世にも不思議な転生者 作:末吉
「……ッ、長嶋ぁ!!」
唇をかんでから叫ぶ天上。その視線の先にいた彼は特に気にした様子もなく、一歩前に出てから返した。
「なんだ?」
「君、看病はどうした」
「……ああ。
「!!」
長嶋は彼の話を聞いて少し不思議に思ったが、おそらく学校への言い訳だろうと思い直し、心配いらいないことを平然と言う。
それを聞いた天上は、作った拳を強く握りしめる。
まただ…こいつは当たり前のように平然と結果だけを言う。それが、初めからそうなることが普通であるかのように。
そんな気持ちを抱く天上。その黒い感情をマモンは気持ちよさそうに受けていた。
いいねぇ。ガキってのはこれだから取り入りやすい。
心の中で天上を嘲笑う。声も何も出ていないので、宿り主である彼には聞こえない。
そんな胸の内にいるマモンの気持ちも知らず、ついに天上は爆発した。
「……いい加減にしろよ」
「何が」
「その澄ました顔! 見通してるといいたそうな目!! なんだよお前は!」
「……?」
「分からないか!? そりゃそうだろうな! 僕達下の連中なんてほとんど見向きもしなかったんだからな!!」
「……」
「いつもそうだ! 必死で努力してる奴らよりはるか上に居やがって……必死になってる奴らを歯牙にもかけずにスルーしていって!! それでも必死に這い上がろうとしてる人間の気持ちを考えたことがあるのか!? ないよな!」
「……」
終始黙り続ける大智。別に反論しようとすればでき、相手を論破してしまうのだが、何を思ったのかずっと聞き続けていた。
これ幸いと、天上は鬱憤を晴らしていく。
「天才は僕だ! 僕は与えられた存在なんだ!! それなのに君は退屈そうにそのすべてを越えて行った。まるでお前達なんか興味がないと云う様にね! なんでだ!? 僕は努力していた。僕の方がすべてを上回っていなければならないはずなのに、どうして君に届かない!!?」
――――嫉妬か。自分は特別だと思い込んだ。
冷静に話を聞いていた(顔の表情一つも変えなかった)大智は、こうなった原因を看破していた。
才ある者ゆえに自分は上だと奢る。その結果真っ先に死ぬことも知らず。
前世で似たような末路を見たことがある彼にとって、今の天上にはそろそろ現実に目を戻してもらわなければいけないと直感した。
しかし、つい今日自分も『人』だと自覚したばかりなので言える言葉はない。
掛ける言葉はないがどうするべきかと思い悩んでいると、天上はその態度に声を張り上げた。
「どうした! 反論もなにもしないのか!?」
「……ハァ」
だが返ってきたのはため息。これに我慢の限界だった天上はついにキレ、本を持ったまま殴り掛かった。
「うおぉぉぉ!」
走って距離を詰め、拳を背中まで引いて殴り掛かる。が、それより先に大智は天上の両肩をつかんでおり、殴ろうにも両肩にかかっている大智の手がそれを邪魔する。
下手をすると肩を壊しかねない力がかかっているにもかかわらず、なおも殴ろうとする意志を見せる天上。
それを感じ取りながらも、大智は動かないことを良いことに言い放った。
「
「うそだっ! いるのだったら生まれた頃にすでに近くにいたって事だろ!!」
「いるさ。人間、何かしらの特別を持っているのだから」
「じゃぁ僕もその中の一人だっていうのか!?」
「ああ」
「そんなのは常に上にいる
「俺は
「――――!?」
宣言に似た強い口調で否定した大智の言葉に、天上は今度こそ戸惑った。
その隙を逃さず追撃をしようと思い口を開きかけた大智だったが、不意に感じた強大な気配に天上を背後に投げて声を張り上げた。
「ハラオウン!
