世にも不思議な転生者 作:末吉
「急ぐで、雄樹! みんな!!」
「分かってる!」
「うん!」
「「「「「ああ!!」」」」」
はやてを先頭に、雄樹、なのは、ヴォルケンリッターとフェイトが長い廊下を走っていた。
先程現れた大智のお蔭で、何とかフェイトは雷神に勝てた。
その時に言われた『待っている』という言葉を胸に、彼女達はいち早く向かっている最中だ。
だが、フェイトだけは一人遅れていた。
理由は単純。先程の雷神との稽古でほぼ全力を使い切ったからだ。
雄樹も似たようなものだが、彼はリンカーコアを蒐集されたことにより魔力が完全にない状態を過ごしていたからそこまで影響はなかった。
フラフラながらも走るフェイト。それをちらりと見たシグナムはスピードを落として隣へ行き、背中を叩きながら「よく頑張った」と声をかける。
フェイトはシグナムの方へ顔を向けてすぐに視線を前へ戻し、「まだまだです。長嶋君に比べれば」と呟く。
それに対し、シグナムも賛同した。
「そうだな。我々が束にかかっても、大智は顔色一つ変えずに勝てそう……いや、勝つな」
「ですよね。今回も長嶋君に助けられましたから」
「だが、我々はそれでも進まなければならない。少しでも大智に近づくように」
「…はい」
「今は休め。この先出番はないだろうからな」
「……はい」
シグナムの言葉に己の無力をかみしめていると、前方からはやての声が聞こえたので、フェイト達は視線をそちらに向ける。
「シグナムー! フェイトちゃーん!! はよこんかい!」
「いや、テスタロッサさんは満身創痍だから」
「言われんでもわかっとる。けどな、あのバカ大智にさっさと会って一言言わんと気が済まんのや!」
「それは分かるけどね。だから僕も体に鞭打ってるわけだけど」
「フェイトちゃーん! もうすぐで次の部屋だよ!!」
「……ふっ」
「…ふふっ」
前方で待っている仲間たちの叫ぶ姿を見て二人は笑う。自分達だけじゃないのだと再認識する。
ここに長嶋君がいれば仲間としては申し分ないのかなと不意にフェイトは考え、先程の事を思い出す。
「!」
「どうしたフェイト・テスタロッサ。顔が赤いが」
「な、何でもありません!」
「えぇからはよこいやーー!」
「わ、分かった!」
「すみませんはやて」
はやての叫び声が鶴の一声だと思いそのまま走るフェイト。その後ろ姿を追うように、シグナムもまたはやての下へ走り出した。
「ここが次へつながる扉か…」
「早く開けようはやてちゃん」
「せやけどな…」
「ご、ごめん。遅くなった」
「すみませんはやて」
「ずいぶん遅かったやないか。ま、フェイトちゃんを元気にしてくれたんはお手柄や」
「……ありがとうございます」
ほな全員揃ったところで開けるか。はやてがそう言うのと同時にドアを勢いよく開け放つ。
まっさきに全員が見えたのは、部屋の中央にいる人影。遠近法がおかしいのか、距離がそんなに離れていないはずなのに、何故か遠く感じた。
不思議に思いつつ全員部屋の中に入り、その人影へ近づいていく。その途中ドアは勢いよく閉まったが、一瞥しただけで特に乱れることはなかった。
そのまま進むとその人影が鮮明に見えだしたので、まだ進もうとしたところ。
「おっと。これ以上は
人影が人を馬鹿にしたような口調でそう言った瞬間、はやてとヴォルケンリッターの四人を除き、
咄嗟に周囲を探そうとしたはやてだったが、「上だよ上。あいつらは籠の中の鳥だ」と天井を指すのでつられてみると、確かに三人が鳥かごの中にいた。
一体誰やこんなことした奴は……そう思いながら人影を睨みつけていると、それがこちらに向かってきた。
「ったく。ランスロットは騎士道に則るからある程度加減するし、雷神は弟子を鍛えるためだろうから最後には勝たせるって分かってたのかね、あいつは」
