世にも不思議な転生者 作:末吉
夢を見た。
それは昔―――生前、高校一年生の『俺』だった。
『俺』はクラスの仲間たちと共に戦っていた。
呪われた「神」やその信仰者たちと。
滅ぼしかねない「力」を暴走させた奴と。
『国』に仇なす者すべてと。
そして元凶に近い存在を打ち破った時、俺達は泣いた。
これで終わった。そういう嬉しさの奴と、『彼女』を失った悲しみに分かれ――――――
「・・・・・・・・・・あのせいか」
夢から覚めたと自覚した俺は、今日はどうするか悩んだ。
親がいないから自由にできるが、そうなると学校側に親がいないことがばれる。
幸い、うちの親は周囲の人達(おとな)からは『奇想天外な人たち』という認識を受けていた。しかも度々家を数か月どころか数年空けることが多いらしく、『学校があるのにどうして旅なんて出たのかしら?まぁあの人たちの考えていることは未だにわからないけど』というのは隣に住む桃子さんの談。
ちなみに、なぜかは知らないが俺の両親がいないことを知っている人たちが多い。にもかかわらず何も言わないのは、何かしらの約束でもあったのだろうか。…誰も教えてくれないが。
とまぁそんなわけで一人で生活してるわけだが、学校側にばれるのだけは避けたい。あと、近所の子供たちにも。
なんだか思考がまとまらないなぁと思いつつ、俺はパジャマ姿のまま下に降りた。
「いただきます」
『どうぞ』
今俺は朝食を食べている。作ったのも俺、片づけるのも俺。
しかし今日はなぜか箸が進まない。いつもならもう少し早く食べ終わっているというのに。
思わず箸を止めて首をひねっていると、ナイトメアが話しかけてきた。
『どうしました?』
「いや…どうにも今日は箸が進まなくてな」
するとあっちも考えだし、一つ一つ確認するように質問してきた。
『気分はどうです?』
「特に変わったものはない……わけじゃないな。寂しいんだと思う」
『寂しい…。何かありましたか?』
「昨日神様に少し質問したぐらいだな」
『どんな質問ですか?』
「転生者としてばれたらどうなるかとか、あっちの世界の仲間たちは元気なのかとか……」
『そうですか…』
再び考え込むナイトメア。ってか、デバイスってこんなに思考できたのか?
しばらく考えていた様だが、やがて結論を出したのかこう言ってきた。
『マスターはおそらく、元居た世界の愛着を捨てきれていないのだと思います。生まれてからずっとその世界で生きていたのですから、当然だと思いますが』
「そうか……」
俺はナイトメアの言葉に納得した。その言葉がすんなり自分の体に入ってきた感じがしたからだ。
そこから始まる沈黙。時計の針だけが空間に音を刻んでいく。
そこに言葉を発したのはナイトメアだった。
『…聴いてあげますよ。マスターの元居た世界がどんなところか』
きっと人だったなら笑顔の一つでもあったのだろうと想像しながら、気遣いに感謝しつつ俺は元居た世界について話すことにした。
「俺がいた世界ってのは、ここよりひどいところだったな。地球自体は変わらなかったけど、どこかしこも戦争ばっか。そのせいか高校生になると実地授業とか言って戦場を連れまわされまくったぜ」
『高校生だったんですか?』
「ああ。死ぬ前は現役高校一年生……いや、死んだのが三月ごろだったから二年生に進級する前だな。ああ、そもそもの根底から話すか。どうして戦争ばかりやっているのかというと、うちの世界、昔起こった『あること』が原因で国の何割かが消えたんだ。そのせいでちょっとした戦国時代に突入したってわけだ」
『あること、とは?』
「神罰」
『?』
「元居た世界ってのは神様が密接にかかわっていたんだ。関わっていた、と言っても、神社の巫女さんが神様を顕現させて力を借りるって感じだったがな。
そんな感じでせいぜい平和に暮らしていたんだが……俺が生まれる四十年前にとある国で大規模な実験をした結果、神様の庇護を受けていない国を巻き込んで、消滅した。土地だけを残してな」
『なにやら壮大な話になっていますが』
「嘘じゃねぇよ。…そんな感じで俺達は、自衛のために宣戦布告をしてきた国を追い返していったな。ただ、毎日の様に敵は来るし、来ないと思ったらテロ事件起こされて市街地戦とかやらなくちゃいけなかったが」
『大変でしたね』
「まぁな。……で、どこまで説明したっけ?」
『叩けば埃が出るほど説明不足です』
「マジでか。………そうそう。実地授業とかはクラス単位だったんだよ。ってか、そこから説明をしなきゃダメだったな」
『仲間がどうとか言っていましたが、もしかしてクラスメイトですか?』
「ああ。俺がいたクラス、一年四組隊。クラスメイトであり、戦友だ」
『仲が良かったんですね』
「最初は全く駄目だったぜ。コミュニケーションのコの字も知らなかったからな、俺達」
『…よく、死にませんでしたね』
「そのせいで最初の実地授業までに日があってな。その間に全員と話をしたな。……アイツは自分から話しかけてきたが」
『そういえば、マスターはどんな人だったんですか?』
「俺か?う~ん…仲間が死ぬことが許せなかった、兵士になりきれない甘さを抱え込んだ兵士だったな。今もそうだろうが」
