世にも不思議な転生者 作:末吉
「……今日一日でやったのか?」
「当たり前だ。だからさっきも説明を途中で投げて急ピッチで終わらせたんだ、この施設を作るのを」
「本当に末恐ろしいな…」
小屋に入ってシグナムが驚いたので、俺は当然という顔をして本が置かれている場所へ行く。
シグナムは俺の後ろについてくる。見慣れない機械ばかりで怖いからか、元々少ない口数がさらに減った気がした。
「「……」」
闇の書が置いてある場所へ到着した。ページを適当な場所で開き、そこに電極コードをこれでもかというぐらいつけた。
「何をしているんだこれは?」
「俺特製解析マシン。適当な場所に電極をつけ、それをスキャナーみたいな場所へ置く。今はデータ取得中で、あと二分ぐらいでこのパソコンに解析されたデータを表示できる」
「そんなものでできると思ってるのか?」
「できるさ。俺が作ったのだから」
そう言ってパソコンの前にある椅子に座る。
これらすべては魔力で作ったものだったりするので、魔力的な解析などお手の物だったりするのだが、今回の件以外で使わない施設だったりするので終わったら即消去だなと思いつつ画面に表示された『解析完了』のウインドウを消す。
「さて、こっからが大変だ」
「なんだ、この文字の流れるスピードは!」
シグナムの驚く通り、闇の書のプログラムをそのまま文字列に置き換えた。
いや。置き換えたのは語弊があるな。プログラム言語そのままで一から流れ出ているのだ。
文字の羅列が画面いっぱいになり、それでも流れてくるからスクロールで段々と下に下がっていくこと数分。
ピッと音を立ててそれが終了したことを知らせてくれたので、俺はそのデータすべてを指定して『転送』を押した。
途端に小屋全体からすさまじい起動音が流れる。
「な、何が起こるというんだ?」
「この小屋全体が解析および修復場でな。いったんパソコンでデータ化したものを
「??」
「……まぁ、今から本格的に修復するとでも思っておけばいい」
「そうか。…それで、私はなぜ呼ばれた?」
「今結果が流れてくのが見えたが、どうも知ってる範囲の言葉じゃなくてな。これが古くからあるのなら、お前たち守護者が一番わかってるだろうと思って」
「確かに最初のはベルカ文字だったが…」
「プログラムの機能ごとに自動振り分けされてある。一つ一つ見ていくの面倒だから、最初のプログラムだけなんて書いてあるか読んでくれ」
「それだけか?」
「それで何とか覚える」
そう宣言した時に、ちょうどパソコンの隣にあるホログラム用投影機の画面いっぱいに、膨大な量のファイルが一斉に展開される。
百や二百は軽く超え、おそらく普通のパソコンのプログラム並みに現れたそれに頭をかきながら、その画面に触れる。
すると一斉にそれらが動き出し――まるで生き物みたいに――現れた順からずらーっと整理されていく。
総ファイル数(読み取った順から十行ずつに区切って)67328。もはやパソコン並だ。
さぁさっさとやるかと思い、俺は一番最初に来ていたプログラムをタッチして展開させ、シグナムに訊いた。
「このプログラムは上から順になんて読む?」
「『自動修復機能』『条件』『蒐集機能』『量測定』『転生』『防衛プログラム』『変換』『管制プログラム』『守護騎士』『闇の書の意志』……だな」
「…
「いいのか?」
「ああ。本当に助かった」
「……ならいいが」
そう言ってシグナムは小屋から出て行ったので、俺は小屋に誰も入れないように鍵をかけてから首を回して息を吐き、真っ白な本を片手に持ちながら闇の書が置いてある場所へ行き、俺は呟いた。
「初めて試すな……
変化はすぐに訪れた。
短かった髪が急に伸びて床に付き、目の色が濁った灰色になったようだ。鏡みたいに部屋全体がなっているからそう見えた。
爪も伸びたらしく、普通にサルのように引っ掻けるほど。
魔力のたがが外れ、その魔力すらいつもと違い、人に重圧をかけるような感じになっているのだろう。
一瞬ディスプレイ上がぶれる。が、俺は特に気にせず掴んだそれを引っ張り上げ、そのまま真っ白な本へブチ込む。
ブチ込んだのは悪魔の力。負の感情を力とみなすので、まとめて呼んでいたりする。
移動させることが出来るのは悪魔、それも名の知れた準神話級以上。もしくは作者自身。
俺は移動が終わったことを確認してすぐさま「解除」と呟いて本をテーブルに置き、自動整理されたファイルのまま放置したディスプレイに近づく。
少しばかり力が入らないのを自覚する。が、そうも言ってられないので俺は両手で頬を叩いて気合を入れ、ディスプレイをタッチし、「翻訳データ入力」という項目を押して先ほどシグナムが言っていた言葉を一言一句、一行も間違えずに入力し、再度十行一ファイルとして整理。
すると同じ数だけファイルが出てきたが、最初が『夜天の書:メインプログラム』と書かれており、そこから数千個に一つメインプログラムの中にある機能のプログラム文になっていた。
それにしても長い。俺は区切られ、羅列された文字群を見てため息をつく。が、諦めるとは思っていない。
残念ながらやると決めたら自分の身に何が起こってもやろうと思えてしまっているのだ今は。八神との約束もあるし、斉原に協力した手前無様な結果を見せる気などさらさらない。