身長は百八十近くで男。体格は中肉中背に見えるが、ただならぬ雰囲気を感じ取り決して見た目どおりではないとはやては直感していた。
左肩を弓で挟み、背中には矢筒、右手にはハルパーを持っている。ただし持ってる姿がだらけているのを見ると、心の底からやる気がないようにも見える。
ここまで神様という尋常じゃない力は見てきた。その力はまさに圧倒的。しかも全力ではないというおまけつき。
分厚い壁どころじゃないで。まさに『神』や。
そう思いながらも、はやては夜天の書を取り出し構える。それとほぼ同時にヴォルケンリッターも構える。
その姿を見たペルセウスは、ため息をつきながらはやて達に言った。
「あー大智の事連れ戻したいのなら、今ここで諦めろ。
「なんやて!」
「俺は復活させることなんてしないから。死んだらそっちの責任ということになる」
「……」
「それでもやるか? 俺という神様に認めてもらうため、長嶋大智を取り戻すために」
「………」
ペルセウスの言葉に唇をかんで考えるはやて。
確かに。自分が死んで大智を取り戻したとしても悲しみは変わらない。最悪の結果として全滅するということも考えられる。
どうする…どうすればえぇ。どうすればいける。
はやては考えていた。この男をどうすれば出し抜けるか。どうすれば認めてもらえるかを。
そんなはやてをなんか企んでるなーと思いながら見たペルセウスは、ハルパーを上へ放り投げてキャッチしながら再び溜息をついた。
「で? やるのか、やらないのか? 宣言しないといつまでもこのままなんだが」
「うるさいわ!」
「いやだからな? 考え事をしても終わるわけじゃないから。企んでも無理だから。俺全部崩せるから」
「ぐっ……」
自信満々に言われ歯噛みする。実際その通りになりそうだとも実感する。
どう足掻いても勝てる気がしない。そんな化け物にそう言われると、もはやどうすることもできないと実感してしまう。
あーもう。どないしよう! と内心で頭を抱えていると、シグナムがはやての肩を叩く。
勢いよく振り返ると、シグナムがはやての頬を叩いた。
「「「「!!」」」」
「ヒュー」
叩かれたはやてと見守っていたザフィーラ達は息を飲み、ペルセウスは口笛を吹く。シグナムの行動の意味を悟って。
はやては怒った。
「なにすんのやシグナム!」
「冷静になってくださいはやて」
「うちは冷静や!」
「冷静じゃありませんよ。
「!」
シグナムの一言に揺れるはやて。それを見逃さず、彼女は続けた。
「確かにはやてが本気でやってもあれに勝てないでしょう」
「あれってひどい扱いだな」
「ですが、
「……! そういうことか!!」
はやてはシグナムが言わんとしていることを理解した。
先程確かにペルセウスは全員で近づいた時にこう言っていた。
『戦わない奴は全員籠の中に居ろ』と。
それはつまり、かごに入っていない自分達が戦うことを示しているのだと。
ということは……
「うち一人だけじゃないんやな」
「そういうことです。我々もいるのでそんなに悩まないでください」
「…おおきにな、シグナム」
「騎士として当然のことをしたまでです」
そう言うとシグナムはペルセウスに鋭い視線を向ける。が、そんな視線に慣れきっている彼はただ肩を竦めただけ。
随分舐められたものだと視線の先の彼の態度を見て思ったシグナムは、はやてから少し離れて「レヴァンテイン、セットアップ」と呟く。
彼女自身は大智の借り(一方的にそう思ってるだけ)を返す絶好の機会だと思っているため、心が躍っていた。
……強敵どころか難敵レベルの相手を前にして戦闘狂の血が騒いだことも否定できないが。
ともかく、彼女がバリアジャケットを展開したことによりヴィータ、ザフィーラ、シャマル、はやても展開する。
