほど……それで?」
「最初の改造だけなら問題はなかった。問題はそのあと――その本が盗まれて何かを仲介し、人間の手に渡った。そこから今回の件が始まることになった。欲にまみれた改悪のせいでな」
喋っているとマーカーしたところが見えた大智は、クロノの手を引っ張ってその中に飛び込んだ。
そしてすぐに出てきたところは――海鳴市のビルの屋上。
「ここに奴がいるのか?」
「奴ら、の方がしっくりくる。とりあえずさっさとその本のバグを取り除いて、八神に返して、正確に起動してもらわないと」
「な!? 君は何を言っているんだ!」
「バグを取り除いてから起動させる。そう言っただけだ。まぁ、そのバグを消し去らないと話にならないだろうが」
「……それはつまり、完全に戻せるという事か?」
「やってみなければわからないが、見つけなければできない。…行くぞ」
そういうと同時にコンクリートを抉るように足に力を入れ、大智は空を跳び上がる。
ここ数日自分に似た強者と闘ったことにより感覚が昔に戻っている彼は、先程まで近くにいたマモンの匂いや天上の魔力などが、この街のどこにあるのか分かっていた。
久し振りに『あの頃の自分』に戻った大智は
それを追うようにクロノも飛んでいるが、いかんせん自力の違いのせいで距離はすごく離されている。
それでも追っていけてるのは、彼が微量に発している魔力を感じ取れているからか。
そんな二人がマモンを見つけたのは、それからすぐだった。
「……マモン。この本はなんだい?」
『お前が俺を召喚したような本だよ。元だけど』
「ふ~ん。これがね……」
『悪いが、俺はしばらく出れない。お前には色々と不条理な光景がうつると思うが、説明できないと思ってくれ』
「今更じゃないか。君みたいな悪魔と契約してる時点でね」
天上は本を抱えながら独り言のようにつぶやく。辺りには誰もおらず、また街灯もない。
まるで、心の内に住んでいるマモンと会話するかのように。
天上力也は生まれた頃からすべてを持っていた。…そう思わせるほど、身近に彼を越える人がいなかった。
小学校に上がる前までは。
入学前のテスト。簡単だと自負していたものの結果が何と三位。
何かの間違いだと上を見ると、一位にはアリサ・バニングス、二位に長嶋大智という名前が。しかも隣の点数を見ると、二人とも全教科で一問二問しか間違っていなかった。
各教科で一問二問間違っただけでいきがっていた自分より、上を行く二人。
わずか六歳で彼が初めて味わった、屈辱の結果だった。
それから彼は今まで以上に勉強や運動、習い事などを頑張った。クラスでは手下というかしもべみたいな奴らができ、女子にモテた。
それでも二人――特に長嶋は抜けなかった。
テストはあの時以外全問満点でぶっちぎり、運動したところは見たことはないが、毎日学校へ徒歩で登校してるという話を聞くと勝てる気もせず、音楽などは平然とした顔でピアノ伴奏をやったり(そういう話を聞いた)、絵のコンクールに出したら受賞は当たり前の腕前だったりと、すべてが彼の努力を無にするほどだった。
しかも人気という点を取ればバニングス・月村・高町が自分以上。つまり、彼は完全に打ちのめされていた。
挫折、といってもいいだろう。ともかく、彼の心は限界だった。
まだだ。まだ足りない。もっと、もっと!
何が何でも勝ちたかった彼は、その一心で努力を惜しまなかった。
そんなある日の事。
家に帰った彼は執事に『たまには本を読んでゆっくりしてください』と言われ、仕方なく書庫にあった緑色の薄い本を読んでいると、どこからともなく声が聞こえた。
「おうおうおう。最っっ高に強欲なガキが居やがるぜ。何が何でも自分が上だと証明したいガキがよ」
空耳かと顔を上げる。するとそこには、すべてが真っ黒の【何か】が存在していた。
――それが、マモンとの出会いだった。
「お前は僕の願いが叶ったら魂を持っていくんだよな?」
『そりゃそうさ。契約で嘘はつかないよ』
「…何年かかってもか?」
『一応な』
その言葉を聞いて開いている手で拳を作る天上。
「なら絶対にやるさ。あいつを越える為に!」
「もしかしなくても俺の事だよな、天上」
「!」
視線を前の方へ移すと、彼がいた。
――すべてを見透かしてるような、元来の瞳で。
「もう学校は休みだったか?」
ここから最後までほとんど三人称になります
ありがとうございます。