「分かった!」
投げられた天上は何が起こったのかわからないまま道路に激突するかと思ったが、クロノがキャッチして地面に降ろしたために事なきを得た。
が、どうなっているのか理解が出来ない。心の中のマモンがそんなことを言っていたが、実際起こってみれば、理解が追い付かないものだった。
突如として現れた珍妙な格好をした男の子。その子に指示を出した大智。そして前方にまた突然に表れた、白い羽の生えた美形たち。
非現実的な光景を目の当たりにしながらも意識を保っていた天上は、「…これは夢かい?」と呟いた。
それを聞いたクロノは前方にいる羽の生えた人たちを警戒しながら「夢じゃない。君が知らない、もう一つの現実だ」と答えた。
「渡してもらおうか」
代表してミカエルが言った。
何が、何を、と主語は抜けているが、何のことか知っている大智は「いやだね」と突っぱねた。
「
「やはりか」
「あぁ」
「「……」」
ついににらみ合いとなった両者。その間にクロノは天上と一緒に後ろに下がっていた。
が、それを見逃す大天使達ではない。ラファエルとウリエルがその二人を追おうと羽を広げる準備をしていたが、それを見た大智が発した殺気で膠着状態になってしまった。
大智は後ろの二人に向けて言った。
「進め」
「…ああ」
「……」
そのまま駈け出す二人。それを見送らずに大智は、ミカエル達を睨みながら犬歯を見せて笑って言った。
「行くぞ、
その答えを聞いたミカエルたちは、普通ではありえないほど口が裂けて笑った。
「とりあえずなのはちゃんとフェイトちゃんには帰ってもらったけど……クロノはどこにいるのかしら?」
リンディは、点検が終了したアースラの司令部で頬杖を突きながら、そんなことを呟いた。
大智が闇の書と仮面の男二人を回収して行った後の事。
アースラに戻ってきたフェイトとなのはは、考え込んだ様子でリンディたちの下へ来た。
「大丈夫だった二人とも?」
「「はい…」」
エイミィが笑顔で二人に訊ねるが、先程の事が気になってるせいか生返事が否めない。
と、そこへアースラに異常が起こった。
「外部から通信機能がジャックされました! コントロールは完全に奪われてます!!」
「なんですって!? 逆探知は!?」
「やってますが一切探知できません! モニター、勝手に開きます!!」
その言葉と同時にモニターがうつる。そこに映っていたのは、先程暴れ回った長嶋大智(ノスフェラトス)だった。
全員が固唾を飲む中、彼はいつもの無表情でしゃべりだした。
「この場にお集まりの皆さんこんばんは。時間がないから用件だけを述べるが、クロノ・ハラオウン。
そして切れるモニター。あまりに一方的な話に場が騒然となるが、リンディの「落ち着いて」という言葉に静まる。
「母さ――いえ、提督」
静まった場にクロノの声が響き渡る。全員がリンディと彼の姿に集まる中、クロノは宣言した。
「行ってきます」
「そう……分かったわ」
「「「!!?」」」
すぐに肯定するとは思わなかったのか驚きに包まれる。
彼らが親子だというのは周知の事実。だから、わざわざ危険そうな場所へ条件を飲んでいかせるわけがないと思っていた。
でも行かせた。その事実が彼ら以外の思考に混迷を極めた。
そんな事お構いなしに、二人は続ける。
「行ってらっしゃい」
「サーチャーとかは無意味だろうからつけないでね……行ってきます」
全員を置いてけぼりにして司令部を出て行くクロノ。そんな彼を見送った彼女は、この場にいる全員に言った。
「なに驚いてるのよみんな」
代表してなのはが聞いた。
「リンディさん、本当にいいんですか…?」
「別に構わないわよ。クロノはあれでも執務官だし、長嶋君は言ったことは守るから……それに」
「それに?」
「ううん! なんでもないわ!!」
思わず口走りそうになった言葉を誤魔化す。下手に不安を煽る様なことを言ったら、不安にさせることなど目に見えていたからだ。
特に、民間協力者と観察対象として籍を置いている彼女達が。
彼女は数度の長嶋との対談で意識を変えていた。
相手の言葉を注意深く聞き、反論されないような場所で発言する。
こうして指示を出すときは、部下の人たちになるべく不安を悟られないように振る舞う。
すべては長嶋に論破され、いいように言われたから。それを糧にして、彼女は指揮官として成長した(あまり自覚はないようだが)。
誤魔化した後、リンディはなのはとフェイトに向かって「もう今日は遅いから、二人とも帰っていいわよ」と言って帰らせ、今に至っている。
エイミィは振り向いて聞いた。
「さっきはあんなに自信満々だったじゃないですか」
「そりゃそうよ。あの子の実力は認めてるけど、まだ子供だもの」
「でも信じているんですよね?」
「えぇ。何をしてるか知らないけど、ね」
現在はヴォルケンリッター及び長嶋大智、闇の書、クロノ・ハラオウンの捜索。一気に捜索対象が増えたため、全員がモニターと睨めっこしている。
「見つかりませんねー」
「そうね」
と、ここで反応と通信の両方が来た。
「海鳴市にて魔力反応! この巨大さは……
『こちらクロノ・ハラオウン! 闇の書――いや悪魔召喚の書を持っている人物とただいま敵から逃走中!! 至急、応援を!』
オペレーターの一人とクロノ・ハラオウン。問題の半分以上が解決できそうな報告に思考停止になりかけたリンディだったがすぐに持ち直し、すぐさま指示を出す。
「なのはちゃんとフェイトちゃんに連絡して急行させて! 私達は情報の整理をするわよ!!」
「「「はっ!」」」
そこにまたもモニターが強制的に映り、映った人物がリンディの名を呼んだ。
『リンディ君』
「! グレアム提督…!? どうしたのですか?」
『今君達が行動を起こそうとしてるのを知って、ね。前に関わった人として忠告をしておこうと思ってな』
「忠告、ですか」
『ああ。今回はもう、
「なっ! どういうことですか!?」
突然の宣告。しかも手を引けという。
そんなことを言われ、リンディは動揺しながらも反論した。
「なぜです!?」
『もうこれは我々の域を超えている。やらなくても処罰は起きないように上を説得した』
「我々の仕事は世界を護る事です! なぜそれを放棄することが許されるのですか!?」
『もともと管轄外だ。ここ以外にも世界がある』
「だからって目の前の世界を守らないという理由になりません!!」
『……これは善意での忠告だから聞くかどうかは自由だが。悲劇になってしまってからでは遅い、とだけ言っておこう』
言うだけいって切れるモニター。
切れたモニターが映っていた場所を見つめながら、リンディは神妙な面持ちで最後のグレアムの言葉を呟いた。
「悲劇になってしまってからでは遅い、ですって……?」
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