世にも不思議な転生者 作:末吉
「う、うぅ……はっ」
気が付いたアリサは体を起こし、周囲を見渡す。
先程まで地面で横たわっていたはずなのに、いつの間にか建物の中。しかもベッドの上。
あまりにも違いすぎる景色に首を傾げたが、きっと竜一さんが運んでくれたんでしょうとあたりをつけてベッドから出る。
「それにしてもここは一体……」
「……あれ? アリサちゃん。おはよう」
「何言ってるのすずか。まだ終わってないわよ」
「…………あ。そうだね」
「…うう~ん」
「とりあえずアリシアを起こしましょうか」
「そうだね」
…まずは起きたすずかと一緒に寝ているアリシアを起こしてからねと思いながら、アリサは枕を抱きながら気持ちよさそうに寝ているベッドへ近づいた。
「やぁ…起きた……?」
「うわっ!」
「ど、どうしたんですか竜一さん!?」
「大丈夫ですか!?」
「うんまぁ…とりあえず因幡とかんなに案内任せるから。といってもすぐ着くけど……」
アリシアを起こした直後扉が開き、げっそりした竜一が現れる。
その姿に驚く面々に彼はすぐ用件のみを伝え、すぐに消えた。
またもや驚きに包まれて動けない三人。それを竜一と入れ替わるように現れたかんなと因幡は、苦笑いしながら言った。
「さっきの竜一の姿。あれ、怜奈さんに折檻された姿なんだよ」
「まぁいい気味だと思いながら眺めてたけどね」
あっはっはっと豪快に笑うかんな。対照的に、因幡は全身を震わしていた。
その様子で何が起こったのかようやく理解した三人は、先程姿を現した竜一にこっそりと合掌する。
それが終わった後、アリシアが首を傾げて質問した。
「それで? どこに行くの?」
「ついてくりゃ分かるさ。嫌でもね」
「「「???」」」
「さ、こっちだよ」
疑問符を三人とも浮かべるが、それに答えず因幡が手招き(足招き)をしているためついていくしかないと思い、因幡たちの近寄る。
十分に近づいた時、彼女達の足元が輝きだした。
「えっ?」
「なにっ!?」
「これって…!」
段々と光に包まれていく。その景色をかんなと因幡は見詰めながら、交互に励ます。
「いよいよ最後だ」
「気張って頑張ってね」
「負けるんじゃないよ」
「屈してもダメだよ」
「もし屈しそうになったら……」
「「君達の純粋な願いをもう一度見直して」」
「それじゃ」
「行ってきな」
「あ……!」
アリサが何かに気付き声を発しようとした時丁度三人の姿は光に包まれ、消えた。
残されたかんなと因幡は、消えた彼女達がいた場所を見つめながら会話した。
「どう見るこの挑戦?」
「彼女達なら勝てるだろうね。というか勝ってほしい」
「奇遇だね。あたしもそう思っていたところだ」
「……さて」
「帰ろうかね」
そして、二匹の姿も消えた。
光の輝きがなくなり落ち着いたところを見計らって目を開ける三人。
目の前にいたのは、ハートの女王の格好をしている(細身)怜奈だった。
「怜奈、さん……?」
テンションが高い人たちだと理解しているが、まさか普通に着たまま堂々と佇んでいるとは思わなかったすずか。
そんな唖然とした彼女を一瞥した怜奈は、階段を一段ずつ降りながら言葉を紡ぐ。
「ようやく来たわねあなた達。竜一が本来の試練を行ってしまったのだから私もそうするしかないのだけれど……覚悟はいいかしら?」
アリサ達との距離が半分のところでしゃべり終わり、それに合わせて動きも止まる。
彼女の動きが止まってから、アリサ達は同時に「「「はいっ!!」」」と返事をする。
「そう…分かったわ。
「勿論です!」
「当たり前よ!」
「うん!」
「その
怜奈が指を鳴らす。それと同時現れたものを見て、三人の血の気が一気に引いた。
「……あの」
「なにかしらアリサちゃん?」
「なんですか、これ」
「鉄球よ」
「見ればわかりますけど……」
「今から転がるから頑張って逃げてね? ゴールは百メートル先だから」
「「「ちょっと!!?」」」
「じゃ、頑張ってねー」
「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」
急に階段が斜面になり、転がり始める直径四メートルの鉄球。それを見たアリサ達は、来た道を引き返して全速力で駆けだした。
「なんなのよもう!」
「結構速いよ!?」
「早く逃げなきゃ!」
