世にも不思議な転生者 作:末吉
*斉原雄樹視点
原作通り『闇の書事件』と銘打たれたこの事件。
夜天の書ははやてが正式に所有者となり、管制プログラムだった闇の書の意志、いやリインフォース、いや八神アインスとなって夜天の書の使い方を教えている。
ヴォルケンリッターも欠けることなく、高町さん達も特に影響もなく――むしろより管理局へ勤めることを意識し始めた――ハッピーエンドになった。
確かに犠牲は
だけど、少なかっただけでないわけではなかった。
あの後。
僕も高町さん達と一緒に取り巻きだったからよく事情が分かっていなかったけど、大智がリインフォースに何かしたようだ。そのおかげであちら側は随分騒がしくなった。
『大智! しっかりしろ!!』
『リイン!』
その叫び声を聞いた僕たちが集まってみると、大智とリインフォースがぐったりとした状態で横たわっていた。
といっても力が入ってない状態、つまり寝ていたからであって特に心配することはなかったんだけど……起きた後、僕たちは絶望に叩き落された。
リインフォースが目を覚ましたのが、あの事件が終わってから三日後。大智が目を覚ましたのは、それから四日が経った頃だ。
リインフォースがプログラムではなく僕たちと同じ人間となって生きれるというのを本人から聞いた時、はやてはものすごくうれしそうな表情をしていた。もちろん僕達もだ。
ちなみに八神アインスという名前は、リインフォースじゃ人の名前にならないという理由でつけられ、後日その戸籍の類が家に届けられた。
……テスタロッサさんやクロノの時もそうだけど、手際がよすぎるというか、誰が作ってるんだろう?
なんて思ったり思わなかったり。
そっちは問題はなかったんだよ、それこそ普通にみんな生活できてたから。
だけど眠っていた大智。彼が目を覚ました時が大変だった。
順を追って説明しよう。
まずリインフォース――八神アインスが目を覚ました。
その時に、どうしてこうなったかの事情を聴いた。
大智が持っていた四角い箱。あれによって人として生きられるようになったという。
あまりにも荒唐無稽な話だけど、この目で悪魔や天使(偽者)を見て神様の存在すら示唆されれば、信じざるを得ないね。
で、大智だけど、彼はアインスさん(戸籍上で二十歳になっていた)が目を覚まして四日後に覚ました。だからクリスマスなんてイベントをやろうだなんて誰も言わず、みんな大智が起きるのを一人一日病室で見守っていた。
四日後――丁度僕が見舞いに来た時に彼は目を覚ました。
僕はやっと起きたという安堵に包まれたけど、起き上がった彼の目を見た瞬間に違和感を覚えた。
気を失う前とは違い、
咄嗟に僕は彼に質問した。
「…君は、大智だよね?」
その瞬間彼の姿は消え、気付けば僕は病室の床にうつ伏せになっており、右腕が背中に押し付けられていた。
「いだだだだっ!」
「……お前はどこの国のものだ? 俺を生き返らせて何をたくらんでいる?」
ひやりと突き刺さるような声。殺意と警戒心が混じったような声。そしてなにより
前世の事は少し話題になった程度だけど、彼が生きていた世界が壮絶だったことは容易に予想がつく。
僕は地面に伏せった状態で答えた。
「おそらくだけど、君がいた世界じゃないよここは。そしてそれは、神様に訊いたらどう?」
「なんだと…?」
拘束が解かれ、僕は起き上がって右腕の調子を確かめる。
…うん。何とか折れてはいない。大丈夫だ。
でもなんとみんなに説明すればいいんだろうなぁと思っていると、部屋の中を一通り観察し終えたのか、大智が頷いていた。
「確かに。俺がいた世界ではこんな立派な医療建造物はなかったからな。野戦病院ならあったが」
野戦病院。それは確か戦争や紛争の時に活躍する、病院の出張版みたいなものだった気がする。そんなものしかなかったなんて、彼の前世はとんでもなく戦争を行っていたに違いない。
とんでもない常識はずれの行動もこれが原因かと思っていると、「おいお前。名前とここがどこか説明してくれ」といつの間にかベッドに座っていた大智がそう指示してきたので、とりあえず僕は自分の名前とここがどこかという事だけ教えた。
けど、返ってきた答えは案の定「…聞いたこともないし知らない」。
……これは完全にここまでの記憶がないみたいだと確信しながら、僕は説明した
「君は僕と同じで転生者――前世での記憶や身体能力をそのままで生まれ変わった人間だよ」
「六道輪廻で言うところの人間道に永劫に囚われたのか、俺達は」
「いや、神様達がなんか手違いで殺したとかでその補填らしいけど」
「大方スサノオあたりだろ。あいつは俺が生きていた世界でも、少しばかり抜けていたからな」
「誰が抜けておると?」
「うわっ!」
「事実だろ」
「ふん。神の手だけを借りず、自分たちで道を切り開けるようにお膳立てをしただけじゃ……ところで、斉原雄樹じゃったか。久し振りじゃの」
「えっと、どこかで会いましたか?」
「お主が幽霊になってた時に会ったじゃろ」
「あぁ! あの時の仙人!!」
……んだけど、話が脇道に逸れて…………
「ところで、俺は何で小さいんだ?」
「どうせならということで小学生から生き返らせた」
「というか、小学生が主人公の物語だからね、ここは」
「ロリコン?」
「違うって」
「ていうか、あの世界にそんな人種いなかったじゃろ」
「風神があの時、な……」
「まぁそれは置いといて話を戻すけど、僕達はこの九か月間で様々な事件を大なり小なり解決してきたんだよ」
「俺は今の今まで寝てたんだ。
――――決定的な一言を言われ、僕は本当に言葉を失った。
そんな僕を首を傾げて不思議そうに大智は見たけど、すぐに興味を失ったのかベッドから起きて窓ガラスを開いて足をかけ、出て行った。
止めても聞かないと分かってしまった。少し前までの彼だったなら声をかけてきたし出て行くなんてなかっただろうけど、初めて会った時の彼はあまり人の話を聞かない、それどころか、人と関わらなかったから。
興味がないと言って。
「にしてもあやつ。鍵もなし、家の場所もしらんで一体どこへ行くつもりじゃ? 入院費ならもう払ってあるというのに」
「…へ?
