世にも不思議な転生者   作:末吉

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小学三年生にやってはいけないだろうものです


88:アリサ達の試練3

「……え?」

 

 最初にそう漏らしたのはアリサか、すずかか、アリシアか。ともかく、誰かが間の抜けた声を漏らした。

 それを聞いた彼は、帽子を手に取って回しながら驚きに包まれた顔をしている三人に話しかけた。

 

「いやーやっぱりばれるもんだな、顔見知りには」

「……ってことはやっぱり」

「そ。俺は長嶋竜一。大智の父親だ。久し振りだな、すずかちゃんにアリサちゃん。随分大人っぽい服装だこと」

「……え? つまり、どういう事?」

「あーアリシアちゃん(・・・・・・・)。ちゃんと説明するから」

 

 そう言って開いている片方の手で頭を掻きながら、それでも帽子を回すのをやめずに説明しだした。

 

「まずはそうだな……大智が記憶喪失になった理由は置いておこうか。でま、記憶喪失になったあいつの事は仕事先で知ってな。そしたらその仕事仲間が『丁度いいし人間側から引き離そうぜ』と言い出して……ま、それが嫌だった俺と怜奈はちょっと知り合いに頼んで交渉してもらい、君達となのはちゃん達が試練を乗り越えられたら記憶と人間側に戻すという条件で、こんな場を作ってもらったわけ」

 

 どう? 結構演技上手く出来てたと思うけど。と笑いながら言う彼――竜一に、アリサ達はようやく苦笑できた。

 結局のところ、自分達は動かされていただけだったという事実に。

 

 だが、そこでアリサはふと疑問に思った。

 

「あの」

「どうしたアリサちゃん?」

「どうして竜一さんの仕事仲間は、大智と私達を引き裂こうとしたのですか?」

「ま、それは今から説明するさ」

 

 そう言うといつの間にかかんなと因幡の檻が消える。

 二匹が戸惑ってるのを無視し、彼は続けた。

 

「で、どうして君達と別れさせようとしたかだっけ。あーおそらく知ってるだろうけど、ていうか最初に説明しないといけなかったんだけど、仕事仲間ってのは神様。ついでに言うと俺や怜奈も神様なんだよ」

「まぁあいつに説明された時何言ってるんだと思ったけど、こうして因幡さんやカンナさんの正体を知ってもなんか普通に受け入れてた自分がいるし……」

「私自身が吸血鬼の子孫だから驚きはしない…かな?」

「フェイトから話を聞いてたから特に驚かないよ!」

「そっか……で話を戻すけど、闇の書の事件の時に大智は君達と過ごした記憶を失った。ということは、別にもう君達と一緒に居させる必要もない。神様とタメはれる人間が、普通の域を(・・・・・)出ない人たち(・・・・・・)と混ざること(・・・・・・)()できない(・・・・)と考えて、ね」

 

 その言葉に、アリサは憤慨した。

 

「何よそれ! 確かにあいつは私達のはるか上を行くけど、それだけで引き離されるなんて!!」

 

 そこにすずかやアリシアも加わる。

 

「それは横暴だよ!」

「そうだよ!」

 

 大智って意外と愛されてるなぁと嬉しく思いながら、竜一は続けた。

 

「他にも理由があるんだ。神様というのは基本的に世界に干渉しない。けれど、他の世界から来た悪い奴らを追い払うことがある。でもそれは、神様自身ができる訳じゃない」

「じゃぁどうするんですか?」

「任せるんだよ。大智にね」

「「「!?」」」

「神様ってのは見えないんだ。僕や怜奈は力を一時的に封印してるから例外だし、()もまた例外中の例外だけど、顕現できても力を振るうことがあまりできない。だから大智を使うしかない」

「それじゃぁ、大智は私達と別れたら、ずっと戦っていくことになるんですか!?」

「そうなる」

 

 断言された事実にショックを受ける三人。それを見た竜一は「だからこうして試練を設けたんだよ。君達(人間)の思いが勝つか、僕達(神様)の力が勝つかを比べるための」と締める。

 