それじゃやるか。
俺はパソコンの近くに置いてあったゴーグルをつけながらそう思い、それ越しでディスプレイを見ながら一番最初のファイルをタッチした。
なぜプログラムに変換してこうして総当たりみたいなことをやっているのか。それは、武器に搭載するシステム開発の際やパソコンのOSの確認テストを前世で行っていたため、これしか方法が思い浮かばなかったから。
プログラムというのは、何か一つでも間違いがあれば正常に機能しなくなる。それがただのエラーなら幸いだが、区切り方の間違いや誤字による意味変換の間違いになるととんでもないサイバーテロを引き起こしたりする。
その為に厳重な解析作業を行わなければならないのだが……良く考えたら元のデータがない。おそらくどこかしらの文字か区切り方のせいでこうなってるのだと分かるのだが……
…いきなり絶望的な展開に陥った気がする。大見得切ってこれじゃ、バカとしか言いようがない。
笑う前になんとかするかと思いファイルを押して展開しては消してを続けていると、急に隣の方が輝きだしたので、俺はゴーグルを額に上げてパソコンの方――本が置いてある場所を見た。
するとそこから立体映像よろしく飛び出した一人の女性が。
服装は戦闘用らしく、小さく黒い翼を背中に生やしている。
『ここは……どこ』
天井を見上げてそうつぶやく女性。
何者だかわからない俺はディスプレイに視線を戻し、ゴーグルをつけて作業に戻りながら訊いた。
「お前は誰だ?」
『…私は、闇の書の意志』
「どこのプログラムで起動した?」
『わから…ない』
「ならわかった。そこでおとなしくしてろ。思い出すまで」
『……分かった』
そのまま目をつむったらしいので、俺は黙々とプログラムの点検をしていく。
これでもない、あそこでもない。こっからここまでの見て……大丈夫。正常に機能をしてる。
ゴーグルを通してわかる情報は、プログラム文の訳。先程シグナムに言葉を聞いたのはこれのためである。
まぁ色々と足りないが、それは自己分析してくれたゴーグルのお蔭だろう。
『私はっ!? そのゴーグルは私を通してるんですよ!!』
「そうだった。ありがとな、ナイトメア」
『…はいっ!』
とりあえず礼を言いつつも、手を休めることはない。むしろ休む必要性が感じられないから、休まない。
時間も気にせずただ一心不乱にディスプレイと格闘していると、横から声がかかった。
『…私は、また壊したのか?』
「まさか。今データの洗い出し中だ。起動したのは多分、自動迎撃でも仕掛けられてたんじゃないか? ま、そんなもの俺の前じゃ無意味だが」
『…動けない』
「今取り込み中なんだ。お前のバグを完全に取り除いてハッピーエンド。そうすりゃ誰もお前が闇の書だなんて言わない」
『主とのリンクは?』
「強制的に今は塞いでいる」
『…ならば、私は完全に起動してないわけか』
「壊したくないのなら手伝ってくれ。自分でどこが壊れてるかぐらいわかってるだろ?」
そう聞くと彼女は少し考えるそぶりを見せてから教えてくれた。
『管制人格プログラムと防衛プログラム、だな』
「分かった。ならそこら辺を重点的に調べる」
俺は、先程までがお遊びだと思われるようなスピードで、関係ないファイルデータをディスプレイから消す。とはいっても本自体から消えてはいないので問題はない。
本気で集中するかと思い、全意識をディスプレイに集中させた。
「ふっ」
息を吐いてからファイルを二つ同時に展開させすぐに閉じ、次は四つ同時に展開させ、問題がありそうなファイルは放置して、今度は六つ同時に展開。
こっからは十二同時展開をするか。思考能力が加速していく中そんなことを思っていると、ふと薄いベージュ色の指がディスプレイに触れるのが分かった、次の瞬間。
瞬く間にファイルというファイルが移動しだし、五つのファイルが残されていた。
指を辿ってみると、先程からいた闇の書の意志だった。
『これが、エラーになっているものだ』
「ありがたい。手伝ってくれたのか」
『私ももう壊したくない。主はやてが幸せに暮らすのを見届けたい』
「なら書き換えてやる。その願いを押しつぶす
『…………うん』
そうと決まればすぐさまファイルを同時展開し、言語訳で見つかる誤りを逐一調べ、それぞれを組み合わせて正しいプログラムになるかどうかを脳内でシミュレートする。
だがなりそうなものの候補があるため絞り辛い。
やはり元がないと厳しいかと思っていると、突如として背後から声が聞こえた。
「ほれ夜天の書のプログラム」
「あぁ。サンキュー、スサノオ」
「手こずっておるようじゃから少しばかりな。さすがに元がないとつらいじゃろ」
「まぁな」
そんな会話をしながら手に置かれたUSBメモリをパソコンにさす。
途端にディスプレイに現れる元のデータ。
俺はそれとエラーになっているプログラムを見比べながら書き換えをしていく。
数分後。
「これで、最後だ!」
書き換えを終え『決定』のボタンを押すと同時。闇の書の意志と名乗っていた彼女が輝きだした。
ご愛読ありがとうございます。
本編の方が短いですがね。