「記憶がないのにどこへ行ったんじゃろうという話じゃ。今は冬なのじゃから、寒いはずなんじゃがの」
「…なんで、知っているんですか?」
「そりゃわし、神様じゃし」
「………」
そう言ってからからと笑うスサノオを見た僕は、気付けば彼の帯をつかんで睨んでいた。
「なんじゃ一体」
「…なんで笑っているんです」
「ふむ。
「!?」
「驚くことでもあるまいて。……ふむ。まぁ理由は様々あるが、
「選んだ? …大智が?」
「まぁ聞いた話じゃし、詳しく聞きたいのなら別な人物に訊けばよかろうて。わしは【統括者】ではないし」
「統括者?」
「おっと。これ以上は教えぬよ。これ以上聞きたいのなら、神に携わりしものに訊けばよかろう」
「あ!?」
言ううだけ言ってその場から消えたスサノオ。いつの間にか僕は帯ではなく鍵を持っており、消えたと入れ替わりに入ってきたはやて達が現状に驚いていた。
「なぁ、大智はどこ行ったん?」
はやてがベッドを見て首を傾げながらそんなことを呟いた。いや、僕に質問したのかもしれない。ただ、僕は放心状態だったため聞いていなかった。
まともな状態に戻ったのは、はやてに肩を揺さぶられて鍵を落とした後だった。
「なんやて!? 大智が記憶喪失!?」
「…そう、なんだ」
「記憶喪失ってなんだ、シャマル?」
「それはですね…私達がはやてちゃんの事を忘れるってことと同じです」
「なんだとっ!? そ、それは大変じゃねぇか!!」
「それで、大智はどこへ行った」
「見た限り窓が開いているが…」
「あそこから出て行ったんだよ」
「「「……」」」
我に返った僕は、先程までの事で分かったことを簡単にはやて達に説明した。
反応はもちろん驚き。そして悲痛な面持ち。
唯一アインスさんが何も発言しなかったことだけ不思議だったけど、はやてが俯いて「…なんでや」と呟いた。
「なんで一番頑張った大智が犠牲になっとるねん。おかしいやろ。あいつ自分で言うたやないか『ハッピーエンドにする』って。それなのに自分が幸せになっとらんって、どういうこっちゃ」
「「「「「…………」」」」」
「はやて……」
きっとだけど、はやては自分の事を責めている。ほとんど関わっていないけど、自分たちのためにやってくれたということを分かっているから。
だから僕は、慰めようと思った言葉を飲み込み、はやてに「みんなを呼ぼう。そしてこれから考えるんだ。大智の記憶を取り戻す方法を」と言った。
こうしてこの場にあの時いた全員を読んで話し合いをする方針になったけど、アインスさんは一言もしゃべらなかった。
*
しかしここは一体どこなんだ。
ビルを飛び回りながら下に見える人だかりと騒がしさに、自分がいた世界じゃないことを突き付けられ足を止めずに考え続ける俺。
平和な世界だ。これが俺が死んだ後の世界……なわけないか。それだけは絶対にありえない。
こんな、あまりにも平和ボケしている世界。
俺の名前は長嶋大智。死んで生き返ったらしく、年齢が昔より若返ったようだ。
だが、脳内では既視感を感じているようだ。どことなく覚えがあるような建造物群を通っている気がする。
というか、今の俺は一体どこを目指しているのだろうか。なんとなく出てきたが、特にどこへ行くかは決めていなかった。
かといって行先を決めるとなっても困るだけ。
ならどうするか。そんなことを考えていたら、俺は桃色の輪っかで動きを封じられた。
今後ともよろしくお願いいたします。
ご愛読ありがとうございます。