 しばらく黙っていた三人だったが、やがて思い思いに口を開いた。

 

「…そんなのは嫌だよ」

「うん。そうだね…」

「絶対に連れ帰ってやるわ!」

 

 アリサの言葉に頷いたすずかとアリシアも、同様にやる気を見せる。それを見た彼はいつの間にか帽子を回すのをやめ、目を閉じて口元が笑っていた。

 

 大智との血縁関係(・・・・)など、竜一と怜奈にはない(・・)。だが、人間の家族というものを演じていた彼らは知った。

 

 人の温かさと、家族の絆を。

 親という存在の在り方を。

 助け合うという意味を。

 

 大智を連れてくる十数年前からあの町で暮らしていた彼らは、いつしか人の気持ちを持ち、愛着が芽生え、悪くないと思えてきた。

 

 だからこそ今回の件は、大智の意思を尊重するわけでなく、親として――人が持つ当然の感情として反対することにした。

 改めて思い返した彼は、目を開けてアリサ達を見つめる。

 彼女達の瞳にはやる気が見え、次いで雰囲気に緊張感が出始める。

 

 そろそろ始めるか。そう思った竜一は、二匹の名を呼んだ。

 

「かんな。因幡」

「なんだい?」

「なにー?」

「お前達は彼女達についてくれ。これから試練を始める(・・・・・・・・・・)

「「「!?」」」

 

 竜一の言葉に身構える三人。それを笑って解かせ、試練の内容を口にした。

 

「三人にはこれから耐えてもらう(・・・・・・)。これが本当の(・・・)第二試練だ」

 

 その瞬間、その場にいた全員が闇に包まれた。

 

 

 

 

 

「……ちょっと」

「え……?」

「いや」

 

 暗闇の中、三人の頭の中に流れ込んできた記憶(・・)。その内容に彼女達は戦慄し、悲鳴を上げた。

 

「「「いやぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 アリシアは耳をふさいでしゃがみ、すずかは顔を手で覆い、アリサは崩れ落ちる。

 

 そんな三人の様子を暗闇の中で見ながら、竜一は解説した。

 

「君達に流れ込んでいる記憶は、大智が前世で(・・・・・・)殺した人の(・・・・・)殺される寸前の映像(・・・・・・・・・)だ」

「やめてぇぇぇ!」

「来ないで、こないでぇぇ!!」

「なんなのよこれはぁぁ!!」

「なんてもの見せるんだい、伊弉諾(イザナギ)! 彼女達が壊れる(・・・)!!」

「そんなことして何の意味があるんだ!?」

 

 発狂してるとしか言いようがない言葉を上げている彼女達のそばにいたかんなと因幡は、すぐさま抗議する。

 こんなものは試練でないと。ただ廃人を作り出すだけだと。

 だが竜一――伊弉諾は首を横に振った。

 

「どうしてだい!?」

「――別世界であいつがどんなことをしたのか見てもらいたいんだよ。それでも引き離そうという気力があるなら試練はクリア。最初の案(・・・・)はそうだった」

「「なっ!」」

 

 驚く二人を尻目に、彼は覚悟を決めていた顔で言った。

 

「これで廃人になったら記憶を消して大智と引き離す。彼女達のも(・・・・・)

 

 それが、俺達夫婦の大智を人間側へ戻す条件に組み込まれている一つだ。

 悲しげにそう言って笑う竜一。

 その姿に人間(・・)を見た二匹は、何も言えずに押し黙る。

 

 この条件は、ゼウスが提案したもの。

 廃人になれば好都合だし、ならなかったらならなかったで一緒に居たいと思えない人物だと人は解釈すると踏んでのことだった。

 ある意味で人を知り尽くしている条件。しかしながら、竜一達からすればまだ浅い(・・)

 呑まざるを得ない条件だとしても、彼はゼウスの目論見通りに事が運ばないことを信じている。

 

 一方で、アリサ達は未だに流れ込まれ続けていた。

 叫ぶ気力はもうなく、流れ続ける汗が、涙と一緒に顎から滴り落ちていく。

 嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い……。大智と思わしき人物に殺される映像がフラッシュバックしてるような感覚に、精神的ダメージが大きすぎた。