そんなことを言いながらも必死で逃げる三人。鉄球は彼女達の四メートル後ろまで迫っており、最悪もう少し加速すれば潰されることが確定しそうな距離だった。
距離的には残り数メートル。ゴールという横断幕があるところから見ても、間違いはないだろう。
それを見た彼女達は、最後の力を振り絞ってさらに速度を上げ、逃げ切った……と横断幕を通過して思ったが、振り返ると鉄球が目の前まで迫ってきたので、絶望する。
けれど、その鉄球は目の前で
「「「…え?」」」
突然のことに理解が追い付かない三人は、思わず呆気にとられる。
なぜなら、鉄球が落ちるほどの穴が眼前に出現しているからだ。
「…落ちたらひとたまりもないよね、きっと」
「……そうね…」
「…うん……」
アリシアが穴を覗き込みながらそう言うと、賛同する二人。鉄球から逃げるために走っていたので体力は限界に近く、三人とも息が完全に上がって床にへたり込んでいた。
そんな彼女たちの前に、再び怜奈が現れた。
「だいぶ息上がってるわね」
だが返事はない。三人とも息を整えることに集中している。
そんな彼女たちに、怜奈は非情な宣告した。
「じゃ、次のステージへ行くわよ」
「「「え!?」」」
驚く三人に、怜奈は何を言ってるの? という顔をして説明した。
「あなた達がどんな試練でもやり遂げるといったのよ? それに、
「「「…………」」」
そう言われたら返す言葉も反論の余地もないため黙ることしかできない三人。
それでも体力の回復に努めていることが分かった怜奈は、物分かりのいい子たちねと思いながら笑っていった。
「安心しなさい。私の試練は二つしかない。そして最後の一つは……
そんな訳で調理場に連れてこられた三人。
そこにいたのは多少元気が戻った竜一と、いつぞやのように椅子に紐で巻かれている
当然彼女達が驚く。なんでここにいるのかと。
だが、それ以上に大智の方が困惑していた。
「なぜ俺は縛られてこんなところにいる? 新薬の実験でもさせられるのか?」
「この器具を見てそんなジョークが言えるなんて、大智ったらすごい皮肉ね」
「いや皮肉でもなく純然とした疑――――」
「皮肉ね?」
「――料理を食べればいいのか?」
怜奈の笑顔の圧力に耐えられなかったようで、大智はおとなしく本題を当てる。記憶はないが、体で覚えていることがあるらしい。
そんな親子のやり取りを見て呆気にとられてる三人を思い出した怜奈は、「ごめんね。じゃ、料理のお題を早速発表するわね」と三人へ振り返ってから言う。
が、その時に竜一が大智を巻いていた紐を切り、二人揃ってどこかへ消えてしまったのをすずかは見た。
「あの、怜奈さん」
「なに、すずかちゃん?」
「長嶋君と竜一さん、いなくなってますけど……」
「大丈夫よ。すぐ戻ってくるから……じゃ、お題いうわね。お題は『大智に食べてもらいたい料理』ね」
「「「え!?」」」
「食材は野菜からお肉まで下準備してあるものしかないからー。頑張って煮るなり焼くなりしてね」
「あの、さっきのお題って……」
「はいスタート!」
アリサがおずおずと質問したがあっさりと怜奈はスルーし、開始を宣言してしまう。
だが、始まってしまったというのに三人とも顔を俯かせて動こうとしない。
理由は単純で、三人とも咄嗟に自分が大智に料理を振る舞っている姿を想像したわけなのだが。
で、そんな中でも平然としていられる大智は戻って来て早々首を傾げ言い放つ。
「料理できないのか? お前達」
「「「!」」」
三人の中の乙女としての、女としての部分にある琴線に触れる一言。その言葉を言われた彼女達は怒りで肩を震わしてから顔を上げ、怒気を孕んで大智を指さして言った。
「「「作れるよ(わよ)! バカにしないで!!」」」
息ピッタリなその光景。その姿にきょとんとした大智は瞼を数度瞬きしてから、「そうか」と冷静に返した。
その姿に更にカチンときた三人は、やってやろうじゃないと息巻いた。
「とはいったものの……」
「何作ろう?」
「ねー?」
……が、早くも頭を悩ましていた。
理由は簡単。三人とも料理をあまりやってない上に、大智に何を食べてもらいたいか想像できていないからだ。
目の前にあるのは様々な形に切られた野菜、肉、魚。そして卵や調味料など。
それを眺めながら、彼女達は相談する。