『ところで、「アイツ」と言っていましたが、「アイツ」とは誰の事ですか?』
「目敏いな。…アイツは、俺達のクラスにいた《巫女》だよ。そして、俺が好きだった奴だ」
そういうと、ナイトメアは黙った。きっと「しまった」とでも思っているに違いない。
俺は苦笑しながら言った。
「別に同情する必要はねぇンだよ。神様の言うことを信じるなら、アイツはこの戦争状態にくさびを打った本人であり、救えなかった仲間だ」
『………』
俺は構わず進めた。
「巫女、ってのは俺達の国じゃ、最終兵器と変わらねぇんだ。神様の力を借りて戦況を変える。そのための人間だ。……上の奴らにとってはな。
だけど俺達はアイツに感謝していた。アイツがいなけりゃ俺達クラスは分裂したままだったし、いくつもの戦場で仲間が死んでいったからな。
…話がそれたな。そんなアイツと俺達のチームワークで、いくつもの戦場を潜り抜けたんだ。『呪神』が現れるまではな」
『呪神?呪われた神、という意味ですか?』
まさかという風に訊き返してきたナイトメア。
頷いて俺は言った。
「そうだ。そこで話が四十年前に遡る。あの、神罰が起こった時にな」
『大規模な実験ってまさか…』
俺の言葉を思い出したのだろうか、声を震わしながら訊いてきた。きっともっとも信じたくない答えを思いついたのだろう。そしてそれは正解だ。
「ああ。『人為的な神様の降臨』。その実験の内容を簡単にまとめるならそれだけで十分だ」
『やっぱり…』
「そしてその実験は成功してしまった。俺達の世界じゃ知りえない神様を呼び出すという、最悪な結果でな」
『…どうしてそのようなことを?』
「さぁな。おそらく神様の奇跡が欲しかったんだろうな。あそこは立場上弱かったらしいし。……で、その神様は巫女の体を乗っ取りあの世界にいた。神様たちに呪いをかけながら」
『それが呪神…』
「正確に言うと呪いをかけられた神様の事なんだが。ってか、あれも大変だったなぁ。戦闘終わってさぁ帰ろうと思ったら、敵国の巫女さんの体から一般人でもわかるプレッシャーを感じたんだ。んで、アイツが狙われたから戦闘開始。すぐさま終わったけど、報告が面倒だったな。神様の世界でも大変なことがあったらしいけど」
『余程混乱したんじゃないですか?』
「ああ。だがまぁ、巫女さんたちと神様の間、そして上の奴らが素早く結論を出してくれたから、それほど長いってわけじゃなかったな」
『へぇ』
「なんか気が抜けるな。で、どこまで話したっけ?」
『呪神が出てきたところです』
「そうか。…で、当然のごとく俺達は対呪神部隊となってそこから神様と戦闘だ。そこで俺の事も解ったんだがな」
『?マスターは自分のことを分からなかったんですか?』
「恥ずかしながらな。俺は中学を卒業したという記憶ぐらいしかない。それ以前の記憶が全くなかったんだ。だから当然一人暮らしだった。その生活は全く違和感を感じなかったからな。ただ身体能力がおかしいほど高かったことと体が異常に頑丈だったことを除けば、手先の器用な一般人だと思ってたぐらいに」
『いつ知ったので?』
「ちょうど呪神の六度目の戦闘だな。そん時に現れた、ことを起こした張本人に聴かされた。どうも俺は別世界で罪を犯し神格を返上した神様だ、ってな」
『神様。……マスターが?』
「証拠も突きつけられたな。そいつがしゃべる言葉全てに聞き覚えがあったし。けどまぁ、俺が元神様だと判明したところでやることは変わらなかったが」
『ぶれませんね』
「ぶれてたらあそこの世界が滅んでたぜ。そして幾度となく戦闘をしていったが、二月ごろの戦闘時に俺達のクラスの巫女の体がそいつに乗っ取られた」
『ベタですね』
「やられたこっちはたまったもんじゃねぇ。しかも俺の告白の返事をもらう日に乗っ取られたし。さすがにあん時はヤバかったな」
『…私情混じりましたね』
「でさっさと取り返そうってことでいざ探したら世界が大変なことになって、しゃぁないから俺達のクラスと知り合いの奴らだけでそいつを止めに行ったな。……そのおかげでアイツは死んだが」
『ご愁傷様です』
「はっきり言うじゃねぇか。…けどよ、トドメさした本人を目の前にして言うのは間違ってると思うぜ?」
『ご愁傷様です』
「・・・・・・・・・。ともかく!そんな感じで世界が少しばかり落ち着いたところで死んだんだよ、俺は」
ふぅ、とため息をついてコップに入っていたヌルい牛乳を飲みほした。そして、残っていた料理を勢いで完食していった。
「ごちそうさまでした」
そういって手を合わせたら、不意にナイトメアが言った。
『…その巫女の名前はなんですか?』
食器を片づけようとした手を止め、俺は答えた。
「立花遥佳」
『…お話してくれて、ありがとうございました』
「おう」
『それと、遅刻です』
言われて時計を見ると、午前十一時。
こうして、知らぬ間に遅刻が決定した。
…まぁ、俺の元居た世界を理解してくれた奴(?)が増えたことで良しとしよう。
『ところで、その神の目的ってなんだったんですか?』
「さぁな。結局教えてくれなかったよ」