それを見たペルセウスは、ようやくかと思いながら笑顔で言った。
「やるか! 前振りが長いんだよ全く!!」
「……うちらの課題はなんや?」
夜天の書を浮かせ、杖を持つはやては笑顔のペルセウスに険しい顔をして訊ねる。
それに対し彼は「そうだな……」と少し考えてから、ポンと手を打って試練の内容を口にした。
「俺――ペルセウスが満足できるまでに誰かが立っていられたら、合格にしてやるさ」
「うちらがあんたを倒してもいいんやな?」
「―――――出来るものなら、な」
その言葉を皮切りにペルセウスは、雰囲気を自身の特徴である戦士の放つそれにする。
「「「「「!!?」」」」」
気圧される五人。それを見たペルセウスは「こんなのでビビってたら俺を倒すなんて無理だぞ?」と言って、消えた。
と誰もが思った瞬間。彼はシャマルの懐に入り込んでおり、誰も気付かぬうちに殴ることが難しいと思われる左で彼女の腹部を殴る。
「ッ!!」
殴られてシャマルは初めて気づいた。自分の前にペルセウスがいたことに。そして、自分が
「……え?」
入ってきた扉に激突し、地面に倒れ込んだことに。
認識も何もできず、気が付いたら自分は扉近くで横たわっていた。
状況を理解してから段々と痛みが襲ってくる。殴られたところから全身へ。扉と激突したからか背中から全身へ。
痛みを我慢して自分がいた方向を見ると、ペルセウスがシグナムの剣戟を持っていた剣で受け止め、ヴィータの魔法を空いていた左で消し飛ばし、ザフィーラが殴ろうとするたび視線をそちらに向けて封殺。はやてに至っては魔法を使おうにも大体の魔法が広域殲滅なので使いづらいらしく、ちまちました魔法を使っているが効いてる様子など皆無。
起き上がろうにも起き上がれない。助けたいのに助けられない。
そんな歯がゆい思いをしたシャマルは、唇をかんで起き上がろうとした。
「ハァァ!」
「遅い遅い。あんた、大智と二回ほどやってるのにまだそんな遅いの?」
「グッ!!」
シグナムはシグナムで、ペルセウスの一閃をレヴァンテインで防いで距離をとる。
彼女はシャマルが吹き飛んでいち早く反応して攻撃したが、それを見向きもされずにハルパーで防がれてからは剣を打ち込んでは弾き飛ばされるを繰り返すことしかできない。
つ、強い……さすがに『神』を名乗るわけじゃないな……どう考えても遊ばれてる。
圧倒的実力差を肌で、雰囲気で感じ取りながらも、それでも攻めることをやめない。
とった距離をすぐさま縮め、彼女はレヴァンテインで突く。
が、それは背中の矢筒で防がれた。
キン、と金属の当たる音がした後、ペルセウスはその矢筒を軸に回転し…弓が当たるより先に裏拳をシグナムの顔面にいれる。
「ガッ」
気付いたら入っていた裏拳にシグナムは驚愕しつつ、足腰で踏ん張りデバイスを横薙ぎに振る。
「ウ、オォォォォ!!」
「おっ。マジか」
シグナムの闘志に感心したペルセウスはそれをしゃがんで避け、振り切った瞬間の一瞬の硬直時間を利用し、脇腹に肘打ちをする。
虚を突かれ、死角からの攻撃。完全に見えていなかった攻撃はもろに入り、踏ん張りが利かずに彼女は吹き飛んで壁に激突し、動かなくなった。
「シグナム!」
「テメェ!!」
はやてはシグナムの方を見てそう叫び、ヴィータはペルセウスに向かいながら叫ぶ。
が、その接近はペルセウスが自分から接近したために中断される。
その中断した数秒。だがペルセウスにとっては人を百人殺せる時間。
動きが止まったヴィータの腹部をハルパーの柄で殴って浮き上がらせ、浮いている間にビンタを一発叩き込んで吹き飛ばす。
「ヴィータ!!」
「残るは男と子供……。ま、弱い者いじめには変わりないが、恨むなよ。何もできないお前らが悪い」
「くっ!」
はやては夜天の書のページをめくる。その間にザフィーラはペルセウスに駆けだす。