「というより、あまり作ったことないのよね…」
「わたしはお母さんのお手伝いした位かなー」
「私も作ったことないよ…」
相談どころの話ではなかった。まず互いの料理経験を申告して絶望的な状況になっただけだった。
とはいえ大智の前で見栄を切ったのだから、後には引けない。仮にできなかったとしたらその場で試練が終わってしまい、大智とは二度と会えなくなるのだから。
言い知れぬプレッシャーに、三人は表情を硬くする。
それを見た怜奈は、大智に向かって質問した。
「ねぇ大智。何食べたい?」
「食料」
「料理名は?」
「食べれれば別に」
「何食べたい?」
「だからべ……卵焼き」
「
そう言いながらアリサ達の方へ向き、三人へ向けてウィンク。
それを見た三人は顔を見合わせ、頷く。
そこから三人共同の作業は始まった。
「卵割ったよ!」
「味つけする?」
「そこら辺は個人の好みじゃないかしら?」
「……って、すずかちゃん! 溶き卵に何赤いのいれてるの!?」
「え、トマトだけど」
「普通そこは『しょうゆー』とか、『しおー』とかじゃないの!?」
「ちょっと何でもいいから早くしなさいよ! だいぶこっち温まってるわよ!」
「あー!」
「どうしたのよアリシア」
「それに油ひいてないでしょ!」
「え、ひくの?」
「そうだよ!」
「ど、どうするのよそしたら……あ、くっついてはがせない!」
「もう一度最初から、だね」
「って、いくら何でも砂糖入れ過ぎだよアリサちゃん!」
「え、あ!!」
「……これでいいのよね?」
「油もひいたから後はその溶き卵を入れて…ってアリシアちゃん! 一度に全部入れちゃ…」
「引っくり返せないし焦げちゃった、ごめん」
そんな感じで悪戦苦闘すること二時間。
「やっと……」
「できたわね…」
「そうだね………」
オーソドックスとは程遠い、かなりオリジナリティのある卵焼きになった。
色は真っ赤。おそらくトマトを入れた結果。
形はボロボロだが、ちゃんと巻かれている。
三人の試行錯誤の結果。努力を積み重ねた結論。
完成したことにより集中の糸が切れたのか、三人はその場に座り込む。
それを見た怜奈はしょうがない子たちねと思いながら、出来た料理が乗っている皿を大智の前に置く。
「赤いな…」
「ま、初心者にはよくあることじゃないの?」
「かもしれないが……」
しばらくそれを見つめる。微かに感じる匂いに、薬品がなかったことに安堵する。
前世で薬品が入った料理を食べたことがある身としては、それだけは避けたかったりする。
しばらく迷ったが、「ほら食べてみろよ」と竜一が急かすので、渋々一切れ食べることにした。
「……不味い」
顔の表情を変えずに、一切れ食べ終えて即答する大智。
作ったアリサ達がショックを受けているところに、大智は構わずダメだししていく。
「まず溶き卵の中にトマトいれるな。そこに更に醤油とか塩とか混ぜるな。味が混ざってなくてぐちゃぐちゃ気持ち悪かったぞ」
「「「…………」」」
「次に…」
「はいそこまでよ、大智。そしてアリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃん。
「「「――――ッ!!」」」
アリサ達は驚いて怜奈へ顔を向ける。向けられた怜奈は笑顔で返し、その理由を述べた。
「頑張ったから。あなた達がね」
「それだけ、ですか……」
「そう。じゃ、ゼウスさん。
『…確かに、約束じゃからの』
そんな声が空から聞こえたと同時。
「ぐ、ぐぅぅぅ……!!」
大智が頭を抱えて倒れ込んだのは。
咄嗟にアリサ達が向かおうとしたが、思うように体が動かない。
倒れ込むこと数十秒。最初は叫んでいたが段々とその声が聞こえなくなり、ついに何も言わなくなった。
最悪な予想が三人の脳裏をよぎる。
だが、それは起こらなかった。
大智はむくりと起き上がって周囲を見渡し、アリサ達を見つけて首を傾げた。
「大丈夫か、
「「「! 長嶋(君)!!」」」
――――こうして、大智の記憶は戻った。
すぐさま竜一に連れられ、数秒でアリサ達の前に戻ってきたが、それについては何も言うものがいなかった。
さぁって、ここからは管理局側の残りの試練だ! それが終わったら日常のオンパレードだ!!
……もうすぐ終わるのか。二年ぐらいになって。
ご愛読ありがとうございます。