 それもそのはず。彼女達は未だ小学三年生なのだ。こんな、大の大人でも精神が病む様なショッキングな映像を流され続けてるのに廃人にすらならないのは、もはや奇跡といっても過言ではない。

 

 それほどまでに耐えられている要因として、竜一がこれを始める前に言った『耐えろ』。これのおかげで彼女達は、「これを耐えたら試練は終わり」という意識を作り、ある程度の心理的ダメージを軽減していた。

 他にも、今世と前世の体格差、年齢差により、同一人物だとあまり思えなかったからというのもある。

 その上彼女達は大智が転生者だということも知らない。

 そして極めつけは、大智が彼らを殺した時の表情。

 アリシアはなんとなく、アリサとすずかは確信を持って、変わってなさそうな大智の表情にこう思った。

 

 本当は殺したくなかったんだ、と。哀しそうにしているな、と。

 

 それらの要因があったからこそ、彼女達は最後まで――自分の仲間だった女性を殺した記憶を――精神に異常をきたすことなく見れた。

 

 終わったと気を抜いた瞬間。彼女達も限界だったのか、意識を手放した。

 

 

 暗闇が勝手に消える。それが意味することが分かっている竜一は、空を見上げて拳を突き上げて叫んだ。

 

「どうだゼウス! これがお前ら――神が知らない人の力だ!! おとなしく負け認めろや!!」

『……しかと受け取った。だが、試練はまだ終わらんぞ』

「だったらこっちはテメェの目論見壊しまくるからな! 覚悟しとけ!!」

『この先の先(・・・)で待ってるぞ』

「首洗って待ってろよ!」

「…いつもの感じに戻ったねぇ」

「……あの人にシリアスは難しいからねー」

 

 自分が試練を出した側だというのに、いつの間にかアリサ達側に寝返った様子を見たかんなと因幡は、二匹揃って盛大にため息をついた。

 

 

 

 

 とりあえずすっきりした竜一は、三人の汗の量が尋常じゃないことに気付き、ささっとなかったことにしてから優しく起こす。

 

「おーいアリサちゃん、アリシアちゃん、すずかちゃん。そろそろ起きなー」

 

 地面に横たわっている三人の頬をつつきながら、そんなことを言う。

 後ろからだと、白衣を着て帽子をかぶっている男が気を失っている少女三人に対して何かしてる様にしか見えないので、警察にお世話になりそうなこと間違いない。

 

 そして、それを良しとしない人に攻撃を受けることも。

 

「あ~~な~~た~~~?」

 

 地面が揺れ、大気が震えるような声に、もう一巡しようとした人差し指が止まる。そしてすぐさま冷や汗が流れる。

 

 おかしい。俺はただ起こそうとしてただけに過ぎないはずだ。なのになぜ怒られる一段階前の声で呼ばれなければならない!

 

 そう思いながらゆっくりと視線を横たわっている三人から、上へ。

 

「………………か、かあ、さん? な、なんで怒る前触れなんでせうか?」

 

 視線を移した先にいたのは、修羅といっても過言でもない形相の怜奈。

 喉の水分が干上がることを自覚しながらも、竜一は両手を前に突き出して「抑えて抑えて」と何とかいう。

 しかし怜奈はそれでも収まらない。

 

「……警察にご厄介になりたいのかしら?」

「そ、そんなわけないじゃないか」

「そ・れ・じゃ・ぁ、アリサちゃん達に、な・に・を、してたのかしら?」

「え、え~~と、起す作業、です」

「そう……な・ら、何で頬をつついていたのかしら?」

「………」

 

 申し開きできないことを言われ黙ざるを得ない竜一。

 それに男らしさを少しばかり感じながら、怜奈は言った。

 

「オ・シ・オ・キ♪」

「そんな馬鹿なーー!!」

 

 アリサ達が起きるまでの間、竜一の悲鳴が空に響き渡った。




ご愛読ありがとうございます。
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