「うおぉぉぉぉ!!」
「威勢がいい…が、実力が伴わないと只の負け犬の遠吠えだ!」
「ぐあっ!」
駆け出したザフィーラはすぐさま地面に叩きつけられる。彼が駆けている間にペルセウスが顎を打ち抜き、浮いたところを顔面をつかんで叩きつけてすぐさま戻るという行動を成した結果。
残るははやて一人。そう思ってペルセウスははやての方を見ると、彼女の足元から魔方陣が展開されているのが分かった。
「へぇ。ただのガキじゃなかったのか」
「うるさい」
「自分の攻撃が当たるのが怖くて参加できなかったんじゃなくて?」
「黙れ」
「良かったな。ちゃんと攻撃できるようになったじゃないか。
「黙れいうとるやろぉぉ!!」
ペルセウスの挑発にはやてはキレ、そのまま彼女の最強魔法――ラグナロクを放つ。
白く、太い三本の直線。すごい勢いで来るそれにペルセウスは笑いながらハルパーを投げ、弓を構える。
「いい攻撃だ。だが…」
背中の矢筒から三本の矢を取り出してすぐさま弦に番え、引く。
「まだまだ俺を満足させることはできねぇ!」
引き絞った弦を放し、三本の矢を放つ。それらは分散して飛び、彼女の魔法に真っ向から当たる。
拮抗する魔法と矢。しかしながら、そこにペルセウスはさらに矢を放つ。
「ぶち抜けぇ!」
その矢は文字通り一直線に突き進み、ラグナロクを抜け、はやてに当たる――――
と、
シグナムのレヴァンテインから放たれた矢がその矢に当たり、軌道が逸れるのを確認するまでは。
「……へぇ」
ペルセウスはシグナムが吹き飛んだ方を見る。すると、遠くからであるが、彼女がシャマルの肩を借りて立ち上がっているのが見て取れた。
予想以上に頑張る彼女達の姿に感心していた彼は、矢では抑えきれなかったラグナロクが直撃し吹き飛んだ。
「…………やった」
はやては、ペルセウスが吹き飛んだ姿を見て思わず呟く。そこには当たったことに対する嬉しさと、これでもう終わりだという確信を持って。
だが、神様というのは人間じゃない。そのことを理解していなかったのは、彼女がまだ本格的戦闘で遭遇してないからか。
ともかく見識の狭さと言えば酷だろうが、彼女達は神様の異常性を知らなさすぎた。
……それに気付いたのは、シャマルだった。
「はやてちゃん! 避けて!!」
「え?」
シャマルの声に反応し、ペルセウスへ向くはやて。その瞬間、彼女の目の前でハルパーが
「…………え?」
自身の目の前にペルセウスがしゃがんだ姿でハルパーを突き出していることに、理解が追い付かない。
結構服がボロボロになっているにもかかわらず、その体に傷一つない。同じく武器にも。
現状を正しく把握できない彼女は瞼をパチパチと瞬きするだけ。
それを見た彼はハルパーを下ろして立ち上がり、はやての頭を撫で始めながら優しい言葉を掛けた。
「……よく戦ったな、
「…なんやいきなり」
「いやー悪かったな。いろいろ言って」
「…どういうことや?」
「いやはや。俺は満足したさ。というより、また戦いたいなら名前を呼ぶか大智に頼むかしてくれ。俺としてはまた戦いたいけどな」
これ以上やったら大智に殺されかねん。そう言って笑うペルセウスに戦慄しながらも、はやては「ほな、うちらの勝ちでえぇんやな?」と確認する。
「あぁ。だから……」
パチンと指を鳴らす。するとなのは、フェイト、雄樹が降りてくる。
「行って来い。あと少しで試練が終わるぞ」
「…分かったわ」
「ま、最後は大変だろうな」
「……?」
ペルセウスの言葉にはやては首を傾げたが、彼は笑って誤魔化すだけだった。
八神家にした理由。
はやてだけだったら魔法唱える前にペルセウスに殺されるなと考えたから。あとは、家族で戦ったほうが強くなれるんじゃないかと考えたから。
ご愛読ありがとうございます。